帰って来ちゃった
起のカゲグマ。それは、今から30年程前に生まれた妖怪だ。或る猟師が化熊退治に向かった際に存在が確認された。その熊は突如影から現れたかと思えば、別の影から現れる。その妖怪に怯えた猟師は、影を避けながら死に物狂いで逃げて来たとか。
「おい、お前例のお尋ね者じゃねぇか!」
「あー人違いです」
「嘘ついても無駄だ!紅いブカブカの服、深緑の不揃いな髪、黄緑の目、黒く染まった耳、そんな奴お前しかいねぇよ!!」
「そう思うか?十人十色っていうだろ、だから似た色の奴が居てもおかしく無いだろ」
「お前の色はこの世にお前しかいねぇわ!!」
「あ〜誤魔化せないなら逃げるね」
「待ちやがれ!!」
「そ〜れで待った奴見た事ある?」
何とか逃げ切りました。
「ようやく諦めたか。敵五十人出て来た時は流石にビビったな〜」
「敵は五十一人だ!!」
リバディが振り向くと、今まで会った人の中で、一番強そうな人が居ました。
「こっいっつっは!!西川家家老、黄川ぜい太郎じゃねぇか!!」
黄川ぜい太郎は、名門出身の足軽大将であったが、血筋によらず剣術を学び、どんな戦でも先頭に立って戦っていった。その実力が認められ家老となった、三柳圏、いや、全国最強の武将だ。
「こ〜れは逃げるが勝ちだな」
リバディはそう言って爆速で逃げて行きました。
「追うよりも逃げる方が楽だからね〜〜」
「畜生め!!!」
「死にたくはねぇからな」
そして、そのリバディを追っている忍びの者は。
「......彼にはもっと悪行をしてもらわないと困る」
一体何が目的なのでしょうか。
「あぁ腹減った。何か食うか。でも団子はヤだな。別に好き嫌いとかじゃなくて、山火鐘のあれはただの泥団子だ。泥団子は元から人にも妖怪にも食べれないから好き嫌いじゃねぇ」
言い訳は置いておいてください。
「山火鐘は自国民も不味い料理作りまくって、舌無いのか?」
確かに不味いですが、早く話を進めてください。
「へい。じゃあまだマシなうどん屋でも行くか」
「空いてる〜?」
『!!!』
全員の視線がリバディに向いた。
「あれ、全員顔見知りだっけ?」
「......とうとう現れよったか、妖怪め!!!」
「あれあれ、ん〜なんでバレたんだろ」
「指名手配されてんだわ!!!」
「俺たちに何をしたか、分かってんだろうな!!!」
「それは起承転結とかだろ?妖怪全員がそうでも無いぜ」
「問答無用!!!」
「オレは客なんだけどな〜...まあ逃げるか」
「待ちやがれ!!!」
「何も全員で来る事は無いだろ...」
「あ〜あ〜、多分上の方が誇張でもしてんだろうな。やっぱ姫さんに首持って帰ろうかな。ま駄目か」
「あそこだ!!!」
「もーなんでオレって目立ちやすいんだ!」
そんなところも忍びの者は見ていました。
「...そうだ、それで良いのだ」
本当何が目的なのでしょう。
「は〜ら減った。でも指名手配されてるしなんでか目立つし、なんなら金無ぇし」
挙げ句の果てに黄川ぜい太郎までもが彼を追っています、果たしてどうすれば良いんでしょう。
「そいや妖怪って何食ってんだ?オレは半人だから人と同じ物食うけど。今度聞いてみるか」
「呑気に考えてる場合か?」
大通りの真ん中に、ぜい太郎が立っていた。
「あーぜい太郎さんオレ今戦えないので待っててくれますか?」
「それで待つ馬鹿が居るか!」
「居ないよねー!全力走り!」
すると後ろにも兵士が立って居ました。
「おっとっ、前後が駄目なら左右!」
四方八方から兵士が出て来ました。
「通報があったから待ち伏せて居たぞ!」
「おっっと!あヒョイっと!ぐえ!ふぉう!前後左右全部無理なら上下!」
「てぇぇあ!!」
黄川ぜい太郎に足を掴まれて、結局そのまま捕まりました。
「ここにでも入っとれ!」
「あー〜腹減った!せめて食い物はくれよ!...あ〜行っちゃった。どうしよ」
ここは土蔵の城近くの牢屋。妖怪が十人程捕まっている。
「新人が来るのは五ヶ月振りか」
「初めまして、あんた誰?」
「俺は新生妖怪連合の武将、根谷高氏気だ」
「新生妖怪連合?そんなの初耳だぜ?あんたらは知ってんのか?」
「知ってるよ」
「私も武将だ」
「妖怪の癖に知らないのか?」
他の妖怪達が答えた。
「半人半妖だからかな。それか八年ぐらい放浪してたからか」
「そうか、まあ俺も妖怪に協力しているだけで、人間だがな」
「は〜ん?で結局何だ?それ」
「六年程前、妖帝と起承転結による大暴動があっただろう、あの大暴動は人間のみならず、妖怪にも多大な被害を及ぼした。だから、起承転結に対抗するべく作られた被害者の連合だ」
「へ〜親父が迷惑したな」
「君の親父さんは妖帝の武将かね?」
「いや、その妖帝」
『!?!?!?』
その場がある意味とても静かになった。
「......!」
「安心しろって、敵じゃねぇよ。親父が面倒だから放浪してんだから。今は護水国の兵だ」
「..そうか...君は新生妖怪連合に興味は有るか?」
「有り有りのの大有りだよ。こんなとこさっさと出て行きたいぐらいだ」
「それは嬉しいな。我等にとって戦力は大事だ、歓迎する。まぁ黄川ぜい太郎が居なければだが」
「もしかしてここに居る全員兵士か?」
「あーあいつは違うよー」
「じゃあ他全員か。連合軍入るからオレ助けてくれないか?金ねぇし腹減ってんだ」
「恵んであげよう」
妖怪がこちら側に金を投げた。
「ありがと」
「妖怪同士仲良く協力してこうぜ」
「大賛成だ」
「なぁお前等出たいとは思わないのか?思ってるだろ?」
「当たり前だ」
「じゃあ作戦でも考えようぜ、こっから出る」
「黄川ぜい太郎の存在はどうしようも無いぞ」
「..お前らそれでも妖怪か?ぜい太郎なんかに怯えるのか?相手は人間だぜ?」
「”最強“の人間だ」
「人間の中ではな。でもこっちはニ、四、六、十二人の妖怪だ!しかもここには妖帝の息子だって居るんだぜ!?怯えてる方が馬鹿だ!」
「俺は人間だから十一人だ。それに、そこのやつはぜい太郎と戦って負けたイネコだ」
「イネコ!?イネコってお前の事だったのか」
イネコとは、化け猫の一種だが、その強さは正に虎であり、妖の虎と呼ばれている。
「私はぜい太郎と戦ったけど、一撃も入れられなかったよ。あいつは本当に人間か疑う強さだよ」
「い〜ん〜まあ勝てるっしょ!」
「無理だ。起承転結全員でかかっても互角、それ程でもおかしくない奴だ」
「あー確かに。カゲグマあいつにやられたのかな?」
「ん?今聞き捨てならない事を言わなかったか?」
「あ〜実はここに来たのって山火鐘にカゲグマ居るから探りに来たんだよ」
また周りが静かになった。
「.......諦めて俺達は山火鐘に良い様に利用されようぜ。仲間裏切ってでも死ぬよりマシだ」
「いーやいや、カゲグマは前に会ったが味方になってくれると思うぜ」
「俺達は会った事ねぇから分かんねぇよ」
「だってあいつ自分が始めたからだ...自分のせいだとか言って泣いてるクマだぜ」
「...は??」
「新しい事始めるなら頼ってって言ってるし」
「...想像と全然違うんだが??見た目から明らかに凶暴で、殺戮劇を始めようとか言いそうだったんだけど?」
「じゃあ会ってみろ。多分山火鐘に利用されたく無い筈だぜ」
「...お前は信用するのが難しいな。...どうするか、多数決取るか?」
「それで良いだろう。お前等はこいつに賛成か?」
「私は反対だ」
「賛成、面白い物が俺の一番だ!」
「無理しかない話だ」
「浪漫があるのは良い事だ。賛成」
「反対」
「賛成は無理だ」
「死に行くにはちと早い」
「お互い仲良く協力、だろ」
「面白く、楽しくもあり、夢もある。この機会を逃すのは痛いな。残念だが、反対だ」
「イネコさんは?」
「...またいつかの機会にするよ」
「じゃ最後、えーとコウシゲはどうすんだ?」
「...俺は妖怪では無い。妖怪連合軍に入ったのも、本当は金のためが殆どだ。だから、死にたくは無い。...悲しいな、お前は面白いやつだったよ」
「そーですか、オレも悲しー」
「感情が感じられないな」
「絶対また会えるからさ。賛成三の反対八か、どうする?オレ達だけで行くか?」
「行くに決まってんだろ!」
「私は浪漫を追い求めて来た妖怪だ。浪漫を約束してくれるなら行く」
「何度も言わせるなよ、妖怪同士、仲良く協力だ!もう覚えただろ」
「決まりだな。お前等本当にここに残ってんのか?お前とか残念だって言ってたろ」
「私は命は惜しむべきだと思っている。確実な面白さと小さく大きい楽しみ、それを死ぬまで探し続けるのが私の夢だ。ここで死んでは面白く無い」
「...お前詩人の妖怪か?まいいや。後悔するなら勝手にしとけよ。良し、作戦考えるぞ!」
「「「おーー!!」」」
第三話、完
日本語ってやっぱり難しいんですね。外国人どころか日本人のオレにも分からないんですから。でもそれでも十分分かるんだから日本の教育は凄いですね。