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偽りの令嬢の完成

「まず、背の高いお嬢様はこちらのドレスを。そして背の低いお嬢様はこちらを」

袋に入ったドレスを渡された。


「どんなドレスでも、反論はしてはいけませんわよ」

と言いながら袋を開けると、中に入っていたのは、ホルダーネックで、生地はオーガンジーの上に、レースを重ねてあるドレスだった。


「ステキ!」

小さな声で呟くと、ミランダも頷いた。

試着してみて驚いた。

体にピッタリなのだ。

「あまり派手ではないパーティーでお召しになりたい場合は、ウエストの飾りベルトを外してくださいませ」

そう言いながら、膝まである手袋を渡される。

「お嬢様方は、私のイメージにピッタリですわ!今まで変なドレス……じゃなかった……個性的なドレスをお召しになっていたなんて勿体無い」


ミス・タイラーのおしゃべりは終わらない。

それどころか、すごい勢いで話しながら、次から次へと試着させられる。


1時間後、私達は『タイラー』を後にする。

もちろん、先ほど、最後に試着したドレスを着て、沢山の荷物を持って。


ミズ・タイラーは、

「高位貴族のパーティーで着てくれるなら、数着ドレスを無料で貸し出すわ!そのかわり、ドレスを宣伝してくださいね!」

それが約束だった。

昨日、こんな約束を取り付けてきたナサニエルって、商人としての能力が凄く高いんだわ!


「ナサニエルって魔法使いなの?」

その言葉に声を出して笑う。

「違うよ。でも、リーザは別人のようだね。いつも茶色のドレスに引っ詰めたお団子頭の女の子だとは思えないよ」

なんだか貶された。

「酷い!普段の私ってそんなに変なの?」

「違うよ。そんなリーザも勇ましくてかっこいいけど、今日のリーザは優雅で綺麗だ」

「勇ましいって、やっぱり貶しているじゃない!」

「褒めてるのにな」

「絶対バカにしているわ」

「本当に褒めているんだよ。そのキラキラ光るオレンジ色の髪の毛が、艶々に仕上げられていて、それが一層大人っぽく見えるよ」

まさかの褒め言葉に赤くなる。

そんな私たちのやりとりに、ミランダは窓の外を眺めてずっと黙っていた。


「早速、約束を守りましょう」

御者のフリをして馬を操っているアーネスト伯父さんが、強制的に街角のカフェで馬車を停める。

そこはガラス張りの店内が丸見えの、シックな色合いの看板の店だった。

ちらっと見えるのは、店内にオシャレな貴族の女性達がお茶をしている様子だ。


「ここに入るの?」

顔が引き攣る私をみて、ミランダが困った顔をする。

「もちろんですわ。貴族としてのマナーや立ち居振る舞いを身につけて頂きたいですもの。でも、言いたいことは、私に耳打ちしてほしいですわ」

「耳打ちね、耳打ち!……わかったわ」

そうやってカフェに入った。

みんながうっとりした目でナサニエルを見る。

そのせいで私も見られている。

その目は友好的ではないように感じた。

「ねぇ、ナサニエル、私場違いじゃない?」

小さな声で話しかけるが無視をされる。



1時間後、ぐったりしながらカフェをあとにする。

馬車に乗ると、それまで和やかだったミランダがため息をついた。

「問題発生ですわ。リーザの笑顔は不自然ですの。しかも姿勢が悪いのを指摘すると、まるで近衛兵のような態度になりますのよ」

「確かにそうだったね。リーザ、何とかして伯爵令嬢になりきれないかな?」

ナサニエルにこう言われたが、ミランダが頭を振る。

「矯正しようとすれば、するほど、目標から遠ざかる気がいたしますわ。もうリーザは自然体で振る舞うしかできないようですわね。あとは何とか頑張りますわ」


馬車はまた美術館の倉庫に戻り、ヘアメイクを落としていつもの自分の服に着替えてから、帰路についた。

「もうぐったり。あー疲れた。ですわよ」

うーんと伸びをして、椅子にもたれかかる私を見て、みんなが笑った。

「何よ?みんなだって疲れたですわよ?……変な話し方!」

そこからは、他愛もない話をしたあと、チャリティーDAYについて話した。


気がつくと外は真っ暗だった。

「では、休憩ポイントに到着です」

アーネスト伯父さんは、そう言うと、目の前に見える骨董商の倉庫に馬車を乗り入れた。

そして、私達は馬車を降りた。

近くのレストランでディナーを済ませて戻ってくると、そこには、来る時に乗ってきたあの盗賊対策の馬車が置いてあった!

ここも、シークレットサービスの関連施設だったんだ。


朝と同じように、して私達は隙間に入ると、馬車は出発した。

隙間から御者席を覗く。

「何で猫背なの?」

隙間から質問してみる。

「年老いた御者のフリをしているんですよ。リーザ、ここは夜道ですから大きな声を出すと、この馬車には他に人がいるとバレてしまいますよ」

「ごめんなさい」

小さな声で謝る。

「そこに立っていると疲れますから、少し眠るか、座るかしてください。明日は学校に行かねばならないのでしょう?」

そう言われて、眠れない私は座る事にした。

暗がりに目が慣れてきて、周りも見える。

所々にある隙間から外の光が漏れているせいだ。


気がつくと、私も馬車に揺られて座ったまま眠っていた。

浅い眠りだったようで、馬車が止まった事で目が覚めた。


何だか外から声がする。

物音を立てないように立ち上がって隙間を見ると、盗賊数名に馬車を止められたようだ。

私は、そっとナサニエルと、ミランダを起こそうとすると、2人とも眠りは浅かったようで寝袋から這い出てきて、一緒に隙間をのぞいた。


「そこのジジイ、何だ?このボロボロの馬車は?」

「奪うものなんか無さそうだな」

「お前、何も持ってないのか?」

でも伯父さんは無言だ。

「なんか言ったらどうだ?ジジイ」

「こいつ、怖くて口が聞けないんじゃないのか」


そう言いながら、馬車の中に乗ってきたようだ。

ギシギシと板が軋む音と、男の足音がした後、座面を殴った。

ボフッ

鈍い音がする。

びっくりしたが私達は声を出さなかった。

その男は馬車から降りた後、今度は、私達が隠れている場所を殴って、ドカッという音がした。


すると、伯父さんは小さな声で囁く。

「相手は5人、仲間はいない」

それが合図だった。 

ナサニエルが馬車の底の部分を外すと、火をつけた煙玉を落としてすぐに蓋を戻す。


「なんかこの馬車変だ!煙に包まれているぞ!」

叫び声がして、逃げてくのがわかった。

多分、幽霊馬車だと思ったらしい。

これは盗賊が大人数だと通用しないらしい。

でも何とか切り抜けて、無事伯父さんの雑貨屋に辿り着いたのは深夜1時を回っていた。


馬車の隙間は疲れたので、ベッドの有り難さを感じながら眠った。


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