チャリティーDAYが始まる
寝不足のまま朝を迎えた。
「15時に街を出ますよ。ですから早く戻ってください」
ナサニエルの言葉に苦笑いをして家を出た。
「いつもより少し早く出ますのね」
時計は7時半だ。
「そうよ。10時から始まるんだけど、昨日打ち合わせをしなかったでしょ?だからみんなも早く来るはずだわ」
「そうなのですね。では、何故ナサニエルから言われた事に返事をなさらなかったのですか?」
早歩きで学校に向かう私にミランダが質問をする。
「チャリティーDAYは15時までなの。最後までいたら15時までには帰れないわ!」
「では、早くブースを閉めないといけませんわね」
「どうやって?」
「方法は一つしかありませんわ」
そう言ってミランダはクスクス笑う。
「14時までに今日の文を全て売り切るのですわ。それには、皆様にやる気を出して頂きませんといけませんわね。昨日の案が役に立ちますわ」
自信に満ちたミランダの顔を見ていると、私も明るい気持ちになった。
今日は頑張らないといけない。
学校について会計クラブの部室に行くと、みんなもう来ていた。
「おはよう。みんな揃っているわね」
「オーランドは理学研究クラブの方に行ったわ。今日からはジュリーだけよ」
アンナが残念そうにそう言った。
「問題ありませんわ。では、今日は10時から始まりますのね?では、初日の今日を成功させるために、皆様に、笑顔をあげますわ」
ミランダの言ったことがわからずに誰も何も言わない。
ミランダは全員を椅子に座らせて、手早くメイクをしていく。私は言われた通り、みんなに、布で作るバラの作り方を教えていく。みんなには、練習がてら沢山のバラを作ってもらった。
安全ピンをつければブローチの完成だが、今はブローチとしては使わない。
「出来上がりましたわ」
メイクの仕上がりと共に、みんなのバラも沢山出来上がった。
「では、今作ったバラを髪に飾りましょう」
一つに結んだだけのメリッサの髪を、編み込みのすっきりした髪型に変えて、花をつける。
そして、ぱっつん前髪で硬く編み込んだジュリー髪は、三つ編みをそのままお団子にして、前髪を流すように動きをつける。最後に今作った花を髪に飾る。
仕上がるとみんなは顔を見合わせてお互いを褒めあった。
ヘアメイクが終わったので、ミランダが手鏡で仕上がりを見せる。
一つしかない手鏡を回して見てもらう。
「うそ?私?」
みんな仕上がりに満足して顔がほころんだ。
そして、お互いに褒め合う。
「皆様方、仕上がりに満足いただきまして?では、どうしたらレモネードを買いたくなると思います?それは、『笑顔でおすすめされたら買いたくなる』のですわ」
「まあ確かにそうよね」
皆口々に言い合う。
「先日、皆様でたくさんのアンケートをもらいましたわね?あの時、皆ボソボソとは話さず、ハキハキ話していましたわ。それで沢山のアンケートが集まったのですもの」
確かにそう言われればそうね。
「でも、アンケートはお金がかかりませんけど、今日はお金を払って頂かないといけませんものね。ですから、笑顔ですわ」
皆、うんうんと聞いている。
ミランダはみんなの気持ちを掴むのが上手い。
皆、誘導されている事に気がつかない。
結果的に、全員で背筋を伸ばして立ち、奥歯で鉛筆を噛んで笑顔の練習をさせられていた。
それが終わると、笑顔のまま、教会で歌うゴスペルを歌う練習をしていた。
体を揺さぶったり、踊ったりしながらみんなで歌うと、だんだん気持ちが高揚しくる。
笑顔が弾んで、楽しくてクスクス笑ったり、皆の気持ちが一つになった。
「さあ!外に行きますわよ」
ミランダに言われて、みんなで楽しくおしゃべりして笑いあいながら外に出る。
作戦通り。
私とミランダはブースに残って他のみんなが呼び込みをするように誘導する。
他の4人は、『レモネードスタンド』と『ブローチ制作』と書いた看板を胸の前に掲げて歩き出した。
ナサニエルのエプロンと、ミランダのメイク、自分で作った髪飾り、そして何よりも自信に満ちた笑顔のお陰で皆、別人のように社交的だ。
「うそ?メリッサ?」
「かわいい!」
「アンナなの?別人みたい。素敵!」
楽しそうな4人を見て、友人達が次々と声をかけてくれる。
4人の頑張りのおかげでレモネードは次々と売れていくし、髪飾りを見て布の花のブローチを作りにやってくる。
ミランダは腕まくりをして、レモネードを作ってくれている。
だから、終始後ろを向いて懸命に作業していた。
王女様が作ったレモネードだなんてなかなか飲めないのに!
普段のミランダを知らないけれど、こんな高貴な立場の人は二度としない仕事だろう。




