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振り返る

本日二度目の投稿となります

私達はハイヤリートに戻らずに、教会の側にある王家所有の荘園に宿泊する事になった。


皇太子殿下が帰られた後、私達は少しだけお祝いのワインを頂いた。

ワインは16歳から飲んでもいい事になっているが、ミランダはまだその年齢には達していないので一人だけジュースを飲んでいた。


ミランダは侍女や執事に、「私が不在なのによく頑張ってくださいましたね」と労いの言葉をかけている。

その様子は感動的だった。

信頼関係のある人が側にいるって大切な事なんだ。

きっと、母さんはタヒマイ公国が亡くなるにあたってかなり辛い思いをしただろう。でも、執事であるアーネスト伯父さんが側にいたから頑張れたのかもしれない。


ミランダに私の母さんの話をすると、興味を持って聞いてくれた。

「ザットン帝国って今も昔もやる事が最低ですわ」

タヒマイ公国がバーナンキ連邦国に併合されるきっかけを作った話は、何かを考えさせられたようだった。



レオナルド王子殿下とミランダは仲睦まじく、楽しそうに振る舞っていた。

王女様としてのミランダを見ていると、今日のチャリティーDAYのアフターパーティーの前まで一緒に過ごしていた事が嘘のようだ。

こんなに王族としてのオーラがあるのに、レモネードを作るために一生懸命レモンを絞っていたなんて信じられない! 


目まぐるしい1日だった。

何もかもが一度に押し寄せた。


今日は流石にミランダとは別の部屋だ。

アフターパーティー用に着ていたドレスを脱ぎ、メイクを落とす。

そして、ナイトドレスに着替えると、窓辺に立った。

空を見上げると、雲一つないせいで星が綺麗だ。


部屋に置いてあるワインを少しだけグラスに注いで、バルコニーに出てみる。

風が気持ちいい。

星を眺めていると、心の隅っこに追いやっていた事実が頭をもたげる。


チャリティーDAYで、ダレルの本心を知ってしまった。

認めたくはないけど、私はダレルの事を気にしていた。

……好きだった。

牧場が隣同士で、仲がよかったし、事あるごとに思わせぶりな態度を取られていた。

でも、ダレルは私の気持ちに気がついていて、それを利用していたのだ。

許せないというよりも、馬鹿馬鹿しくなってしまった。


何故私は、いつかダレルがこちらを見てくれると期待していたのだろう?

何故、何も見抜けなかったのだろう?

何故、どうして。

……考えたってわからない。


最後のオークションでは、最高額でドリーナに落札された私を冷たくあしらった。

理由は、自分が一番じゃなかったからだ。

去年の落札額の最高金額は「ダレルとのデート券」だった。

今年は私の「護身術を教える券」だ。

それが気に食わない上に、私との約束を破って、ヘイリーとパーティーに行こうとしていた。

まぁ、その時既にヘイリーは人身売買の件で捕まっていたが。


こうやって思い出しても、馬鹿みたい。


思い出す……かぁ。

昨日の舞踏会でのナサニエルは本当に素敵だった。

あの立ち姿も、スマートなエスコートも、ダンスも全て。

ミランダと三人で、事件解決に動いた時も、何もかも。

ずっとナサニエルが側にいてくれた。


そのナサニエルに好きと言われたけど、私はまだ返事をしていない。


もしも、ダレルとヘイリーの話を盗み聞きしていなかったら私はまだダレルを待っていたのかもしれない。

そんな、曖昧で不誠実な自分が信じられない。

ぐるぐると渦巻く気持ちを飲み込むように、ワインを飲み干した。

それからナサニエルとのダンスを思い出して、鼻歌を歌いながら、一人で踊ってみた。


ナサニエルにもやらなければならない事があるんだから、いつまでもアーネスト伯父さんの雑貨店にいるわけではない。

それはわかっている。

わかっているけど……どうしたらいいかわからない。


「楽しそうだね」

バルコニーの下からそんな声がしてダンスの足を止める。

声の主はナサニエルだ。


私は咳払いをして、つとめて明るい声を出す。

「ナサニエルどうしたの?」

「夜風にあたりたくて、ここにワインを持って来てもらったんだ」

ナサニエルの方を見ると、庭にテーブルセットが置かれており、そこには小さな灯りに照らされたワインボトルが見えた。


「私もそっちに行っていいかしら?」

「いいよ」

ナサニエルの返事を聞いて、カーディガンを羽織って一階に行く。

出入り口には侍従が、立っており、「足元にお気をつけください」と声をかけてくれた。


「リーザも眠れないの?」

ナサニエルの声に私はフフフと笑う。

「全く眠れないわ。今日は色々な事があり過ぎたの」

「そうだね」

そこから少しだけ無言になってしまった。


「明日、ジェラルド商会に戻ろうと思うんだ」

先に口を開いたのはナサニエルだった。

私は何も返事ができない。

「リーザのお母さんが他界していた事を会頭に伝えてくるよ」

夜風にふかれながらワインを飲むその横顔をじっとみた。

ナサニエルがいなくなる…?


「私も行くわ」

思わず口をついて出た。

自分の言葉に自分で驚く。

もちろん、ナサニエルも驚いていた。

「え?どうして?」

「だって……ほら。ナサニエル、また盗賊に襲われるかもしれないし、一人にしておいたら、どこかでまた羊に擬態しているかもしれないでしょ?」


私の言葉に、ナサニエルは力なく笑う。

「そんなに心配なら、護衛を雇うよ。僕は、リーザの目には頼りなく映るらしい。意外と頼れる男だと思うんだけどな」


まずいまずいまずい。

こんな空気にしたかった訳じゃない。

私は、勢いよくワインを飲んだ。



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