馬車に乗る
ドアを開けて驚く。
「見た目は、普通の辻馬車なのに、室内はすごい豪華!何これ?」
馬車に乗り、恐る恐る座った。
床は絨毯張りで、座面はフカフカだ!
普通の馬車は、木製の壁に申し訳程度にクッション材が貼り付けてある。
しかし、この馬車はソファーのように背もたれがあるので長時間乗っても背中が痛くならない作りだ。
しかも、対面式に座席があるわけではなく、進行方向に背を向けるようにして座る椅子はない。
二人乗り用だ。
驚く事はそれだけではなかった。
なんと、可動式のテーブルと、シャンパンやチーズなどが備え付けてあるのだ。
声の出ない私を見て、アーネスト伯父さんは、にっこり笑う。
「少し遠くまで行きますから、室内の物はセルフサービスだそうですよ」
そう言ってドアを閉めた。
馬車が進み出す。
街中を進んでいるのか、沢山の馬の蹄の音が聞こえる。
「これは最高級の馬車だよ!プロテクトプロの馬車かな?」
ナサニエルはそう言って、シャンパンを開け、二人で飲む。
「見てよ!ピクニックボックスがある」
中には、キッシュや鴨のローストなど、豪華な料理が入っていた。
私達はそれを食べながら、色々な話をした。
ナサニエルの普段の仕事や、学校の事、牧場の事、そしてダレルの事。
「今まで、本当のダレルを見てなかったのよ。お願いされれば、なんでもしたの。でも、そもそも私を女だと思っていなかったし、それに何かと都合が良かったのね」
シャンパンを飲みながら、本心をぶちまける。
「ダレルの事、好きだったのよ」
小さな声で呟くと、ナサニエルはじっとこちらを見た。
「今も?」
真剣な眼差しでそう質問されたので、私はフフフと笑った。
「今は違うわ。思わせぶりな態度で、曖昧に接してきて。しかも、女だと思っていないだなんて!」
ムカついてきて、勢いよくシャンパンを飲む。
「ダレルはバカだな。リーザは、こんなに美人なのに」
ナサニエルはそう言って、私の頭を抱き寄せると、額にキスを落とした。
「恥ずかしいじゃない!ナサニエルも私の事バカな女だと思ってるんでしょ?」
「違うよ。あまりにもリーザが可愛すぎたから」
「褒めても何も出ないわよ」
「何も出なくてもいいよ。リーザさえいれば」
「うまいこと言うわね」
「そんなつもりじゃないよ。リーザは人気があるし、あまり時間もないし」
「時間かぁ。もう一時間くらい馬車に乗ってるわね。きっともう着くわよね?」
私の返事にナサニエルは何も答えなかった。
それから10分くらいで馬車が停まった。
ドアが開き、辺りを確認しながら降りる。
驚いた事に、沢山の蹄の音は、馬車を警護する騎士団の馬の蹄の音だったのだ。
あまり見た事がない光景に驚いて、前を見る。
すると、今私達が立っているのは、この地方最大のプラントン教会だった。
暗闇の中にそびえ立つ教会は厳粛で息をのむ。
そんな私をよそに、後続の馬車に乗っていたアーネスト伯父さんが私達の前に来た。
いつもとは違い、かしこまった服装だ。
「急ぎましょう」
そう言って、両開きの大きな扉を開けた。
こちらの教会は、敷地内に修道院もあるので、中が入り組んでいる。
にもかかわらず、アーネスト伯父さんは迷う事なく、いくつもの部屋の前を通り過ぎて、階段を登ると、一つの部屋の前に立った。
そこで少し咳払いをしてから、ノックをする。
「お待ちしておりました。こちらでございます」
扉を開けてくれたのは、聖職者の方ではなく、執事だった。
まさかの出来事に驚くが、アーネスト伯父さんは動じない。
伯父さんの後に続いて中に入り、驚く。
教会の中とは思えないくらい豪奢な部屋なのだ。
まるで貴族のサロンだ。きっと、身分の高い人が訪ねてきた時に使用するのであろう。
そこに、ドリーナ嬢がいた。
その後ろには護衛である鉄仮面の騎士二人が待機している。
「さっきはありがとう!」
そう言って、いきなりドリーナにハグされた。
「盗まれそうになった宝石の中には、大切な人からのプレゼントもあったのよ」
ぎゅっと抱きしめら続けるので、どうしたらいいか分からずに苦笑いをする。
「ドリーナ様?こちらのお嬢様が困っておりますよ?まず自己紹介を致してください」
執事の冷静な声で、ドリーナは「まあ!」と言いながら、やっと離れてくれた。




