最終話 愛されている者に指し示された道
正直に言うと、今俺の頭は大混乱を起こしている?
いや、俺はエステラ様の事は心底惚れ込んでるよ!
だけど俺は彼女を「愛してる」のかと言われたら……どうなの?
そもそも愛っていろんな形があるんだよね?
友愛、親愛、情愛……考えれば考えるほど色々な愛の形が出てきて、彼女の言う「愛」というのが、どの「愛」を示しているのか分からなくなってきた。
「えっと、それは……『同じ志を持ったパートナー的な意味で』、ですよね?」
「同じ志って言うと?」
「それはもちろん円満離婚を目指すって意味での」
「なんでそんな捻くれた発想が生まれるのよ!……むしろその逆よ!
今の私はリカルドと『離婚したい』なんて、全く思っていないわ」
んん? 何か話が俺の予想外の方向に進んでいる気がしてならない。
「しかし……契約結んじゃってますし」
「そんなのお互いの意思が変われば、契約変更なり破棄する事は可能でしょ?」
「いや……確かに言われてみればそうなんですけど」
「じゃあ何の問題もないじゃない!
私は『リカルドと結んだ離婚契約を取り消したい』、後は『あなたはどうなのか』って話よ!
「どうと言われましても……」
「後はリカルド、あなたの気持ち次第よ」
「突然そんなこと言われましても、俺はこの状況に頭が付いていけてないんですけど!」
ホント突然過ぎる彼女のカミングアウトで、何かもう頭の中複雑にぐるぐる回ってるし、動悸もやたら早くなって五月蠅いしで、状況の整理が全く未だに追い付かない以上、我ながら情けない言い訳を使って必死に時間を稼ごうとしている。
「そうね。私が自分の気持ちをハッキリ認識したからって、少し急過ぎる話だったわ!
でも見てなさい、契約満了時までに、リカルドの意識を変え『私の下から絶対離れたくない』って思わせてやるんだから、覚悟しなさい!!」
そう宣言した彼女は、ビシっと決めつつ、【俺との離婚契約を破棄させる宣言】を行うのだが、よく見るとエステラ様の顔もほんのり赤くなっていたので、どうやら彼女も恥ずかしいようだ。
その姿を見ていると、何かさっきまで焦りに焦っていた自分の気持ちに余裕が生まれ、可愛らしい彼女の新たな一面を見れた事を役得だと思ってしまう俺も、大概だと思う。
「じゃあ頑張って俺の意識変えてみてくださいね。
あっ! でも脅迫的かつ威圧的な姿勢で、有無を言わせない圧力かけながら強引に俺から、「フローレス家に残ります!」、て言質取るのはナシですからね!」
「そっ、そんなことしないわよ。そもそも私がいつそんな卑怯でくだらない事したっていうのよ?」
「再会時に早々やられましたけど?」
思えば再会時に結んだ離婚契約って、完全に圧力掛けきて「YES」以外の答えを言わせないようにしてた事を思い出すが、どうやら彼女もその時の状況を思い出したようで、罰が悪そうな表情を浮かべている。
「あっあれは……あの時はリカルドが最低の女たらしだと思っていたからであって……」
久しぶりに屋敷で再会した時の事を思い出したエステラ様は、気まずくなったのか”ゴニョゴニョ”と小声で何かを言っているが、そんな姿を愛おしいと思ってしまう時点で、特に俺の気持ち。というより【今後俺がどんな道を進むべきなのか】
その答えはある程度決まってるんだけど、どうやらまだ俺には全てを受け入れる覚悟が出来ていないから、いまこうして時間稼ぎをしてるんだと思う。
現に次に彼女に投げかけようとして思いついた言葉も、我ながら意地が悪い言葉だと思うしね。
「まぁ、その事に関しては、今エステラ様の面白可愛い姿を見せてもらってるから、これでチャラって事でいいですよ」
「なっ、リカルド! あなた私をからかったわね!!」
(あっ!、ちょっとコレは調子に乗り過ぎたかも)
身の危険を感じた俺はこの場から退散しようと、一目散に退路に向けて動き出す。
実はまた先程ダンスが終わった時のように、誰かが懲りずに押し寄せてきた場合を考えて、逃走退路を組んでいたので、俺は自分の頭に組み込み済みの逃走経路に向かって一直線に走り出した。
呆気に取られているエステラ様は出遅れ、俺は「シメシメ」と思いつつ、このままバルコニーから退出し、この会場からそのまま脱出するビジョンを頭に思浮かべた瞬間
【ガシっ!!】
俺の体は俺の思い描いたビジョンとは違って、俺はバルコニーから出る事無く強引に謎の力によって引き止められた。
なんで俺の体がバルコニーの出口の前で止まっているのかというと、どこからともなく現れたミゲルさんとローラさんが、俺の両腕を左右からガッシリ掴んで離さないからだ。
(なんだコレ!、ビクともしないぞ)
二人ともどっちかと言うなら華奢に見える体格なのに、「どこからこんな力が出てんの!?」、と
言いたくなるぐらい強い力で俺を取り押さえているので、どれだけもがいても二人の拘束が緩む気がしない。
「えっと……なんで俺が取り押さえられてるんでしょうか?」
「「当主のご命令ですので」」
俺を取り押さえる二人は、微笑んでそう答えた後、軽やかに俺を中心に、三人揃って180°ターンを華麗に決めると、その先には仁王立ちしてニッコリとほほ笑んだ【狂剣】と評される帝国最強の騎士の姿が!
(ヤバイ! 目が一切笑ってないぞ!!)
「あのー……俺を逃がすという選択肢は?」
「「ありませんね!!」」
俺の脇を固める2人の使用人は、それはもうとても素敵な笑顔で答えてくれた。
っていうか、なんで二人して顔は笑っているのに目は残念なモノを見る目で俺を見ているの??
あっ、そうか! 俺が彼女の告白にちゃんと答えてないから、割とマジで怒ってるなコレ!
いや、だってさ、いくらお互い思い合ってるって分かっても、流石に男として先にその事言われるのって何か情けないと思わない?
オマケにあんな可愛いくてイジらしい姿見せられたら、なんか茶化したくなるのが男の心理ってヤツなんだって!
え、それを世間では『ヘタレ』って言うんだって?
そんな事言われたって、恋愛なんて21年生きてロクにした事もないのに、いきなり結婚からスタートした挙句、ついさっき好きだって自覚した女性に「愛してる」って言われても、どう対処していいか分かんなくない?
「それを何とかするのが男の仕事?」、いや無理だから!
愛してるって言われたのは嬉しいんだけど、俺の気持ちはまだ愛じゃなくて好きってレベルだから!
だからせめてもう少し彼女の気持ちを完全に受け入れる時間と、彼女の隣に真に立つ覚悟を決める時間をくれ!
……我ながら目だけで使用人とここまで会話できるようになると、自分が如何にどっぷりっとフローレス家独特の環境に染まり切っているのが分かるね。
「さて、リカルド・ナルバエス!
あなたが私に対して犯した罪は分かっているのかしら?」
あ……、ミゲル&ローラと目線でやり取りしてたら、いつの間にか大変お怒りのご様子で我が家のご当主様が俺の前に立っている。
「さっ、さぁ……?僕、何かしましたっけ?」
「ほう……狂剣と呼ばれた私を前にしてすっとぼけるとは、大した度胸ね!
ならあなたの罪を今この場で教えてやるわ!」
エステラ様がそう言った瞬間、「これは一発キツイ折檻なり、下手したら腕の一本でも持っていかれるか?」、と思った瞬間
「んん!?」
俺の唇に何か温かい物が重なり、俺の目前に目を閉じつつ頬を赤く染めた美しいヴァルキュリャである最愛の女性が視界を覆いつくしていた。
俺はこの状況に唖然としているうちに、俺の唇と重なっていた柔らかいエステラの唇は、俺の口からゆっくりと離れていく……
「こっ、これがあなたの罪よ!
そう、誰もが大切にしている唇を! ファーストキスを奪った罪!!
だからこの責任は必ず取ってもらうわ!!!」
「えっと?、コレって……どっちかというなら奪われたのは俺のくちび」
「う、五月蠅いわね。細かい事は良いのよ!
それにしても、夜のテラスだというのにココは熱いわね!」
そう言ってエステラ様は顔を真っ赤にした顔を、手で仰ぎ始める。
「ローラ、ちょっと熱を冷ましたいから飲み物を取りに行くわよ」
「……畏まりました」
流石のローラさんもこの状況を把握するのに少し時間を要したみたいで、エステラ様が歩き出して後、僅かに遅れてローラさんは続く。
そしてバルコニーから会場に戻ったエステラ様が向かった先は、酒の並んだテーブルではなく、会場の外に繋がる出口に向かって一直線に早足で向かい、そのまま会場の外に出ていった。
「……私達はまだこの場に残っておいた方が良さそうですね」
「そう……ですね」
俺はミゲルさんの言う事に返事を返すが、特に何かを考えた上で返事をした訳ではなかった。
なんせ俺の頭はさっき起きた事を整理するので精一杯。
(今俺がされたのって……)
「ミゲルさん…俺は夢を……見ているんでしょうか?」
「安心してください、ここは現実です。
しかしエステラ様の心を見事射止められているとは分かってはいましたが、奥手のエステラ様にあんな行動を起こさせるほど惚れ込まれているとは!
流石我々使用人一同が敬愛して止まないリカルド様ですね」
「……もしかして、こうなる事を予知して俺を取り押さえてたとか?」
「そんなまさか!
流石に私もローラも、エステラ様の予期せぬかつ大胆過ぎるあの行動に驚いてしまって、その場で固まってしまいましたからね……使用人としてあるまじき姿を主人の前で晒してしまい、恥ずかしい限りですよ。
しかし旦那様もあの大変奥手なエステラ様に接吻を仕掛けさせるとは、大変罪な男ですね!
本当は噂通り社交界で淫名を轟かせてきたんじゃないんですか?」
「そんな訳あるか! アレは俺にとっても……ファーストキスだったし」
うん、口に出すとめちゃくちゃ恥ずかしいねコレ。
「でしたらお互い初めての接吻を交わした相手ですので、実に初々しい青春の一ページを、私は目の前で拝見させて頂けたわけですね。
いやはや、実に良い物を間近で拝見させていただきましたし、お互いの初めてを奪い合った仲なのですから、これは収まるべきトコに収まって頂く必要があるかと」
くっそ、今は何を言っても「責任を取れ」と言われそうな気がするので、これ以上余計な事を言わないように無言を貫こうと心に決めた俺は、ミゲルさんの言った事に対して何の反応も示さない事にする。
「ふぅ、どうやら黙って一端この状況を先延ばしにしようとお考えのようですが、そのような事をされてもエステラ様が戻り次第、本来ならとっくに済ませておく必要がある前辺境伯ご夫妻の元にご挨拶に向かいますので、そのつもりで心の準備をしておいてください」
「いや! さっきの出来事の直後で、まだ色々頭の中で整理が追い付いてない状況だってのに、『エステラ様のご両親に挨拶に行け』、て、あんた鬼ですか!」
「そう言われましてもそれが社交の場におけるマナーですし、前辺境伯ご夫妻は旦那様に対して悪い印象は持っていない様子ですので、そこまで心配する必要はないかと?」
「えっ! そうなの?
少なくとも前辺境伯夫君であるプラシド様には、終始敵意を向けられてた感が半端なかった気がするんだけど!」
だって昨日初顔合わせの際、お義母さんはまだ普通に接してきたから分かるけど、お義父さんめちゃくちゃ俺の事睨んでたんだよ?
「はい、ラミラ様は旦那様の事を『可愛い娘が心底惚れ込んだ相手だと』昨日お会いして直ぐに察していた様子で、「あの気難しいウチの娘をココまで骨抜きにするとは大したものだ」、と評してましたし、旦那様の作った物を身に着けたエステラ様を見て、「良くあの子が引き立つ物を見極めていると」っと大変喜んでおられましたよ。
プラシド様が終始旦那様を睨みを効かせているように思ったもしれませんが、こう言っては何ですか元々プラシド様の人相は世間的に良く思われないようなので、それでかと…
もっとも屋敷における旦那様の仕事っぷりに関しても大いに関心を示していましたので、その点で大いに評価は上がっています。
おまけに二人揃って【フローレス家の表と裏の魔人】と称された前辺境伯相手に、一切臆することなく接していたのも高評価だったみたいで、昨日帰り際に「なかなか骨がありそうな奴だから、また明日会えるのが楽しみだ」、という趣旨のお言葉を残していたので、お二人は旦那様と今日会って語らう時を楽しみにしていると思います」
「そう言われてもねぇ……」
正直全く持って実感湧かない事を言われたって、どうにもこれから待ち受けている一大イベントに対して前向きに構える気持ちになれないので、頭を抱えていると
「ちなみに、もし挨拶に出向かなかった場合は、先程の一件が誰にどのような形で報告されても私は知りませんよ?」
「やっぱりアンタ鬼だー!」
くっそ! そう言われたらもう逃げ道ないじゃん!!
っていうかご両親に再度挨拶とか、着実に外堀を埋められてる感がするんだけど?
俺は自分に伸し掛かるプレッシャーに押しつぶされ、ガクリと項垂れていると、)ミゲルさんが俺の肩に”ポン”と手を乗せてきたが
(今更アンタに慰められた所で何とも思わない所か、むしろ恨めしいんだけど!?)
そう思いながらミゲルさんの方を見ると、ミゲルさんは今までに見た事がないぐらい真剣な眼差しを、俺に向けていた。
「旦那様、差し出がましいかもしれませんが、先程エステラ様が仰っていたように、あなたはもっと自分に自信を持ってください!
私だけでなく屋敷で働いている使用人一同、旦那様の仕事ぶりは認めていますし、エステラ様の隣に立てる存在は、もはや旦那様以外に居ないと心から使用人一同感じています。
それに屋敷でエステラ様と旦那様の帰りを待っている使用達も、エステラ様と旦那様が屋敷に戻るのを首を長くして待っていますから、無事にこのパーティでやるべきことを終わらせ、我々が戻るべき場所に早く戻りましょう」
ミゲルさん……いや、ミゲルが珍しく私情を込めて真剣に話して来るという事は、ミゲルの言う事に嘘偽りは一切無いんだろうね。
あーあ、こりゃ使用人一同も、俺を、「フローレス家から手放す気は一切無い!」、て宣言してるようなもんだよ。
どうやら俺は思った以上に「自分がフローレス家に関わっている人達に愛されている」という現状に、ようやく気が付いたらしい。
(はぁ、ここまでフローレス家で関わった人間達に必要ってされといて、いい加減な姿勢を示すってのは何か違うよね。
これは……腹、括るしかないか!!)
そう決意した矢先、まだ頬をほんのり赤い照らしている彼女が、バルコニーに戻って来るのが目に入る。
「……待たせてしまったかしら?」
「そんなことありま…じゃなくて
そんな事ないよ。
それよりこの会場に来てから、まだエステラのご両親に挨拶が済んでないよね?
だったらまずはエステラのご両親に挨拶を済ませに行こう!」
「! そう……そうね、まずはお父様とお母さまにご挨拶を済ませなくちゃいけないわね」
そう言って俺はエステラに手を差し出すと、エステラはニッコリと笑いながら俺の手に彼女は手を重ねてくれた。
人は生きていて辛い事があると、自分が何故この場に立っているか、どこを目指して進めばいいのか、自分のやっている事は正しいのか?
自分に対して何かしらの疑問を抱いてしまった時、ソレが切っ掛けで自分の存在意義が分からなくなると、最悪の場合全てを諦めしまって、自分の夢や情熱さえも失ってしまう事もある。
だけど、一度全てを諦めたからといって全てが無くなる訳じゃない。
過去に自分が積み重ねた事は、再び自分が進むべき道を指し示してくれる何かを見つけた際に、もう一度自分を自分が進むべき道のりに向かって駈け出す為の原動力になるのだから、過去に積み重ねた物は決して無駄になる事はない。
だから俺のように一度全てを諦めても、そんな自分に手を差し伸べてくれる人達や、自分の情熱が再び火を灯すチャンスを目にした際に、恐れずにその指し示された道を進んでみるべきだと俺は思う。
そうすれば、それが切っ掛けとなって一度完全に消え去ってしまった何かの火が、再び火を灯す切っ掛けに繋がるのだから。
だから俺は、俺が俺らしく生きる道を再び指し示したくれた彼女と、彼女と共に生きる仲間達に、これから生涯を掛けてその恩を返していく事を決意した。
この作品を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
この作品を予定していた最後まで書き切れたのも、様々な形で応援してくれた読者の皆様のお陰です。
そしてこの物語を通して様々な事を学べたのも、読んでくださった皆様のお陰だと思っています。
そしてこの作品を最後まで読んで頂いた皆様に最後のお願いなんですが、よろしければこの最終話まで読んで上での評価や感想を頂けると大変嬉しく思いますし、頂いた反応は次の作品を書く際の糧にさせて頂きたいと思っていますので、リアクションよろしくお願いします。
それではまた次の作品でお会いしましょう。




