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ある日、不思議な羊を見つけてしまった

新作始めました!気長にお話を読み続けていただけると幸いです。


私の名前はリーザ。

平民だから、ただのリーザ。家名はない。

私の家があるのは、ヤムシリンド国のハイアリートという小さな町。ここのはずれに父と2人で住んでいる。

ここに住んで11年。私が6歳の頃、父が小さな牧場を買ったのだ。


父と二人暮らしなので、私の仕事は羊の世話。毎日やる事がいっぱいある。

とは言っても、放牧をして日中は牧羊犬のチェットにお任せして、学校に行くのだ。この国では子供を学校に行かせないと罰金があるから、学校に行っていない子供はいない。


今は冬がもうすぐそこまで来ている。だから、薪の準備や羊達のための牧草を準備しないといけないのに日が暮れるのが早い。

毎日あっという間に1日が過ぎてしまう。

ため息をつきながら学校から帰った。もう羊達に小屋に入ってもらう時間だわ。

いつものように馬に乗り、羊を小屋に戻すために牧羊犬に指示を出す。でも羊達はなかなか言う事を聞かない。だからチェットと協力してなんとか羊の群れを誘導する。


なんとか羊を小屋に入れて、家に入ろうとした時、視界の隅で何かが動いた気がした。

気のせいかと思ったけど、やはり何かがゆっくりと動いている。

何が動いているのかしら?そちらに目をやると、枯れ草の塊に、羊の毛を申し訳程度につけた何かが羊小屋を目指して歩いていた。


その枯れ草の塊は、四足歩行だけれど、明らかに遅い。

何かしら?牧羊犬も吠えずにその物体を無視している。

その物体は急いで足を動かしているが、なかなか前には進まない。

動きは素早いにも関わらず、私が走るより明らかに遅い。

見た目のサイズ感や動きの速さからして、走っている羊に擬態しているつもりなのかもしれないが、あまりにもかけ離れている。


なんだろうアレ。

ソレは私が凝視していることに全く気がついてる様子は見えず、羊小屋を目指している。


物音を立てないようにそっと馬から降りた。

そして、その物体から少し離れた所から様子を伺っていた。


しばらく眺めていて気がついたが、人間が四つん這いになっているのではないのだろうか?

羊と同じくらいの高さになるために、手には棒を持ち、まるで腰が曲がったお年寄りが、両手に杖を持って歩いているようにして前にすすんでいる。


多分、枯れ草や干し草を乗せて体を見えないようにしているようだ。羊になったつもりだろうか?全くもって似てないけど。この人自体、前が見えないのに進んでいるのではないのだろうか?


あまりにも滑稽なので、どんな人がそんな事をしているのか見てみたくなった。

どうやったらこの中の人を見ることができるかしら?

きっと羊小屋に入ったら、この不思議な変装を解くのかもしれない。


そう思って見ていたら、一生懸命に動いて、小屋の小さな隙間から上手に滑り込んで行った。

私が見ている事に気がついていないのか、羊達の間に無理矢理滑り込むと動きを止めた。


厩舎に戻って馬を繋ぎ、戻って来たけど、やはり微動だにしない。

しばらく眺めていると、グルグルグルグルと大きなお腹の音がした。

羊達の鳴き声よりも大きい音だ。

どんなにお腹が空いているのかしら?何か行動を起こすつもりなのかしら?

1分くらい眺めていたけど、全く動かない。


このまま放っておいたら朝までこのままなのかもしれない。

ここは意を決して、正体を暴こう。


私は息を呑むと、少し大きな足音を立てて羊小屋の中を歩く。

「そろそろ夕ご飯の時間ね」

私は独り言を言った。

「今日の晩御飯はミートパイなの。でも、作り過ぎちゃってね、残った分は肥料にするのに堆肥に埋めちゃうのよね。それは勿体無いから貴方にあげるわね?さっき大きなお腹の音を鳴らしていたものね。羊ちゃん。」

そう言って、適当に目の前の羊を撫でる。


「今持って来てあげるわ。私が『羊ちゃん』と呼ぶから前に出て来てね」

そう伝えると、急いで家に戻る。


あの羊になったつもりの人はどうするかな?

どんな行動を取るのか想像して、怖い物見たさと好奇心が入り混ざった気持ちでミートパイを切り分けてお皿に乗せた。

そして急いでそのお皿を羊小屋に運ぶ。


小屋の入り口を見てびっくりした。

なんと、あの不思議な枯れ草の塊が最前列にいるのだ。


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