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放牧後は学校に行かなきゃ

そして、次の日。

朝の支度をする前に、パンと紅茶の入った水筒とリンゴを一つ袋に入れて、羊小屋に行った。

小屋の中では、あの女性を探すと、羊と羊の間に入っていた。羊の間に挟まっていたら確かにあったかいだろう。

ただし、羊に枯れ草を食べられて少し小さくなっていた。

昨日見た限りでは、羊が好まない森の草を利用していたから、これ以上小さくなる事はないわね。


「羊ちゃん、おはよう。朝ごはんのパンを持って来たわ」

すると枯れ草の塊は、ゆっくりと前に出て来た。

眠いのかもしれない。

「朝ごはんの入った袋よ」

枯れ草の塊が前に動いて草の中に袋が吸い込まれて行った。

その時、一瞬だけど羊ちゃんの手が見えた。

しわしわじゃない。

やっぱり若い女性だわ。


「私はここの牧場の娘なの。あっ、私を見て『弱そう』て思わないでよね。確かに見た目は細いけど、牧場の女は強いのよ。あなたは、街で育ったの?」

すると、昨日の文字の『はい』に小石が転がって来た。

「大きな街?」

『はい』

この羊ちゃんと会話するのが楽しくなって来た。

「私、これから学校なの。帰って来たら街の事、教えてくれる?」

『はい』

「うわー!楽しみ!また後でね。あっ、父さんに見つかるときっと街の騎士団に連れて行かれるから隠れていた方がいいわよ」

それだけを伝えると羊小屋の戸を開けた。


待っていましたとばかりに、牧羊犬のチェットが羊達を放牧場まで誘導する。私も馬に乗り、羊達を誘導した。

「終わったわ。チェットあとはお願いね」

ワン!

チェットが返事をしてくれた。私は頭を撫でると、家に入り、いつものように髪を手早くお団子にする。

うちの牧場は街のはずれだからここから中心部まで馬で30分ほどかかるから、もう出ないと。


馬はいつも中心部より少し手前に住んでいるメリッサの家に馬を繋がせてもらう。中心部の貸し厩舎は高くて借りられないからだ。

メリッサの家のは子供がたくさんいるから、私がいくと大喜びされる。

長女のメリッサは兄弟の世話に大忙し。だから、私が朝顔を出すと大喜びする。『子守りが来たわ』ってね。


沢山の子供達の朝の準備を手伝って、それが終わった頃にはもう、学校の時間だった。


メリッサと2人、手を繋いで学校まで走る。教会に続く大通りに出ると沢山の生徒が歩いていた。

私達は安堵して、おしゃべりしながら歩く。


他の学校の事は知らないけど、この学校では成績優秀だと、首都や第二都市などにある大きな学校に推薦で進学できる。

もちろん、特待生だから学費などはタダ。

みんなは行きたがっているけど、私は興味がない。

だってどこも全寮制だ。

父さんを残しては行けない。

それに羊の世話だってあるし。


ここの教会学校は近隣の村からも来ているので、生徒は多い。私が在籍する16歳から18歳のクラスは3つの教室で授業がある。

親としたら家業を手伝って欲しいだろう。だって一人前に働ける年齢だもの。でも、学業はこの国では義務である。18歳までは学校に行かないと罰金があるのだ。

近隣の村から沢山の生徒が通ってくるのはそんな理由。


今年はこの学校のヒエラルキーの上位達と何故か同じクラスになってしまって居心地が悪い。


具体的には、子爵家のシルヴァ嬢やその取り巻きの男爵令嬢達。村に常駐している騎士団の団長の息子のヘンリー達。

みんな、私のことを馬鹿にしている。


どんなところを馬鹿にするかというと、主に、私の外見をみんな笑う。17歳にもなっているのに化粧はせず、大抵は茶色のドレス。そして赤毛の髪を頭の高い位置でお団子に結んでいる。

だから、シルヴァには「うちのお婆様より、あんたの方が年上ね。その髪型だと余計に老女みたい」といつも嫌味を言われる。


茶色のドレスは雨の日の放牧でも汚れが目立たないし、何より晩御飯用のうさぎを捕まえる時、森に紛れる事ができるから都合がいいし、私は変えるつもりはない。


そんなことを考えていると、シルヴァ達が色とりどりの服を着て馬車に乗って通学してきた。

たかが学校に来るためにあんなに着飾らないと来れないのかしら?理解できないわ。


「リーザ、見て?あのドレス。あんなのどこで売ってるのかしら?あのマント、オシャレのつもりかもしれないけど、あれじゃ森から帰ってきた狩人よ」


そう言われてあらためてシルヴァ嬢達の一団を見た。

確かに、メリッサの言う通り、みんなでお揃いにしているであろうマントは、首の部分に毛皮がついており、それが肩の方に垂れ下がっている。

問題は、全員がふくよかなせいで、その毛皮が仕留めた獲物にしか見えない。

思わず吹き出しそうになるのを我慢しながら、クスクス笑う。


そんな私を見て、メリッサはシルヴァ達の歩き方を真似る。

それがそっくりで、笑いが止まらなくなってきた。

すると、メリッサは、更に調子に乗って口真似を始めた。

「何?そんなにじっと見てこの服が羨ましいのでしょ?アンタ達には無理なんだから、せいぜい私の服を汚さないように近づかないでちょうだい」

その真似が似過ぎていて、私は物陰に隠れて、笑い転げた。


そんな不審な動きをする私達に気がついたのか、シルヴァ達はこちらを睨んだ後、教会の横の学校に入って行った。


相手は私のことを見下して、無視しているつもりだろうけど、私だって話したくもない。

だから、教室の後ろの方にメリッサと座って、あまり彼らには近づかないように、そして面倒な事を言われたくないから目立たないようにする。

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