本館に進む
一階に降りる階段の方に行くと、警備のための貴族の護衛が立っていて下に行けない。
「どうする?」
私達は階段に近い教室に入って相談をする事にした。
ドアを開けると、そこには食器類やお菓子などが所狭しと置かれている。
「ここって?」
「貴族のお世話をするメイドな侍従達の荷物置き場ですわ。沢山の食べ物や娯楽品などを持ち込んでいて、指示があった時ここに取りに来るのですわ」
確かに、高価そうな箱が沢山積まれていた。
「という事は、どこかに侍従達の予備の服がある筈だ。もしもお仕着せを汚してしまうと、それ以上仕事ができないだろ?だから、予備の服を必ず持ち込んでいる筈だ」
そう言ってナサニエルは、積み上げられた荷物の間を縫って歩く。
うず高く積み上げられた荷物によって、広い教室は迷路のようになっていた。
「あった!」
ナサニエルの声の方に行くと、折り畳まれたお仕着せなどがあった。
少し遅れてミランダもこちらに来たが、手にはドレスを持っている。
「これ、物陰に隠してありましたわ」
差し出されたドレスと、紳士用の服を見て、私達は顔を見合わせた。
「さっきの二人組が着ていた服だ」
「多分、侍女や侍従に変装したんですわ。このドレスの匂い、知っていますわ」
「本当に?」
私もドレスの匂いを嗅いでみるがわからない。
「これ、誰の匂い?」
そう聞くと、ミランダはにっこり笑った。
「ジュリーですわ」
「ジュリー?ありえない」
「あら、わたくしを疑いますの?」
「確かに、言われてみたら、あの後ろ姿はジュリーとオーランドだわ。二人はここで何をしようとしてるのかしら?」
「とりあえず、今できることは、彼らと同じ変装をして、追いかける事だよ」
ナサニエルの言葉で予備のお仕着せを探して着替える。
数分後。
「ミランダ嬢は高貴さが溢れていて無理があるかもしれないけど、リーザは似合っているよ」
「あら、ひょろひょろなナサニエルに護衛の制服は似合ってないわねー」
そう言いながら、変装を完了させた。
「どうやって下に行く?下には階段を封鎖している警備員が立っているよ」
その言葉を聞いて私はニヤッと笑う。
そして、この教室のカーテンを開けた。
そこには、いつも鼠取り用の猫が日向ぼっこをしているのだ。
「猫ちゃんみーっけ」
私は抱き上げると、不機嫌そうな猫に階段を降りるようにお尻をポンポンする。
「一階のネズミを捕まえてきてね」
猫は仕方ないといった様子で階段を降りて行った。
耳を澄ましていると、「猫だ。どこから来たんだ?捕まえろ」
と聞こえた。
私達はお互いに頷くと、急いで階段を降りた。
なんとか一階に潜入成功。
そう思ったのも束の間。
「おい、おまえ!」
野太い声で呼び止められた。
執事の格好をしたガタイのいい男性だ。
潜入失敗か?
冷や汗がでる。
やばい!
覚悟した時だった。
「護衛がこんなところで、アブラ売ってていいのか?早くドリーナ嬢の控室の前に行け」
正体がバレたわけじゃなかったのね。
よかったー。
「ですが、ドリーナ嬢が喉を潤すモノをとご希望で」
ナサニエルが機転をきかせて言い訳をする。
「そうか。わかった。早く取ってこい」
「了解しました」
なんとか怖そうな執事から離れられた。
急いでここから離れないと。
そう思って廊下を進む。
この先は、集会場になっている。
普段は生徒を集めて集会などを開く時に利用している。
急いでドアを開けて、私達は驚いて動きが止まった。
目の前では、私とミランダと同じお仕着せを着た女性達は、忙しそうにお茶やお菓子を運んでいる。
何?昨日まで見ていたボロボロの集会場とは大違い。
同じ空間だとは思えない。
驚いて天を仰ぐと、ボロボロのライトがシャンデリアに変わっていた。
貴族ってすごい。
そこはいつもの集会場とは思えなかった。
床には豪華な絨毯が敷かれており、壁には立派なタペストリーが飾られていた。
そして、広い空間には、フカフカなソファーと猫脚のテーブルが数セット置かれている。
そして、そのソファーには、着飾った貴族達が少人数のグループを作り、談笑していたのだ。
奥の方にはダーク様の姿が見えるが、今は数人の男性と談笑しているだけだ。
「あのトーチウッド伯爵の周りの人、昨日、僕が見た人です」
ナサニエルの言葉を聞いて、周りの3人の様子を目に焼き付ける。
あの人達がここにいたからと言って、人身売買が中止されるわけではないはずだ。
「人身売買を止める方法を探しましょう」
そう呟いて踵を返す。
何をどうしていいのか検討がつかない。
もしかしたらオーランドとジュリーの狙いも同じなのかもしれないし。
希望的観測を胸に、次の教室のドアを開けた。
すると、そこには、沢山の衣装や化粧品が置かれていた。
やはり、荷物が多すぎて迷路のようになっている。
「多分、ドリーナ嬢の控室の一つ。衣装部屋ですわね」
「この箱は?」
「帽子が入ってありますわ」
「じゃあこれは?」
「ハイヒールが入っておりますわ」
どれも箱だけでいい値段がしそう。
いろいろなモノを眺めながら先へと進む。
すると、奥から物音がした。
私達は足音を立てずに進むと、そこにいたのは侍従と侍女の格好をしたオーランドとジュリーだった。
しかし、二人だとは思うが雰囲気が違う。
そして、あろう事か、ドリーナの宝石箱を漁っていたのだ。
ジュエリーケースを開けては、腰に下げた鞄に入れているのが見える。
「あれは先日うちの商会から買ったブレスレット!投げ捨てた箱に商会のマークが……あんな乱暴に扱わなくても……」
ナサニエルは目の前の状況を見て、プチパニックのようだ。




