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5 本編完結 全ては彼の掌の上

 地下牢に繋がれマリエッタ、たった三日でその可憐な姿は色褪せていた。


 陛下と私が訪れるとマリエッタは鉄格子を握って私を罵倒した。


「陛下、騙されてはいけません!その女は薄汚い偽物です!」

「国を捨てて逃げ出した王女が、戻れると思ったの?まさか帝国に逃げ込んでいたなんて驚いたわ」


「ほら、認めたわ!お前など、お父様に言って首をはねてやるわ!」


「黙らせろ!」


 皇帝の命令で、牢番はマリエッタを一度だけ鞭打った。

「ぐぅっ・・・」と呻いてマリエッタは大人しくなった。


「ひっそりと辺境伯の領地で過ごせば良かったものを、愚かな」


 人払いをして待つ皇帝と私の前に、縄で後ろ手に縛られ、大きく目を見開くリカルドが現れた。


 赤い髪が伸びて、その顔は最後に見た時よりもやつれていた。

「ミーティア・・・」


「その名を呼ぶのは許可しない。我が婚約者の名は口にするな」


「リカルド!助けて!私をお父様の元に連れて戻って!」

 また騒ぎ出したマリエッタは猿轡を填められ縄で縛られた。


「だから帝都になど行くなと忠告したのに、お前は昔から言い出したら聞かないから。皇帝がマリエッタ王女と婚約されると耳にして、私の妹はゴールディ辺境伯に同行を願い出たのです。アレは狂っています、どうかご慈悲を」

 リカルドは膝をついて額を床に押し当て懇願した。



「リカルド、陛下は全てご存じよ。騎士団長と長男は自害、私は王女の身代わりとなった。慈悲など与えません」


「親父とガブリエルが?そんな、どうして・・・」


「本当に何も知らないのね」

 この人は、自分達さえ良ければ他の人なんてどうでも良かったんだ。


「俺たちは<妖精姫>…姫様を助けたかったんだ、まさかこんな事になるなんて」


「帝国が側妃にと望んだ王女を攫って、大事(おおごと)になるのが分からないですって?ふざけないで!」


「ガブリエルが皇太子の悪癖を聞いて『絶対にマリ・・姫様を帝国には行かせられない』と言ったんだ。自分の言うとおりにすれば全て上手くいくからと俺に姫様を預けて、共和国に行くふりをして、俺と姫様を帝国に逃がしたんだ」


「私を騙して、王女を救ったのね」

「君を巻き込めなかった、知らなかったんだ身代わりになるなんて、知っていたら俺は・・・本当にすまなかった」


「あの夜の失態で私と母は処刑されるところだったのよ!」

「ぐぅっ・・すまない・・・許してくれ・・・」


 うつ伏せでリカルドは泣き崩れたが、許す気は無い。


「帝国側にも協力者がいたようだな。ゴールディ辺境伯の周辺を調べよう」

「あの方が悪事を働くとは思えないわ」

「知っていたなら王女を城に連れてくるものか、周辺が怪しいんだよ」


「ガブリエルと繋がっていたという事?」

「密入国させたのはガブリエルだろうね」


「国王は王女を側妃に差し出す気はあったのかしら」

「王女は大切に匿っておく予定だったんだろう。最初から身代わりを出す気だった」


「それは私だった?」

「・・・恐らく・・・」


「分かっていれば義父は死なずに済んだのに」

「兄弟で罪な事をした。だが最も罪なのは帝国だった。皇帝の私が言える事ではないが」


 ベルクールは私の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。

 ガブリエルとリカルド、そこにどんな想いがあったとしても「許せない」


「無知も罪であるな」

 皇帝は、むせび泣くリカルドを憐れむように見下ろしていた。




 マリエッタはガブリエルが自害したのも知らず、辺境伯に接近して婚約者に収まったようだ。

 リカルドは我儘なマリエッタを制御できず、好きにさせて墓穴を掘ってしまった。


 マリエッタには避妊手術と声を出せなくなるよう処置され、リカルドは罪人の証を両腕に彫られ、二人は帝国から追放された。


 ゴールディ辺境伯の周辺でも奴隷の密売や取引禁止の物品が押さえられ、領主の縁者たちが逮捕された。クライン王国との繋がりを示す証拠はなかったが、ガブリエルから大金を積まれ密入国を手伝ったと白状した。

 ゴールディ辺境伯は責任を取って領主の座を優秀な弟に譲った。


 クライン国王は病に倒れ、公爵のウィルバートが王に即位した。


 私の母も帝国にやって来て、私──マリエッタ王女の侍女になった。



「冷徹と評判の皇帝にしては、彼らの処分は甘かったと思わないか?」

「ベルは最初から私に甘かったわよ?」


「ふっ、ティアは私の初恋の人だからね」

「いつ会ったの?覚えてないわ」


「元皇帝に<妖精姫>を確認するよう命令された時だ。侍女の君を遠くから見かけた」

「ずいぶん遅い初恋ね、私は6歳の時だったわ」


「妬かせないで欲しいね。あの時もティアに婚約者がいると知って一度は諦めた、でも忘れられなかった」

「そうだったの?初恋の人か・・・嬉しい」


「ふっ、そう思ってくれると私も嬉しいよ」

 ベルクールは時々黒い笑みを見せる、それは私の過去に触れた時だ。彼が自身の過去を話すのは珍しい。普段は決して語ろうとしない。



 陛下の隣で皇妃としての仕事も少しずつ覚え始めた。

 執務に忙殺される皇帝ではあるが、食事は必ず私と一緒にと決めている。朝の鍛錬も模擬剣を手に付き合ってくれて、私達の仲はすこぶる良好だ。


 少しでも時間に余裕があれば、陛下は私とお茶の時間を設けてくれる。母が淹れてくれたお茶を飲みながら二人だけで他愛ない話をして過ごすのが癒しの時間になっている。


「婚姻の準備も着々と進んでいるな」

「ええ、とっても楽しみよ。こんな穏やかな日が来るなんて夢みたい」


「私も一日千秋の思いで、婚姻式を楽しみにしている。愛してるよ」

 そう言ってベルクールは私を抱き締めて首筋にキスを落とした。次に頬を、耳から唇へとキスを繰り返す。


「ティア・・・この手は黒い血で汚れている。なのに幸せになっていいのか。いつか君に憎まれるんじゃないかと、たまらなく不安になる」


「ベル・・・」


 帝国の黒い血。

 クーデターを起こした第二皇子。


 貴方は私を手に入れる為に何をしたのかしら。


 ガブリエルに皇太子の悪癖を教えたのは誰だったのか。

 なぜ処刑されるはずだった私が身代わりとなったのか。


 『無知も罪である』

 あれは誰に向けた言葉だったのか。


 この世界には知らなくてもいい事がたくさんある。


 その方が幸福でいられるなら、そっと口を閉じて目を瞑ろう。


 貴方のことも、私のことも。


 それが罪だと私は思わない。



「ねぇ、私はベルを・・・貴方が想っている以上に愛してるわよ?」


「そうなのか?嬉しいよ」


「私は誓いを捧げた貴方の騎士なんだから、どんな不安からもベルを守るわ」


「あははは、頼もしいね」

 白い歯を見せて、貴方には明るく笑っていて欲しい。



 やがて皇帝と私は結ばれて跡継ぎにも恵まれ、生涯私は皇妃マリエッタとして、皇帝陛下と共に帝国の発展を導いていった。




読んで頂いて有難うございました。

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