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ドレスショップ・タイラー

「すごく重い……。こんなの着てみんな軽々しくダンスしているの?」

同じくドレスを着たミランダは微笑んだ。

「これは軽い方ですわ。ビンテージドレスになると、これの3倍くらい重量がありますのよ」

いつも着ているのは何の飾りもない、そっけない感じの茶色のドレスだ。

それに比べて、この悪趣味なくらい明るい色合いのドレスには、たくさんのフリルが付いている。しかも、そのフリルはレースとかではなく、同じ布でできている。

その上、縫い付けられているパニエも重い。


ドレスを着ると、さっきの倉庫に戻る。

そこにあった椅子に座らされると、アーネスト伯父さんに手早くヘアメイクを施された。

「今から2人は、田舎から出てきた貴族の姉妹です。試しに、リーザ、貴族のフリをしてもらえますか?」

そう言われたので、椅子から立ち上がると、シルヴァ嬢のマネをする事にした。

顎を少しそらして、少し首を傾げてみせた。


「いつでも出かけられるわ。ますわよ」

ミランダが吹き出す。

「変な言葉遣いですわね。それに仕草もわざとらしくて滑稽ですわ。リーザは、何か話したい時は私に耳打ちしてくだされば、私が話しますわ」

「……うん。失言をしてボロを出すわけにはいかないしね。しかし、センスのないドレス!」

フリルに埋もれそうになりながら、愚痴を言った。


昨日、ナサニエルは朝からこのアンジーキットに来て、ドレスショップを探していたらしい。

そして、あるドレスショップと話をつけてきたようだ。

「今日は週末の舞踏会のドレスを選びます。その後は、ミランダがお手本になって、リーザに貴族令嬢とはなんたるかを学んでいただきます」


嫌な予感がしてきた。

まず、ドレスショップに連れて行かれることになった。


「ナサニエル、君はどこからどう見ても貴族の子息だね」

アーネスト伯父さんは、隣の扉から出てきたナサニエルに声をかける。

「そうですか?生粋の商人だとバレやしないかとヒヤヒヤしてますよ」

そう答えたナサニエルを見た。

髪を綺麗に整えて、仕立てのいいスーツを着ている。

「そのスーツはどうしたの?」

「これは、羊になっている時作った、あの木彫りの物を売って、古着屋で買ったんだよ。貴族専用の古着屋ってあるんだよ」

「なんでそんな事知っているの?」

「僕は商人だよ?どれくらいの資産の貴族が、どこで服を買うのか。いくらなら新品でも買うのか、懐事情を把握するには、彼らの日常を知らないとね」

ナサニエルって実はなんでも知っていて、かなり侮れない人物なんじゃないのかしら?

「馬車の用意ができているようですから急ぎましょう」


さっきのボロボロの馬車の横に、綺麗なクリーム色で丸みを帯びた、すごく可愛らしい馬車があった。

「ねえ、叔父さんって魔法使いなの?すごく素敵な馬車!」

「これはシークレットサービスが所有している備品ですから、汚さないように乗ってくださいね」

「シークレットサービスって何でもあるのに、ドレスは借りれないの?」


「それは無理ですよ。衣服は借りれないのです。任務によっては汚れたり破れたり……まあ色々とありますからね。基本的には、支給されるのですよ」

その言葉にがっかりしながら馬車に乗る。

私達は所属していないから、父さんの代わりに行う任務のドレスは来ないんだ。

だから、今から調達にいくのね。

そう考えている間に馬車は動き出した。アーネスト伯父さんが倉庫の扉を開けて、馬車を外に出す。


「眩しいわ」

今まで暗い倉庫にいたから気が付かなかったけどわ、外に出て太陽を見たら、その角度で11時くらいだと気がついた。

あの馬車の隙間で長い間眠っていたみたいだ。


そして、大きな美術館の通用口から馬車が出た事にも驚く。

「あの施設って……」

続きをミランダが遮る。

「詮索はいけませんわ」

そう言われてしまったので馬車の外を見る。


「貴族令嬢はジロジロと何でも見ないものですわ」

仕方がないから馬車の中の装飾品を見ようとする。

「その行動、外から丸見えですわよ。背筋を伸ばして動かないのがご令嬢というものですわ」

言われた通りに、じっとする事にした。

動きたいわ。

体を動かしたくてムズムズする。

向かいに座るナサニエルは、かしこまった服装でじっと座っている。


品のいい貴族の子息って感じかしら?

外を眺めている横顔を見ていると、なぜかドキドキしてきた。

視線を逸らすと、なぜが温かい目で私を見ているミランダと目が合う。

変な誤解されたかも!

違うのよ。ナサニエルが貴族のフリして、大袈裟な身振り手振りで動き回るのを想像しただけなのよ。

そしたら笑いたい気分になったのよ!って言いたい。

でも我慢する。


そのとき、馬車がちょうど停まった。

それは小さなドレスショップだった。

天井が低くて、服の生地や紙が散乱している。

ごちゃごちゃしてて、まるで掃除前の物置のようだ。


そこに、微笑したナサニエルが入っていく。

しばらくすると、ぽっちゃりして髪を大きなお団子間にした女の人と談笑しながらこちらにやってきた。

2人は、地面に散乱するものを踏まないように、あっちこっちへと移動しながらこちらに来た。 


「2人とも、『タイラー』というオートクチュールブランドのオーナーの、ミス、グエン・タイラーさんだ」 

「ミスなんて、不要よ。ミズ・タイラーよ。フフフ」

そう言って小さなことを訂正しながら、握手を求めて手を出して方がミランダは応じない。

何故かはわからないけど、私も何も行動に移さない事にする。


「ミズ・タイラー、貴族令嬢と出会ったらカーテシーが普通だよ」

ナサニエルが小さな声で囁く。

これって、私に対しても注意してるんだわ!


「あっ!そっか。失礼しました、伯爵」

と言って、ミズ・タイラーは、太めのウエストを揺らしながら、不器用にカーテシーをした。 

顔は満面の笑みを浮かべているので、ぷくぷくしたほっぺが可愛らしい。


「昨日、お話していた通り、うちの妹達は派手好きで、それに合わせてデザイナーが暴走した結果がこれでね」

ナサニエルの言葉に、タイラーがこちらを品定めするように見るが、その丸っこい瞳が可愛らしい。

「確かにレインボーカラーのフリル多めのドレスは……何も言葉が出ないですね。センス最悪」


ゥッウン!

その言葉ナサニエルが咳払いで遮る。


「じゃあ、このお嬢様方に似合うドレスをお見せしますわ。伯爵様がお気に召したら、それを週末の舞踏会で着てくれるのね!舞踏会で注目されるかもしれないわ!どうしましょう!……次から次へと注文が来るわ!」

タイラーはぽっちゃりした体を揺らして小躍りしている。


想像だけで小躍りできるなんて、結構単純なのかもしれない。

「ヒャッホー!」

妄想しながらの小躍りは止まらない。

「ミズ・タイラー?」

声をかけられて、我に返ったのか私達を見た後、小躍りを辞めた。


「じゃあ、私の作るドレスを試しに着ていただけます?」

そう言いながら、足元に散乱している紙を拾って私達が通れるようにしてくれた。

そこを通って奥に行くと、試着室があった。


「まず、背の高いお嬢様はこちらのドレスを。そして背の低いお嬢様はこちらを」

袋に入ったドレスを渡された。

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