通学が苦痛
「さあ、そろそろ行かないと遅れますよ?リーザは早く着替えてくださいね」
伯父さんはそう言いながら2人分のランチボックスを差し出した。
「本当だ。急いで準備しなきゃ!遅れちゃう」
部屋に行き着替えを済ませて、髪を結ぼうとする。
「リーザ、僕の馬で行こう。それならまだ余裕だよ?君の馬は遅い上に、学校から遠い厩舎に馬を繋いでいるだろ?」
確かに私の愛馬はおじいちゃんでゆっくり走るからいつも早く家を出る。それに、街中の厩舎は高くて月額の使用料なんて払えないから、メリッサの家の厩舎を安く使わせてもらってる。
「ダレルの馬に2人で乗ったら結局遅くなるんじゃない?」
「大丈夫だよ」
アーネスト伯父さんにもそうした方が良いと言われたので、ダレルの馬で行くことになった。
渋々、ダレルの馬に乗せてもらう。
私はダレルに腰を支えられるようにして前に乗る。
子供の頃は、二人乗りをして遊んでいたんだから恥ずかしくない。そう自分に言い聞かせる。
……本当は何年も同じ馬に乗っていない。でも意識しちゃダメだ。
じゃないと、ダレルの気を引こうとする他の女の子と同じになってしまう。
私は幼馴染。
だから、いつも他の女の子とは違う立ち位置に居られる。
そうだ、違うことを考えればいいんだわ。
そう思って放牧されている羊を見た時だった。
羊ちゃんが牧草地のど真ん中にいるのだ。
なんであんなところにいるのよ!
早く小屋に戻って!
羊ちゃんを見ながら、焦って羊小屋を指差す。
「どうしたの?」
その行動が挙動不審だったせいで不審そうに見られた。
ダレルの体が当たる位置から覗き込まれたので顔が近い。
あー、もう。
これ、誰かに見られたら大変だ。
ダレルって女の子に人気だから。それに、引っ越して来た時からのお隣さんなんだもの。友好に行きたい。
だから、なんだか気まずい。
「えっと。羊の数を数えようかなって……」
「沢山いるんだから、数え切れないよ」
「そうだよね。ハハハ……」
作り笑いをしてなんとか誤魔化す。
「今年の薪割りがまだ終わってないって、この前伯父さんが言ってたよね」
「そうだったかな?薪は足りてるように思うけど」
「アーネストさんの分も?」
「確かに伯父さんの分までは足りてないかも」
「雪の季節が迫っているから今日手伝うよ」
「ありがとう。ダレルって優しいのね」
「俺はいつでも優しいよ。と言いたいけど、お礼はカップケーキでいいよ」
「えー!……わかったわ。伯父さんの薪が足りないと大変だもの」
「今日のリーザはなんだか素直で気持ち悪いな。雪でも降るのか?」
「私はいつでも素直よ」
昔みたいに話しながら進む。
しかし、それも学校が近づくに連れて口数が減ってしまった。
ダレルと馬に乗っているところを沢山の生徒に見られるからだ。
「ねえ、こんな街中の厩舎に馬をつないでいるの?」
「そうだよ」
知らなかった……。ダレルが使っている厩舎は学校のすぐ側で、乗合馬車の馬が休む厩舎だ。
そのせいで、ほぼ全ての生徒に目撃されてしまった。
「乗合馬車の会社の馬の世話なんかも引き受けてるから、僕はここの厩舎を自由に使えるんだ」
「そうなんだ……ありがとう!あっ、メリッサが歩いているから、もう行くね。今日は本当にありがとう」
そう言って振り返らずに走った。
「メリッサおはよう」
「リーザ!みんなに見せつけるように2人で登校してくるなんて!とうとう付き合ったの?」
「まさか!そんなんじゃないよ」
そう話していると、シルヴァ嬢がやってきた。
「アンタ、なんで馬に乗せてもらっているのよ!ダレルに無理言うんじゃないわよ!」
「そうよ!ダレルは優しいから、きっと困っているのを手助けしてくれたんでしょ?でも、もう近づかないでよね」
それだけを言うと、さっさと行ってしまった。
確かに放牧や遅刻しそうになった私を助けてくれたけど、でも二人乗りは辞退したのに。
私から近づかないように普段はしているわ!
その日1日は、ダレルと学校に来たのでシルヴァ嬢には睨まれる上に、数々の嫌がらせを受けた。
あーあ。運が悪い。
「ねえ、本当にダレルとは何もないの?」
メリッサが興味津々で聞いて来た。
「何もないわ。今日はちょっと送ってもらったの」
「って事は、リーザの家の方が街外れなんだからわざわざ迎えに来たって事?」
「違うの。今日は牧場の手伝いに来てくれたのよ」
「本当にそれだけ?」
メリッサは興味津々で色々と深読みしてくる。
「何もないんだから、もうその話は終わりよ」
無理矢理に話を切り上げようとした。
「わかったわ。帰りはどんな会話をしたのか、明日教えてね」
「帰りの会話?そんなのないわよ」
「あら?気が付いてないの?来る時に馬に2人で乗って来たのなら、帰りも同じ馬に2人で乗って帰らないといけないでしょ?」
その指摘に何も言い返せなかった。
帰りも一緒に帰らないといけないんだ。歩くとすごい時間がかかるから、別々には帰れない。
「ところで、あの噂って本当なの?もしも本当で、ダレルとお付き合いしたら、リーザは玉の輿候補よ!」
メリッサは興奮気味だ。
「あの噂って、『ダレルはどこかの侯爵家の隠し子』っていうやつ?確かにダレルは私と同じくらいの時に、引っ越して来たらしいけど、ダレルと牧場主のジョンさんは、普通に血のつながりがありそうよ?そうなると、ジョンさんが侯爵様って事にならない?」
「そうかしら、ダレルの面倒を見ている家来とかそんな事ない?ジョンさんって背が低くて、しかも、いかにも力仕事得意そうなムキムキな外見だけど。ダレルは背が高くて細いじゃない?それにこの田舎町に似つかわしくないくらい都会的な顔じゃない?」
「え?どこが都会的なのよ?都会の人が聞いたら大笑いするわよ。それに、何度も言うけどダレルと私は幼馴染なだけよ」
そっけない口調で反論すると、メリッサはがっかりしていた。
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