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ダレルと薪割りをする

ランチタイムになり、皆が教室から出ていく時だった。


「ダレルにどんな事言ったら迎えに来てもらえるのかしら?あんな子に女の武器も使えないし」

私に聞こえるようにシルヴァ嬢のお取り巻きが文句を言う。

「あら。女の魅力なんてゼロなんだから、使えるものと言ったら『牧場を明け渡すから』って言うしかないんじゃない?」

今日は存在を消さないとやってられない。

そう思ってコソコソと過ごした。


そして、居心地の悪さが最高潮になったのは授業が終わった時だった。

「送っていくよ」

なんと、ダレルが教室にやって来たのだ。

「ダレルさん、ごきげんよう。私達がリーザさんを送っていきますわ」

クロック男爵家のカーリー嬢が一歩前に出てダレルが教室に入ろうとするのを阻止する。

「カーリーさんが送ってくださいますから、ワタクシと一緒にティールームに行きませんこと?」

シルヴァ嬢がダレルを誘う。

「今日はリーザの家の手伝いをする約束なんだ」

その言葉にシルヴァ嬢を含めた取り巻き達がこちらを睨む。

その視線が痛くてたまらない。

「私は大丈夫だから、ティールームに行って来たら?」

なんとかこの場から逃げたくてダレルに生贄になってもらおうと試みる。

「寒さが本格的になると仕事が増えるから、今日やってしまいたいんだ。じゃあみんな、また明日」

ダレルはそう言うと私の腕を掴んで教室から引っ張り出した。

誘いを断られた事によってシルヴァ嬢がワナワナと震えている。

そっちは見ないようにしよう……。


その様子を見ていたメリッサは『明日絶対に話してね』とジェスチャーを送ってくる。

『何もないから』と送り返すけど、メリッサは『嘘よ!またね。明日必ず』と手振りで伝えて来て、他の友達と反対方向に行ってしまった。


教室の中から睨むシルヴァ達の視線が背中に刺さる。

せめてすぐにでもここから離れたい。

「じゃあ急ぎましょう?伯父さんも待ってるし……伯父さん、お店にいるはずだから、お店に向かうわ」

そうだ!伯父さんは臨時休業なんてしない。真面目な人だもの。

「牧場の仕事をしないといけないから、リーザと一緒に戻って来て欲しいって言ってたよ。それに、帰宅時間に合わせてアップルパイも焼いてくれるって」

「……そっか」

アテが外れた。


2人で学校の近くにある厩舎に行き、朝と同じように私が前に乗る。

「リーザ昔みたいに学校でも話しかけてくれればいいのに」

「別に話す話題がないから話しかけないだけよ」

話題がないだけじゃなくて、シルヴァ嬢達が怖いのよ。

「ウチの母さんにたまには顔を見せてやってよ」

おばさんの所にはたまに行くわ。ダレルにはその時、たまたま出会わないだけで。って言うのもなんか……。

「ええ。わかったわ」

口から出たのは違う言葉だった。本当の事を言うとまるでダレルを避けているみたいに聞こえるもの。

でも、幼馴染だから、会話はだんだん弾んでくる。

小さい頃は1番近い遊び友達だった。


そうやって適当に話しながら家に帰ると、アーネスト伯父さんは直径25センチのアップルパイを焼いてあった。

「ダレル、今日はありがとうございます。これはほんのお礼ですよ」

伯父さんはアップルパイをダレルに渡した。

「ついでに冬支度の薪割りをしていきますよ?」

ダレルの申し出に伯父さんは喜んだ。

「ありがとうございます。アーサーは近頃、ゴート市の仕事が忙しくて、なかなか冬支度が進んでおりませんから、大変助かります」

アーサーは父さんの名前だ。

「リーザ、薪割りを手伝ってください」

その言葉に私は笑う。

「手伝うって言うか、競争しない?どっちが多く割れるか」

「いいね!そのゲーム、最後にやったのいつだっけ?」

「いつかな、忘れたわ」

私達は子供の頃なんでも競争していた。


薪を積んであるのは羊小屋の側の納屋。

2人で納屋の横の薪割り場で、子供の頃の話をしながら薪を割る。

「ダレルは成績がいいから、王立学園とかに進学するの?きっと推薦が来るわよ?」

「嫌、僕は進学するつもりはないよ。うちはポール、アレク、僕の三兄弟なのに、牧場にいるのは僕だけだ」

「確かにそうね」

「ポールは15歳で王立学園から推薦が来た結果、騎士団に入ったし。アレクはそれに憧れて、14歳で推薦を勝ち取って早くから王都にいる。だから僕は牧場に残りたい」

「確かにポールとアレクは小さい頃に会ったっきりだものね。それに不思議よね、牧場主の息子なのに騎士団に入るなんて」

「リーザもそうだと思うけど、盗賊が出た時のために、剣を使ったり、罠を仕掛けて牧場を守る訓練をしているだろ?あれが騎士団の作戦と似ているらしいんだ」

「牧場の周りに罠を仕掛けて、入って来たら一網打尽にするアレ?」

そういえば何故羊ちゃんは罠を通過できたのかしら?普通に道を進んでくると罠が無いからか。ちょっと勘繰ってしまった。

「さあ終わった!僕の勝ちだね」

「あっ、いつのまにか終わってるわ!私の負け?」

私は慌てた。同じスピードで斧を動かしていたつもりなのに、ダレルは私の2倍の量の薪を割っていた。

「そう、リーザの負けだ。勝利の商品は何にしようかな?また考えとくよ」


その後、羊を小屋に誘導した。羊ちゃんに会いたかったけど、ダレルがいるから会えなかった。


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