閑話 ベルクール
ちょっと帝国側の事情が分かりにくいとご指摘がありましたので閑話を。
ベルクールの視点です。
本物のマリエッタ王女とミーティアの元婚約者リカルドを罰しなくてはならない。
大事なことはミーティアが偽のマリエッタだと誰にも知られてはならないという事だ。
あの二人を始末してしまえば済む事だがミーティアに懇願されて甘い罰となった。
絶対に見過ごすわけにはいかない、マリエッタ王女からは言葉を奪い復讐など考えぬよう、子供が出来ない体にした。
リカルドは不法入国罪で追放だ。一生マリエッタ王女と共に生きていけ。
クライン王国に戻ればそっちで始末してくれるだろう。生き残るには共和国に向かうしかない、未開の地で仲良く朽ち果てると良い。
ゴールディ辺境伯は爵位を子爵に降下させ領主の座から退いてもらった。前々からきな臭い土地だったので害虫を一掃出来て僥倖だ。
皇帝になど、なる気は無かった。
クーデターの気運が高まり、帝国の黒い血など残すべきでは無いと思っていた。
皇帝や王太子と共にこの身も処刑されれば良いと思っていた。
だが、クライン王国で私はミーティアを見つけてしまった。
遅い初恋だった。
その笑顔も王女の我儘に困った顔も、しなやかな剣技も何もかもが私を魅了した。
マリエッタ王女を側妃に迎えれば侍女としてミーティアも帝国にやって来るだろう。
美しいミーティアを王太子が見逃すはずがない!危険だ。
マリエッタ王女が輿入れする時期が近づいていた。
私はマリエッタ王女の婚約者ガブリエルに、従者を使って王太子の悪癖を教えた。
二人で共和国に逃げれば良い。
私はクーデターの先導者となり帝国を滅ぼすのだ。
もう側妃など必要は無い。いずれマリエッタ王女もガブリエルと共に王国に戻れるだろう。
だが予想外の出来事が起こった。
ミーティアがマリエッタ王女の監視を怠った罪で、母親と共に処刑されるというのだ。
あの兄弟がミーティアを裏切った。
怒りでどうにかなりそうだったが、ミーティアを救うのが先だ。
王女が病気だなどと言い逃れているクライン国王に『王女が失踪したのは分かっている。ミーティアをマリエッタとして帝国に差し出せ』と指示した。
『皇帝に王女の顔は知られていない、心配はない。これ以上引き延ばせば王国は火の海になる』と脅すとクライン王国は簡単に了承した。
後はもう簡単だろう?ミーティアとマリエッタ王女が入れ替わるだけなのだから。
マリエッタ王女がクライン王国に戻れば、ミーティアとして城の中に監禁しておけばいい。
ミーティアを帝国に連れ帰る───私の黒い血が騒いだ。ミーティアを手に入れる、その為にはクーデターを必ず成功させるのだと。
クライン王国にはマリエッタの正体が実はミーティアだとは決して口外しないよう、反故にすれば戦争になると脅しておいた。気を病んだ国王は病気になったようだ。
ガブリエルは策に溺れて自害した。素直にマリエッタ王女と共に共和国に逃げれば良かったのに。
愚かなリカルドがミーティアの婚約者の座を捨ててマリエッタ王女を守っている。
準備は全て整った。
私は帝国の使者としてマリエッタを迎えにクライン国を訪れた。
ミーティアの協力も得てクーデターは恙無く終えた。
その後は愛するミーティアを婚約者に迎え全てがうまく収まった。
だが婚約式の披露宴で本物のマリエッタ王女が姿を現したのだ。
共和国にいるとばかり思っていたのに、まさか帝国にいたとは・・・
その場で息の根を止めてやろうかと思ったが、ミーティアが難なく処理した。
マリエッタ王女は頭の狂った女ミーティアとして、リカルドはその兄として国外追放にした。
私の手の内で踊ってくれた二人だが、最後に掌から零れ落ちてしまった。
私は英雄などではない。
誰が知るだろう、たった一人の愛する人の為に皇帝になったなどと。
私が裏で初めから糸を引いていたのをミーティアは気づいているかもしれない。
それでも私達は秘密を共有した不離一体だ。決して離れることは無い。
誰が何を言おうと、我が妻の名はマリエッタなのだ。偽称などと言わせない。
恐れる事は無い、帝国では皇帝の私が白を黒と言えばそれは黒となる。
この体に流れる黒い血はまだ引き継がれていく。
帝国の歴史書にこの事実が示されることは無い。
ただベルクール皇帝とマリエッタ皇妃が生涯に渡り帝国を導き守ったと記されるだろう。