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侵入者防止の罠が発動する

「2人とも、おかえりなさい。奥の部屋で待っていてください」

アーネスト伯父さんは、忙しそうに会計をしている。


「私達、手伝うわ」

「大丈夫ですよ。ナサニエルくんがいますからね」

最近出来たカフェスペースにコーヒーを運んでいるナサニエルを見ながら伯父さんは答える。


数日前までは近所のおばあちゃん達が、日中にお茶を飲みに来るくらいだったのに、今は結婚適齢期の若い女性で大賑わいだ。 

背が高くて整った顔の物腰柔らかな男性を射止めようとみんな必死の様子だ。


でも、私は知っている。

数日前、ヘンテコな羊の変装でうちの牧場にいた事を。

こんな変な男性、内面を知ったら嫌いになるんじゃないかしら……。 

バラしたら、どうなるだろうか。少なくとも外見に惑わされている女性達は減るかもしれない。


嫌、もしかしたらそのギャップを知って更にファンが増えるかな。

ここはやはり黙って様子を伺おう。


それから一時間後、18時でお店は閉店した。

私達はアーネスト伯父さんの馬車に乗ると、家路を急ぐ。


途中、馬に乗ったダレルが私達を追い越したが、馬車に乗っている私に気がついてダレルは馬の速度を落とした。


「リーザ、今日はアーサーさんの荷馬車じゃなくてアーネストさんの馬車で帰るの?」

並走するダレルから話しかけられて私は馬車から顔を出す。

「そうよ。ちょっと遅くなってしまったけど」

「これからの時間帯は、少し遠回りした方が安全じゃ……って、一緒の馬車に乗っている人は?」


そう言われて私は馬車の中を見回す。

「ミランダと、ナサニエルよ」

私に呼ばれてミランダは、簡単な礼をして、ナサニエルはダレルに向かって手を挙げる。


「2人も、牧場に?」

「そうよ。何かあるの?」

ダレルが何を言いたいのか私にはわからずに首を傾げる。


「いや。その……ある意味家の中の方が外よりもヤバいんじゃ」

ダレルの言葉に思わず頷く。


「そうなのよ。父さんと二人暮らしだったのに、いきなり5人になるのよ!バスルームが一個しかないのに!誰かが使っている時にトイレに行きたくなったら……。危険よね?」

バスルームとトイレが一体型の我が家では、誰かがバスルームを使っていたらトイレが使えない。

思わずそんな不安を口にしてしまう。


しかし、ダレルは私の言葉を聞いて一瞬無言になる。

もしかして、これって男性が女性にトイレ問題を愚痴られて困っているのかしら?

具体的に言うんじゃなかった。

そう思ったら恥ずかしくなってきた。


「……それもかなり危険だ。……って、そうじゃなくて!」

ダレルが続きを言おうとしたが、ナサニエルが会話に加わってきた。

「こちらにいるお嬢様2人のお世話は心配ありませんよ」


「リーザは大人だ。世話なんて必要ない。それに牧場に危険が及びそうなら、俺や牧童達が守る。そんなヒョロヒョロのお前に何かできるとは思えない」

ダレルは今まで聞いたことのない低い声を出した。

なんで機嫌を悪くしているのかしら?


ダレルの視線の先にいるナサニエルを見ると、ちょっと困ったような、おどけたような顔をしている。

なんか変な空気になってきた。


「俺は先に行くよ」

ダレルは怒ったまま馬の速度を上げたので、あっという間に見えなくなっていった。


「なんだったのかしら?」

私の呟きを聞いてミランダが答える。

「あの態度はよろしくありませんわ。彼は、蚤の市で他の女性をエスコートしておりましたのに」

「なんで今、その話が出てくるわけ?」

「リーザは、鈍感さんですのね。ダレルのはわかりやすい態度でしたわ」

何の事を言っているのかさっぱり不明だから、この話題から遠ざかろう。


「ところで、初めての学校はどうだった?」

「すごく興味深い事だらけですわ。これからの事を思うとワクワクしますわね」

「例えば?」

「シルヴァ嬢達とこの後仲良くなれるかしら?とか」

その答えに思わずミランダの顔をまじまじとみてしまう。

どんな気持ちでこんな事言うのかしら?

無邪気なのか、底意地がが悪いのか。または、本当にシルヴァ嬢の事を気に入ったのか。

何にせよ、すごく心が強い。


「ミランダって、びっくりする事を言うわね。ね?ナサニエル」 

そういいながら、ナサニエルを見ると、何かを調べるように馬車の椅子や壁を触っていた。

指先で調べるように細やかに触っている。


「何やってるの?」

「昨日、初めて乗った時から思っていたのですが、この馬車、なんだか普通と違う気がして。何が違うのか教えていただけますか?」


普通の馬車と違うってどう言う事だろう?私には、他の馬車との違いがわからない。

伯父さんの馬車だけが特別な事って…。

あっ、わかった!


「アーネスト伯父さんの馬車はね、天井部分に留め金が付いていて、室内飾りを付けれるようになっているのよ」

その答えに、ナサニエルは不審な顔をしながら、天井をみた。


「確かにそうですね、留め金があります。でも、そうじゃなくて!」

ナサニエルは軽く足を鳴らした。

「やっぱり。普通と音が違います」

そう言いながらも色々な所を触っていく。

「わからないわ」

私の返事を書きながらも、色々な所を触っていく。

「そうですか。それなら致し方ありません」


そうこうしているうちに馬車は牧場に入って行った。

家に帰ると、父さんはいなかった。

まあ、よくある事だけど、アーネスト伯父さんは憤慨していた。

「アーサーは家を守らないといけない立場なはずです」

あまりの怒りように、ディナーは誰も会話が出来なかった。


夜になると、辺りは真っ暗だ。

街のはずれだから当然だ。私は慣れているけど、お城で育ったミランダや、大都会の商会に勤めているであろうナサニエルは、外が何も見えない事に不安を感じているのではないのだろうか?

と思ったけど、それは気のせいだったようだ。

「これだけ暗いと星が綺麗ね」

「ミランダさん、星が綺麗なのは当然ですが、こんな暗闇の中には、きっと、この辺りにしか生息していない全身の毛がプラチナ色のオオカミが彷徨いていますよ」

ナサニエルはそう言ってミランダを脅かしている。


……脅かしている、と思ったけど、どうも様子が違う。


「ナサニエルさん、そのオオカミって?」

「ミランダさん、気が付きましたか?そうです!あの珍しい輝くシルバーの毛皮なんですよ!捕まえたら高く売れますね!」

「やはりそうでしたの?早速、罠を仕掛けなくては」

と不穏な相談をしている。

その会話を横で聞いていて頭が痛くなってきた。

この暗がりでどうやって罠を仕掛けるつもりなんだろうか?

自ら、オオカミの餌になりに行くつもり?


冷ややかな目で見られているとは気がつかない2人は、もうオオカミを捕まえて毛皮をいくらで売ろうかという妄想まで始めた。

気が早すぎるでしょ!

罠すら仕掛ける方法が決まっていないのに。

そう考えていた時だった。


カンカンカンカン!


森に仕掛けてある侵入防止の罠に誰かがかかった!

私は急いで立ち上がると、書斎からアーネスト伯父さんが飛び出してきた。

「伯父さんは2人を安全な場所へ!私は仕掛けを見に行ってくるわ」

「嫌、私が見てくるから、リーザは2人を守ってください」

アーネスト伯父さんはそう言うと、玄関横のシューズボックスに隠してある剣を出して、ドアノブに手を掛けた時、ドアが勢いよく開いて、父さんが入ってきた。

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