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閑話 リカルド

「手伝って欲しい!このままではマリエッタが殺されてしまう」

 兄のガブリエルは真剣だった。婚約者のマリエッタを帝国の側妃に差し出す。それは絶対に断れない要求だった。


「皇帝に弄ばれその後は、皇太子に虐待されて殺されるんだ」


 皇太子の悪癖を聞いて俺はガブリエルに協力してやろうと思った。

 ガブは婚約者のマリエッタに執着ともいえる重い愛を捧げていた。

 それに対し、マリエッタは自分に尽くすガブに満足していた。


 妖精姫と謳われるマリエッタに俺も恋焦がれた時期があった。でも今では義母の連れ子のミーティアが俺の婚約者で、マリエッタとはまた違う魅力を持った彼女に俺は惚れていた。


 マリエッタ救出にガブリエルは奔走していた。

 共和国に逃げると見せかけて帝国に身を隠す。帝都から遠く離れたゴ-ルディ辺境伯の領地でマリエッタを引き受けてくれるそうだ。


「でも帝国を怒らせるんじゃないのか?国を潰されるぞ?」

「身代わりを出すから大丈夫だ。僕を信じろ」


「でも・・・」

「いいか、これは王命なんだ。騎士のお前は断れないんだよ」

「王命・・・」


 マリエッタを帝国に届けたらガブが来て、俺はクライン王国に戻る約束だった。

 来年はミーティアと結婚式で、準備を始めるんだ。

 美人で剣技に優れるミーティアは騎士団の憧れの的で、俺の自慢の婚約者だった。


 ガブの計画で、ミーティアが夜勤の時に俺と交代してマリエッタを連れ出すのだが。

「後でミーティアは叱られるだろう?」

「大丈夫だ、王命だって言ってるだろう!罰されることは無いよ」


 ガブを信じて俺は疲労困憊のミーティアを休息室に連れ出した。

 我儘なマリエッタに仕えるミーティアを本当に休ませてやりたかった。

 それに、こんな面倒なことに巻き込みたくなかったんだ。


 俺達三人は夜の王都の街で、他国から来ている商団に紛れ込んだ。

 途中ガブリエルは追っ手を欺くために共和国に向かった。


「なんで追手がくるんだ?王命だろう?」

「王命だけど極秘指令だ。宰相なんかは反対しているからね」


 この時、嫌な予感がした。でも儚げなマリエッタを見ていると帝国には行かせられない気持ちになって俺は引き返せなかった。



 そうしてガブと別れて俺とマリエッタは帝国のゴールディ辺境伯領に到着した。

 領地の片隅で俺達は隠れ住んでいた。


 ガブリエルを待ち続けたがいつまでたっても兄は来なかった。

 そのうちマリエッタの我儘が始まった。俺との貧乏暮らしに辟易しだした。


 一体誰の為にこんな事になったんだと腹立たしかったが、王女には逆らえない。金も尽きだしたので俺は警備隊に志願して働きだした。


 そんな時、マリエッタは領主と街で偶然出会ってしまった。

 金持ちの領主に見初められて、1年近く迎えに来ないガブリエルをマリエッタは見捨てた。

 マリエッタの身分は平民となっている。領主との結婚は許して貰えない、だが領主が辛抱強く家族を説得し、マリエッタは婚約者となった。


 ガブが知ったらどう思うか。ガブとマリエッタに幸せになって欲しいと思って手助けしたのに、こんなの最悪じゃないか。


 領主がマリエッタを引き受けてくれるなら俺はクライン王国に戻りたかった。

 しかしガブが来ないのは何か異常事態が起こっている。それが怖くて戻れなかった。


 領主とそのまま結婚してしまえば良かったんだ。なのに、マリエッタは帝都での噂を聞きつけて、自分の身代わりが皇帝と婚約すると知ってしまったんだ。


「リカルド、皇帝に真実を教えて差し上げないと!」

「馬鹿言うな、帝国を騙したのがバレて殺されるぞ」

「今度の皇帝は人格者だって噂よ。大丈夫よ、もしかしたらお父様か、ウィルバート兄様にも会えるかもしれないわ。」


「いや、危険だ。王国の人間に接触するのは危険だ!」

 俺はマリエッタを説得したが、領主と共に帝都に向かってしまった。


 そうしてマリエッタは夜会の会場で盛大にやらかした。

 俺も密入国の疑いで帝都に連行されて、城の地下牢に連れて行かれて・・・

 ミーティアと再会した。


 俺の婚約者は皇帝の婚約者になっていた。


 そこで、親父もガブリエルも自害したと聞いて、俺はガブリエルに騙されていたと知った。

 王命なんかじゃなかった。あの日、ミーティアを騙しマリエッタを連れ出したせいでミーティアは処刑されるところだった。


 俺は何も知らなかった。帝国の隅でガブを信じて待ち続けた。


『無知も罪であるな』

 皇帝に言われて、俺は自分の馬鹿さ加減に絶望して死にたくなった。


 罪人の証を腕に、俺とマリエッタは帝国を追放された。

 マリエッタは子供が出来ない体となり、声も失った。

「だから帝都なんか行くなって、言っただろう・・・」



 俺達が連れて行かれたのは帝国と共和国と王国、三つの国が交わる国境だった。


「陛下の恩情でどちらでも好きな国に向かうといい」


 衛兵はそう言って金貨もたくさん渡してくれた。きっとミーティアが持たせてくれたんだ。

 俺は共和国に行こうとしたが、マリエッタは王国を選んだ。


 王国に戻れば殺される、だがマリエッタは父親に会いたがった。

「お前は最後まで馬鹿だな。王国にはもうお前の居場所は無いのに」


 だが無言でマリエッタは王国の関所に向かって歩き出した。


 その後ろ姿を見送っていたが、マリエッタを不幸にしたのはガブと俺だ。

 どうしようもなく涙が溢れて、俺はマリエッタを追いかけた。


  *****




 ────フワフワした意識の中で、俺は王国に入って王都を目指していた・・・


 噂では元国王は病で臥せっているらしい。

 マリエッタを父親に会わせたら俺は逃げようと考えていた。


 簡単に王都には進入できない。

 俺は郊外の父方の祖父母を頼ることにした。


 祖父母は俺を見るなり青い顔で「殺されたくなければ逃げろ!」と言って門前払いされた。


「マリエッタ、やっぱり俺達は王国で生きていけないんだ」

 地面に座り込んで放心しているマリエッタを立たせようとした時──

 ドスッ!ドスッ!と背中に衝撃を受けて俺は倒れた。


「やはり帰って来たか、始末しろ!」と声が近づいてくる。帝国を追放された俺達をこの国は亡き者にしようと待ち構えていた。


 マリエッタは心臓をボウガンで射抜かれて事切れていた。

「マリエッタ、だから言ったのに・・・」


 剣を振りかぶった衛兵は俺の親父の顔だった。


「悪いのは帝国だ!」

 俺は声を振り絞った。


「そうだ、だがお前のやったことは間違っていた!」


 剣が振り下ろされて、泣きそうな親父の顔が見えたのが最後・・・


 フワフワした意識は消えて俺は目覚めた。



「夢だったのか・・・・親父、すまなかった、許してくれ・・ぅぅう」



 ────────明け方の夢に俺は泣いていた。



 あの日、帝国から追放された国境にて。

 王国に向かうマリエッタに追いつくと、彼女を抱えて俺は共和国の関所に走った。

 暴れるマリエッタをしっかり押さえて俺達は共和国に入国した。


 マリエッタに何度も顔をビンタされた。マリエッタの手も腫れるほど殴られたが、俺はもうこれ以上マリエッタを不幸にできなかった。


 いくつかの民族が集まった共和国。

 少し歩けば人の住む村があると聞いて、俺達はそこを目指してノロノロと歩き出した。



 今は村で兄妹として住み着き、畑を耕し狩りをしながら質素に暮らしている。マリエッタも諦めたのか家事などを気が向けばやっている。


 俺のやったことは間違っていた。マリエッタを連れ出さなくても帝国ではクーデターが起こって、マリエッタは国に戻れた・・・

 そうだろうか? ベルクール皇帝はマリエッタを迎えてクーデターを起こしただろうか?

 ミーティアだから起こしたんじゃないだろうか。


 牢獄での皇帝の様子はガブリエルに通じる仄黒いものがあった。

 今となっては分からないがミーティアが幸せならいい。



 朝食の硬いパンをちぎって野菜スープの中に落とすマリエッタに話しかけた。

「今日は怖い夢を見たんだ。お前も俺もボウガンで撃たれて、俺は最後に親父に殺された夢だ」


 パン!と軽くマリエッタにビンタされる。

 最近は元気になったようで、何よりだ。


「いつか王国に戻してやるから、それまで待ってくれ」

 いつになるか分からないが親父とガブの墓があれば花を供えてやりたい。


 まだずっとずっと先の事だけど。




最後まで読んでいただいて有難うございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 帝国(第二王子)と王国が共謀してた→王命なのは本当(姫を匿いたかった)→しかしそれを伝えていたのは極一部、王と辺境伯と実行者だけ→実行者は処分するつもりだったから結果的に自害されて安心→頃合…
[一言] え?最後の奴なに?
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