あの子は決まってあの場所に
「あ、またいる...。」
学校からの帰りにいつも見かけるあの少女。
悲しげな瞳をして、僕の家の目の前の公園のベンチを眺めている。
それも毎日。
雨の日だろうが、猛暑日の日だろうが、風が強い日だろうが。
そんな名前も年齢も知らないあの少女に、僕は恋をしてしまった。
いわゆる一目惚れ。
たいして可愛いわけでもスタイルがいいわけでもない。
なんで好きになったのかもわからない。
きっかけだってないし、話したこともない。
もちろん話しかけるわけにもいかず、僕は自分の部屋の窓から彼女を眺めているだけ。
彼女は一度も笑わなかった。
少なくとも、僕が見ているなかでは。
それどころか、泣いているときだって何回かあった。
それでも僕は何もできない。
好きな子が目の前で悲しんでるのに、何もできない。
仕方のないことなのに、それがなんだか悲しくて、切なくて、悔しくて。
彼女に話しかけたくても、チャンスがない。
急に話しかけたって、不審がられるだけだ。
そんなとき、思わぬチャンスが訪れた。
梅雨の季節だけあって、ずっと雨が降っている。
もちろん今日も。
いつも通り自分の部屋から彼女を眺めていると、急に彼女が倒れた。
雨が降っていたため、公園に人はおらず、彼女を今助けられるのは自分しかいない、と思った。
自意識過剰っていうのかな、こういうの。
それでも彼女を助けたいってことに必死だった。
両親が共働きで幸い家には誰もいなかったため、僕は急いで彼女のもとへ駆け出した。
たどり着いたときにはもう彼女は気を失っていて、ひとまず自分の部屋へ運ぶことに。
ある意味変態行為かもしれない。
友達や知り合いに見られていたら、学年中に変な噂がたっていたかもしれない。
でも、そんなことよりも彼女を助けたいという想いの方が強かった。
自分のベッドに寝かせたあと、しばらく様子を見た。
どうやら熱があるらしく、とても苦しそうだった。
できる限りのことはした。
と言っても、保冷剤とかを持ってきて冷やしただけだけど...。
2時間ほどして、彼女は目を覚ました。
「気がついた?良かった。」
「っ?!」
「あ、ごめん。びっくりするよね。ここは僕の家。君、そこの公園で倒れたんだよ。」
「え、えっと...?」
どうやら今起こっていることについていけないらしい。
それもまぁ当たり前か。
目を覚ましたら、見ぬ知らぬ男の部屋のベッドにいるんだから。
誰だって驚くだろう。
「僕は谷村 真斗。△○中学の3年。」
「あ、助けてくれてありがとうございました。えっと、□△中学3年の花村 華穂です...私、倒れたんですか?」
「え、覚えてないの?」
「はい...すいません。」
これ、聞いても大丈夫なのかな...。
「...花村さんは何でいつもあそこの公園にいるの?」
「......ちょっと色々あって...ごめんなさい、あんまり離したくないんです。」
「そっか...。」
そりゃそうか。
彼女にとっては僕はただの初対面の男だし。
それにしても、同い年だったんだ。
てっきり彼女の方が年下かと思ったのに。
「あ、あのさ...よかったら、これからも僕の家に来ない?」
「えっ...?」
「あ、いや、変な意味じゃなくて。」
何言ってんだ僕!?
やばい...変人って思われたに違いない...。
「えっとその、事情はよく知らないけど、外でずっとあのベンチ見てるより、僕の家から見たほうがいいと思うんだ。」
「...?」
「ずっと外にいたら健康的にもよくないし...。」
「なんか谷村くんって不思議だね。あの人にそっくり。」
「...あの人?」
「あ、え、ご、ごめんなさい。気にしないで。えっと、谷村くんがいいならまた来てもいいかな?って言っても、毎日になっちゃうんだけど...。」
「全然いいよwどうせ親は夜遅くにしか帰ってこないし、いっつも1人でつまらないしねw」
「ありがとう!すっごく嬉しい!」
あぁ。やっぱり彼女は笑ってるほうがいい。
なんにもわからないけど、せめて僕は彼女を笑顔にしてあげよう。
それが、今の僕にできることだから。
それからというもの、彼女は毎日僕の家に来るようになった。
お互いのメアドや携帯番号などはもちろんのこと、彼女の方も僕に色々話してくれるようになった。
「なぜベンチを見ているのか。」「あの人とは誰なのか。」ってこと以外は。
彼女はどうしても、そのことだけは話してくれなかった。
僕から聞くこともできない。
たぶん、一生聞くことはないだろう。そう考えていた。
「真斗。」
「ん?」
「やっぱり、話すね。私が毎日ベンチを見てる理由。」
「え、いいの?」
「うん...真斗になら、話してもいいかなって思って。」
「...ありがとう。」
「私には、中1の9月から中3の5月まで付き合ってた幼馴染がいた。別に、別れたわけじゃない。でも、付き合ってるってことにはならない。」
「な、何で?」
「...付き合ってた彼が、自殺したからっ...部活と塾でね...いじめられてた...それに全然気付かなかった...。」
「っ...。」
「私の前では明るく振舞ってくれて。いじめられてるなんて思いもしなかった...それから今の9月までず-っと未練残ってるの...。」
「...。」
「その彼との一番の想い出の場所が、ここの公園のあのベンチ。デートで休憩するとき。幼い時に彼と遊んでた時に使ってた。あのベンチ見てたら、その人がいる気がしてね......っ...。」
彼女の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
きっと今まで、ずっとその人のことを想っていたんだろう。
もう会えない愛しい相手を想い続けてきて。
「うっ...あっ...うぅ...ご、ごめんね泣いたりしてっ...。」
「華穂、無理しないで?」
僕は彼女の腕をつかみ、自分の方へ引き寄せていた。
そして、そのまま自分の腕の中へ抱きしめて。
今の彼女には、誰か心の支えとなる人物が必要だ。
そう思ったら、考えるより早く体が動いた。
「ま、真斗...?」
「華穂が背負ってる過去とか、辛い想いとか、僕には全然わからないけど。それでも、華穂が辛いなら僕にもその辛いこと背負わせて。」
「なんでっ...。」
「僕は君が好きだよ、華穂...ずっと前から好きだった。君が背負う重荷は僕も背負う。」
「...。」
「僕と付き合ってください...。」
「...私も真斗が好き。真斗と話しているうちに、あの人のことが楽になってきた。だけど、あの人のことまだちゃんと忘れられてない。あの人への想いは。」
「それでもいいよ。それでも僕は、華穂を幸せにするから。華穂を笑顔にさせるから...。」
「...ありがとう真斗...大好き...。」
そうして僕たちは、そっと唇を重ね合わせた。
そこからどれくらい時間が経ったかはわからない。
だけどひとつだけわかること。
それは、今僕の目の前に、幸せそうに僕に笑ってくれている君がいること。
約束するよ。
絶対、君を幸せにします...。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪
なんだか不自然なところが多々ありますが...w
思いついたことをそのまま書いているようなものなので、かなり変だと思いますw
感想等いただけると嬉しいです*