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アフターパーティーには行かない!

酷すぎる。

ダレルは私の気持ちに気がついていたんだ。

でも、不思議と涙は出ない。

悲しみよりも、不誠実なダレルの本性に怒りを覚えた。

薄々わかっていた。ダレルが私に対して、全く興味を持っていない事を。

でも、『好きじゃない』って言われるか、態度で示されるまでは気が付かないフリをしていた。


この怒りを抑えるために、思わず売り物のレモネードを飲む。

もう、アフターパーティーなんて行かない。

今日は家で過ごそう。


怒りを抑えて歩いていると、本館の校内立ち入り禁止の立て看板がかかっているのが目に入った。

入り口には警備の人が立っている。

不思議に思って話しかけてみた。

「今日は学校内に入れないんですか?」

「ああ。本館内は来賓用の控室だよ。沢山の荷物が運び込まれたよ」

「そうなんだ。おじさん、ありがとう」


沢山の貴族に加えて、ドリーナ嬢も来るからだろう。

確かに、女性用と思われる沢山の大きなケースが運び込まれた。

きっとメイク道具や衣装などね。

その他にも、高位貴族が使うであろう家具を乗せた荷馬車がどんどんと押し寄せてきている。

そちらは、きっと貴族達の休憩時場所として利用するんだろう。

私達の作った物なんて、食べないでしょうからね。


そう思いながらブースに戻ってきて、ミランダを見た。

貴族がたくさん来る可能性があるから、変装のため、今日は男装しているが、高貴な雰囲気がどことなく漂っている。

「ミランダ、じゃなかった。若君、レモンをもうちょっと絞って」

メリッサに言われて、一生懸命にレモンを絞る。

ここでは一国の王女様がレモネードを一生懸命作っている。

ミランダより身分の低い貴族達が豪奢な椅子に座って優雅にお茶を飲んでいるのに、隣国の王女様は平民相手に一生懸命にレモネードを作っている。

……男装で。


今日は、仮装をするとミランダが言ったのをみんな面白がっている。

ブローチを作りに来た女の子達も、ミランダを「若君」と呼んでいる。

見た目を変える上に、名前を呼ばせないなんて、いい作戦だわ。

本当なら、ミランダはこんな苦労をしなくても済むのに。


「若君と呼ぶのを辞めて、王子様にしておく?」

私の言葉にメリッサが笑う。

「いいわね!レモネード王子と、その侍女」

と言って、カーテシーをしてみせた。

「何?その変なお辞儀!」

私の言葉にメリッサは頬を膨らませる。

「貴族のカーテシーを見たことがないんだから仕方ないじゃない?」

そんな私達のやりとりを見て、ミランダが笑う。


すると、そのタイミングでナサニエルが追加のレモンと蜂蜜を持ってやってきた。

こちらも変装のため、大きな農夫の麦わら帽子と、農作業用のヨレヨレの服を着て、腰には剪定ハサミを下げている。

きっと、どこかで尻餅をついたのだろう。

泥だらけだ。

「いつもの格好の方が客引きになっていいのに」

メリッサの言葉にナサニエルはにっこり笑う。

「今日は、カールさんの畑のお手伝いがあるので仕方ないのですよ」

ナサニエルは顔にも泥がついていて、シュッとしたいつもの様子とは真逆で面白いので、笑ってしまう。

「リーザ、笑ってはダメですよ。私は仕事中です」

「農作業が苦手なの?」

「苦手かどうかはわかりませんよ。今日、初めて行いますからね」

その言葉を聞いて、みんなで笑った。


なんだかさっき腹を立てていたのがバカらしくなってきた。

ダレルの事なんて考えないことにしよう。

「怪しい馬車を見た?」

メリッサに聞こえないようにナサニエルに聞く。

「まだ何も見つけてませんね。そちらも警戒してくださいね。僕は今から、リディアさんのお茶に付き合う予定なんです」

「リディアばあちゃんの家って、学校が見渡せるあのアパートの4階でしょ?監視にはいい位置ね」

リディアばあちゃんは、この街の生き字引と言われるくらい街の歴史を知っている、人のいいばあちゃんだ。

しかも。趣味は伝書鳩!

私にコソコソと耳打ちした後、帰って行った。


「ダレルとアフターパーティーに行く予定の人が、他の男性とコソコソ話?」

メリッサがニヤニヤしているので、

「今日のドリーナの公演を聴きに来た人達がもう沢山いたけど、イケメンだらけだったわ〜」

と嘘をつく。

「本当に??私、見に行って来る!」

そう言って、メリッサは入り口方面へ走って行ったが、すぐに戻ってきた。

「荷物を運んでいる汗臭そうなオジサンばかりだったじゃない!」

「騙される方が悪いのよ」

「私の乙女心を理解しないとは」

そうやって掛け合いをしているのをミランダは楽しそうに眺めていた。

「真面目に頑張りましょ?」

ブローチ作りの方にいるアンナに言われて私達はおとなしくなり、またレモネード作りに戻る。


お昼頃にはもう、学校の敷地内には沢山の人がいた。

レモネードを売り歩いていると、人の熱気と、今日は気温が高いせいなのか、飛ぶように売れる。

お昼が近づいた頃には、4頭の馬が引く豪華な馬車がやってきた。

それに続いて、何台もの馬車が続々と到着した。


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