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別れ道

本日、3回目の投稿となります。

「ちょっ!リーザ、ワインをそんな風に飲んだら二日酔いになるよ?」

心配するナサニエルに私は笑顔を向ける。

ナサニエルがジェラルド商会に帰るなら、もう会えないかもしれない。

そんなのは絶対に嫌。


「私、ナサニエルと旅をしたいの」

一緒にいたいとか、可愛らしく言えればいいのに、なかなか言えない自分がもどかしい。

でも、私なりに精一杯の言葉を口にした。


「旅かぁ。リーザ、旅行は?」

「経験なしよ」

「そっか。じゃあ、行ってみたいのも無理はないかもしれないね。ジェラルド商会があるバーナンキ連邦国は凄く大きい国だよ」


そうじゃない。

話題が旅行の方に行きそうになって私はアタフタする。


「もしかして会頭に会ってお母さんの話を聞きたいの?」

「それもあるけど、違うの。なんて言っていいか。あの……その……ナサニエルがジェラルド商会に戻ってしまったら二度と会えないじゃない!」

私の言葉にナサニエルがにっこりと笑った。


「リーザ。嬉しいよ。僕は一旦、ジェラルド商会で退職の手続きを取って、リアビ商会の会頭としてスタートしよう、そして、リーザにもう一度会いに来ようと思っていたんだ」

「あっ。そっそうなの。これでお別れかと……」


「僕は、リーザが好きだから。返事を聞くためにもう一度会いに来るつもりだったよ」

その言葉を聞て、なんだか力が抜けて笑ってしまう。

そして、さっきまで心の中に渦巻いていた色々な気持ちをナサニエルに言ってしまった。


ナサニエルは何も言わずに聞いてくれた。

「リーザ。深く考えなくていいからさ、とりあえず、昨日の舞踏会を思い出して踊ってみようよ?」


「そうね。踊ってみようかな」

ワインのせいだろうか、フワフワした気持ちでなんだか、シンプルに色々な事を考えてもいいような気がして来た。


ナサニエルが立ち上がり、私の椅子をひく。

そして、手を取り立ち上がらせてくれた。


背の高いナサニエルを見上げると、目が合った。

その整った顔が、優しく微笑む。

そして、跪いて私を見上げた。


「踊って頂けますか?」

私は含み笑いでフフフと笑う。

「よろしくてよ」


月明かりの中で私達はお辞儀をすると、鼻歌を歌いながら踊り出した。

白いナイトドレスが月明かりで輝いて見える。


楽しくて楽しくて、上機嫌でステップを踏む。

酔っ払った私が転ばないように、ナサニエルは背中を支えてくれるので、その腕に体を預けた。


「楽しい。このまま時が止まればいいのに」

小さく呟いた私の言葉にナサニエルは「そうだね」と返してくれた。


「深く考えなくていいから。僕はリーザが好きだから。それを知っててくれればそれでいいから」

そして、体を引き寄せられた。

「僕の事、忘れないでいてほしい。僕は、リアビ商会に戻ってきたら、必ずリーザに会いにくるから」

そう言うと、楽しそうにまたステップを踏む。


「……忘れない」

急に不安が押し寄せてきた。

こう言いっているけれど、ナサニエルはモテる。

アーネスト伯父さんの雑貨店にはナサニエル目当ての女の子が押し寄せてくるし、舞踏会でもダンスを希望するご令嬢が沢山いた。


きっと私の事なんてすぐに忘れてしまうだろう。


そんな事を考えたら、足が止まった。

「お酒を飲んで踊るとフラフラするわね。今日はもう寝るわ。おやすみなさい。また明日ね」


無い勇気を振り絞って、ナサニエルにハグをする。

そして、頬に軽いキスをすると、急いで室内に戻り、階段を駆け上がった。


素直な気持ちになりたい。

自分に自信を持って、ナサニエルに気持ちを伝えたい。

そう思って、あの場を離れた。




ノックの音で目が覚めた。

いつの間に眠っていたんだろう。

昨日は、ワインを飲んでナサニエルと鼻歌を歌いながら踊った事は覚えている。


ハグとキスなんて、我ながら大胆な事もした。

酔いが回っていたせいね。

恥ずかしい……。


メイドが着替えを手伝ってくれる。

「あの。私のドレスは?」

見た事のない服を着せられたのでびっくりして質問をした。


「あの素敵なドレスはパーティー用ですから、ご自宅にお持ちになるお荷物として準備してあります」

毛先を綺麗にカールして、可愛らしくメイクまでしてくれながら、答えてくれた。


鏡の中の自分を見て思う。

お団子頭にノーメイクでは、誰にも興味なんかもってもらえるはずないのに、なんで頑なにそれを貫いていたんだろう。


もしかしたらそれが、ヘイリーへの無意識の対抗心だったのかもしれない。

ダレルに振り向いて欲しくて、ダレルと付き合っていると噂があったヘイリーと真逆の格好をしたいなのかもしれない。


あーあ。

ちっちゃい事に囚われていたな。

私は私なのに。

こうなってみると、本当にどうでもいいと感じてくる。

昨日、全部吐き出したせいで私の中で区切りがついているのかも。


「ミランダ王女殿下がサロンでお待ちです」

メイドは準備を終えると、サロンまで案内してくれた。


「ミランダおはよう」

「リーザ。可愛らしいですわ」

「そお?私も少しはおしゃれに気を使ってみようかなと思って。それより、なんでまた髪色をブラウンに戻したの?格好もなんだかいつもと違うわ」


ミランダはブラウンの髪に、控えめなメイクをしている。

そして、服も控えめなドレスだ。


「リーザ。ドリーナ嬢が、ハイヤリートに来たのは、私をフランカ王国に連れて帰るためだったのです。

だから、私はそろそろドリーナ嬢と共にフランカ王国に向けて出発します。今日の私は、ドリーナ嬢の小間使いですわ」

「もう行っちゃうの?」


「ええ。フランカ王国の王城に着くまでは、安全を考慮して変装していきますわ」

「そっか。途中で襲われたら困るものね」


「リーザと過ごした日々はわたくしの一生の思い出です。これから、忙しくなりますし、安全を考慮して連絡は控えますけど、落ち着いたら必ず手紙を送りますわ」

ミランダが本当に行ってしまうんだ……。


「ナサニエルにも、そう伝えました。また3人で会える日を心待ちに頑張りますわ」

「私も楽しみにしている。って、ナサニエルは?」


「早朝に出発されました。なんでも、バーナンキ連邦国へ向けて出発する長距離馬車が早朝6時発らしくて。

わたくしの婚約者であるレオナルド殿下が、バーナンキ連邦国まで護衛をつけて送ると伝えましたが、頑なに拒否されました」


「拒否?」

「ええ。『一人で頑張れるところを見せないと認めてもらえない』とブツブツ言っておりましたわ」

ミランダは何かを思い出すように口元を押さえて笑う。


「きっと、お強い方に認めてもらいたいのでしょう」

そう言いながら、私をじっとみる。

「え?私?」


「ナサニエルが認めてほしいと思っている相手は、リーザお一人ですわ。

そうそう、そのナサニエルから預かり物をしておりますの。なんでも、昨日渡せなかったとかで」

ミランダは、テーブルの上に小さな箱を置いて、こちらを見た。


「開けてみてくださいませんこと?」

そう言われて、箱を開けると、そこにはラインストーンのついたヘアピンが入っていた。


「指輪じゃありませんのね」

ミランダががっかりした声を出す。

「付き合ってもいない相手から指輪をもらったら重たいじゃない!」


真っ赤になってこたえる私を見て、ミランダは笑った。

「では、そろそろ行きますわ。リーザ、お元気で」

そう言って、ミランダは私にカーテシーをした。


王女様が、平民にカーテシーをするなんてあり得ない事だ。

驚いている私にミランダはイタズラっぽく笑った。


「この国に来て、最初の蚤の市で買った人形と、カップですけど、リーザにプレゼントいたしますわ」

「え?いっいらないわよ!」


ガラクタをプレゼントだなんてどうかしている!

「そう言わずに。もしも何かあったらアンティークショップに行ってみると理由がわかりますわ」

そう言い残して、部屋を出て行った。


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