チャリティーDAY前日
体中の痛みで朝、目が覚めた。
昨日の慣れない貴族ごっこのせいだ。
背筋を伸ばして座ったりとか、普段使わない筋肉を使ったからだわ。
着替えて、学校の準備をしているところで大切なことに気がついた。
「あ!忘れていた!今日は準備の日なんだ」
今日、授業はない。
なぜならチャリティーDAYの準備の日だから。
結局、何も決めていない。
本来なら、学校が休みである昨日に全て決めないといけなかったのに。
会計クラブのブースについて、結局結論が出なかった所で話は終わっているんだ……。
週末の舞踏会。
それは、チャリティーDAYの初日でもあったんだ。
「やばい!いろんな事を頭の中でバラバラに考えてた!」
「そんなに焦っているのはチャリティーDAYのせい?大丈夫だよ。秘策を仕込んであるから」
ナサニエルが、何を企んで何を言っているのかよくわからない。
「どういう事?」
「どうって!なんだか、大きな独り言を言っていたでしょ?」
「言ってないわ!ってどんな独り言?」
「チャリティーDAYのブースをどうしようか?食べ物って何がいいの?しかも安くて、作りやすくて、失敗しないものって言ってたよ」
そんな独り言言ったかな?
よーく思い出してみたら言ったかもしれない。
「で。どんな秘策を仕込んだの?」
その質問にナサニエルはにっこり笑って大きな紙袋をくれた。中身は何かはわからないけど、意外と軽い。
「これを持って、クラブのブースに行くといいよ」
中を開くと、淡いグリーンの布が入っている。
「それはエプロンだよ。試着してみて」
そう言われて、首を通して、ウエストの紐を結ぶ。エプロンなのに、ドレスの裾くらいの長さだ。
不思議なデザインだわ。
「まあ!前からみると、まるでドレスを着ているみたいですわ」
その様子を見ていたミランダに、鏡を見るように促されて、部屋の鏡を見に戻る。
そこに映っているエプロンは、胸のところに、くるみボタンが付いていて、まるでシャツを着ているように見える。
そして、ウエストのギャザーのおかげでふわっと広がり、まるでスカートみたいだ。いつもの茶色のドレスは袖しか見えない。
「すごいわ!可愛らしいわね」
キッチンに戻ると、テーブルの上に大きな袋が置かれていた。
「人数分のエプロンだよ。これは、ドレスショップを探しているときに見つけたんだ。このエプロンは、貴族のお屋敷のメイド服を作っているお店で見つけたんだ」
「メイド服のデザイナーさんってこと?」
「そうだよ。これは、製造停止しているうえに、数が足りないから、どこのお屋敷にも売ることができなくて廃棄するのを、安く買ったんだ」
「ありがとうナサニエル!」
ミランダと2人で紙袋を持ち、学校に行くと、たくさんの生徒が準備をしていた。
色々なクラブが準備をしている。
どこでブースを構えるかは、くじ引きで決まる。
今年は、教会の入り口近く。
目立つ場所ではないけど、悪い場所でもない。
……まだ何をするかは決まっていないけど。
ブースを出す位置に行くと、もうメリッサが来ていて、机を運んでいた。
「おはようメリッサ」
その声でこちらを見て、嬉しそうに抱きついてきた。
「おはようリーザ!手紙読んだわ。沢山の案をありがとう!」
「手紙ってなんのこと?」
「もう。とぼけないでよ、昨日の朝、うちのポストに入れてくれた手紙よ。お母さんのお墓参りに行く前に入れてくれたたんでしょ?チャリティーDAYの案が書いてあったわ」
母のお墓参り?
なんのこと?誰がそんな手紙書いたのよ。
「お墓参り、久しぶりだったんでしょ?」
メリッサは尚も、謎の事を言う。
「?」
私は何も返事をしなかったが、代わりにミランダが答える。
「リーザは久しぶりすぎて、昨日は……。あまり何も言えませんわよね」
曖昧な話ぶりを聞いたメリッサは、『よくわかっているわ』という表情をした後、何度も頷いた。
「そうよね。そんなこともあるわ。……ハンカチがいくらあっても足りなかったのね。だから、そんな疲れた顔しているのね」
そう言った後、小さな声になった。
「泣きすぎて、調子が悪いことは黙っててあげるわ。体力では男子にも負けないリーザが繊細だなんて」
ミランダのせいで誤解された!
「違うの!寝不足なだけよ」
「いいから、誰にも言わないわ」
そう言いながら、みんなを見つけて走って行ってしまった。
困惑してミランダを見ると、こちらを見てにっこり微笑んだ。
「私は何も言ってませんわ」
そう言って、スキップしながらみんなの所に行ってしまった。
1人残された私は、重い紙袋を持ってみんなの所に向かう。
「おはようリーザ」
みんなが次々と挨拶してくれた。
「昨日、みんなで話し合ったの。リーザがくれた候補の中で、二つにしぼりこみをしたわ」
アンナはそう言って、手紙を見せてくれた。
私の筆跡ではない手紙だわ。
驚いてミランダを見るが、スンとした顔をしている。
納得できないまま、もう一度手紙をのぞく。
『みんなへ。
今日のお休みにチャリティーDAYの事を話し合う予定だったのに、母のお墓参りに行くことになってしまったの。
だから、いくつか候補を出します。
1.レモネードスタンド
2.布ブローチ作り
3.ケーキとお茶のカフェメニュー
4.マナー講座
私達の案は以上です。
みんなも候補を出し合って話し合ってね。
リーザ.ミランダ』
すごい。全く考えてなかった案が書いてある。
しかもイラスト付きだ!
可愛らしい便箋と、手紙にイラスト。
みんなワクワクした顔をして手紙を覗いている。
それ、私が書いた手紙じゃないんだけど……と言いたいけど、じゃあ、誰が書いたの?
私の字そっくりだ。
「おじ様って万能ですわね」
ぼそっと呟いたミランダの言葉でわかった!
これはアーネスト伯父さんの仕業なのね。
「私達、アンケートを集計した時点ではノープランでしたのに、感謝しなければいけませんわね」
ミランダは手紙を見てすぐに気がついたんだ!
驚いた顔のままで目が合うと、フフフと笑った。
「布ブローチについて聞いてきたのはナサニエルですわ。男性2人でこの手紙を完成させたと思うと微笑ましいかぎりですわね」
2人で相談しながらこの手紙を書いているのを想像してみた。
可愛らしいイラストを描いたのはきっとナサニエルね。だってアーネスト伯父さんが絵を描いている所を見たことがないもの。
「レモネードスタンドと、布ブローチで、意見が分かれているのよ」
ハンナは楽しそうに言った。
「わかったわ。『せーの』で、希望する方を指さしましょ?」
その提案で、手紙に指差しをした。
布ブローチは、アンナ、ミランダ、そして入ったばかりのジュリー。
レモネードスタンドは、ハンナ、メリッサ、私だった。




