再会は突然に
エステラ様に引きずられるようにして、バルコニーに繋がる扉へ連れて行かれる俺。そんな情けない俺の姿を、先程エステラ様が一瞬で黙らせた人間達にじっと眺められている。
傍から見たらシュールな光景なのは分かっているんですけどね。だからと言ってこの光景を義父上と義母上、それに皇帝陛下が微笑ましい表情で見ているに気が付くと、何か盛大に勘違いをされてそうな気がするんだよね。
エステラ様からしたら俺の普段の扱いってこんな感じですので、決して俺とエステラ様は、あなた方が今頭の中で考えてそうな関係に至っている訳ではないんですけどね。
こうしてエステラ様にバルコニーに設置されたベンチまで引っ張られいくと、そのままエステラ様が勢い任せにベンチに腰を腰を下ろしたので、俺もその勢い引っ張られてベンチに腰を下ろした後、決して狙った訳ではなかったのだが、エステラ様と一緒になって
『はぁ~~~~~』
っと大きなため息付いた。
「お疲れ様、リカルド!」
「エステラ様もお疲れ様でした」
そう言った後にお互いの健闘を称えるかのように二人で笑いあっていると
「「エステラ様、旦那様、お疲れさまでした」」
っと言ってミゲルさんとローラさんが”スッ”と現れると、俺とエステラ様にシャンパングラスをローラさんが手渡し、ミゲルさんが手慣れた手つきで俺とエステラ様のグラスにシャンパンを注いでくれるんだけど、丁度いい汗かいて一杯何か欲しいなんて思ってた所だったんだけど、その事を見越して既に口当たりが軽くて喉越しの良いシャンパンを用意して差し出す手腕には、相変わらず舌を巻いてしまうよね。
「ご苦労様、ローラ、ミゲル。
じゃあリカルド、さっきのダンスの成功を祝して、乾杯しましょう」
「喜んで!」
「「乾杯」」
カチン☆
っと静かにグラスがぶつかる音が、静粛なバルコニーに響き渡った後、シャンパンを一気に喉に流し込んで喉を潤す。
う~ん、やっぱり一汗かいた後に飲むシャンパンの味って格別だよね!
「しかしいい加減物目新しいモノや、珍しいと思ったモノを見つけた時に、直ぐに我先にと群がろうとするあの人間達の姿勢は、相変わらず好きになれないわね」
「ハハハ……何か話題になりそうな事がある度に、エステラ様は毎度あんな感じで人が押し寄せてきたり?」
「滅多にないわね!
むしろ勲章を授与された時でも、あんな大勢の人間に詰め寄られた事はなかったけど」
「そうなんですか? 数々の武勲と功績を上げているエステラ様なら、何かを成し遂げる度にあんな感じで多くの人間が押しよせてくるのかと思っていましたよ」
「私が何かを成した時に寄ってくる人間なんて、大体『親しくしておけば何かあった時の助けになるかも』、という魂胆が丸見えの者達ばかりだから、今日みたいに押し寄せて来る度毎回睨みを効かせて追い払っていたから、あんな有象無象を退ける事なんて日常茶飯事よ」
なるほど、エステラ様は毎回あんな感じで寄ってきた人間を追い払っていた訳だね。って事はエステラ様が睨みを効かした際に、狂喜の表情を浮かべるへんた……人間が混じってたのってコレが理由なのか?
まぁ、世の中色んな人がいるというから、これ以上気にしないでおこう。
「でもさっき押し寄せて来た連中の事を思い出したら、今まで社交に出た中で一番愉快だと思ったわね」
「そうなんですか?」
「だって私がドレスで着飾った私を称賛してくる人間なんて誰一人いなかったのに、今日リカルドの作ったドレスを着て行けば、今まで近づいてくる事さえなかった人間達が一斉に寄ってきて称賛の言葉を口にするのよ?
私自身は何も変わっていないのに、ドレス一つでこうも評価をコロッと変えて来る人間の姿を思い出したら、これほど笑えることなんてないと思わない?
まさか今まで苦手だと思ってた社交の場で、こんな事を私が思う日が来るなんて思ってもいなかったわ。
これもこのドレスを作ってくれたリカルドのお陰ね」
笑ってそう答えるエステラ様の姿は、この会場に訪れる前に見せた自信ない姿と打って変わって、自信に満ち溢れている。
ドレスを作成した側としては、たがかドレス一つで過去に根付いたコンプレックスを払拭した姿を間近で見れる事なんて早々ないので、俺としても彼女の為に何か出来た事は心の底から嬉しく思う、
「そんな事ないですって。
そもそも今日見てた限りじゃ普段から社交の場を楽しめてそうな物の言い方してましたよ?
特に陛下と話している時なんか!」
「それに関しては、ベル義姉様は昔から無茶苦茶な事を平然とやろうとするから、それを止めようと思って戒めの言葉を昔から言ってたからよ。
もっとも私がいくら苦言を呈した所で、最後は結局ベル義姉様の思惑通り事が進んでいるから、気局私はベル義姉様を止めれた事がないわ……」
「ベル義姉様って?」
「そういえばリカルドにはまだ伝えていなかったわね。
ベルナルディタ陛下は、子供の頃から前皇帝に反旗を翻すまでの間、フローレス家でその身柄を匿っていたから、私は陛下と兄弟のように育ったのよ」
「そうだったんですね。だから陛下に対してエステラ様は臆することなく物を言えるという訳ですね」
まさか皇帝陛下だろうが容赦なく苦言を呈する事が出来ると噂されてる裏には、そんなバックボーンがあった訳ね。
あれ?って事はエステラ様と陛下ってほとんど家族みたいな関係だって事だよね?つまり陛下が俺の服に興味を持ったという事は……何か禄でもない未来が次々と頭を過る。
「もしかして……俺は陛下のドレスも作ったりする事に……」
「どうせ既に全部知られていると思ったから、あの場ではベル義姉様にああは言ってみたけど、ベル義姉様に興味を持たれた以上、リカルドが再びこの城に訪れる日は……そう遠い日じゃないでしょうね」
「やっぱりそうなんですね~」
俺はガクリと肩を落とした。出来れば俺の名が売れるような行為は避けたいと思っていたけど、よくよく考えたらエステラ様のドレスを作った時点で俺は自分の名を売る事に繋がる地雷を盛大に踏んでしまっているのだから、今更なんだろうけど。
「そういえばリカルドの事に関して、前から気になっている事があるのだけど」
今後の事を考えると、どうにも厄介事にまた関わりそうな未来が待ってそうなので愕然としている俺の様子を気にすることもなく、エステラ様は俺に尋ねたい事があるらしいんだけど、一体俺の事に関してこれ以上何か気になる事などあるのだろうか?
「なんでしょうか?」
「どうしてリカルドはデザイナーとしてこんなにも輝ける物を作れるし、それ対して熱い情熱を持っているというのに、それを表に出す事を嫌がる、というよりは躊躇っているのかしら?
まるでその事が無駄というか、表に出す事自体諦めている気がするのよ」
ああ、エステラ様から見ても俺ってそう見えるんですね。実は以前フローレス家で働く女性陣から見てもエステラ様と同じように感じられてしまったようで、今エステラ様が俺に問いかけている内容とほぼ同じ内容の質問をされた事があるんだよね。
その際は適当な事を言って誤魔化したので、今回も適当な事を言って誤魔化そうかと思ったけど、自分と真摯に向き合ってくれる女性に対してその対応は不誠実だよねぇ。
なんせいま隣に立つ女性は、今自分がもっとも惚れ込んでる女性だしね。
だから俺は彼女が今までそうしてくれたように、俺も彼女に対して真摯に向き合おうと思う。
「実はナルバエス侯爵家に引き取られてから、自分が今までやってた事って、ナルバエス家の人間達に否定されたんですね。
『男の癖に女物をデザインするのが好きだなんて気持ち悪い』、て。
ナルバエス家に引き取られる前は、母さんの洋裁店を手伝っていたから、女性物を男がデザインする事に何も思っていなかったし、作ってる内にいつの間にか女性物をデザインするのが好きになっていたのに、突如自分がこれまでやってきた事全てが否定されると、自分が今まで築いてきた物が全てが良くない事に思えたし、俺がデザインした物を、ある日無断でナルバエス侯爵に商売道具として使われた事があったので、父に文句を言った事もあったんですけど、『婚外子のクセに生意気だ』、と言って暴力で俺を黙らせた挙句、俺のデザインした物が世間でそれなりの評価された事に気を良くしたナルバエス侯爵は、俺がデザインした物を全て、弟であるニコラスがデザインした物として世に送り出したんです。
余計な事をいえば暴力を振るわれるのが嫌で、ナルバエス侯爵の言う事に逆らう気力もなかった俺は、自分の名を名乗る事を許されないゴーストデザイナーとしてデザインを続けいると、いつしか
『結局爵位も権力も持っていない平民は、何もやっても貴族に搾取されて終わるんだな』
そう思うようなってからは、何かと自分が目立つことを避けるようになっていましたね」
「リカルドがナルバエス侯爵家で良い扱いを受けていなかったのは、実は私も独自に調べて知ってはいたつもりだったけど、本人から実情を聞いたら、リカルドは私の想像以上にナルバエス侯爵から徹底的に尊厳を踏みにじられていたという事ね。実に許せないわ!」
そう言ったあとエステラ様が俺に見せた表情は、ナルバエス侯爵に対しての強い怒りの表情だった。
やはりこの女性は、俺みたいな人間の気持ちにも寄り添ってくれる心根も美しい人だと思うと、この人にだけは真摯に向き合って心底良かったと思ってしまうのは、ある意味惚れた弱みなのかもしれない。
「俺の為なんかに怒ってくれてありがとうございます」
「当たり前じゃない!身内を蔑ろにされて怒らない人間なんて、いないわよ」
「俺の事を身内と言ってもらえるだけで、俺はナルバエス家からフローレス家に移って良かったと思えます。
思えば俺がフローレス家に来てエステラ様と関わるようになってから、エステラ様には色々と貴重で素晴らしい経験を積ませてもらってばかりですから、もうその事はどうでもいいんです」
「ふーん、その割にはさっき私達の元に大量の人間が押し寄せて来た時はあんなに嫌そうな顔してたけど、アレもリカルドの言う素晴らしい経験の内に入るのかしら?」
「アレに関しては正直もう二度とごめんですが、今日はエステラ様のお陰で誰かに必要と言ってもらう喜びや、自分の行動が他人に評価されるというのも悪い物じゃないって思えた事は、きっとエステラ様と一緒に今日の夜会に出ていなければ、思う事も感じる事もなかったと思いますから、結果的には素晴らしい経験になってます!」
俺は心からそう思ったから、自信を持って真剣にエステラ様にそう答える。
するとエステラ様は、そんな俺の姿勢を見て嬉しそうにしつつ
「やっと見せたわね、あの頃の目を!
リカルドがもっと早くその目を見せてくれたら、あの時私を元気付けてくれたあの子がリカルドだって気が付けたのに」
「え?エステラ様と俺って過去に会った事あるんですか?」
「あるわよ。これに見覚えはないかしら?
『初めてお店に並べてもらった自信作だ』と言って、あなたが私の髪に結んでくれた物よ」
そう言ってスッとエステラ様が取り出して俺に渡して来たのは古びたリボンだったんだけど、このリボン……見れば見るほど俺が子供の頃に作って、初めて母さんの洋裁店に商品として並べてもらったあのリボンで、子供の頃にあの子に渡したリボンと同じエメラルドグリーンのリボンだった。
「じゃあ、まさか……」
「まだ『信じられない』って顔をしているわね。
だったらもう一つ、私とリカルドが過去に出会っていた事を証明する話しをしてあげようか?
別邸でリカルドが話してくれた女の子の話でリカルドは『君は本当に可愛い子なんだよ』って言ったって話をしたって言ってたわよね?
あなたその事をその子に伝えた後、その子が剣を学んでる話を聞いて、その子がリカルドの前で剣の型を披露した時、『君は強くて美しいヴァルキュリャにきっとなれるよ』、てその子に言ったんじゃないのかしら?」
エステラ様から母さんにしか話していないあの日の出来事を、俺の記憶と寸分違う事なく言い当てるエステラ様の言葉を聞いた瞬間、何かもの凄い衝撃が走ると同時に、一気に恥じらいの気持ちが出て来たお陰で、俺は恥ずかしさのあまり彼女の顔を直視する事が出来ずに目をそらしてしまう。
なんせ俺が未だに思い出すだけでも恥ずかしいと思う思い出のあの一言を知っているのは、「あの子」で、その事を知っているという事は、目の前にいる【彼女】があの子と言う訳で。
「えっと、はい、そのー……言ったかもしれませんね」
エステラ様! 今の俺にはそう答えるのが精一杯なので、そんなに面白い物を見るような目でこっちをニヤニヤしないがら見ないでほしいんだって!
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