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不測の事態

「父さん!」

「アーサー!」

私と伯父さんの声は同時だった。

父さんは家に入るやいなや、ガッカリと膝をついたのだ。

「どうしたの?」

私の言葉に父さんは苦笑いする。

「襲われた。相手は、同胞だ」

そう話す父さんは背中から斬りつけられたのか、服が大きく裂けており、服の隙間からのぞく背中は大きな傷があり、血が滲んでいた。

幸い、怪我は浅いようだが、父さんは憔悴している。


「森を抜けて街へ戻る途中で襲われた。間一髪のところで気がついて、撒いてきたが、思わず仕掛けを踏んでしまった」

申し訳なさそうに、そう言ったが私達は首を振る。


「命があったんだからよかったわ。襲った相手は?」

「わからない。任務中は仮面をつけているんだよ。だから相手が男だということしかわからない」

「アーサー、今日の任務は何だったのですか?」

アーネスト伯父さんは、玄関横の棚から消毒液を出して父さんの傷に塗りながら聞いた。


「政府からの任務だ。武器を密売している組織の一部がこの街と隣町を往来しているから、組織のアジトを突き止めてくれという任務だ」

「それで、アジトはわかったの?」


「極秘のタレコミがあって、踏み込んだが、それが罠だったんだ」

「それってつまり?」

「そう。私達の情報は全部漏れていたんだ」

「政府側から漏れたのですか?」

「嫌、組織の内部からだ。踏み込みの時間や、踏み込むこちら側の人数まで把握している様子だった」


アーネスト伯父さんの行動をナサニエルが補佐する。

「組織の諜報員達はお互いを疑い出しますね。下手をすれば内部から組織が崩壊してしまいます。これは危機的状況ですね」

ナサニエルは、背中を見て少しホッとした顔をした。

「よかった。縫うほどでもないですね。私達も高級品を運ぶ時は野盗に襲われることがあるんですよ。だから、ある程度の事はできますよ。この傷なら、安静にしていれば大丈夫ですね」


少し離れたところでミランダはどうすればいいかわからないという顔をしていたが、何かを決意して、突然玄関の扉を開けた。


「ミランダ!」

私の叫び声とを無視してミランダはどこからか取り出した、小さな笛を吹いた。

すると、暗闇の中をフクロウが飛んできた。


「アーサーおじ様。このままではいけませんわ。組織の決まり事は少しだけ存じております。お互いの顔や性別、年齢を明かさない事。その任務に関わった者以外には、情報を漏らさない事。そして、チームを指揮する指揮官がいる事」

「さすが王族。何でも知っているね」


「感心している場合ではありませんわ。もしも、裏切り者が『武器の密売組織を壊滅させた』という偽情報を流していたら?はたまた、『アーサーに裏切られて壊滅できなかった』と言ったなら?」

ミランダは頭の回転が速いのか、私では思いつかないことを言った。


「さあ、アーサーおじ様。指揮官も信用できませんから、上層部に今すぐに手紙を送らなければいけませんわ」

「そうだな」

「私のフクロウをお貸ししますわ」

ミランダは胸を張ってそう言った。


「ああ、とりあえず、作戦失敗だけを書くとしよう」

「何で内部に内通者がいる事は書かないの?」

「内通者は上層部にもいるかもしれないから、あえて書かないんだよ。もちろん、父さんが襲われた事もな。あくまで元気なふりを貫く」

そう言って手紙を書くと、父さんは窓を開けて指笛を吹いた。


すると、別のフクロウが飛んできた。

しかも2羽も!

「ミランダ、私も連絡用のフクロウを飼っているんだよ。君のフクロウでは、仲間に疑われるからね」

知らなかった。

父さんが密かにフクロウを飼っていた事を。

確かに、夜遅くに連絡が来て、そのせいで朝早くに仕事に行く事もあった。

これまでは、てっきり暗闇の中を松明を掲げた早馬が来て、誰かが父さんに仕事を依頼しているのかと思っていたけど、フクロウだったんだ!

一つ謎が解けた。


「アーサー。あの方にだけは、襲われた事を伝えないといけませんよ」

アーネスト伯父さんの言葉に父さんは苦い顔をする。

「やはりか」

渋々、2通の手紙を書くと、それぞれのフクロウに手紙を結び、暗闇へと放った。

怒涛のように、次から次へとやってくる物事についていけなくなりそうだ。


数日前までは、この街外れの牧場で父さんと二人暮らしをしていて、街には伯父さんが住んでいるという普通の家庭で育ったはずなのに。

今は、羊に擬態していたナサニエルと、他国の王女であるミランダが家にいて、しかも父さんのもう一つの仕事はシークレットサービスだ。

情報過多でおかしくなりそう……。

今日はもう寝よう。


その夜は何だかうなされる夢を見た。

目を開けると、うっすら外が明るくなっていた。

もう朝なのね。

起きあがろうとしたら、ミランダの気持ち悪い人形と目が合った。

コレ、やっぱり片付けて欲しい……そう思いながら、着替えて外に出る。

牧場の仕事をしている時だった。


こんな早朝なのに、見た事ない真っ黒な馬車が近づいてきた。

窓にはカーテンが引かれていて、中をうかがい知る事はできない。

牧場の少し手前で止まるが、誰かが出てくる様子はない。

コレって、昨日の犯人に父さんの正体がバレたのかしら?

怖くなって、仕事そっちのけで家に向かって走る。


そして、そのままの勢いでドアを開けて、急いでキッチンに向かう。

「アーネスト伯父さん!変な馬車がこちらに向かってきているの。父さんの正体がバレたとか?昨日の手紙を読んだのが敵の内通者だったとか?」

「リーザ!落ち着きなさい。あの馬車は昨日、手紙を送った相手だから大丈夫ですよ」

アーネスト伯父さんの落ち着いていたが、いつもと様子が違う。何か独り言を言ったようだが聞き取れなかった。


「どうかしたの?」

「いえ、何でもありませんよ」

笑顔の返事だったが、うっすら顔がこわばっていた。

「さあ、リビングルームへ行ってください。今日の朝食はそちらで召し上がって頂きますよ」

ちょうどキッチンに入ってきたナサニエルと、ミランダにもそう指示を出した。


リビングには朝食が3人分並んでいた。

「伯父さん、私達をここに閉じ込める気?この部屋って外から鍵をかけられると、内側からは開かないはずよね?」

「朝食を食べている間だけですよ」

「何でそんな事を……あの馬車に関係しているのね!父さんが危ないの?」

「心配いりませんよ。3人はここで少しの間、おとなしく朝ごはんを召し上がっていてください」

そう言って伯父さんはドアを閉めたが、案の定、カチッと音がして、鍵をかけられた。


急いで窓に向かうがカーテンも動かなくなっている。

「リーザ、どうしようもありませんから今はおとなしく朝食をいただきましょう」

「そうだよ、リーザ。今僕たちにできるのは、言われた事をちゃんと実行するだけだよ」


2人に言われて渋々、椅子に座り、朝食を食べる事にした。

不安で食欲がない。

「リーザ、私からの忠告ですわ。ごはんは食べられる時に食べる事。いつ何時、突然長距離移動を強いられるかわかりませんもの」


にっこり微笑むミランダを見た。

父さんに助けられてここに来たけれど、父さんがあんな状況だと、他所に行かないといけないかもしれないんだ。

きっと不安だろうけど、落ち着いている。

「わかったわ。私もちゃんと食べるから」

何とか残さずに全て食べ終えた時だった。


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