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羊ちゃんとの会話は楽しい

今日は授業にあまり身が入らなかった。あの羊ちゃんの事を考えていたのだ。

羊ちゃんはどこの国の人なのかしら?

地理の教科書の中表紙に描かれている世界地図を見る。

そしてフフフっと口の中で笑った。

早く終わって家に帰りたいなぁ。


午前の授業が長く感じて、危うくランチタイムを忘れそうになった。

「ほら、リーザ、ランチタイムよ」

「もうそんな時間?」

そんな話をしながら中庭に出た。

いつもメリッサ達数人の友達とおしゃべりしながら食べている。

すると、カフェテリアに向かうシルヴァ達が私たちを見つけた。


「こんな植え込みの影に隠れるようにして座っているのは『日影軍団』じゃない!揃いも揃って、いつも同じダサい服にダサい髪型。もう少しマシな格好したら?」


「しかも、いつもおんなじ、パンの切れ端ばかり食べて!」


取り巻き達は私たちのお弁当を笑った。

みんな裕福ではないから、前日の残りのパンや果物を持って来ている。

もしも、パンの中にベーコンが入っていたらご馳走だけど、残念ながら今日は単なるパン。


「見た目だけじゃなくてランチも冴えないのね」


その嫌味に私たちはチラリとお互いを見た。

私は相変わらず茶色の服にお団子頭。

メリッサは強い癖毛で爆発寸前の髪をなんとか結んでいるが、それでは収集がつかずにスカーフで髪を覆っている。


文具屋の娘のハンナは唇が荒れてガサガサで、その双子の姉のアンナは鼻当ての取れた壊れたメガネ。

そして、残念ながら、みんなのドレスは総じて、流行遅れなデザインだ。だって安く買える。


「余計なお世話よ。その派手なドレスよりはマシ。ここは学校だもの。勉強しに来るところよ。間違っても社交館ではないわ。あっ、この街に社交館はないわよね」


このハイヤリートはすごく小さな街で、貴族が宿泊するようなホテルもなければ、レストランもない。

基本的には労働者が出入りするヤムシリンド国の玄関口だ。

貴族達はこの国に入る時は、この国の東側を通るルートで入国してくる。


そちら側は、隣国から続く商業発展地域で、入国してすぐに、この国の第二都市に入れる。

だから、自ずと高位貴族が楽しむような場所はない。


私の言葉に、シルヴァ嬢はキッと睨む。

「アンタ達は所詮労働者だもの。私達、貴族階級がいなければ学校もないし、本当に何もない街なのだから、せいぜい私達に感謝しながら過ごしなさい!」


「そうよ!リートハイ子爵令嬢のシルヴァ様がいないと学校なんてすぐに取り壊しよ?」

クロック男爵家のカーリー嬢が太った体を揺らしてそう言った。


シルヴァ嬢もカーリー嬢も怒って仁王立ちだ。2人は太っているから他の取り巻き達が影に隠れてしまって見えない。


首の毛皮のせいで余計に猟師の雰囲気が出ている。太った猟師だ。

いつも森から帰る途中の獲物を担いだ猟師のおじさん達にそっくり。


そう思ったら笑えて来た。

私は咳払いするふりをして、ニヤけた顔を誤魔化す。


午後の授業は、さっきの2人の様子を思い出しては、笑いたいのを我慢した。

だって、前列に座っている2人の背中にピンク色のドレスが食い込んでいて、今度は今から吊るされるベーコンにしか見えない。


笑いを堪えたまま、家に帰る。

メリッサ達とひとしきり笑い転げたけど、それでも誰かに聞いて欲しくてうずうずした。


夕方、羊を小屋に戻す時、羊ちゃんがまだいるのを確認して、今日の晩御飯であるローストポークとふかし芋を持って羊小屋に行く。


「羊ちゃん、晩御飯だよ」

そう呼びかけると、あの枯れ草の塊が前に出て来た。


「羊ちゃん、食べながら聞いてよ」

そう言って、晩御飯のお皿を置くと、今日あった事を話した。


メリッサとの会話や、ランチの時にシルヴァ嬢に言われた事。あの派手なドレスやマントは滑稽で猟師に見える事など、全部話した。

「羊ちゃんの住んでいた所にも嫌なヤツはいた?」

『はい』

「そいつにされたい放題だったの?」

『いいえ』

「じゃあギャフンと言わせたの?」

『はい』

「あーすごい!どうやって?」


すると、枯れ草の中からおもちゃの蛇が出て来た。

木製のトグロを巻いた蛇で、精巧に作られている。


枯れ草の中にこんな物を持っていることに驚きつつ、手に取ってみた。

首が動く。

何もしなければ、トグロを巻いただけの蛇だが、首を動かすと威嚇して首を持ち上げているように見える蛇だ。


「こんな物で驚くの?」

『はい』

「これ、貸してくれるの?」

『はい』

「でもいいわ。もしも意地悪で実害が出たら借りるわね。また明日」


羊ちゃんと話すのは楽しい。

スキップしながら家に帰ると、父さんに不審がられた。


ここのところ父さんは忙しいのか放牧の時間である7時に家を出て、暗くなってから帰ってくる。

きっと仕事で頭がいっぱいなのだろう。


現に、私が普段より多くご飯を作っていて、それが綺麗になくなっている事に気がついていない。

このまま気が付かなければ、しばらく羊ちゃんが家にいても大丈夫かも。




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