ナサニエル目当ての女子達
「リーザ」
ミランダに呼ばれて、アーネスト伯父さんの出店に行く。と、出店にはお客さんがいっぱいいた。
「なんでこんなにお客さんが多いの?しかも女性ばかり!」
独り言を呟いてお客さんの間を縫って、レジのほうに行くと、そこにいたのはナサニエルだった。
「さすが大きな商会で働いている方ですね、販売が上手い。アーサーが買い付けて売れていない在庫品をいくつか売ってくださいました」
アーネスト伯父さんは楽しそうにナサニエルを見た。
「アーネストさん、もしよかったら僕を雇ってください!追い剥ぎに取られたお金を取り返さないと。かなりまとまったお金なので、会頭に合わせる顔がありません」
「わかりました。でも、この国の法律では18歳までは必ず学校に通わないといけません。ですから、念のため伺いますが、ナサニエル君は何歳ですか?」
「僕は19歳ですから、もう教育はしなくても大丈夫ですよ」
「しかしながら私がお見受けしたところによると、あなたは彫刻の才能がおありのようですから、試しに職人大学の木工の試験を受けてください。若者の可能性は大いに延ばすべきですよ」
その言葉にナサニエルは笑顔を見せた。
「彫刻の腕をお褒め頂きありがとうございます。今は少し疲れたから休憩してもいいですか?」
「ええ、もちろんですよ!今日の売り上げの1割をお給料として払いますよ」
そう言って伯父さんはナサニエルにお金を渡した。
「お金を稼ぐって、何かを売る事ですの?」
ミランダは興味深そうにアーネスト伯父さんに聞いた。
「その通りですよ。売るのは技術でも、品物でも、労働力でもなんでもいいのですが、大切なのは買ってくれる人を探す事ですよ」
「楽しそうですわね」
「試しにやってみますか?」
「わたくしにもお仕事をくださるのですか?」
ミランダは嬉しそうにエプロンを受け取ると、お店に立つ。
その立ち姿は、背筋が伸びて、ただ立っているだけなのに何故か凛として見える。
それは王女様としての立ち居振る舞いが身についているからだろうか。
アーネスト伯父さんは、ミランダにお店の手伝いをさせようとしているけど、仮にも王女様だけどいいのかなぁ?
苦笑いをしながらそれを見ていると、エプロンを外したナサニエルに女の子達が次々と声をかけている。
「ねえ、今から休憩でしょ?私達とお茶でもいかがかしら?」
「あちらに美味しいガレットのお店があるのよ」
「それより、あっちの露店には美味しそうなフルーツが並んでいるわ」
みんな、何とかしてナサニエルの気を引こうと必死だ。
「ごめんね、アーネストさんから頼まれた荷物を運ばないと」
そう言って私の所にやってきた。
「アーネストさんからお願いされたんだけど、手に持っているドレスを荷馬車に運ばないといけないんだよね?」
私の手からドレスを取り上げる。
「え?そんな」
困惑する私をよそに、ナサニエルは笑った。
その様子を見て、女の子達が恨めしそうに私を見る。
「じゃあ、馬車まで行きましょう」
スタスタと歩いて行ってしまうので、急いでその後をついて行った。
そして、すぐに路地に入ると、ナサニエルは歩く速度を緩めて私の隣に来る。
「布って意外と重いんだよね。だから、レディの仕事ではないよ。しかも、これってミランダの服でしょ?」
「ええ、まあ」
自然体のその様子を見て、これは沢山の女の子を泣かせてきたタイプだと悟るが口には出さない。
「訳ありそうな彼女の世話を焼くのは大変だろ?」
私は笑うしかなかった。
訳ありというか、訳しかないというか……。
「今はアーネストさんがミランダと一緒にいてくれますから、少し気を抜いても大丈夫ですよ」
「何故気を張り詰めていたと思うの?」
「ミランダの世間知らずっぷりを見ていたら、誰だって気を張って彼女を見張りますよ」
「ここより田舎町からやってきた女の子だから世間知らずなの」
この言い訳には無理があるけど、それしか言いようがない。
「わかりましたよ。それ以上は何も言わないでよ?」
ナサニエルと色々な話をしながら歩いていると、女の子たちの視線が気になる。
背が高く、物腰が柔らかい男性は、まず田舎町では珍しいからかしら?




