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見るべき先

  俺とエステラ様は、本日主賓でありメインイベンターとしてダンスを踊る意思を示すため、二人で陛下に向けて敬意を込めた礼で陛下の言葉に応える意思を示す。

 陛下に向けた礼を終えると、その様子を見ていた人間達は本日のメインイベントの会場を作るために、この会場の中央にひと際大きなスペースを作ったんだけど、その場所こそ今から俺とエステラ様が踊る為の舞台だね。

 そして本日の催しのメインイベンターとして、俺とエステラ様はホールの中央に向かって歩き出すと、周囲の視線は一斉俺達向かって集中しているのが、嫌でも分かる。

 俺が今まで生きてきた人生において、こんなに華やかな空間で、なおかつこれだけ多くの人から視線を浴びた事なんて一度もない。

 そんな慣れない状況と環境をハッキリと俺は意識してしまった事で、それに伴って俺の心臓の鼓動は、過去最高に鼓動し、本当に「胸から心臓が突き破るんじゃないのか?」と思えるぐらい五月蠅い音を立てているのが嫌でも分かるぐらい、俺の緊張は極限まで高まっているんだよね。


【♪~♪】

 予期せぬ音に驚いた俺は、思わず体を”ビクッ!!”っと反応させ、咄嗟に音が聴こえた方を振り向いた。

 するとそこには今日のダンスの為の音楽演奏する為に集った音楽家達が、演奏を始める前に自分達が使う楽器の最終確認の為に音を優しく鳴らしている姿が目に入る。

 そんな普段なら気にもならない音にこれほど過敏に反応してしまう今の俺の状況って、それほど余裕が無い状態なのだと思い、とりあえず深呼吸でもしてみよう。スー、ハー…駄目だ、全く気持ちが落ち着いた気がしない。


「もしかして緊張しているのかしら?」

 そんな俺の様子を見たエステラ様が、少し不安げな様子で俺に問いかけてきた。

「そっ、そうですね。なんせこんな大勢に注目される経験もなかったですし、こんな状況でダンスを踊る事も初めての事にゃんで」

(……緊張のあまり盛大に噛んでしまうとは)


 やはり慣れない環境で慣れていない事をやるのって、大いに緊張する事だと頭では分かってはいるんだけどさ、そう頭で意識して自分の現状を受け入れた所で、緊張は簡単に拭える物じゃないんだよね。

 やっぱり【社交】という場所で俺が経験を積んでいない以上、実体験によって作られた環境に対する対応力や、この状況に上手く対応出来る自身もないから不安感も拭えなければ、緊張感も抜けない。

 その所為か、ついさっき流れた楽器の音に対して過敏に反応してしまった事や、語尾を噛んで情けくみえる語尾を発した事、今だに停まらない足の震え、このような緊張感が高まった時に見られる状態を誰かに見られてしまった事を、どうしても恥だと捉えてしまのは

(俺がこの場で醜態を晒せば、名家であるフローレス家の名に傷が付いてしまうんじゃないのか?)

 そんな不安が頭を常に過っているからなんだよね。


 この状態のままだと、「自分で自分を益々追い込んでしまう」、と感じた俺は、何とかして少しでも緊張と不安和らげようと、「何か周囲に気が紛れる物でもないのか?」、と考え、周囲に目を向ける。

 だが俺のそんな僅かな期待をあざ笑うかのように、周囲に目を向けても俺の目に入ってくるモノは、俺に対して向けられる好奇の目という俺を【マトモな人間】として捉えようともしていない人間達の嫌らしい視線だけ。

 ニコラスと口論を繰り広げていた時は、ニコラスを黙らせる事に全力を注いでいた事もあって、そんな事一切気にもしていなかったのに、いざ自分が主役となる舞台に立って自分が、「良くも悪くも大いに注目されてしまっているんだ」と、今までより強く認識してしまった事で、ますます俺の不安と緊張感が高まった所為か、突如俺の視界が大きくブレ始めると同時に、足がガクガクと大きく俺の意思とは無関係に揺れ始めた。

 どうやら極度の緊張と不安を感た事で、俺の体に想像以上に大きなストレスを与え、体調にも大いに影響が現れ始めたんだろうね。


 ブレ始めた視界は、時間が経つごとに強くなり、終いには朧気に目の前の物が映るようになるし、足腰もどんどん力が抜けて行くような錯覚さえ感じてしまう。

 俺の目に映る物が全て霞むと同時に、歪んでしまっている世界の中で、俺は何とかこの状況を乗り越えようと、何か打開策がないか?と必死に考えてみるが、そんな俺の頭に浮かんできたのは

・何故自分はこんな場所に立っているのか?

・何故俺は周囲にあんな目で見られなくてはいけないのか?

・そもそも俺は何を今から何を何の為にすべきなのか?

 そんな自分に対する疑問が次々と頭を過ったので、俺は自問自答を始めるが、何故か自分に向けての問いに対する答えが、いくら自分の中で探しても見つからないんだよね。


(……あれ?俺って自分の事にこうも何も自分で答える事が出来ない人間だったんだっけ?)

 自分の事だと言うのに、自分の事に対する問いに対して

 「自分の事に関して何の答えも返す事が出来ないという事は、俺は自分の中に確固たる信念や思いが無いからじゃないのか?」

 そんな何も持たない自分を、自分を潰してしまうような答えが頭に思い浮ぶと、心底自分という人間がいかに小さくて何も持たない者だという事実を、自分から突き付けられた気がした。


(こんな俺がお貴族様の集まる場所に居た所で、何か意味あるんだっけ?)

 再び自分の中で自問自答が始まるが、やはり答えは何も思い浮かばない。

(だったらこんな人の事を好奇の目でしか見てこない人間しか居ない場所に、何時までも居る必要は無いんじゃないのか? どうせお貴族様と結んだ契約期間さえ終われば、俺とは無縁の場所になるんだし)

 俺が【この場所にいる必要が無い】という判断を俺の頭が下すと同時に、俺はこの会場の何処かにあるこの場所から飛び出せる出口を探し始め、「早くこの場から逃げ出そう」、という焦燥感に駆られた俺は、再び周囲を探り始めた。

 そして焦点の定まらない視界の中で、お目当ての物と思わしき扉が目に入ると

 「後はそこに向かって駈け出せば良い」

 そんな答えが頭に思い浮かんだので、俺はその頭に思い浮かんだ答えに従がい、お目当ての物がある場所に向かって進もうとすると、さっきまでは立つのがやっとの状態だった足は、不思議と軽くなったかのように感じる。

 (これでやっとこの状況から……)

 そう思いながら一歩踏む出そうとすると


「しっかりしなさい!リカルド!」

 突如俺の頭に浮かんでいた言葉を全て吹き飛ばし、脳内に割って入ってきた俺の名前!

 その言葉を言い放ったのは、俺の目の前で堂々と立つ一人の女性ひとだった。

「リカルド、あなた何か勘違いしてるみたいだけど、周囲の有象無象に目を向ける前に、目の前にいるパートナーである私に目を向けるべきじゃないのかしら?」

 そう言い放った直後、その女性は俺の顔をガッシリと両腕で掴むと、俺の顔に自分の顔を近づけてきた!

 そして俺とその女性の顔がしっかりと向き合う形となった後に、俺の目の前に居る女性の目と俺の目が見つめ合う。

 その女性の目を見ていると、まるで俺を「捉えて離すまい」と言わんばかりの力が籠った目をしているような気さえする。

 おまけにその女性の目を見ていると、さっきまで俺の事を完全に支配していた焦燥感が、付きものが落ちたかのように消え失せていくように思えるし、先程までこの場所から逃げようとしてこの場から駈け出そうとしていた足が、打って変わってこの場に踏みとどまる事を選ぶかのようにその場で力強く踏ん張っている。

 どうしてそんな事になっているのか未だに理解出来ていないが、恐らく俺の目を相変わらず見つめ続けている目前の女性の存在が、俺の行動をそのように向かわせているんだろうね。


「いいわね、リカルドは私のダンスパートナーであり『夫』なのよ!

 なのにさっきから周囲の有象無象の視線なんか気にして、目の前に居る『妻』である私には全く見向きしない。

 それっていくら私の夫とはいえ、失礼にも程がある思わないのかしら?」

「……確かにそうですね!

 大変失礼しました」

「全くだわ!

 それにそう思うんなら、もっと自分に自信を持って堂々としてなさい!

 あなたと共に過ごしたのは、まだたったの三カ月という短い期間かもしれないけど、リカルドは屋敷の管理も、私のドレスを作るのも、ダンスの練習だって手を抜かないでしっかりやり遂げていたじゃない!

 そんな複数の事を器用にやり遂げれられる人なんて世の中早々いないんだから、もっと自分に自信を持つべきなのよ!」

「あれぐらいやろうと思えば、誰でも出来る気が……」

「誰にでもあの仕事が出来たら、とっくに世界の仕事の効率は遥かに高みまで登り上がってるわよ!

 それにしても、リカルドって時々自分にあまり自信がないと思っていたり、自分はあまり必要じゃないって思っているのって思ってないかしら?」

「そんな事は……」

 まさかついさっき思っていた事をピシャリと言い当てられると思っていなかった俺は、気まずさから彼女から視線を逸らそうと試みるが、顔をしっかりと両腕でロックされているので、逸らそうにも逸らせない状況なんだけどさ、顔がピクリとも動かないってどれだけこの女性ひと腕の力強いのさ!

 どうやら帝国最強の騎士団長様に捕まってしまうと、逃げる事はたやすい事じゃないみたいだね。


「ふぅ、ホント表情に全部出るから考えてる事が分かりやす過ぎるのよ、リカルドって……

 そんな事よりリカルド、あなたは自分が必要とされてない人間だと思っているのかもしれないけど、それは大きな間違いよ!

 だってあなた事、リカルド・ナルバエスの事は、私とフローレス辺境伯家で働く者達全員が間違いなく必要としている人間なのだから。

 だからもっと自分に自信を持ちなさい!

 そして周囲の目が気になって何処を見たらいいのか分からなくなった時は、私だけを見ていればいいのよ!

 そしたら私が、あなたが進むべき指標になってあげるわ!」

 そう言われた瞬間俺の視界は一気にクリアになり、今まで疑問に思っていた事が一気に解決へと導かれていく。

・どうして心底関わりたくないと思っていた貴族の世界に関わっているのか

・どうしてやりたくもない人様の屋敷の管理何か文句を言いつつ自ら進んで手を出しているのか

・どうしてニコラスに対して今までどれだけ虐げられても感じた事のなかった激しい怒りを、今頃になって感じたのか

 他にもフローレス家に婿入りしてから、自分らしくないと思える様々な「どうして」を感じていたけどさ、その理由ってのを今になってハッキリ自覚してしまったら、辿り着く先は一つしかないって分かってしまうと、何か我ながら笑えてきた。

 結局俺のやってた事って、全部この女性ひとの為であって、それが自分の為でもあった訳ね。


「ハハハ……こんな超絶美人にそこまで言われちゃったら、男としてもうこの状況何としても切り抜けるしか、もう道が残されてないじゃないですか」

「そう思うなら見事にこの場を乗り切って、リカルドが『狂剣をこの帝国で唯一使いこなす人間だ』って事をこの場にいる人間に示しなさい」

「なんですかその例え?

 どっちかというなら、俺は貴女にさんざん『使われてる』側だってのに」

「そんなの当然じゃない!

 有能な人間はさんざんコキ使ってこそ、その有能さがもっとも活きるのよ」

「上手いこと言ったつもりかもしれませんけど、それって一歩間違えたらただのパワハラ発言なので、俺を活かそうとコキ使うにしても、程々にしといてくださいよ」

 そんな他愛の会話を笑いながら彼女としていると、あらかじめ伝えられていた俺と彼女が躍る事になっていた演目であるルンバの始まりを告げる音楽が流れ出した。

 いよいよ俺達にとって、本日最大の山場が訪れようとしている。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。


やーーーーーーとリカルドが自分の気持ちに気が付いたこの頃ですw


またまた新たにブクマ、評価頂きありがとうございました。

そして誤字報告まで頂きありがとうございます。


これからも皆様が楽しめる作品を目指して行こうと思いますので、評価やブクマ等何かしらの形で応援をして頂けると幸いです。

なんせそんな事が私にとっては、大変励みになって作品を手掛けるモチベ向上にもつながりますから!

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