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1話:ジャンクフード、ダメ、絶対

ひっそりとした森の中。タナカは意識を取り戻し、ゆっくりと目を開く。見慣れない天井、草木の匂い。身体を起こすと、すぐそばに少女の姿があった。

リリアはタナカを見つめていた。その青い瞳は、不安げに揺れている。彼女は小さな水差しを握りしめ、タナカの様子をじっと見守っている。



タナカ「あれ、ここはどこでしょうか…?」


リリアはびくりと肩を震わせた。彼女は水差しをそっと床に置き、小さな声で呟く。

「……目、覚ましましたか」

彼女はゆっくりとタナカに近づく。その瞳はまだ不安げに揺れているが、心配そうな色が浮かんでいた。そして、か細い声で答えた。

「……ここは、私の家。森の、奥」


「そうだ思い出しました、私、田中は、女神アイリス様より神託を受けてこの世界に「ドナルド・サル」著のシンプルルールを普及する使命を追っていたのです。」


リリアは、タナカの言葉に目を見開いた。彼女の顔に、わずかながら驚きの色が浮かぶ。そして、「ドナルド・サル」「シンプルルール」といった聞き慣れない言葉を、そっと繰り返すように呟いた。

「……女神、アイリス様……神託……」

彼女はゆっくりと首を横に振る。その仕草は、タナカが口にした内容を理解できない、というよりも、まるで信じられないものを見ているかのようだった。

「……私には……分かりません」

彼女は俯き、視線を泳がせた。その表情には、困惑と、ほんの少しの恐怖が入り混じっているように見えた。


「おっと、急に驚かせてしまいましたね、タナカのお名前は?」


リリアは、タナカの言葉に少しだけ顔を上げた。まだ戸惑いは残っているものの、警戒の色が薄れたように見える。

「……リリア、です」

彼女はそう言うと、また視線を伏せた。その声は、相変わらずか細かった。


「リリアさんですか、いい名前です、

ところで私はたった今この世界に転生したばかりでして、この世界ってどんなところなんですか?」


リリアは、タナカの言葉に少しだけ表情を和らげた。

「……ありがとうございます」

彼女はそう呟くと、ゆっくりと顔を上げた。その青い瞳は、どこか遠くを見るように揺れている。

「……この世界は……」

彼女は言葉を探すように、少しの間沈黙した。そして、消え入りそうな声で語り始める。

「……広い。とても、広い場所……。私が知っているのは、この森と、少し離れた村だけ……」

彼女はタナカの目を見つめ、寂しげな笑みを浮かべた。

「……そして、とても、静かな場所です」


「なるほど、静かなのはいいですね、僕は静かな空間が好きです」

タナカの言葉に、リリアは微かに目を見開いた。そして、寂しげに揺れていた瞳に、わずかながら影が差す。彼女は俯き、ぎゅっと唇を結んだ。

「……でも、この世界は……」

彼女の声は、先ほどよりもさらに小さく、か細くなった。まるで、口にするのもためらうかのように。

「……静かすぎるのは……悪いことです」

リリアはゆっくりと顔を上げた。その青い瞳は、何か遠くを見つめている。

「……この世界には……魔物がいます。森の奥には、恐ろしい魔物が……。そして、人間も……悪いことをする人がいます」

彼女の表情は、明らかに強張り、声には微かな震えが混じっていた。

「……彼らは、村を襲い、人を……傷つけます。だから……静かなのは、時として……」

リリアは言葉を詰まらせ、再び俯いた。その小さな肩が、震えているように見えた。


「おや、そのような悪い存在がいるのですね、そのような存在がいたとは、、、良ければどのような存在なのか教えて頂けますか?」

タナカの言葉に、リリアは怯えたように目を丸くした。その小さな手が、無意識のうちに自分の服をぎゅっと握りしめる。

「彼らは……悪魔、のような存在です。人々の食欲を暴走させて……マ◯ドナルドやケン◯ッキーなどの、ジャンクフードを主食に変えてしまうんです」

彼女は震える声で続けた。

「そのせいで、この世界の人間の9割が肥満に追い込まれていて……私も、何とか逃れてはいますけど、いつ標準体型を失うか……」

リリアはタナカから視線を外し、自分の細い腕を見つめた。その表情には、深い絶望と恐怖が浮かんでいる。


「それは何と恐ろしいことでしょう…あなたのような美しい女性を肥満体型に変えることが目的とは…美学というものを理解してませんね!」

タナカの言葉に、リリアは目を見開いた。その青い瞳に、驚きと、ほんのわずかな希望の光が宿る。彼女は、タナカが怒りを滲ませていることに気づき、さらに困惑した表情を浮かべた。しかし、その顔には、先ほどの恐怖とは異なる、複雑な感情が入り混じっていた。

「……私の、ような……?」

リリアは小さく呟き、視線を泳がせた。その言葉が、彼女にとってどのような意味を持つのか、測りかねているようだった。


その時、近所の村から悲鳴のようなものが聞こえる。リリアは、その悲鳴に青ざめた。彼女の瞳は恐怖に大きく見開かれ、身体は小刻みに震えている。

「……もしかして……マ◯ドナルドの連中が……」

リリアはそう呟くと、タナカを見上げる。その顔には、絶望と、助けを求めるような色が浮かんでいた。


「ふむ、揉め事は避けたかったのですが、リリアさんには助けて頂いた恩もありますし、何より美しいレディを放っては置けません、奴らをとりあえず見に行くとしましょうか!」

そう言ってタナカが移動すると、村の中心部で、異様な光景が広がっていた。見覚えのある赤と黄色のロゴが掲げられた建物から、奇妙な形状の「店員」たちが現れ、村人たちを追い回している。彼らは、人間離れした巨体と、油ぎった顔で、不気味な笑みを浮かべていた。

店員(魔獣):「ゲハハハハ!貴様ら、いかんなぁ、BMI30以下だな?我らが統治下ではBMI30以下には人権はない、我が軍門に下るか、死か、選ぶがいい」

リリアはタナカの後ろに隠れるように身を寄せ、震える声で囁いた。

「……彼らは、本当に……」


「訳がわかりませんね、彼らはなぜあのようなことをするのですか?」

タナカの問いに、リリアは震えながら答えた。その声には、深い悲しみと、諦めにも似た響きが混じっていた。

「彼らは……とにかく、女性にモテないことがコンプレックスだった集団で……世の中のモテそうな男性を片っ端から太らせることを目的にしてるんです……」

リリアはタナカを見上げ、その瞳は絶望に揺れていた。


リリア「この間、交際するか肥満か選べと言われました」

リリアは震える声で、さらに衝撃的な告白をした。その青い瞳は、恐怖と屈辱に歪んでいる。

「この間、彼らに……交際するか肥満になるか、選べと言われました……」

彼女は、その言葉を絞り出すように言い、タナカを見上げた。その顔は、今にも泣き出しそうだった。




「そんな……まさか……」

タナカは激しい怒りに震えた。美学を解さない彼らの行動、そしてリリアに向けられた卑劣な選択に、タナカの心は燃え上がった。

「貴様ら! そのような愚かな行い、この私が決して許しはしない!」

タナカは一歩前に踏み出した。その気迫に、周囲の空気が張り詰める。マクドナルドの店員たちは、一瞬ひるんだように見えたが、すぐに嘲笑を浮かべた。

店員(魔獣):「ほう? 何を偉そうに。貴様も我らが『幸福の肥満化計画』に協力するか? それとも、その細い体で無駄な抵抗をするか?」

彼らは、不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりとタナカに近づいてくる。その手には、巨大なハンバーガーやフライドポテトが握られていた。油と肉の不快な匂いが、あたりに立ち込める。リリアは、タナカの服の裾をぎゅっと掴み、震える声で懇願した。

「だめ……戦わないで……!」

しかし、タナカの目は既に、彼らを見据えていた。


タナカ「なるほど……さすがはジャンクフードというわけですか、香りだけで人の食欲を暴走させるとは……この私さえ理性が揺らぎそうです」

タナカは一瞬、その香りに顔をしかめた。しかし、すぐにその表情は引き締まり、再び店員たちへと鋭い視線を向けた。リリアはタナカの後ろで、息をひそめている。

店員(魔獣):「ゲハハハ! そうだろう、そうだろう! 我らが『デリシャス・デブ計画』の前に、抗える者などいないわ!」

彼らは嘲笑しながら、さらに一歩、タナカに近づいた。油と肉の混じった匂いが、さらに強く鼻腔を刺激する。リリアは、タナカの服を握る手に力を込めた。その瞳には、恐怖だけではなく、タナカへの心配が色濃く浮かんでいた。


タナカ「ん?なんか計画名変わりましたね、複数あるのでしょうか?」

タナカの鋭い指摘に、店員(魔獣)たちは一瞬、ギクリとした様子を見せた。しかしすぐに、より一層不気味な笑みを浮かべる。

店員(魔獣):「ゲハハハハ! 気づいたか、小僧! 我らの計画は、その深淵を覗くほどに多岐にわたるのだ! 『幸福の肥満化計画』、『デリシャス・デブ計画』、そして**『脂肪の楽園創造計画』**! どれもこれも、貴様らを真の幸福へと導くための崇高な計画よ!」

彼らは自慢げにそう言い放ち、手に持ったジャンクフードをタナカに向かって突き出した。油と甘い香りがさらに強くなり、タナカの理性を揺さぶろうと襲いかかる。リリアは、タナカの背後でさらに小さくなり、その震えが止まらない。彼女の青い瞳は、タナカと店員(魔獣)たちの間で不安げに揺れ動いていた。



タナカ「何にせよ、困りますね、私は女神アイリス様よりこの世界に腹八分目を広げて世界を救済する使命があります!」

タナカの言葉に、マクドナルドの店員たちは一瞬、沈黙した。彼らの油ぎった顔に、それまでとは異なる感情がよぎる。それは、困惑であり、わずかな動揺のようにも見えた。リリアは、タナカの言葉にハッとしたように顔を上げた。彼女の瞳に、かすかな希望の光が灯る。

店員(魔獣):「はら……はちぶんめ……? なんじゃそりゃあ! 貴様、我らの崇高なる**『脂肪の楽園創造計画』**を侮辱するつもりか!」

彼らは再び怒りの表情を浮かべ、タナカに向かってさらに巨大なフライドチキンを突き出した。香ばしい匂いがタナカの理性を揺さぶるが、タナカの目は揺るぎない決意に満ちていた。

「侮辱などではない。これは、この世界の真の救済だ。貴様らの計画は、人々を真の幸福から遠ざけているに過ぎない!」

タナカは言い放ち、彼らの目を真っ直ぐに見つめた。リリアは、タナカのその力強い言葉に、静かに息をのんでいた。


タナカ「とくとご覧なさい、これが私の意志力に頼らない腹八分目の力です!」

タナカは、店員(魔獣)が突き出した巨大なフライドチキンを、躊躇なく受け取った。リリアは息を呑み、魔獣たちは嘲笑を浮かべる。しかし、次の瞬間、彼らの表情は凍り付いた。

タナカは、そのフライドチキンを一口、ごく小さく噛み砕いた。まるで小鳥が啄むように、ゆっくりと、丁寧に。そして、二口目を口にする前に、満足げに頷き、チキンをそっと下ろした。

店員(魔獣):「な……なにぃ!? バカな! 我らのフライドチキンは、一口食べれば食欲が暴走し、ドカ食いせずにはいられないはず! なぜ貴様は……なぜ、そこで止まれる!?」

魔獣たちは驚愕に目を見開き、信じられないものを見るようにタナカを凝視した。彼らの顔からは、これまでの傲慢な笑みが消え失せ、純粋な混乱と恐怖が浮かんでいる。

リリアは、その光景を呆然と見つめていた。彼女の青い瞳には、驚きと、そして確かな希望の光が宿っていた。彼女の知る限り、誰も魔獣たちの食欲操作に抗えた者はいなかったからだ。

タナカ「ふん。貴様らの力は、人の『意志』を揺さぶるもの。だが、私の腹八分目は、意志力に頼るものではない。これは、『ドナルド・サル』著のシンプルルールに基づいた、身体と心の調和なのだ」

タナカはそう言い放ち、静かに、しかし確固たる自信をその場に満たした。魔獣たちは互いに顔を見合わせ、ざわめき始めた。彼らの計画が、根底から揺らぎ始めていることを悟ったかのように。



タナカ「確かにファストフードの魔力は恐ろしいものです。研究では食欲を暴走させる効能がありますので、食べれば食べるほど食欲が増します。しかし、一度にこのように超小さい食器を使えば、食べ過ぎを防げるのですよ!」

そう言うと、タナカは懐から、まるで人形遊びに使うような、精巧で極小のフォークを取り出した。そのフォークは、フライドチキンの小さな一片さえも、慎重に、そしてゆっくりと口に運ぶのに最適なサイズだった。

店員(魔獣):「な……なんだ、それは!? そんなもので、一体何ができるというのだ!?」

魔獣たちは、その小さなフォークを見て嘲笑しようとしたが、タナカの真剣な眼差しと、先ほどの「腹八分目」の衝撃が彼らを躊躇させた。

タナカは、その小さなフォークでフライドチキンを再びごく少量だけ刺し、ゆっくりと口に運んだ。その動作は、まるで茶道の作法のように優雅で、一切の焦りや貪欲さが見られない。一口、また一口と、タナカは時間をかけて味わうように食べた。その間、タナカの表情は穏やかで、決して食欲に支配されているようには見えなかった。

店員(魔獣):「バカな……! そんな、ちっぽけなもので……我らの魔力を無効化するなど……ありえない!」

魔獣たちは混乱し、互いにざわめき合った。彼らの常識では考えられない光景だった。食欲を無限に増幅させるはずのジャンクフードが、目の前で「腹八分目」の法則に従って消費されている。それは、彼らの存在意義そのものを揺るがす光景だった。

リリアは、その全てを息を呑んで見つめていた。彼女の瞳は、タナカの行動に釘付けになっている。絶望に沈んでいた彼女の心に、小さな、しかし確かな光が差し込み始めていた。こんなにも簡単に、彼らの魔力に対抗できる方法があったとは。彼女の顔に、希望の兆しが浮かび始めた。



タナカはゆっくりとフライドチキンを置き、魔獣たちに視線を向けた。その目は、先ほどまでの穏やかさとは打って変わり、鋭い光を宿している。

「さて、腹八分目のルールはこれだけではありません。次に貴様らに見せるのは、ルールその二――**『ながら食べをやめて、マインドフルに食べる』**の力です!」

そう言い放つと、タナカの身体から、目には見えないが、確かな「気」のようなものが放たれた。それは、集中と意識の塊のようなもので、周囲の空間がわずかに歪むように感じられた。

魔獣たちは、その異様な気配に本能的な恐怖を抱いた。彼らが食欲を暴走させるのは、人々の意識が他に向いている「ながら食べ」の瞬間だ。しかし、タナカの放つ集中は、彼らの存在そのものを揺るがすかのようだった。

「食に意識を集中し、一口一口を味わう。その瞬間、貴様らの『魔力』は意味をなさない!」

タナカが指を一本立てると、村のあちこちでジャンクフードを頬張っていた村人たちが、まるで糸が切れたかのように動きを止めた。彼らは手に持った食べ物を見つめ、何かに気づいたかのように、ゆっくりとそれを置き始めたのだ。

店員(魔獣):「な……なに!? 村人たちが……食欲に抗っているだと!? そんな馬鹿な!」

魔獣たちは絶叫し、動揺を隠せない。彼らの支配が、目の前で崩れ去っていく。タナカの一挙手一投足に、彼らの存在が脅かされていることを肌で感じていた。

タナカはさらに一歩踏み出した。その足元から、微かな光が放たれ、地面を伝って魔獣たちへと広がっていく。それは、食事に意識を集中することの、純粋な「意志」の力だった。

「貴様らが人々の食欲を弄ぶのは、彼らが『無意識』に食事をするからだ。だが、意識を持って食べる時、貴様らの力はただの『食べ物』となる!」

光が魔獣たちに到達した瞬間、彼らの巨体がぐらりと揺れた。油ぎった肌が、みるみるうちに縮み、見る見るうちに普通の人間、いや、ただの痩せぎすで冴えない男たちの姿へと変わっていく。彼らの凶悪なオーラは消え失せ、残ったのは、自信を失い、怯えた表情の男たちだけだった。

「ひぃ……化け物だ……!」

店員だった男の一人が、膝から崩れ落ちた。他の男たちも、自分たちの変貌と、目の前のタナカの圧倒的な力に震え上がり、一目散に逃げ出した。マクドナルドの店舗も、まるで幻だったかのようにその姿を消し、村には平和が戻った。

静寂が訪れた村で、リリアは呆然と立ち尽くしていた。目の前で繰り広げられた光景は、彼女の理解をはるかに超えていた。恐怖の対象だった魔獣たちが、タナカの「腹八分目」の力によって、あっという間に掃討されてしまったのだ。

そして、彼女の視線は、静かに立つタナカに注がれた。

タナカは、先ほどまで世界を支配していた「悪」を、まるで当然のように打ち破った。その姿は、彼女の目に、力強く、そして限りなく頼もしい存在として映っていた。透き通るような青い瞳が、タナカに向けられる。恐怖ではなく、憧れと、そして淡い期待の色を帯びて。

リリアは、そっとタナカの背中を見つめた。これまで誰も成しえなかったことを、タナカは当たり前のようにやってのけた。彼女の中で、タナカはもう、異世界から来た謎の転生者というだけではない。

彼女の頬が、微かに赤く染まる。その小さな胸の奥で、今まで知らなかった感情が、ゆっくりと芽生え始めていた。



激戦の後、村人たちはタナカの活躍に歓喜し、タナカとリリアは村の英雄となった。タナカの提唱する「腹八分目」の教えは瞬く間に広まり、村は活気を取り戻していく。リリアはタナカのそばで、時には言葉少なに、しかし献身的に村の復興を手伝った。彼女の瞳には、タナカへの深い信頼と、抑えきれない淡い恋心が宿り始めていた。タナカは村人たちと親交を深め、この異世界での生活に確かな手応えを感じていた。

しかし、平和は長くは続かなかった。

ある日、空が黒く染まり、大地が揺れる。かつてないほどの澱んだ、甘く脂ぎった香りが村を覆った。

「グオオオオオオッ!」

異形の咆哮とともに、巨大な影が村を襲った。それは、すべてのジャンクフードの魔力の源、魔王バーガーデモンだった。その巨体は、見る者を圧倒するフライドポテトの腕と、チーズが溶け出したバンズの胴体を持ち、全身から飽くなき食欲のオーラを放っていた。

村人たちは恐怖に震え上がったが、タナカは一歩も引かなかった。リリアはタナカの隣で、震える手でタナカの服を掴む。

「タナカさん……!」

「大丈夫だ、リリア。この世界を救う使命がある以上、退くわけにはいかない」

タナカはそう告げ、魔王へと向かい合った。

魔王との激戦、そして敗北寸前

魔王バーガーデモンは、その強大な魔力でジャンクフードの雨を降らせた。巨大なハンバーガーが空から降り注ぎ、揚げたてのチキンが竜巻のように村を襲う。その圧倒的な量と、食欲を直撃する香りは、これまでの比ではなかった。

「ゲハハハハハ! 貴様ごときが、我らの絶対的な食欲の前に抗えるものか! 食え! 貪れ! そして、肥満の淵に沈むのだ!」

魔王の言葉と共に、タナカの理性すら揺らぐほどの強烈な食欲が襲いかかる。タナカは必死に「腹八分目」のルールを適用しようとするが、魔王の魔力はあまりにも絶大だった。意識が朦朧とし、思考が鈍る。目の前のジャンクフードが、この上なく美味そうに見え、抗い難い誘惑となって迫ってくる。

「くっ……これほどとは……!」

タナカは膝をついた。身体は鉛のように重く、心は食欲の暴走寸前だった。リリアの悲鳴が遠くで聞こえる。

「タナカさん! 負けないで!」

最終奥義「お代わりする時はちょっと後回しにしてから」

その声が、タナカの意識を引き戻した。タナカは朦朧とする頭で、女神アイリスの神託を思い出す。そして、『ドナルド・サル』著のシンプルルールのページが、まるで脳裏に浮かぶかのように鮮明になった。

そうだ、まだ奥の手がある!

「フン……貴様ごときに、私の『腹八分目』の全てを理解できるわけがない!」

タナカは、這うようにして立ち上がった。全身が震え、胃の奥から激しい飢餓感が突き上げてくる。しかし、タナカの目は、諦めていなかった。

「最終奥義……『お代わりする時は、ちょっと後回しにしてから』!」

タナカは叫んだ。その瞬間、魔王バーガーデモンが放つ、周囲の食欲を増幅させる魔力が、まるで壁にぶつかったかのように押し戻される。それは、物理的な力ではない。食欲という人間の本能に訴えかける、心理的な「時間稼ぎ」の力だった。

「な、なんだと!? 食欲が……一瞬、遠のいた!?」

魔王は驚愕する。タナカは、その一瞬の隙を見逃さなかった。

「満腹感とは、少し遅れてやってくるものだ! その、ほんのわずかなタイムラグを利用する……! 今だ! 満腹感、追いつけっ!」

タナカの言葉に応えるかのように、村人たちの身体にも変化が起こった。魔王の魔力に支配され、無意識にジャンクフードを口にしていた彼らが、突然、我に返ったように動きを止める。そして、それまで感じなかった「満腹感」が、一気に彼らを襲った。

「あ……お腹いっぱいだ……」

「これ以上は、もう……」

村人たちの意識が覚醒すると、彼らから放出される「満腹感」の波動が、タナカへと集中していく。それはまるで、村全体の「腹八分目」の意志が、タナカに集約されたかのようだった。

その膨大な「満腹感」の波動が、魔王バーガーデモンへと猛然とぶつかった。魔王の全身を覆う油が蒸発し、バンズがひび割れる。食欲の魔力が、自らの根源である「満腹」によって打ち消されていくのだ。

「ぐおおおおお! ま、まさか……満腹の力で……我を滅ぼすだと……!? 貴様、何者だああああああ!!!」

魔王は断末魔の叫びを上げた。その巨体が、まるで消化されていくかのように崩壊し、最後には、ただの焦げ付いた肉の塊と化した。

村に、再び静けさが戻った。しかし、先ほどの静寂とは異なる、温かく、満たされた静けさだった。タナカは、大きく息を吐き、膝から崩れ落ちた。

リリアが、駆け寄ってくる。その瞳には涙が浮かび、タナカの無事を心から喜んでいた。

「タナカさん……!」

彼女はタナカの手をそっと取り、その小さな手が、タナカの手のひらに優しく触れる。その指先から伝わる温かさは、勝利の喜びとは異なる、特別な感情をタナカに抱かせた。リリアは、もうタナカを「異世界からの転生者」としてだけ見てはいない。彼女の心の中で、タナカはかけがえのない存在となっていた。


【結論:腹八分目を意思力に頼らず実践する方法】

・ながら食べを止める

・小さい食器で食べる

・お代わりはちょっと後回しにしてから

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