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 帝国に到着し、城に招かれると後宮に移されて側妃として部屋を与えられた。


 後日、簡略的な式を挙げて正式に側妃になる。


 だが好色な皇帝は到着した夜に私の部屋を訪れた。


 60歳と聞いていたが、太っているので皺が目立たず若く見える。

 脂ぎった顔は下品で、大国の皇帝とは思えない。

 前皇帝は世界に名を遺す賢王だったが、やはり好色なのは有名だった。



「妖精姫?どのような可憐な姫かと思っていたが、想像と違っておるな」


「申し訳ございません。大げさな噂が吟遊詩人達によって流されたのでしょう」


「残念だ。だがお前は・・・よく見れば美しい、一夜の伽は許してやろう」


 皇帝は私をベッドに押し倒すとナイトドレスのリボンに手を掛けた。


「あぁぁ、やはり怖い。私には無理です!」

 皇帝の手を払い除け、私はベッドの脇に身を滑らせた。


「不敬であるぞ。逃げられると思うか?」


 私は部屋の中を皇帝の手から逃げ回った。身軽な私を運動不足な体の皇帝が捕まえられる筈もなく、息を切らせて走り回る滑稽な皇帝の姿に思わず嘲笑してしまう。


「ええい!護衛騎士はここに参れ!姫を捕らえよ!」


 皇帝が大声で叫ぶと扉の向こうで控えていた騎士が2名「いかがされました?」と飛び込んできた。


「姫を捕らえて縛れ。動けなくするのだ!」


 相手が騎士2名では分が悪い、しばらく逃げていたが、とうとう私は捕まってしまった。


「元気な姫だ。薬を与えて大人しくさせるか。寝台に縛り付けろ!」


「では縄を取って参ります」


「馬鹿者、ナイトドレスのリボンがあるだろう。それで縛るんだ」


 皇帝が嬉しそうに私の胸のリボンに手を掛けたところを、足で皇帝の股間に一撃を与えた。次いで私の肩を掴んでいる護衛に頭突きをくらわすと、腰の帯剣を抜いて痛みで悶絶している皇帝の首に向けた。


「動くな!皇帝の首を飛ばすわよ!」


「貴様、何者だ!」


「私はマリエッタ、妖精姫よ?」


 女だと甘く見た別の護衛が私に切りかかって来たが剣を払い ザシュッ! と脇腹を切りつけた。


「動くなと忠告したはずよ!」


 ついでに這って逃げようとした皇帝の背中を白いガウンの上から軽く一刺しすると「ぎゃぁぁあ!」と叫んで皇帝は気絶した。

 皇帝の背中を赤い血が広がっていく。


「ふん、黒い血では無かったのね」



 一秒が数分に感じられる。緊迫した中で護衛達と睨み合っていると、廊下をバタバタと大勢の足音が聞こえてきた。


 私は賭けに勝ったのか負けたのか。また利用されただけなのか。結果によっては自害も厭わない。

 剣を握った手に力を込めた。



「マリエッタ!」

 ベルクール殿下の声にあちらも首尾よく片付いたと理解した。


「遅かったわね」

「すまない、皇太子も捕らえた。皇帝は・・・殺したのか?」


「いいえ、気絶してるだけ。謀反(むほん)は成功したの?」

「ああ、被害は最小限に抑えられた。協力に感謝するよ」


 私は生き延びたようだ・・・好色皇帝は騎士達に運ばれていった。


「約束は守ってね、私を帝国騎士に」

「それは考え中だ」


 やはりこの男も裏切るのか。剣をベルクールに向けると後方の騎士達も剣を抜いた。


「よせ、勘違いするな!君は私の従者にするつもりだ」


「私は遠回しの言い方やサプライズは嫌いなの!」


「悪かった。それにしても君は着痩せするタイプだな」


 ナイトドレス姿────くっきりボディラインを映して下着まで丸見えだ。


「きゃぁぁあ」

「くっくっ・・・部屋を変えてゆっくり休んでくれ」




 私とベルクールは船上でお互いに協力する約束で取引を行っていた。


 クーデターは成功し、皇帝と皇太子は処刑。国家の枢軸まで食い込んでいた腐敗貴族達も排除された。

 後宮は解体されて側妃には賠償金が支払われ、希望する者をベルクール殿下は帰国させた。



 ベルクール殿下が新皇帝に即位し、私は護衛騎士として多忙な皇帝の傍で常に控えていた。

 ミーティアと名乗るのは許されず、肩書はマリエッタ王女・・・元側妃だ。


 好色皇帝を蹴り上げ、気絶させた私を<妖精姫>などと誰も言わなくなった。



 1年が過ぎて帝国もようやく落ち着きを取り戻し、次は皇帝のお妃選びに話題が移った。

 24歳、眉目秀麗(びもくしゅうれい)でカリスマのある皇帝は令嬢達の憧れではあるが、父親と実兄を処刑した冷酷さに怯える令嬢も少なくなかった。


「マリエッタを皇妃に迎える。王女だし、強い、文句は無いだろう」


「私は元皇帝の側妃ですよ?お断りです」


「まだ結婚はしていないんだ、側妃ではないぞ?」

 ベルクールを嫌いでは無いが皇妃など柄にもない役はお断りだ。私は騎士が性分に合っている。



「騎士の皇妃も面白いではないか。私の傍で私を守って欲しい。帝国は敵が多いからな」


 皇帝の言葉は甘い求婚よりも騎士である私の心を揺さぶった。

 好色爺と嗜虐皇子から守ってくれたベルクールには借りもある。


「かしこまりました、主君をお守り致します」


「今までは力で他国を押さえてきたが今後は信頼を築いていかなければならない。協力してくれるな?」


「はっ!喜んで」


 こうして私はベルクールに騎士の誓いを立てて、婚約者となった。



読んで頂いて有難うございました。

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