どうしてこうなった!?
深夜のテンションで書いたものです。
そのためにやたらとテンションが高いですが、楽しんでもらえるとうれしいです。
「――ですから、この商品はこんなにも素晴らしいんですよ。ぜひとも買ってくだ」
「却下」
「す、少しは話を聞いてくだ」
「うるさい黙れ二度と来るな」
「本当にこの商品は素晴らしいんで」
バタンッ。そんな大きな音を立て、男――小森省吾の目の前で無常にも扉は閉じられた。
「くっそ! 何が悪いんだよ! ただ商品を売りたいから来ただけじゃないか」
小森は先ほど失敗した家の前からぶつくさ文句を言いながら歩いていく。
道路に時折走ってくる子供の姿にいちいち眉を吊り上げるのは持っている商品に理由があるのであろう。
「だいたいこんな商品が売れるはずがないんだ!」
小森の持っているトランクにはあるものが入っていた。
「――こんなおもちゃが売れるわけがない!」
そう、小森が持っていたのは小さい子供が手にして遊ぶような魔法の杖、それも飛びっきりにデコレーションされているものだった。所謂、かわいい方向に。正直、小森はこの商品――おもちゃを見るたび目を疑ってしまう。本当にこんなものを売らなくちゃいけないのか、自分って一体何なんだろう。
思わず、自分の存在意義まで疑ってしまいそうなほどにこれを売れと渡された小森の心境は複雑だった。
「一体、こんなものを売ってどうしろっていうんだ……」
小森はおもちゃを手に取り、眺める。
ひっくり返してみても何をしようともやっぱり魔法の杖(少女用もしくは大きなお友達用)にしか見えない。
小森は何度かついていたため息をまたつき、どうしようか悩んだ。主に自分の職業がこのままでいいのかということについて。
「あれ?」
気がつくと小森は人気のない路地裏にいた。
先ほどは幸いにも人がいなかったからこそ、小森は変な目で見られていなかったのだろう。もしも人がいたのなら、小森は――
「どうしたのかね、そんな魔法の杖を眺めて」
「へ?」
聞こえた声はしわがれた老婆のようであった。
小森がその声が聞こえた方へ目を向けるとそこには人がいた。
(いや、人か……?)
小森がそう思ってしまうのも無理はない。そこにいたのは声に反してあまりにもおかしかったからだ。
聞こえてきた声は老婆のものだった。
それゆえに声の持ち主は相応の年を取った女性だと思われた。
しかし、そこにいたのは男。
いや、ただの男ならそこまでは驚きはしなかったのだろう。
その男は若かった。
だが、それすらも小森が呆けたことの理由ではなかった。
一体、どんな男だったのか。それは――
「何をぼうっとしているんだい? 早く話してくれよ、このあたしにさ」
筋肉質であるにも関わらず、顔にはふんだんに化粧がつけられ、黒のローブを羽織っている。なんていうか、一言で言うと、
「変態だぁぁあああああああああ」
だった。
「な、なななんてことをいうんだい! あたしは変態なんてものじゃないよ!」
男――変態は必死になりながら自分の潔白を訴える。それはもう必死だった。
本当に必死だった。具体的に言うと、思わず、小森のことを追いかけてしまうぐらい。
「く、来るなぁぁああああああああ」
捕まったら何かが終わる。そんな危機感を覚えた小森は必死に走った。
「ま、待ちやがれぇぇええええええ」
そんな小森のすぐ後ろを走ってついてくる男。二人は路地裏など気にすることもなく、どんどん走っていった。
ところで、小森省吾のことを説明しよう。
小森がこの業界――セールスを始めたのはさして理由はなかった。
今まではぎりぎりで高校へ入ったり、遊びほうけてしまったせいで大学に落ちそうになったりするなど危ない橋を渡りそうになりながらも、なんとかやってきた。
それでもお金はなくなってしまうわけで、とりあえず目に付いた仕事をやってみようと思い立ったのだ。
そして、目に付いた職というのがセールス。最初こそ大変だったが段々と慣れてきてようやく一人前と言えそうになったときのこと。
上司から新しい商品を受け取ったのだ。そう、あのおもちゃを。
それからは何度も何度も頑張ってはいるものの全く売れる気配がない。
しかし、それでも商品を売るのをあきらめたくない。そんな気持ちが、仕事に慣れてきたことによって生まれたプライドが、小森に商品を売るのをあきらめさせないでいた。
そして、そんなセールスをやっているとはいってもこの職業は別に体力がいるようなものではない。もちろんのこと、それは他の肉体を酷使するような職業に比べて、ということだ。色々なところに行かなくてはならないのだから少しは必要かもしれない。少し、はなのだ。
「はあっ、はあっ……」
「待てぇぇえええええええ」
必死に逃げていたが小森の体力はもう限界だった。
このまま逃げていてはもう捕まるのは時間の問題だ。
でも、このまま捕まってしまっては何かを失うような気がしてならなかった。それはなんていうか尻を押さえたくなるような感じだった。
「あっ」
思わず、声がもれ出てしまう。
あまりの疲れに足がもつれ、転んでしまったのだ。
「よくも逃げてくれやがったわねぇ……」
対峙する男の目は血走っており、とてつもない量の恐怖を撒き散らしていた。
「ひ、ひいっ……」
その様子におびえる小森。
男の手が伸び、もうだめかと思われたとき。小森の手にあった魔法の杖――おもちゃが光った。
『願いを一つだけ叶えましょう。願いによって払う代償が――』
「いいから助けてくれ! あの男から逃がしてくれぇえええええええ」
小森の言葉が放たれた瞬間、光が放たれた。光は大きく、神々しく広がった。小森を中心にして。というよりも小森の体から。
「ぎゃぁぁあああああああ」
老婆のような声が段々と野太くなっていき、ついには大男のうめき声へ変化した。いや、それは正常になったというべきだろうか。
そして、光が収まったとき、その場にあの男はいなくなっていた。
「よ、良かった……」
危機を脱した男は安堵の息を吐く。
そして、今更ながらに思ったことがあった。
「何で俺ってあの男に追われていたんだろう……」
別に追われるようなことはしていなかったはず。
改めて考えると実に不思議だった。しかし、危機からは脱出できたのだ。
小森は先ほどまで走っていたせいで、かいた汗を拭こうとハンカチをおでこに当てる。ついでに少しは濡れたであろう髪もついでとばかりに拭こうとして、何かを感じた。
「あれ? え、えぇ?」
どうしようもなく信じられずに何度も何度も頭をハンカチで拭く。
しかし、いくら拭いても感じられないものがあった。髪だった。
小森の頭にあった髪はその面影を全く残さないほどに綺麗さっぱりと消え去っていた。
「そ、そんな……」
絶望に打ちひしがれる小森の前に何かが転がっている。
それはあの魔法の杖だった。
それを手に取った瞬間。小森の脳裏に何かが聞こえてきた。
『デロデロデロリーン。この道具は呪われているようだ。もう決して離せない。離させるもんか!』
やけに力強い説明だった。
「は?」
『願いを一つだけ叶えましょう。願いによって払う代償が変わります』
今度はそんな音が聞こえた。
「おいおい。さっき願いを叶えたんじゃ……」
『ピンポンパンポーン。おめでとうございます。この道具は祝福されています。使用しても回数は減りません』
「おいっ! さっきは呪われているって――」
『どうやらこの道具は呪いに祝福されているようだ』
「そんな祝福はいらねえっ!」
小森は咄嗟に魔法の杖を振り回すが全く離すことができない。まるで手に張り付いたかのように。
『おめでとうございます。この魔法の杖はあなたを気に入りました。これからはよきパートナーとなることでしょう。あなたの色々なものを代償に』
「怖っ! そんなパートナーなんていいから離れろ!」
『返事がない。ただのお茶目魔法少女の杖のようだ』
「どうしようもないくそ道具じゃねえか!」
『カチン』
小森は何かいやな予感がした。それはもうすさまじく。
『あれ? こんなところに――』
小森の目の前になにやら複雑な魔法陣が現れた。
そして、そこから何かが出てくる。
『――変態男がいる』
「変態じゃねぇぇえええええええ」
小森と男のデスマーチ第二ラウンド。小森の髪を犠牲にして開始!
「してたまるかっ!」
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