シルヴァ嬢からのイヤミ
最初の授業は外国語の授業だった。
そういえばミランダは母国語が違うのに流暢な言葉で話している。
それだけ色々な勉強をしてきているのかもしれない。
何となく集中できないまま、授業が終わった。
次は宗教学の授業なので、講堂までいかないといけない。
文具を片付けていると、シルヴァ嬢達が近づいてきた。
「あなた、ミランダとか言ったわね。リーザの親戚なのに、何でそんな話し方なわけ?それに、その古いドレス!今時そんなの着ている人、他にいないわ」
鼻息荒くミランダに文句を言うが、ミランダは動じない。
「あら。ご存知ないなら教えて差し上げますわ。今はクラシカルなデザインが流行しておりますのよ。秋冬のオートクチュールブランドをお調べしたら、わかりますけど、来年のトレンドはクラシカルなチェックですわ」
「それ、自分の服の事を言っているの?そんな嘘までついて、古着をトレンドなんて言うのは見苦しいわね!」
シルヴァ嬢の目が怖い。鼻息もどんどん荒くなっていく。
「いえ、嘘ではありませんわ。是非、王都やその近郊のオートクチュールブランドにお問い合わせしてみてください」
「そんな嘘なんて誰も信じないわよ!それに、何で牧場主のたかが親戚のくせに、そんな事知っているのよ!」
「それは、見てきたからですわ」
ミランダは冷静に微笑んだ。
しかし、かえってそれがシルヴァ嬢を苛立たせる原因になっているようだ。
「もう、嘘つきと話すのは馬鹿馬鹿しくて嫌になるわ」
「まあ!嘘かどうかご自身の目でお確かめくださいませ」
その返事を聞きながら、シルヴァ嬢が取り巻き達に目配せをした。
すると、取り巻きの1人がミランダの机に手をかけた。
そのタイミングでミランダは、
「そうですわ!授業で気になった事がありましたの」
と言って、すごい早さでペンを手に取ろうとして、インク瓶を倒した。
インク瓶は取り巻きの方に倒れたが、幸い蓋がしてあり、インクはこぼれなかった。
「あら、インク瓶が倒れましたわ。でも、ちゃんと蓋がしてありますから誰も汚れませんでしたわね」
そういいながらにっこりと笑うミランダをみたシルヴァ嬢は顔をヒクヒクさせている。
それから私の顔を睨みつけると、取り巻きを連れて行ってしまった。
ミランダはそれをにこにこと見送っている。
王女様って肝がすわっている。自分との違いに驚いてしまった。
「もう少しお話できると思いましたのに残念ですわ。怒った方とお話したのは家族以外では初めてで、ここから会話がどういう方向に進むのか楽しもうと思いましたのに」
ミランダは残念そうだ。
確かに、王女様に怒った口調で会話できる人なんていない。
でも、初体験だからってそれを楽しもうと思うなんて、ミランダってどこかズレている。
その後の授業では何もなく、ランチの時間になった。
いつものようにお昼を食べようと外に出た時だった。
「リーザ!」
私を呼ぶ声がして振り返ると、そこにはダレルがいた。
「昨日はごめん。ヘイリーが、あんな事を言って」
「別に気にしてないわ」
「本当?よかった」
ダレルの笑顔を見ると、自然と笑みが溢れる。
「アーサーさんから、当面の間、牧場の周りの見回りをお願いされてるんだ。だから、今日は後でそっちに行くから、ら、送って行こうか?」
「いえ。アーネスト伯父さんとミランダと帰るから、遠慮しておくわ」
「そう?じゃあまたね」
「ええ。また」
最後に笑顔を見せてダレルはどこかに行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、背中を目で追う。
「リーザ?ダレルと話している時、顔がにやけていたわよ?」
メリッサが揶揄うように私の脇腹を指でつつく。
「そんなんじゃないから」
「もうー。素直になりなさいよ」
「私はいつだって素直よ?」
「嘘つき!へそ曲がり」
「ねえ、ミランダはどう思う?2人はただの幼なじみじゃないと思わない?」
メリッサの言葉に、ミランダは微笑んだ。
「私には、何のことかわかりませんわ」
「ミランダってクールよね」
メリッサは、ただ微笑むミランダを見て、楽しい気持ちになったようだ。
私も、なんだか笑いたい気分になってくる。