怪しげな一団
本日2度目の投稿です
その時、ドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ!」
そう言ってドアの方を見ると、この街では見かけない人が店内を見回していた。
格好を見る限り行商人のようだ。でも、薄着をしている。
この街が寒い事を知らなくて来たのかもしれない。
「何かお探しですか?お土産物もありますよ」
「買い物客じゃないんだよ。行商人の一団として旅をしているんだがね。この街の手前で追い剥ぎに襲われてしまって」
「それは大変ね!騎士団に知らせなきゃ!」
「襲われた時、方々に逃げて被害はないんだが、うちの娘が見つからなくてね。娘はちょっと心を病んでいるんだ」
行商人はそう言いながら窓から外を眺めた。
娘が行方不明……それって羊ちゃんのことかしら?
なんだか嫌な汗が出て来た。
それを誤魔化すように作り笑いを浮かべる。
「まあ!それは大変ね。いなくなったのはいつなの?お嬢さんってどんなひと?」
「背は君と同じくらいか、少し小さい。髪は金髪。襲われたのは昨日で、走って逃げた時、靴が脱げたようでね。今は裸足なんだ」
昨日なら羊ちゃんではないわ。
だって数日前からウチにいるもの。
「可哀想に。夜は冷えるから、早く見つかるといいわね」
「騎士団にも捜索をお願いしてあるが、見つけたら知らせて欲しい。もしも見つけたら、うちの娘は夢見がちだから、娘のいう事に相槌をうってやってくれ。そこの宿にみんなで泊まっているから、何かあったら知らせて欲しい」
愛想笑いもせずに、行商人は雑貨屋から出て行った。
お店の窓から外を見ていると、その言葉通り側の宿屋へと入って行った。
行商人の一団は大所帯のようで、沢山の男性が宿に入っていく。
「女性の少ない行商人の一団て珍しいわ。普通は家族で行商をするのに」
思わず独り言を呟いた。
「リーザ。今日は急遽牧場に泊まる事にしましょう。うちのオーブンの調子が悪くて。このままでは冷たいサラダしか作れません」
伯父さんは、お店の前の『開店中』の札を『閉店』に変えて、店の鍵を閉めた。
「さあ、裏口から出ましょう」
時計を見ると、まだ4時。閉店までは2時間以上ある。
「閉店は6時半だよ?早くない?」
「牧場のオーブンを温めて料理をしないといけませんから、今日は早く閉店したんですよ」
「でも…」
私はなんとなく躊躇いをみせた。
「今、宿屋に入っていく連中を見ましたか?」
「ええ」
そう答えて窓の外をもう一度見ようとすると、伯父さんは見てはいけないと、目で合図をして来た。
「おかしな所なんてなかったわ。ただの行商人の一団よ」
「本当にそう思いました?では、何故、あの商人の服は汚れひとつないんでしょうか?まるで今日初めて袖を通したようです。他の連中も同様です」
小さな声で疑問点を話されたが、私にはそれが何故おかしいのかわからない。
「この季節にしては薄着です。しかも、足元の靴は、ブーツを履いていました。あれは馬車に乗るための靴ではなく、馬に跨る時の靴です。商人を装っていますが、あれは絶対に違います。あんな輩が沢山街に来たとなると、無人の牧場があれば勝手に入って来ますよ」
「だから急いで戻るの?」
「ここは街中の商店ですから、閉店しても勝手に入られることはありませが、牧場は街外れですからね。急ぎましょう」
裏口から出ると、伯父さんの小さな荷馬車に2人で乗って牧場に向かった。
隣人のジョンさんの牧場に寄り、今日はアーネスト伯父さんと帰ってきた事を話して、自分で羊の世話をすると伝えた。
「日中、変な連中が来たよ。女の子を探してるってさ。リーザ達の牧場の方に行こうとしたから、『そこはうちの牧童の家だからここから先は私有地で入るな』と伝えといたよ。なんだか胡散臭くてな」
「ありがとうございます、ジョン。貴方は相変わらず気がききますね。今日は牧場の方に泊まる事にしたんです」
伯父さんの言葉に、ジョンさんはうんうんと頷いた。
「それがいい。でも、2人では危険だから、1人牧童を寄越そうか?あいつらは危険かもしれない」
「大丈夫ですよ。今日は一晩中、灯りを絶やしませんから。ご心配ありがとうございます」
伯父さんは深々と礼をした。
その姿は本当に洗練されている。こんな田舎街になんでいるのかしらって思う瞬間だった。
「わかった。ワシらも不審者がいないか気をつけるから、君達も気をつけた方がいい。明日はウチの牧童がリーザを学校まで送るよ。あの連中は危険かもしれんからな」
ジョンさんとアーネスト伯父さんは同じ年齢くらいでチェス仲間なので、2人は気が合うらしい。
2人は次のチェスの約束をして別れた。
ジョンさんの牧場はうちとは違い沢山の家畜がいる。
その大きな牧場を抜けて更に奥だ。冬支度を始めるこの時期は陽が落ちるのが早いから、家に着いた頃には陽が傾き出していた。
伯父さんは合鍵でドアを開け、ダイニングの灯りをつける。
その様子を見ながら牧場に向かおうとしたが伯父さんに止められた。
「あの宿屋にいた連中がいたら危ないですよ。今日は外に出てはいけません」
「わかりました」
羊ちゃんの様子が気になって見に行きたかったけど我慢する。きっと羊小屋にいれば安心だ。
「リーザ。彼らが探しているのは女性ですから、貴女に危害が及んではいけません。ですから、今日は、灯りをつけた居間で2人で過ごしましょう」
「伯父さん、大袈裟じゃない?」
「いえ。大袈裟ではありません。ジョンも怪しんでいましたでしょう?これは長年の勘ですよ」
「わかったわ」
そう返事をして、部屋から毛布を持ってくる。そしてソファーをベッド代わりに眠る事にした。
いつ、どんな所でも眠れるようにと、年に数回、いろいろな環境で眠る訓練をしている。牧場っていつ何があるかわからない生き物相手の仕事だからと父さんがいうからだ。
その訓練の成果だろうか?あっという間に眠りについた。