強くて弱くて自分勝手な人
エステラ様に自分のコンプレックスを見事に指摘され、その事が腹立たしくても正論に対して何も言い返すことが出来ない俺は、ありったけの嫌みと卑屈を込めた言葉をエステラ様に向けて言ってしまったのだが、流石にさっきのは言い過ぎたらしいね。
だって、ほら見なよ。
俺がさっき言い放った言葉がよっぽどお気に召さなかったみたいで、今まで俺に見せて来た威圧や嫌悪の眼差しとは全く違う、激しい怒りが籠った表情を今俺に向けてるいるのがその証拠だよ。
今度こそ初めてエステラ様と顔を合わせた時にイメージした死のイメージが、いよいよ現実になる時が来たか……な?
「フフフフ……私が完全無欠で弱さを知らない人間? ねぇ、お前こそ私の事を良く知りもしないくせに好き勝手言ってくれるわね! 何様のつもりなのよ!!
そもそもお前は、私の事を超人、もしくは化け物の類とでも思っているみたいだけど、私だって子供の頃は何度も他の子に泣かされた事もあれば、心が折れて見知らぬ男の子に泣きついてしまった事もあるわ!
それに世間から無敗の騎士団長と称されていようが、戦場で死を覚悟した瞬間だって何度もある。
でもそんな私が、『もう駄目だ』、と心のどこかで思った時に、常に私を支えてくれたのは、家族やこの屋敷で働く使用人達、それに見知らぬ男の子だって私が泣きついても私の事を一生懸命励ましてくれたから、私はまた頑張ろうと思えただけよ。
そもそも私が戦場で死なず生き残ったのも、たまたま私が敵に殺される前に仲間の助けが入ったり、作戦が成功したから今も私は生きてるだけの話よ。
そう考えたら結局私は、一人では生きる事が出来ない弱い人間でしかないし、『自分が弱い』と理解しているからこそ、弱い自分を強くするために”強くなるための努力をひたすら続けているだけ”の、極普通の人間でしかないわ」
「……例えそうだとしても、エステラ様は他の誰よりも強いからそんな事が出来るんですよ!」
「私が強い? 笑わせないで! 私の強い部分なんて、精々武力や軍事方面だけよ!
例え私がどれだけ優れた武力を持っていたとしても、所詮私は普通の人間なんだから、不意打ちで心臓を貫かれればあっさり死ぬし、帝国民全員から非難の言葉を浴びせ続けられようものならいつかは心が廃れ切って生きる気力を失う。
結局どれだけ世間に強いと評されようが、その程度の事で死んでしまう弱い私を、果たして強い人間だと言って良いものかしら?」
「ハッ……無敗のインパクトナイツを率いる最強の騎士様が、そんなにハッキリと、『自分が弱い』、なんて公言しちゃって言いんですか?」
「もちろん帝国民の前ではこんなこと言えないわね。
でも今この部屋に居るのは私とお前だけだし、私という人間の本質なんて、案外この程度の人間なのよ」
「帝国の多くの人間から尊敬と畏敬の念を抱かれてるエステラ様の本性は、「強そうに見えて実は弱い人間」、だと言うんですか?」
「ええ、全くもってその通りだと思うわ。
卑屈な見方でしか物事を見れないお前でも、私と言う人間の本質を少しは分かってきたようね。
でもそれが分かると、お前と私の間に人間としての差なんて、ほとんど無いと思わない?」
「いえ、俺にはエステラ様のような”強さ”なんて持ち合わせてません……あるのはエステラ様に言われた通り”弱さ”だけです」
俺とエステラ様にはほとんど差のない【同じ人間】だ! なんてエステラ様が言ってくれるなんてね。
偉業を成し遂げている人間に、こんな事言ってもらえるなんて夢でも見てる気分だけど、そんな慰めの言葉もらった所で、現実は俺が劣った人間という事実は変わらないんだよね。
どうせさっきの言葉も本心じゃなくて、ただ俺の事を哀れに思ったから慰めの言葉として出て来た言葉なんだろうからさ。
「本当にお前は弱いだけの人間なのかしら?
私と会って早々私の威圧に耐えながら色々言い返してくるし、さっきも私に向かって臆せず睨んでくる度胸を見せる肝の座った人間なんて、中々いなかったわよ?
それにお前は、私が戦場で経験した過酷な条件より違う意味でより過酷な環境の中で今まで生きてきたんだから、私はお前を弱いとは思っていないけど?」
「それは……いつか侯爵家を出るその瞬間が訪れる事をひたすら信じて、只生きる事に必死だっただけで……」
「何だ、案外お前も世間知らずなのね!
知ってるかしら? 世の中には少し過酷な環境に置かれただけで全てを諦めてしまう人間や、生きる希望さえ失ってしまった事で、自ら命を絶つ人間だっているわ。
そんなすぐに生きる事を諦めてしまうような人間と、地べたを這いずり回り、泥水を啜ろうが必死に生きるために足掻いている人間。
『どちらが好ましいか』と言われたら、私はお前のように生きるために必死に足掻いてる人間の方が、断然好ましい人間と思えるわね!」
「……ありがとうございます。そんな事生まれて初めて言われましたよ」
何か不思議な気分だ。少し前のやり取りでは、エステラ様に言われた言葉一つ一つがどれだけ正論であったとしても、俺にとっては不快だとしか感じなかったのに、エステラ様が俺の事を少しでも【認めていてくれる部分がある】と知ってからは、この人の言葉は俺に良い意味で響き渡ってくるのは何故だろうね?
「それに、きっと私がお前と同じ境遇で生きていたら、私はお前のように上手に生きる事なんて到底無理だったでしょうね。
だから、きっと私がお前と同じ条件で侯爵家で暮らしていたら、今頃私は死んでいても可笑しくないわよ。
そんな【狂剣】と評される私にとっても、『生き残るのが難しい環境』で生き残った人間が、弱いだけの人間であるはずがないわ!
だからどれだけ惨めだろうが必死に生きようとしているお前を、私は決して馬鹿にする気もなければ、ないがしろにする気もない。
これが私がお前に同情した理由だけど、まだお前は私に同情された事を不快だと感じているのかしら?」
「……いえ、正直言って今はそこまで不快に思ってはいません」
「なら良かったわ。
少しは弱いと思っていた自分の中にも、強い自分が”在る”って気が付けたら救われた気がしない?」
「……そうみたいですね」
エステラ様は、俺が『弱いと思っている自分の中にあるのは、弱い部分だけじゃない』、という事を伝えようとしてくれているようで、俺としてはそう思ってくれただけでもありがたいし、自分が必死に生きて来た事が少しでも報われたような気がした所為か、感極まって目に涙が浮かびそうになるが、どうしてもエステラ様に涙を見せたくないと思った俺は必死に涙を堪えた。
それにしても俺がこんな感情激しく動かされるのって、いつ以来なんだろう?
「そう思えたのなら、今まで侯爵家で一生懸命生きてきた自分の事を恥だなんて思わないで、誇りに思いなさい!
そうして今までの自分を認めれたら、弱い自分とも向き合っていけるようになるし、弱い自分と向き合っていけば、おのずとお前は強くなるから」
「エステラ様の言うように、弱い自分と向き合う事が出来ますかね? 俺みたいな人間に……」
「これは、出来る、出来ない、の話じゃないわ。
大事なのは、『これからどうやったら今後成りたい自分に成れるのか』を考え、今出来る範囲で、これから成りたい自分に近づくために出来る事を考えるのよ。
そしてその考えが、実際に正しいのか、間違っているのか銅貨を実際に試して検証するの。
そしてそれが正解なら次のステップに進み、間違いなら再び正しい方法を探して、その方法が正解なのか再び検証する。
単純に言ってしまえ人間の成長なんて、正解を見つけて結果を出せたら成長。
検証する前に諦めたり、失敗しても次はどうしたら正解に繋がるか考えるのを止めて、結果を出せなくなったらそこで終わり。
ただそれだけの話よ!」
「……簡単に言ってくれますよね」
それが簡単に出来たら「人間誰しも苦労してない」気がするけど、余計な事は言わないでおこう。
「プロセスだけで言ったら、本当にこれだけの話なんだから仕方がないじゃない!
私が嘘を言っていると思っているなら、実際にやって試してみてから文句の一つでもいいなさい。
そもそもこんな話になったのだって、お前が同情されるの事を恥と思ったり、見下されてるなんて思いこんでた事が原因なのよ?
「……そこに関しては、本当に申し訳ございませんでした!」
「はぁ……そもそも同情されるのが嫌なら、これからは周囲から同情されるんじゃなくて、周囲が羨むような人生でも送れるように、今後努力すべきじゃないのかしら?」
「はい……肝に銘じておきます」
「よろしい、 だったらまずは『自分が出来る範囲』の事からやってみなさい」
「自分が出来る範囲、の事ですか?」
「そうよ!
例えばお前は昨日まで『卑屈に捉えていた事を、今すぐ前向きに捉えよ!』って皇帝陛下から命令されたとして、お前は今すぐ心から卑屈に捉えていた事を、心から前向きに捉えるようにする事なんて、果たして今すぐ出来ると思うかしら?」
「表面上は出来ても、”心から”、となると、今すぐ出来そうには思えないですね」
なるほど。結局人間は表面上はいくらでも取り繕う事は出来ても、本質はそう簡単に帰れないという事を言いたいのかな?
「そうでしょうね。
今まで自分が作った価値観を急に『変えろ』って言われたって、その価値観だって自分を形成している一部なんだから、その価値観と向き合ったり折り合いを付ける時間というのは、少なからず必要に決まっている。
つまり、『今までの自分の考えを急に変える』、という事は、とても難しい事なのよ。
だからまずは、変えたい自分をしっかり向き合い、どれだけ時間を掛けてでも自問自答をして、今後変わりたい自分を目指すためにも、変われそうな部分から少しずつ変える行動をとってみたらどうかしら?」
「そうですね……まだ俺は今後『どうゆう風に自分が変わって行きたいのか』っという事すら考えていませんか、まずは先程エステラ様が言っていた通り、侯爵家で暮らしていた頃に、『惨めに思っていた自分の事を受け入れる』、まずはその事からやってみたいと思います」
「良い心がけだと思うわ!
それにしても、お前の企みを暴こうと思って呼び出したというのに、まさかお前の劣等感を暴いてしまう事になるなんてね。
おまけに私に、カウンセリングまでやらせたとなると、このお代高くつくわよ?」
「えっと、そこは穏便にすませて頂けると……」
俺を疑って俺が何か企んでいないか暴く過程で、俺の劣等感が暴かれたのはまだ分かるとして、カウンセリングに関しては頼んでもないのにエステラ様が勝手にやりましたよね?
まぁお陰でスッキリしたというか、自分でも気が付いていない自分の一面に気が付けたのもあるんで、感謝こそしてますが。
「お前今私の事を『勝手にカウンセリングしといて、何自分勝手な事言ってるんだ?』って思ってただろ?」
「まっ、まさかぁ〜!」
「帝国の騎士を舐めるなよ?
表情から相手の思考を読むという事、それはすなわち相手の情報を得るという事。
だから我々帝国の騎士は、日々の厳しい訓練と鍛錬によって、相手の思考を読む訓練を常日頃から欠かしていないのだ。
よって、お前のような男の考えなど、初めから全てお見通しだぞ!」
え? マジ!? じゃあ俺が今まで口に出さなかったことって全部バレてるって事?
「っというのは半分冗談よ。
もっとも戦闘で相手の思考を読めるという事は、戦闘のおける大きなアドバンテージを得れる事に繋がる以上、相手の表情や仕草、行動から思考を見抜く訓練は実際に私の騎士団では欠かさず行ってはいるわね。
つまりお前のような考えが表情に出やすい人間の考えている事なら、ある程度察する能力を確実に持っていると思ってくれていいわ」
「いや、半分どころかソレ、冗談要素ってほとんど無いですよね?」
それって結局「俺の考えてる事なんてある程度把握出来るからね?」って釘刺されてるのに変わりないって事だよな?
「こうでも言わないと、お前は自分の本心を私にさらけ出そうとしないでしょ?
せっかく久しぶりに中々面白いと思える人間と出会えたんなら、思っている事を隠さず語り合いたいと思わない?」
「少なくとも俺は思いませんね」
「冷たい事を言うわね?
久しぶりに揶揄いがいのある人間がフローレス家に来たのだから、存分に可愛がろうとしてるのに」
「それは勘弁して頂きたいですね。
こっちとしては突如エステラ様から距離詰められて、その距離感に付いていけてませんから!
既に俺のキャパが限界に達しそうなんで、ここらへんで穏便に済ませて頂きたいのが本音です」
いや、ホントなんか急にお偉い人から殺気向けられたり、睨まれたり、怒られたり、カウンセリングされたかと思ったら、今度は急に諭されたかと思ったら、終いには一気に距離詰めてきて弄ってこられてもね……もうこっちはとしては、エステラ様に対してどう対応していいか分かんないから、もうヤケクソ気味?に対応してるんだからね!
「あんまり自分勝手事ばっかり言ってると、周囲から嫌われますよ?」
「そう言われても困るわ。 だって私は弱くて自分勝手な人間なんだから」
「エステラ様! 申し訳ありませんが大事な部分が抜けてますよ?」
「へぇ、そう思うなら私の抜けてる事を言ってみなさい」
「エステラ様は、強くて、弱くて、大変自分勝手な人間だと俺は思います!」
「フフッ、ようやくお前も、私の事が少しは分かって来たみたいね」
こうしてしばらくエステラ様に弄られ揶揄われた後、何とか退出の許可を得た俺は、自分の寝室に戻った。
そして今日もこの部屋には、侍女さん達が用意してくれた最高のふかふかのベッドがセッティングされている。
今日も最高に気持ちの良いベッドの上にダイブした俺は、今日の事を考え……スピ―zzzzzz
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それとこの作品に初の評価を入れて頂きありがとうございます。
ブクマや評価を頂いた方の為にも、最後までこの作品を書き上げたいと思っていますので、よろしければ今後も応援よろしくお願いします。
そして前話の誤字脱字というか……があまりも酷い箇所があったので、多少修正しています。
修正前の前話を最後まで読んで頂いた方にはホントに申し訳なかったです。
誤字脱字は出来るだけ減らし無くしていきたいと考えていますが、気が付いていない事が今後もありえそうなので、気になった方は遠慮なく容赦なく誤字の報告またはご指導よろしくお願いします。




