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冷静になるように努力しなきゃ

先ほどから見かける怪しい人物は、もしかしたら、明日サプライズで来るドリーナ嬢のための警備なのかもしれない。

国王陛下の前で歌うくらい有名な歌姫だもの。

こんな田舎町でも厳重な警備が必要だと思う。

あの怪しい宿屋にいる一団もいるのだし。


いくらサプライズとはいえ、下調べもなく来るなんてことはないはず。

そう考えるのが自然よね。


そんな事を考えながらブースに戻ると、アンナとハンナが、ドリーナの公演の事を興奮しながら説明していた。

「会場にはますます人が集まるという事ですわね。困りましたわ」ミランダは小さく呟く。

そんなミランダに追い打ちをかけることになるのかもしれないけど、今見てきた事を話した。

ミランダはちょっと困った顔をしていたが、「目立たないように気をつけますわ」と言った。

「今日はみんな派手な格好をしているから大丈夫よ。だって、見てよ?あのシルヴァ嬢の格好!あれって、鳥そのものじゃない?」

私の視線の先にいるシルヴァ嬢を見てミランダが吹き出した。


「確かにあれは酷すぎますわ」

スカートは孔雀の羽を沢山付けて、胸の辺りには沢山の花をつけている。

そして頭にも、沢山のカラフルな花。

クスクス笑っている私達に気がついたメリッサはツンとした顔をする。

そして、シルヴァ嬢に似せた声色で話し始めた。

『あら!庶民が私に気がつくなんて!こんなに目立たない格好をしてありますのに、すぐ気がつかれるなんて、消せないオーラのせいですわね。今日の私は花に埋もれる鳥なのに』

そう言って、吹き出すように笑った。


「花に埋もれる鳥ですって!あれじゃ、喜劇団の格好だわ。ジャグリングをするのがお似合いよ」

みんな思い思いの格好で、自分たちの寄付を集めようと頑張っている。

昨年同様、ヘイリー達は、セクシーなドレスで高い台の上に立ち、色気を振りまいている。


私達は今まで、格好に気を使わず、ブースは毎年、数独。

それは確かに寄付なんか集まらない。

どのような形であれ、みんな努力していたのに、私達は頑なに変わろうとしなかったのかもしれない。

ミランダがそんな私達を変えてくれたんだわ。


今、ミランダは王女様なのに、皆と同じようにレモネードを作って、その細くて繊細な指を汚している。

立場なんかを気にせず、皆と同じ事をしている。

きっと祖国が気になるだろう。でも、そんな事一言も言わない。

ミランダは皆に紛れて、自分を隠して生活しながらも、芯はきっちり通っているし、結局王女様だから私達を誘導するのが上手だ。

そのおかげで、目標としていた14時に今日の目標に達した。


「今年は、去年までと全然違うわね」

アンナがいつになく楽しそうだ。

「あら、アンナ浮かれているわね?どうしたの?」

すると、スカートのエプロンからダンスの申し込みカードの束を取り出した。

「すごい!何枚もらったの?」

私の質問に、アンナとハンナとミランダは嬉しそうにカードの束を見せてくれた。

「私は7枚」

「私は9枚よ!」

誰のカードか、名前が書いてあるので、それを見て盛り上がる。

「ジュリーは何枚?」

そう聞くと、おずおずと3枚出してきた。

「あの、私、パーティーは行けないの。その日、お婆ちゃんが隣町から来るから」

「じゃあ、オーランドも?」

「ええ。そうなの」

その返事を聞いてハンナはがっかりする。


「ところで、リーザとミランダはどうなの?」

メリッサが冷やかすように聞いてきた。

「私は、この通りですわ」

なんとミランダはこのブースから一歩も動いていない上に、背中を向けていたのに15枚も貰っていた。

「このカードは『ダンスを踊ってください』って言う、男子からのアピールよ」

ミランダは、やっと納得したというような表情を見せる。

「だから、学校名と名前が書いてあって、手書きのコメントが書いてありますのね。てっきり自己紹介カードかと思いましたわ。レモネードを買って自己紹介をしてくれるなんて、何と丁寧なんでしょうと思っていましたのに。違いますのね」

ちょっと困ったような顔をする。

確かに、『自己流ダンス』をする庶民の男子からのお誘いには戸惑いしか無いとは思う。


「リーザはどうなの?」

メリッサは身を乗り出して聞いてきた。

「えっと、あの…。一枚」

そう言ってダレルからのカードを出す。

「ダレルからじゃない!去年はリーザを誘ったくせに、結局ヘイリーと参加したのよね。今年は約束を守ってくれるのかしら?」

メリッサが心配してくれるので、私は努めて明るく振る舞う。

「大丈夫よ。きっと」

そう答えたけど、私も不安になってきた。

去年も、ダンスカードをもらっていたのに、結局ダレルはヘイリーとしか踊らなかった。

今年も、パーティーに一緒に行こうと誘われた話まですると、メリッサはもっと心配するから、これは黙っておく。


「ねえ、リーザ宛のカードがここにあるのよ」

そう言ってアンナが6枚のカードを渡してくれた。

「え?嘘?なんで、手渡ししてくれないの?」

「みんなね、リーザが真剣に何かを考えていたから声をかけられなかったって言ってたわ」

表情に出ていたなんて!

その焦りを隠すために笑顔を作る。

この後の舞踏会では気をつけないと行けない。


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