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役割が決まった


「いえ。簡単ではありませんよ。『沢山の星』というのは、第二都市で、『本物』というのは高位貴族を指しています。第二都市で高位貴族ばかり参加するパーティーに潜入しないといけないのですよ。田舎町の貴族が参加するパーティーとは違います」

「そう……」

そう言われてさっきまでの勢いがなくなっていった。


「そのお話、私が力になりますわ」

部屋の入口に立っていたのはミランダだった。

「立ち聞きしていたわけではありませんの。たまたま声が聞こえて来て、部屋から出て来たのですわ」

ドアを開けて話していたからだ。



「この仕事を受けるべきですわ。『シークレットサービスのアーサー』が仕事をしていないという噂が流れると、それはそれで困った事になるのではありませんか?この前の内通者に『アーサーは元気である』と思わせとかないといけませんわ」

「確かにそうよね」

「でも、アーサーに届いた潜入捜査を別の人物が行うのも危険が伴いますよ。もしもバレたら大変な事になります」


「その口ぶりだと、アーネスト様もシークレットサービスとつながりがあるのですね」

ミランダの指摘に伯父さんは困ったようににっこり笑った。

「そうです。少し関わっております」

「ではお聞きしたいのですが、『アーサーは男である』と組織の中で認識されているのですか?」

「いえ。複数人での任務の時も、『名前』が与えられますので、お互いにその名前で呼び合っています。ですから、アーサーが男だと知っているのは組織の上層部だけです」


「では決まりましたわ。私とリーザがこの任務を行います。こういったパーティーでは、未婚の貴族令嬢が『話し相手』の女性と共に参加することも往々にしてありますもの。ですから、2人で参加しても問題ありませんわね」

「確かにそうですね。単独で潜入するよりも、2人の方が安全かもしれませんが、しかし貴女が隣国の王女であるという事がバレては困ります」

「ですから、リーザが伯爵令嬢。私がリーザの小間使い兼、話し相手として側におりますから大丈夫ですわ」

それしかないと言った顔で、ミランダは私たちを見た。


「いえ、それではおかしいですね。通常、話し相手というのは年上の女性です。立場的には家庭教師が話し相手になるのが普通ですから。やはり2人には無理でしょう」


「いえ、なんとしても『アーサーは健在である』としなければなりません。そうしませんと、私の安全まで脅かされてしまいます。きっと一部の人はご存知なんでしょう?私を助けて、匿っているのは誰なのか」

そう言ってミランダは部屋から出て行って、すぐにナサニエルを連れて戻って来た。


「ここにいる限り、ナサニエルも同じ船に乗ったもの同じですわね?」

何のことかわからないナサニエルは困惑しながら頷いた。


「それで、同じ船に乗ったナサニエルにお願いしたいのですけど、舞踏会に『伯爵』として参加してくださらない?」

何のことかわからないナサニエルに、おずおずと経緯を説明した。


「師匠が強い理由や、なぜウチの会頭があんなに一目置いているのか謎が解けました。でも、申し訳ないけど、それはできないよ。きっと、そのパーティーには一定の有力者が参加するんでしょ?僕を知っている人も一定数いるはずだよ」

申し訳なさそうにナサニエルは答えた。


「でも、普段とは違う場所で出会えばきっと相手は気が付きませんわ」

「その保証はないよね。もしも僕の正体がバレた時、どうなると思う?ジェラルド商会は、あっという間にお客様が来なくなり、僕は責任を取らされて……」

何を想像しているのかわからないが、ナサニエルの顔がどんどん歪んでいった。


「では、やっぱりリーザが『伯爵令嬢』で私が『話し相手』として参加するしかありませんわね」

その言葉にナサニエルは何かを理解したようだ。

「それは不自然ですから、お二人が『姉妹』として参加してはいかがですか?私は『侍従』としてならパーティーに行く事は可能かと思いますよ」

その侍従が何なのかわからない私はポカンとした。


「お二人がどうしたいのかはわかりました。私は、ある国でパーティーのセッティングや、会場運営はジェラルド商会で行った経験があります。だからパーティーの事については多少アドバイスできますよ」

「それは心強いですわ、私はまだ舞踏会に参加した事はございませんの。私の知っている舞踏会は、参加資格は15歳からですから、まだ参加経験がなくて、リーザにアドバイスらしい事をしても、実践経験がありませんから心配で」

2人の会話にアーネスト伯父さんはやれやれという顔をした。


「では、リーザとミランダが『姉妹』として参加する事にしましょう。そして『侍従』としてナサニエルが同行するのですね」

「ええ。これで決まりですわ」


「問題は2人分のドレスですね」

アーネスト伯父さんの言葉にナサニエルが反応した。


「僕に考えがありますが、成功するかはわかりません」

「どんな考えが?」

その問いにナサニエルは答えなかった。


「まあ、何でも試してみないとわかりませんよね?だから上手く行くとは限らないけど、僕の企みは、それなりにうまくいくと思います。ただ…一日だけ、学校を欠席してもらいますけどね」

「欠席しないで済むわよ。明後日、教会の工事の下見が入るから、学校も臨時休校なの」


私達はそれぞれ部屋に戻った。

今の話があまりにも現実離れしていて何がなんだかわからなかった。

ベッドに入っても、先ほどの会話が頭の中をぐるぐると回る。

目をぎゅっと瞑って、眠りについた。


朝起きると、昨日の話が何もなかったように誰もその話はしなかった。

伯父さんの馬車で学校に向かう。

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