プロテクトプロからのご褒美
「ねえ、ドリーナのライブが始まるわ」
誰かが、舞台袖にいた全員に声をかけた。
「うそ!急がなきゃ」
そんな声が聞こえて、まるで雪崩のように、舞台の前に押し出された。
その直後に始まったドリーナ嬢の公演は最高だった。
最後には花火も上がり、会場の熱気は最高潮に達した。
そのまま、沢山の人がアフターパーティーの会場に向かった。
もう、今日はパーティーに行かない。
そう思っていた私を、ミランダとナサニエルは待っていてくれた。
3人でアーネスト伯父さんの雑貨店に向かった。
ミランダと2人、部屋に入ると、やっと落ち着いてきて、いつもの茶色のワンピースに着替えてから、ベッドに倒れ込んだ。
「なんだか、長い2日間だったわ」
私の言葉にミランダも同意してくれた。
「もうこのまま寝てしまいたい!」
「わたくしもよ」
2人でゴロゴロしていると、
「2人とも、地下のレッスンルームに来てください」
アーネスト伯父さんに呼ばれて地下に向かう。
今から何をさせるつもりなのかしら?
もう今日は寝たいというのに……。
ドアの前に、何故かアーネスト伯父さんが立っていた。
「この中にあるのは、プロテクトプロからの報酬ですよ。2人とも中に入ってください」
びっくりしてミランダと手を握り合って、歓声を上げながら、ぴょんぴょん跳んだ。
「じゃあ、開けるわよ」
そう言ってドアを開けると、地下室には10人くらいの女性がいた。
私は訳が分からずに首を傾げる。
「まあ!コレット!」
ミランダは1人の女性に駆け寄っていき、抱きついた。
「姫様!ご無事で何よりでございます」
「皆の事を案じておりましたが、顔を見て安堵いたしましたわ」
ミランダの言葉を聞いて、この部屋にいた女性達が涙ぐんだ。
「祖国に残してきた、わたくしの侍女達ですのよ」
ミランダは、嬉しそうに私に教えてくれた。
今まで見たことがないくらいに、警戒心が全くない。
「姫様にお伺いしたい事は沢山ございますが、今はお二人とも、何も言わずにこちらにお掛けください」
コレットから言われた通りに座る。
すると、部屋にいた侍女達に取り囲まれて、5分もしないうちに、新たにメイクをされ、髪を結われ、ドレスに着替えさせられた。
鏡の前に立って驚く。
髪は編み込まれ、頭には色とりどりの薔薇の生花でできた髪飾りがつけられており、クリーム色のスクウェアネックのドレスを着せられていた。
座っていただけなのに!
「魔法みたい!」
私の言葉にミランダは笑う。
「いつもの事ですわ」
ミランダの髪は、ダークブラウンから、絹のようなクリーム色のキラキラとした髪色に戻っていた。
でも、何故、着替えさせられたかわからない。
今から、プロテクトプロにでも連れて行かれるのかしら?
1人の侍女が、支度を終えた私達を扉の前まで案内してくれた。
すると、2名の男性が入ってきた。
1人はナサニエルだった。
貴族に変装している時とは違い、ふわっと髪をセットしてパーティー用の服を着たナサニエルもまた素敵だ。
何より、すごく色気がある。
見た事のない1人の男性が、ミランダの前に一歩でた。
身長はナサニエルと同じくらいだが、年齢は私くらい。
髪は、プラチナブロンドで、瞳の色はアクアマリンのように淡い。そして何よりオーラが半端ない。
「久しぶりだね、ミランダ」
「レオ!何故、こちらに?」
「君と、パーティーに行きたくて」
「髪色を戻された時、何かあるのかと思いましたら、これがその結果ですのね。レオ、そのオーラ、隠せてませんわ」
「そうかい?ワイヤットの服を借りてきたのに?」
「だから、サイズがあっておりませんのね」
ミランダは楽しそうに笑った。
「今日は一緒にパーティーに参加してくれますか?お姫様」
そう言って、レオと呼ばれた男性はミランダの手を取り、指先にキスをした。
「もちろんですわ。レオ、ドリーナ嬢の護衛として、あのワインセラーにいましたわね?鉄仮面をつけていても、すぐにわかりますわ」
「ミランダには敵わないな。そうだよ。君は守る必要がないくらいに、短剣であの泥棒達を脅していたね」
「あら!脅すだなんて。わたくしは、交渉していただけですわ」
2人の様子を見ていると、旧知の中だということがよくわかる。
ミランダは、平静を装っているが嬉しそうだ。
すると、ナサニエルが私の前に一歩でてきた。
「リーザ綺麗だよ」
そう言って、私の手を取ると、跪いて私の目を見た。
「是非、僕とパーティーに行ってくれませんか?長い2日間の最後を飾るイベントとして」
「もちろんよ!」
私の返事を聞いて、嬉しそうに立ち上がった。
「リーザは、ダレルと行く約束をしているのではなくて?」
ミランダが意地悪な顔をして私に言う。
「断ったわよ!もうダレルの話はしないで!!腹が立つから」
そんな私を見て、ミランダとナサニエルは笑った。
「ダレルのような男にリーザは勿体無いと思っておりましたのよ。目が覚めてくれてよかったですわ」
ミランダは本気でそう思っていたようだ。
「お二人は先に会場に向かってください。わたくしはレオとちょっと話がありますので、後から向かいますわ」
「わかったわ。先に行ってるわ」
ナサニエルと馬車に乗ると会場へと向かう。




