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初めての?!

いつものように隠し扉から地下に降りるのかと思ったが、倉庫に出て、そこから地下倉庫に続く扉を開けた。

ミランダやナサニエルがいるので、この家の秘密の通路をあえて通らないんだわ。

私達は無言で伯父さんの後に続く。

地下倉庫に入ると驚いた。ずっと売れずに置いてあった沢山の品物がなくなっているのだ。


「驚きました?ずっと売れずに置いてあった燭台や、花瓶などをナサニエルくんが売り捌いてくれたんですよ。さすが商人ですね。半分くらいなくなりました」

「今まで言えなかったけど、売れ残っていた商品は、不思議な形をしていたり、絵柄が変だったりしたものね。さすがナサニエル!」

「あれは、アーサーが任務の傍ら買ってきていた物でして、私も困っておりました」

この前もそんなことを言っていたけど、改めて広い地下倉庫を見てまだ残っっている品物に目を向ける。

父さんのセンスって最悪なのね。ガラクタの山にしか見えない。


品物が半分減った倉庫を進み、奥の古い大きな絵画の裏にある、扉を開ける。

扉には見えないただの板だが、これが秘密の道場の入り口だ。


中に入るといつもと様子が違うことに気がついた。

そこにナサニエルが立っていたのだ。

訓練はミランダとナサニエルも受けるんだわ。

盗賊に襲われて羊になっていたナサニエルが参加するんだから、きっと簡単なものに違いない。


緊張を解いてホールの中心に進む。

「ミランダとナサニエルも訓練を受けるのね。それなら私が見本を見せてあげる。何なら先生になってあげるわ」

訓練に備えて準備体操がわりにぴょんぴょん飛ぶ。

余裕の顔でアーネスト伯父さんをみると、含み笑いを浮かべている。


なんだか様子がおかしい。

「ナサニエル君。聞きましたか。リーザが見本を見せてくれるそうですよ」

私は驚いてナサニエルを見る。

「では私にレッスンをしてくださいますか?」

そう言ってお辞儀をし、私の手を取った。


何が起きているかよくわからない。

ピアノの音がしてきた。

ここは訓練場だ。

どこから音が?

驚いて辺りを見回すと、アーネスト伯父さんがピアノを弾いていた。

何と、いつも開けたことのない倉庫の扉の中にはピアノが入っていたのだ。

その事と、アーネスト伯父さんのピアノがプロ級である事に驚きを隠せない。

この家とアーネスト伯父さんは謎だらけだわ。


ナサニエルは優雅にステップを踏もうとするが、踊れない私の手を振り回している状態になっている。

「リーザ、見本をお願いしますよ」

アーネスト伯父さんはわかっていて、指示を出す。

「意地悪!踊れるはずないじゃない!やったことないんだから」


その言葉で音楽が止まった。

「そうでしょうとも。教えていないのですから。ではミランダ嬢とナサニエル君で見本を見せてください」

名指しをされた2人は笑顔で頷くと練習場の真ん中に立った。


伯父さんのピアノに合わせて2人がお辞儀をしてダンスが始まる。

ミランダはいつのまにかハイヒールを履いており、普段のブーツが壁際に置かれていた。

……ミランダのブーツの隣には私のハイヒールもある!


2人が優雅にくるくるとダンスを踊っていく。

まるでオルゴールに合わせて踊るバレリーナの人形のようだ。

練習場は壁の一箇所に大きな鏡がついており、優雅に踊る2人が鏡越しからも見える。

一曲踊ったあと、ミランダが私の前に来た。

「次はリーザの番ですわ。難しい事などありませんから大丈夫ですわ」

靴を履き替えて練習場の真ん中に立った。


私の横にミランダが立ち、細かく足の運びを教えてくれる。

「どう動くかわからない格闘技などより簡単ですわよ。ダンスの動きは決まっておりますから」

そう言われて何度もステップやターンの練習をする。

ミランダはああ言ったが、決まった動きをする方が窮屈だ。

腰を1センチ右に曲げろだの、手首の角度が違うだの細かい指示が多い。


ミランダにキツめの指導を受けてなんとか踊れるようになった。

いよいよ仕上げはナサニエルと踊ることだ。

本番さながらに手袋をするとナサニエルがこちらに来た。


「レディ、踊っていただけますか?」

なんだかむず痒くて笑って誤魔化しそうになるけれど、それを飲み込んで満面の笑顔を作る。

「ええ。喜んで」

そう答えて手を引かれ、練習場の真ん中までくる。

ナサニエルの瞳に部屋を照らすランプの灯りが反射してキラキラと光った。


ナサニエルの掌にそっと乗せているはずの指先があつい。

手を引っ込めたくても、我慢してステップを踏む。

私の動きに合わせるように、その長い足から奏でられる音が板張りの練習場に響く。

まるで2人きりの空間のようだ。

一歩引くと、ナサニエルが一歩踏み出してきて、近い距離のまま移動を重ねる。

まるで心の距離のように、離れもせず近づきもしない。


ピアノのメロディが反転する。

それに合わせて、腰の辺りをぐっと抱き寄せられた。

曲調が変わり、ゆったりとした甘い音楽になる。


「汗をかいているね」

私の額を見ながら、ナサニエルは汗ばんだ首筋に張り付いた髪の毛にそっと触れた。

その瞬間、何かが起きたのではないかと思うほど、顔が上気する。

指先は首筋から、うなじに髪を流してくれる。

私の心臓はドキドキを通り越してバクバクしてる。

ナサニエルは熱っぽい目で私を見た。

揺れる瞳を私もじっと見ていると、顔の距離が近くなり、自然と顎が上がる。


もう少しで、恋人同士の距離になってしまう……。

わかっていても、その形の良い綺麗な唇に近づいていってしまう。

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