表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/43

報酬分は働きます

 

 こうして新婚生活から4日、5日と経過すると、使用人さん達の対応が5日目あたりから大きく変わるようになったのだが、その切っ掛けというのが侍女さんの一人から

 「旦那様。よろしければ、このぬいぐるみを直す事が出来ないか一度見ては頂けないでしょうか?」

 そう言って俺に侍女さんが渡して来たのは、可愛らしいクマのヌイグルミだった。


 どうやらこのヌイグルミは、侍女さんにとって小さい頃から大切にしていたヌイグルミだったのだが、小さい頃から何度も補修しながら使い続けた結果、素人の補修ではちょっと難しいぐらい痛んでいる箇所が幾つかある状態だった。

 意外とヌイグルミ縫うのって簡単そうに見えるけど、場所によって縫い方が違うから、意外と作るのも補修するのも知識と経験が必要な代物なんだよね。


 「完全には無理かもしれないけど、出来る範囲で補修してみますよ」

 そう言ってちょっと侍女さんからヌイグルミを預かり、補修箇所を補修し直したり、中の綿を交換したりして、今持っている道具で出来る限り綺麗に仕上げて返すと、侍女さんは大変喜んでくれたから良いのだが、ふと、どうして俺に修繕を依頼したのか尋ねてみた。

 そしたら俺がカーテンやら絨毯を俺が綺麗に補修した跡を見て、「俺の腕なら直せるかも」、と思って頼んだみたいだ。


 こうして俺が色々補修したり修理して回った話が、侍女さん達から使用人全体に広がった結果。

 俺の評判は「帝都から来た変な女たらしのクズ野郎」から、「帝都から来た女たらしのクズ野郎らしいけど、色々修理する変わった人」、へと変化したみたいで、その結果、裁縫や時計に関する事で相談してくる人がちらほら現れ、少しずつだが使用人さん達全員と話すことが増えるようになった。


 特に執事長のミゲルさん。侍女長のローラさん。庭師長のシエロさん。この三人は、この家の各部門を統括する責任者なので、それなりに話す機会が多いから、比較的打ち解けて来た方かな?



 そしてフローレス家で書類上でのパートナ不在における新婚生活を送る事一週間。

 この屋敷を隅々まで見てきたけど、俺はこの屋敷が本当に上位に位置する貴族の屋敷なのか?と感じる違和感を感じていたので、比較的よく話す各部門統括者の三人を呼び、俺の感じた違和感を他の人達がどう感じているのか意見を伺ってみようと思う。


「正直に言います。この屋敷ってなんでこんな殺風景というか、味気ないというか、貴族の家としてはサッパリし過ぎて寂しい気がするのは、俺の気のせいでしょうか?」

「「「...…旦那様のおっしゃる通りだと思います」」」

 やっぱりみんなそう思ってた訳ね。割とオブラートに包んで言ったつもりだけど、ハッキリ言えば

「ここだけ所々時代が止まっちゃってない?」って言いたくなる場所もあるんだよね。


「シンプルなのが悪い訳じゃないんだけどね。

 でもお金持っている辺境伯家だってのに、調度品が古いままで華やかさに欠けてるってのは、対外的に見ても寂しい感じするよね?」

「そうですね。

 旦那様の言う通りシンプルな事が悪い訳ではないのでしょうが、この家の場合あまりにシンプル過ぎるので、もう少し調度品にお金を掛け、屋敷内を華やかに演出しても問題はないんです。

 しかし現当主であるエステラ様は、あまり調度品に興味を持たれていない方なので、「壊れてなければそれで良し」というスタンスでして」

 なるほど、侍女長のローラさんとしても、この家のあまりにも飾り気の無さすぎて無機質で味気ない様を見せ始めている屋敷の内観に、少しは変化を加えた方が良いって思ってはいるけど、主人の意向が特に変えなくていいってスタンスなら、基本はそれに従うしかないもんな。


「庭に植えてる花も、何か市場の見本市みたいで個性が感じれられないのも、殺風景に感じちゃう要因の一つだよね」

「そうなんですがね。

 エステラ様から庭園に関しても「現状を維持してればそれで良い」って言われてしまっている以上。こっちも内装と同じように下手に手を出す訳にはいかないんですよ、リカルドの旦那」

 なるほど。シエロさんの管理する庭園や外に関する事も、内観と似たような指示が出されている訳か。

 外観も内観も関心がないとすると、エステラ様はこの屋敷で関心持ってる事ってないのかな?


「ちなみにエステラ様から、『たまには何か変えてみようか?』的な意見が出た事ってないの?」

「エステラ様がフローレス家の当主になってからは、一度もありませんね。

 むしろ無駄な金がかからなくて丁度良いぐらいにしか思っていないとでしょうね」

 断言しちゃったねミゲルさん。

 じゃあエステラ様がお金使うトコってどこなの?


「ちなみに、エステラ様が最近お金使った事って何か聞いても?」

「「「剣と鍛錬上の施設に関する事です!」」」

「えっ?ドレスとか自分が身に着ける装飾品なんかにお金使ってない訳?」

「社交の場に出る際は多少購入されますが、それでも最低限の物しか購入しませんね」

 なるほど。つまりあの人のお金の優先度としては


 屋敷の事<自分の社交用に使う最低限の装飾品<<<<<武芸というか仕事に繋がる物!


 って感じなんだろうね。

 まぁ、そんな思考じゃないと、こんな屋敷単体の外観だけは立派なのに、中と外が殺風景なお屋敷完成しないだろうし。

 そこに関しては節約かつ無駄金を使わない志向だと考えたらいい事なんだけど、これだけ格式と由緒のある立派な屋敷と庭園があるというのに、その良さを生かさないで殺し続けるってのはちょっと違う話なんだよね。

 屋敷にお金を掛けて程よく華やかに見せると言う事は、領民にも「領主が良い生活を送れているなら、この領は安定している」という安心感を何気に与えたり、領民に調度品や内外装を依頼すれば領民の雇用と金銭を与える切っ掛けとなって、領民への資金還元に実は繋がったりするんだけどさ。


 って言ってもフローレス辺境伯領は、恵まれた気候と豊かな土地環境、おまけに面した海の条件が良いから海産物も豊富と第一次産業が強いんだよね。

 コレはちょっとこの領の財政状況に関する報告書を、ミゲルさんから見せてもらって、この領の金巡りは非常に良いから、その事を理解してるから当主からすると、「屋敷で無駄金を使う必要はない」とお考えなんだろうね。

 

 もっとも今はその流れで良いとしても、今後流れと環境はどう変化するのか分からない以上、この領でも工業品や工芸品といった第二次産業にも無理ない程度で少しづつ力を入れておいた方が良いんだろうね。

 その切っ掛け作りに帝都に良く行ってるエステラ様や、何処からかいい刺激を受けた領民が、帝都にしかない第二次産業製品を、このフローレス領でも作りたいと考えた、領民の職人がこの屋敷に出入りする機会が増やしてエステラ様と顔を合わせる機会を増やした方が、フローレス辺境伯領の発展に繋がる可能性も増えるんだろうけど。


「とりあえずこの問題は、『最高責任者が屋敷の内外装の事に関して極端に関心が薄い』というのが原因なのは分かったけど、正直何か打開策あるかな?」

「以前、『気分転換に内装を一度替えてみてはいかがでしょうか?』っと提案しましたが、『今の物が使えるのなら必要ない』の一言で終わりました。

「庭園のレイアウトも何度変えても無反応だったしな」

「そもそもエステラ様が考える屋敷の環境整備という物は『汚れたら掃除して綺麗さを保てばいいし、壊れた箇所は修繕以外必要ない!』と言った程度の認識ですから」

 見事に帰った来た三者の答えとしては、【要は私達ではもうお手上げです】って内容だね。

 う~ん……せめてエステラ様と同格の権限を持った人間が責任者として指示を出せば、少しは状況改善出来るんだろうけどね。

 ん? あれ?? エステラ様と同格の権限を持つ責任者って言えば……


「ねぇ。念の為確認なんだけど、俺って名目上はフローレス辺境伯夫君なんだよね?」

「はい。そうですが?」 

「今更どうしたんです、リカルドの旦那?」

「それだよ! 簡単な話さ。俺が夫君としてこの家の改装指示を出せば、この状況変えれるんじゃないのか?」

「しかしそれでエステラ様の機嫌を損ねた場合はどうするのですか?」

「大丈夫、大丈夫。俺以外の誰かがエステラ様に文句言われた時は、『俺の指示でやりました!』って言って俺の責任にしたらいいんだから。

 形式上辺境伯夫君なったるんだから、仕える権限使ってやれる事はやりますよ。それに言い出しっぺが責任取るのって当然の事でしょ!

 なんせ2年後に離婚したら金貨40枚という大金を貰うってのに、契約書通り屋敷の敷地内に引きこもって食っちゃ寝してるだけの生活してたら、離婚した後何も出来ない人間に自分がなってたら嫌だしね」

 なんて口で言ってはみたが、「そろそろやる事なくて退屈してたからいい暇つぶし見つけた!」って思ったのが、俺の原動力なんだけどね。

 もちろんタダ飯ぐらいの給料泥棒にもなりたくはない気持ちだって、少しはあるけどさ!


「いや、しかしですね……改装を始めるにも、旦那様はエステラ様からフローレンス家の資金を自由に使える権限を与えられていないのでは?」

 あっ! そういえばそうだ!! 確かにあの契約書にもハッキリと


 『フローレンス家の資金を当主の許可なく使う事は許さない。勝手に使ったら即KILL!!』


 って書かれていた! んっ、でも待てよ?あの契約書には勝手に使っていけないのは”資金”としか記載されていなかったよな。

 だったら”アレ”なら自由に使っていいんじゃないのか?


「まっ、そこに関してはたぶん何とかなると思うんで、その事を確かめる為にも、お三方にはあの倉庫まで付き合ってもらっても良いかな?」

 俺はこの屋敷で働く責任者3名を引き連れて、この屋敷の敷地内にある倉庫の一つに向かった。

 倉庫に辿り着くと、事前に用意してもらっていた鍵で、倉庫の扉をミゲルさんに開けてもらう。

 以前この倉庫を案内してもらった時、この倉庫は最も使われてない倉庫で、中には「以前この屋敷で使っていた物が置かれている倉庫ですが、現在使う予定がない者が保管されています」という説明を受けていた。

 そして俺はこの倉庫に、俺が狙っている物が眠っているという予測を立て、倉庫を開けてその中の物を使うのは契約違反じゃない事を確認した上で、倉庫の扉を開けてもらったのだ。


 そして倉庫の中に入ると、倉庫内にある物は、ホコリを大量に被っていた。

 が、俺の狙い通り保存状態は決して悪くない物が多く、俺の狙い通りの物が大量に置いてあった。


「歴史と格式のある家だから、絶対にあるだろうとは思ってたけど、コレは予想以上に宝の山だね」

 俺は倉庫の中に眠るお宝を見て、つい”ニヤリ”と笑ってしまう。

 ちなみに後から聞いた話によると、薄暗い中一人笑みを浮かべる俺の姿は、異様に怪しく見えたらしいので、3人の長達から「絶対禄でもない事を企んでいるか、倉庫の物を持って逃げようと企んでいるか」のどっちかを企んでると思われたらしく、俺がこの倉庫にある物を使ってやろうとしている事の詳細を聞くまではめちゃくちゃ警戒していたらしい。

 いや、俺そんなに人相悪くないよ。むしろ存在感薄いから侯爵家いる時は人相ぼやけ気味の人間でしたから!


 そんな昔住んでいた家での扱いを思い出して、ちょっと悲しい気分になりつつも、目的の物が倉庫に眠っている事を確認した俺は、俺の計画を使用人さん達に伝えるため、使用人3長に頼んで初日のように使用人さん達に全員集合してもらった。


 「使用人の皆さん。お忙しい所私の為に時間を割いて頂きありがとうございます。

 突然ですが、私は寂しい雰囲気になっているこの屋敷の景観と内観を少しでも華やかにするため、今日から無理なく少しずつ屋敷を改装していきたいと考えています。

 っと言っても、この広い敷地を私一人で改装する事なんてとても出来る事ではありませんので、今回使用人の皆さんに集まって頂いたのは、この寂しい雰囲気のお屋敷の改装計画に御協力をお願いするために集まって頂きました」

 俺の呼びかけで屋敷のエントランスに集まった使用人さん一同は、俺の話を耳にするとそろいも揃って何とも言えない表情を浮かべている。

 うん、いい加減使用人さん達が俺が何かしようとするたび見せてくれるこのリアクションに慣れて来たね。

 どうせ俺が「突拍子もない変な事を言い出したぞ!」っとでも思ってるんだろうね。


「失礼ですが旦那様。改装するのは良いのですが、どのような計画をお考えで?」

 おっ! 早速執事さんから良い質問が来たね。どうやら俺の秘蔵プランを披露する時が来たようだ。


「実はまだ大した事は何も考えてません」

 俺のプランを聞いた使用人さん一同。今度は「ナニイッテンダコイツ?」って顔になったね。

 まぁ普通はそうだよね。だって「改装しようぜ」って言ってるヤツが、「だけど指針と方針は決まってないけどね。テヘ!」って言ってるんだもの。

 指示される側としては、「指標も指針もないのにどう動けと???」ってツッコミたくなるよね。

 まぁ、方針と指針が決まってないから、今からソレを決めるためにこうして皆様に集まってもらってるんだけどさ。


「フローレンス辺境伯夫君となった私ですが、恥ずかしい事に当主であるエステラ様の事についてほとんど何も知りません。

 なので今から使用人の皆様からエステラ様の好みの色や、嗜好品。興味を持っている事などエステラ様の好みについての情報頂き、その情報を元にこの屋敷をエステラ様が好んで快適過ごして頂けるような改装を行おうと考えていますので、皆様ご協力よろしくお願いします」

 なんせ会って数時間しか話してない人の事なんてサッパリ分かんないからなぁ。

 っとなれば、俺なんかよりよっぽど長い時間を過ごしている方々からエステラ様の趣味嗜好に付いて聞くしかない。


 こうして俺は、使用人の皆さんから見たエステラ様のイメージ、趣味、嗜好についての聞き取り調査を始める。

 使用人全員から地道に聞いて得た情報を纏めた後、更に分析し、エステラ様の好みや嗜好を多少は知る事が出来たので、そのデータを踏まえて、エステラ様の好みに合わせつつ、現状より華やかになる改装計画を練り始める。


 こうして俺の改装計画が始まったんだけど、俺の方針が【あくまでエステラ様に嗜好に合う方向性で改装する】だった事を事前に伝えたおいたからか、使用人さん達も親身になって色々と良いアドバイスをくれたのお陰で、改装作業は思った以上に順調に進む。

 もちろん俺も手伝おうと思って、使用人さん達と掃除を始めようとしたら、「本当にそれだけは止めてください!」、とローラさんに全力で止められ。

 家具の補修を一人早朝から始めようとすれば、慌てて俺の元にやってきたミゲルさんに、「お願いですから私達の目が届く範囲の時間で行動してくだい!」、ともの凄く怒られた。

 うん。分かっちゃいたけど、辺境伯夫君ってやりたい事自由にやらせてくれないんだね。

 やっぱり俺にはお貴族様の生活って向いてないな。

 せっかく綺麗掃除して綺麗なった個所を、使用人さん達と一緒に見てスッキリ感を一緒に味わったり、ひと汗かいてからの冷えたあの一杯を共に味わいたかったのに……無念。


 そんな感じで屋敷の皆さんと、あーでもない、こーでもない、と意見を交えながら新婚生活から3週間が経とうとしていた。

 屋敷の改装も地味にコツコツと時間をかけてやった事で、それなりに改装は進み、完成系に確実に近づいるが、俺は何かとても大事な事を忘れているような気がする?

 まぁ、忘れるぐらいの事だから大したことじゃないんだろうけどな!


 「旦那様! エステラ様が予定より早くお戻りになられる連絡が入りました」

 前言撤回!! 当主であり雇用主でもあって書類上は結婚相手の事を忘れるというのは、大いに不味かった!

 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 そういえば登場人物の年齢に一切触れていないことに気が付いたので、とりあえず今出て来た登場人物の大体のイメージ年齢を書いておきます。


・リカルド 21

・エステラ 25

・ミゲル  30

・ローラ  32

・シエロ  36

・ニコラス 20


 大体これぐらいの年齢をイメージして書いてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ