10 友達
「離々亜ちゃん」
「・・・何?」
「ここでは、願いを叶えることができるの?」
「・・・そうよ。リボンの真ん中にあるくぼみに、ここで拾った石をはめると・・・願いが叶う」
離々亜ちゃんは、地面に落ちている石を拾った。
「・・・でも、願いを叶えた時、フリー・ワールドへの道は閉ざされる。
それでも叶えたい願いなら、どうぞ。勝手に叶えて。千夏」
「そんな言い方・・・!」
「だって、しょせん人の願いなんて、他人事でしょ?
あたしが深く考えることじゃないもの」
「・・・っ!」
離々亜ちゃんは、あの日から、別人のようになった。
冷たい人に・・・なってしまった。
「ねえ、離々亜ちゃんは、願い事を、叶えたんだよね?」
「は?何言って・・・」
「だって、普通は覚めるはずの夢に、ずっとここにいられるってことは、願いを叶えたってことでしょう?」
「・・・だけど、願いを叶えたら、ここにいられなくなるんだよ?」
「だから、『ずっと、ここにいたい』って、願ったんだよね?でも、それと引き換えに、離々亜ちゃんは
現実への道を、閉ざされた・・・」
離々亜ちゃんは、目を伏せた。
「そうよ。それがあたしの願い。・・・で、それが何?あたしの願いなんて、無意味だって言いたいの?」
「そうじゃなくて、離々亜ちゃんが、どうしてその願いを叶えたんだろうって・・・」
「決まってるでしょ。現実に生きてる意味なんて、ないからよ。あたしは、毎日『消えろ』って言われていた。それなのに、現実にいるなんて、おかしいでしょ?」
離々亜ちゃんの目には、もう絶望しか、うつされていない。
もう・・・だめなのかな?
離々亜ちゃんには、私の声なんて、届かないのかな・・・?
私は、必要とされて、いないのかな?
「・・・離々亜ちゃんは、ただ、逃げているだけだよ。現実から・・・。生きることから」
「・・・・・・」
離々亜ちゃんは何も答えない。
それでも、私は続ける。
「毎日、『消えろ』って、言われ続けても、それで生きる意味がなくなるわけ、ないじゃない。
必ず・・・必ずどこかに、生きる意味が、あるの。
だからね、人は生きるんだよ。
どんなにつらくても、苦しくても、逃げたりしないんだよ!」
離々亜ちゃんは黙ったままだ。
「ねえ、離々亜ちゃん。どうして、分かってくれないの・・・?
私は、離々亜ちゃんに生きていてほしいのに」
「・・・千夏。帰って。今日のフリー・ワールドは、おしまいよ」
「え?・・・離々亜ちゃ・・・」
「さようなら」
その瞬間、あたりが暗くなった。
「・・・戻されちゃった」
時計の針は、まだ午前三時。
でも、ちゃんとリボンも、もらった石もある。
「願い・・・か」
何を願えば、いいんだろう。
でも、どんな願いを叶えたとしても、どうせ、フリー・ワールドには、行かれなくなる。
それを考えたら、どんな願いでもいい気がするけれど・・・。
やっぱり、ちゃんと考えた方がいいのかな?
「とりあえず、寝ようかな・・・」
私は再び目を閉じたけど、あまりよく眠れなかった。
朝、登校していると。
「あ・・・千夏?」
と、後ろから声をかけられた。
「美花ちゃん・・・」
「どうしたの?元気ないね」
「・・・いつもこんな感じだよ」
笑おうとしたけれど、顔が引きつっていて、笑えない。
「そう・・・。ね、千夏。悩んでいることがあったら、何でも言ってね!
できれば、力になりたいの」
「・・・友達って、何かな?」
「え?」
「・・・教えて」
私・・・なんてことを聞いているんだろう。
でも、美花ちゃんはにっこりと笑った。
「友達だと思えば友達だし、そう思わなければ、違うんじゃないかな?」
「そっか・・・。そうだね、ありがとう」
心が少し、軽くなったような気がする。
「他には、何かある?」
「・・・じゃあ、聞くね」
「うん」
「もしも願いが私に叶えられるとしたら、私は自分の好きなことを叶えるかもしれない。
でもね、私には、一緒にいたい人がいる。
だけど、願いを叶えてしまったら、もう二度と、会うことができないの。
・・・どうすればいいのかな?」
「『一緒にいたい』って、願えばいいんじゃないんの?」
「でも、その人は、私と一緒にいたくないみたいだし・・・」
美花ちゃんは、腕を組んだ。
「それは、千夏次第だよ。あ、もう行かなきゃ!・・・教室に、行こう?」
「うん」
私たちは、教室に向かった。
放課後。
下駄箱を通ったら、零里たちがいた。
私は、反射的に隠れてしまった。
「で、もう何か月にもなるんでしょ?いい加減大丈夫なの?『リリクズ』は」
零里の発言に、紗羅と奈月は、うなずく。
「あいつが目覚める方法とか、ないの?」
「そんなのあったら、誰かがとっくにやってるでしょ」
「あ、そっか」
・・・?何か、会話がいつもと違う。
こんなに、離々亜ちゃんのことを、心配するような人たちだっけ?
分からない。・・・けど、離々亜ちゃんを助けなければいけないことは、確か。
なるべく早く、願いを叶えよう。
でも、そのためには、夜までなんて、待ってられない。
よし、病院に行こう。
私は、離々亜ちゃんが入院している、七原病院へと、向かった。
ガラガラー。
「どうされました?」
「あ、あの。増崎さんの病室は・・・」
「はい。こちらですよ」
受付の人についていく。
「ここです」
「ありがとうございます」
「いいえ。では、ごゆっくり」
私は、ドアを開けた。
中にいるのは、離々亜ちゃんのお母さんだろう。
「あなたは・・・?」
「私は、院上 千夏です。離々亜ちゃんの・・・友達です」
「あ!あなたが、千夏ちゃん!」
「え?」
私を知っている?
「ある日から、離々亜が寝言であなたの名前を言うようになって・・・。
そう、あなたが・・・」
「そうだったんですか・・・」
少し、嬉しい。
「でも、今日はどうしたの?」
「・・・今日は、離々亜ちゃんを助けるために来ました」
「ど、どういうこと?」
私は、リボンと石を取り出した。
「私は、今、願いを叶えることができるんです。
どんなことを願おうか、悩みました。
でも、私は、決めました。
この願いを、離々亜ちゃんのために使おうって・・・!」
リボンの真ん中に、石をはめる。
『ピカーッ!』
あたりが明るくなって、女の人が現れた。
「ち、千夏ちゃん・・・。これは?」
「説明は、後でします」
女の人が、話しだした。
『私は、このリボンに司る女神。
たった今、あなたがはめた石により、私は、姿をあらわすことができました。
しかし、そう長くは、この状態を保てません。
さあ、あなたの願いは、何ですか?』
「私・・・私の願いは・・・」
言うんだ。
私の願うことを・・・!
「離々亜ちゃんと、現実で一緒に生きること!」
『・・・その願いは、増﨑 離々亜という人物の願いを解除することになります。
だから、あなたが、フリー・ワールドに行って、離々亜を説得しなれば叶えられません。
説得しても聞き入れてもらえなければ、あなたは永遠にフリー・ワールドから、出られなくなります』
「えっ・・・!?」
そんな・・・。
今の状態で、説得しても、離々亜ちゃんはきっと聞いてくれないかもしれない。
そうしたら、今度は私が・・・?
『それでも、叶えたい願いですか?』
・・・そうだ。
私が、悩んで、悩んで、やっと決めた願いなのに。
叶えなくて、どうするの?
叶えるチャンスを、もらっているんだから、ちゃんと、叶えなきゃ!
「叶えたいです。その願いを!」
『そうですか。・・・それでは、行ってきなさい。
きっと、二人で帰って来れることを、祈っています』
「はい。絶対に、二人で帰ってきます!」
そう言ったら、なんだか急に意識が遠くなっていった。
私は、深い眠りについた。
「離々亜ちゃーん!」
「ち、千夏!?今は、夕方のはず・・・」
私は、息を荒げながら言った。
「ねえ、帰ろう。現実へ、帰ろう!」
「何しに来たのかと思えば、それ?あたしは、イヤだって言ってるでしょ?」
予想通りの、冷たい返事。
それでも、負けじと言い返す。
「私は、離々亜ちゃんと生きたいんだよ。ねえ、だから・・・」
「現実、現実って・・・。そんなに、千夏は現実が好きなのね。
あたしだったら、信じられない。何、その神経?理解できないのよね」
離々亜ちゃんが、鼻で笑う。
「だいたい、あたしは『消えろ』って言われ続けた、必要とされてない人間なんだよ?
誰もあたしのことを待ってるはずないじゃない。
それなのに、何で、わざわざ戻らなきゃいけないの?」
「戻らなきゃ、いけない理由・・・?」
私は、離々亜ちゃんを見つめた。
「決まっているよ、そんなの。私、最近美花ちゃんと出会ったの。
でね、この頃は、話すようになったんだ」
「美花・・・?」
「美花ちゃんね、離々亜ちゃんが眠り込んでしまった原因は、自分の発言のせいだって、言ってたよ。
全部、自分で抱え込んでた。そこまで、離々亜ちゃんを心配しているんだよ」
「美花が・・・?」
「うん」
離々亜ちゃんは、目を見開いている。
きっと、驚いているんだ。
「離々亜ちゃんのお母さんとも話をしてきたよ。
言わなかったけど、すごく、心配そうだった」
「お母さん・・・」
私は、微笑んだ。
「ほら、離々亜ちゃんを待っている人は、いるじゃない。
安心して、帰れるでしょう?」
私は、手を差し出した。
「帰ろう。みんなのところへ」
パチン!
離々亜ちゃんは、私の手を払った。
「・・・イヤよ」
「え・・・?」
「千夏なんて、永遠にここに閉じ込められちゃえばいいんだ」
「!」
離々亜ちゃん・・・知ってたんだ。
「どうやら、当たってたようね。
あたしがここから抜け出さないと、千夏、永遠に閉じ込められるんでしょ?」
「そう、だけど・・・」
「じゃあ、そうなればいい。そうなればいいのよっ!
どうせ、それを免れるために、あたしを連れ戻そうとするんでしょう!?
だったら、あたしは戻らない!絶対に・・・!」
・・・伝わらない。
私の伝えたいことが、離々亜ちゃんに届かない。
こんなに悔しいことって、ないよ。
私、もうダメなのかな?
願いは、叶えられないのかな・・・?
「・・・っ!」
涙が、溢れてくる。
「違う。違うよ、離々亜ちゃん。そんなんじゃ、なくて・・・!」
「泣いたって、ダメよ。あたしは、帰らないんだからね!」
「私は、ただ・・・願いを叶えたくてここに来たんだよ。
『離々亜ちゃんと一緒に現実で生きたい』っていう願いを・・・」
「え?それ、どういうことか分かってるの?あたしの願いを壊すってことよ?」
「分かってるよ。それでも、私は叶えたい。この願いを。」
「どうして・・・こんなあたしと、なんて。どうして・・・?」
私は、涙をぬぐいながら答えた。
「私は、離々亜ちゃんに出会わなければ、ずっと誰も信じられなくなって、心を閉ざしたままだった。
でも、変われた。・・・こんなにも、生きることが、楽しくなった。
それは全部、離々亜ちゃんのおかげなんだよ」
「え・・・?」
「私だって、これから歩む道が、いつもまっすぐ続いてるわけじゃないのは知ってる。
でも、離々亜ちゃんが一緒なら、頑張れると思って、この願いにしたの」
私は、微笑んだ。
「同じ道を歩んでいけば、お互いに支えあっていける。・・・きっと、そうだから」
「千夏、どうしてあたしなの?あたしは、千夏の何でもないのに・・・」
「だって、離々亜ちゃんは友達だもの。大切な、私の初めての友達・・・」
「友・・・達・・・」
「うん。私がそう思っているだけなのかもしれないけれどね・・・」
ギュッ。
離々亜ちゃんが、私を抱きしめた。
「え?離々・・・」
「ごめん。ごめんね、千夏・・・!
ひどいこと言ったりして・・・。
友達って、言ってくれてありがとう・・・。
私も、そう思っているから・・・」
離々亜ちゃんが、泣いている。
「あたし、生きるよ。千夏が一緒なら、きっと大丈夫だから・・・!」
「私も、離々亜ちゃんと一緒なら、頑張れるよ」
私は、離々亜ちゃんから離れると、手を差しだした。
「さあ、一緒に帰ろう!現実へ!」
「うん!」
私たちが手をつないだとたん、あたりが真っ白になった。
次回が、最後のお話です。




