第5話 JC訓練校、入学!
くろにくる うんちく講座 第4回
怪獣
シード隕石群由来と目される特殊な生物群。遺伝子ベースで考えると、虫と人間でさえ生物種としては親戚関係にあると言えるわけだが、その既知の系統とはまったく別種の生物。遺伝子的な要素は西暦2021年三月時点では確認されていないが、DNA・RNA系ではないだろうことは確実視されている。
学術的にも「怪獣」が正式名称。
西暦2010年頃、シード隕石落着から十年ほどを経て、世界各地でその出現を確認され始めた。
多くは体長が十数メートルから数十メートル。(西暦2021年三月時点)
三段階のおおまかな大きさごとに形態の傾向がみられ、節足動物的なことが多い「小型怪獣」、哺乳類的なことが多い「中型怪獣」、草食の四脚恐竜的なことが多い「大型怪獣」と分類されている。
怪獣の特異性として、似通った形態の場合でも、細かい部分ではそれまでの基準だと別種の「種」と思えるほどに違う形質を持っていることが普通である。それでいて、機能停止後に分解、別の個体の体組織を接続しても免疫の拒絶反応のようなことは発生しない。
地球の各所、特定の地域の地中から出現してくる。
怪獣は、体組織とシード隕石の比較から、人類に回収されなかったシード隕石が成長した存在と推測されている。つまり、地球外の天体由来の「種」であるという説が主流である。
特にわかりやすい特徴のひとつとして、地球由来の脊椎動物群に類似の形態の個体でも、血液や心臓などに類する循環器系や呼吸器系を持たない点がある。
切断された部位を何か月単位で放置しようが、再度条件を満たせば問題無く機能する。
機能停止した、過去の概念で言えば死体などに思える状態であっても、微生物由来を含め、環境による化学的な腐食らしい腐食が起こらない。
似たような外見の個体が別個に確認されることもあれば、同じ出現地域から似た時期に複数が出現する場合でも、まったく異なる生物のような外見であることも多い。「怪獣」としての共通点はその体質だけとも言えるが、外見が異種の生物のように思われる場合でも、怪獣同士での敵対行動は見られない。
その身体は皮膚や外殻のみならず、骨格や筋肉のようなものをはじめとした多くの体組織が金属やセラミック質のように感じられる。それらは「Uスキン」「Uマッスル」などと呼ばれ、「U素材」「U組織」と総称される。「U」はUltra、Ultimate等、由来は他にも諸説あるが、一般人も含めたインターネットでの情報交換時に自然に定着していた。
粘性で白色の体液「Uパテ」は存在するが地球の動物の血液と機能は異なり、心臓のような器官を含めた体液循環系はなく、呼吸に類するガス交換系機能もあわせ、それらの機能を持つ個体は西暦2021年三月現在、確認されていない。
頭部、口にあたる部位は多くの個体に存在するが、その一方で摂食行動もまた確認されたことはない。内臓器官に近いのはメタルハートぐらいであるが、構造としては独立した金属塊のようなものである。
金属塊のように見えるメタルハートがバッテリーのような機能を持っているが、「主に」とも言える。基本的にどの体組織も電磁波の類を電力に変えて一時的に蓄えたり、余剰分をメタルハートへ送ったりする機能を持ち、また回生ブレーキのように動作に伴う圧力や変形などでも発電をしており、身体を動かすだけであれば、それまでの常識に基づいてみるのなら無尽蔵に動くのではないかとさえ感じられる。
体表に個体により一個~複数の透き通った結晶状の部位があり、主要なものを砕かれると動作を停止する。おそらく脳のような機能を担っていると考えられるこの部位はクリスタルコアと呼称される。他の体組織は、硬さは様々であるものの結合は頑強で、ただの衝撃などでは変形こそすれ、断裂などはまず起きない。クリスタルコアはダイヤモンド同様、硬いが脆い。ここのみが、通常兵器で有効打を与えることが可能であった。
往年の日本の特撮映画という娯楽物を由来として怪獣と呼称されるように至ったわりに、理由は深刻である。巨体を別にしても性質として強靭すぎる怪獣の身体は、それまでの通常兵器でまともに傷つけることは、クリスタルコア以外は容易ではなかった。ゆえに各国の軍隊はかなりの消耗を強いられた。
出現当初こそ人類に敵対する存在なのではないかという意見も多かったが、十年を経て得られた情報から、「単純に他天体という外部から移入してきただけの新種の生物」であると判断したほうが自然であるとする学説が主流。そうだとすれば「今までいなかったが、他の大陸からやって来た生物」のスケールが大きいバージョンでしかない。
怪獣の活動は、あくまで結果として現代の人類の社会・生活基盤に大きく破壊をもたらすだけであり、怪獣側が人類を特別視している様子は見られないという説が主流。つまり、人類側が自らの都合で彼らを駆除しているに過ぎない。
対特殊生物自衛軍
怪獣出現以降、他に手段が無いという消極的理由で、当時の自衛隊が対策に駆り出された。だが、当時の法令に雁字搦めに縛られて思うように動けない中、明らかに国民の命を守るための活動にも関わらず、一部のマスコミや政治家に批判されるという状況も生まれていた。とにかく法整備が必要となる中で、民間人の少女が後に言うところのJCで怪獣を倒し、さらには自在甲冑で怪獣を倒し始めるということにもなり、混乱に拍車がかかった。そこで自衛隊を怪獣対策も視野に入れて改組するという動きが修正され、自在甲冑を用いて怪獣討伐を主目的とする対特殊生物自衛軍が設立された。
ニナやナゴミなど、自警団的に怪獣討伐を行っていた者たちと、志願して自衛隊から転籍してきた者たちが構成員の大部分を占める。
名称は「自衛軍」で、素人目には陸海空と同列に見えるが、実のところ軍隊ではない。他国との武力衝突は本来の活動には含まれていないのだ。ただし、アメリカの沿岸警備隊の扱いに似ており、戦時になれば陸海空の各自衛軍の指揮下に入ることになる。
怪獣対策行動においては、逆に陸空海の自衛軍は特生軍の指揮下に入る。
基本的には特生軍の基地は他のいずれかの自衛軍の駐屯地と併設されており、一部の装備などは融通しあっている。
明確に「軍隊」とされた陸海空の自衛軍と異なり、軍隊ではないこともあって、階級の頭に「特殊」と付く。つまり特生軍のバスターたちは厳密には軍人ではない。
第5話 JC訓練校、入学!
北海道JC訓練校の入学式の前日。
きたじぇの敷地に隣接して建てられている学生寮に、新入生の榊リエルは日課のランニングを終えて戻って来た。実家は比較的近いのだが、彼女は数日前、入寮可能になった初日に転居を終えていた。
身長は高め、細身で一見華奢だが実は筋肉質な体つきで、ロングストレートの髪。むき出しの額が汗で輝いている。
特にそのつもりは無くとも威圧的ととられることが多い吊りがちの目は、ここにいるはずのない、見慣れた人物を捉えた。思わず、不快さに表情を歪める。
視線の先、重そうな段ボールを抱えて寮の入り口から入って行ったのは、チハだった。
チハとリエルは中学のクラスメイトだったのだ。
リエルは、寮の入り口からやや離れた場所で、クールダウンを兼ねてストレッチを始めた。そうしながら様子見の視線を寮入り口付近に送る。
段ボールはどこかに置き、すぐに入り口に戻って来たチハは車の運転手と会話を始めた。
それがあのザ・ファースト・バスターであることに気づき、リエルは驚いた。
チハがナゴミと知り合いであることは知っていたが、こうして実際に親しげに話しているところを見ると、非常に不思議な印象を受けた。
チハが大きさの割に軽そうな段ボールを車から持って出ると、ナゴミが運転する車は走り去った。
自分と荷物を送ってくれたナゴミの車が去るのを見届けたチハが寮へと向きを変えると、リエルは近寄って声をかけた。
「あんた、どうしてここにいるの?」
「あ、榊さん……」
振り向いて相手がリエルであることを認め、チハは気まずそうに黙り込んで視線を泳がせた。
中学校は一学年が一クラスで、当然として、ふたりはずっとクラスメイトだった。トモも一緒である。
チハは比較的誰とでも気軽に打ち解けるタイプで、一方のリエルは人付き合いを疎む性格であり、クラスではあまり他者との接触を好まなかった。
しかし、その傾向以上のところで、他者の悪意などに鈍いチハでも、自分がリエルから敵視されているようなところを感じていた。
「あんた落ちてたよね?」
「なんで知ってるの?」
目を見張って驚いたチハに対し、リエルは露骨に溜息をつく。
「あれだけうるさけりゃ、イヤでも受験番号が聞こえるっての」
「そっか」
合点がいったらしいチハが、少しうれしそうに微笑む。
「それで、おぼえててくれたんだ」
常人の感覚よりも、よく言えば善意に、わるく言えば都合よく物事を解釈するようなこういう部分もまた、どうしてもリエルを苛つかせる。
周囲に構わず大声を出すような無神経なところや、そういった際の発言が周りに聞こえて把握されている可能性に思い至らない鈍感なところも。
「もしかして、辞退者が多くて親にねじ込まれたの?」
寮の室料や食費などは格安である。それ以前に、よほどでなければ通学困難な立地により、建前は義務ではないが、生徒は全員入寮するはずだった。
だが、リエルが入居して以降、合格者三十名に対し、一棟すべてが新一年生用の寮にはピークでも二十名ほどしかいなかった。それどころか、入ったばかりのここ数日で退去者が相次ぎ、今では十名しか残っていない。
怪獣の大量出現と超大型怪獣の出現がほぼ連動しているという情報が揃っている現状で、大雪山の怪獣出現地域でも大量出現が起こった。
マスコミが報じているように、現状、超大型怪獣に対して日本には確たる決め手が無い。
そして実際に先月行われたように、この時は戦闘ではなかったが、訓練生でも状況次第で現場へ送り込まれる。
そんなリスクの高いところへ娘を送り込む親は、あまりいないだろう。
リエルの場合は、バスターという命がけの職業を志望することに対して反対する親とは、そういった議論は以前に一通り終えていた。元々が勘当同然で許可をとりつけていたので、大量出現や超大型怪獣に絡んでも、軽い確認のようなやりとりがあっただけで、それ以上、改めて蒸し返されることはなかった。どうせ実家は近所でもある。
残っている何人かの新入生と話したり会話が聞こえたりした結果、彼女らは大体地元民や特生軍関係者の身内のようだった。日頃から、ある意味で本人と家族の心構えは済んでおり、現状もその延長に過ぎないというところか。
リエルの推測に、チハは困惑する。
「え、その……」
「どうせ定員割れなら、どうでもいいか。ほんとは落ちてたのに親の七光りで入学したなんて言われないように、精々落第しないようにがんばんな」
リエルは早々に興味を失った。
チハが成績などで自分と競い、進路の妨げになるとも思えなかった。
一緒に受けていた模試の筆記分野では、リエルとトモはいつも合格判定で、チハは合格ラインを上回ったり下回ったりしていた。
チハは、JK操作適性だけはずば抜けて高く、しかしシミュレーションの模擬戦やJK製作作業などのスコアでは、やはり合格ラインのあたりをうろうろしていた。
リエルの目から見れば、本人の希望を除き、いろいろな意味でバスターやJK職人系に向いていない。そもそもJK職人志望ということも、軽い気持ちで言っているようにしか見えない。
親があの九七式二七であり、大和とは幼い頃から親戚同様の付き合いをしている。そしてファーストとセカンドの適性は、上限いっぱいのSランク。
恵まれた環境、恵まれた素質。それでいて、JK関係職志望というのが本気とはとても思えない普段の言動、関連知識の無さ、認識の薄さ。
こういった部分を始めとして、他の地域から転居してきて同じ中学校に入学したチハとクラスメイトになった頃から、リエルはチハのことが嫌いだった。
「榊さんからそんなこと言ってもらえるなんて……。ありがとう、がんばるね」
リエルの皮肉を、チハはただの激励と理解して礼を述べた。
それがまたリエルの神経を軽く逆撫でし、自然と嫌味が口をつく。
「どうせ、あんたのシミュの内容とか知識じゃ、落ちこぼれるだろうけどね。補欠合格したことを後悔しないようにね」
言ってしまった、と自省しないでもないが、単純な事実だとも思う。
「うん……」
力なく頷いてしまうほど、本人でさえ自覚があるのだ。
リエルがどうこうするまでもない。
模試やシミュレーションの結果を踏まえれば、何もしなくともチハはJC訓練校で苦労し、恥を晒すことになるだろう。むしろバックボーンが惨めさを強調すらし得る。落ちこぼれとして補欠合格したことを悔やむ結果になる可能性は、低くないと思えた。
翌日、北海道JC訓練校の入学式。
榊リエルにとって、担任があの大和であるということは、これ以上ない朗報だった。他の新入生の多くにとっても、おそらくそうだろう。
式では、昨今の超大型怪獣の出現や、大雪山の怪獣出現地域の動きなどを踏まえて、入学辞退者が大量に出たことが校長直々に語られた。そして状況次第で訓練生も動員されるため、覚悟を決めておくようにということも。
だから訓練生は、学費を払うのではなく、手当てを与えられるのだ。
予想された以上のことはなく、入学を渇望していた学校の入学式ながら、リエルは退屈に感じていた。こういった、実益に繋がらないように思える形式的なことは好きではなかった。今回は、新入生が十一名と少ないので、何かあれば目につくだろうことから、外面は取り繕う必要があるのが面倒だった。
入学式の終了が宣言され、リエルはようやく教室へ行って座れるのかと思った。
しかし予想外にも、律儀に式典を区切った上で別の発表が始まった。
JC訓練校の訓練生は、全員が対特殊生物自衛軍所属である。
だが「ドレッサー」資格を取得して卒業した後は、対特殊生物自衛軍に正式に採用されるとは限らない。
その資格を元に、陸海空の自衛軍や、場合によっては民間へ、JCのドレッサーとして採用されることもあるのだ。単純に汎用作業騎として、JCは非常に利便性が高い。
ドレッサーの仕事がすべてバスターではないが、何かあった際には最悪バスターとして戦えるようにという前提の上で、基本的には就職先を斡旋される。
ゆえに卒業生の一部のみが対特殊生物自衛軍へと正式に採用される。
その中で一部はJKやJCの製作系部門、通称「職人系」に回る。こちらもJCを用いて等身大のフィギュアや付属品を作るような形になる作業が多いことからドレッサー資格が必要であり、求められる能力はバスターとは異なるものの、バスターに次ぐ花形とも言える。
そしてほんの一部が、対特殊生物自衛軍のバスターになる。
これらの内訳は、公表されているほぼ「予定」とも言える。なぜなら、昨年ようやくJC訓練校の第一期生が卒業したからである。
その第一期生で、きたじぇから特生軍のバスターになれたのは、三十人のうち、たったふたり。
リエルはそのふたりの活動内容を思い出し、内心辟易した。
この訓練校を卒業したところで自分はバスターになれるのだろうかと自問する。
もしも狭き門をくぐりバスターになることができたのなら、晴れて「特殊曹長」の階級が与えられる。
考えに耽っていたリエルの耳に、校長自ら発表した信じられない内容が飛び込んできた。
耳を疑う彼女の目の前で、壇上に呼ばれたチハは特殊曹長を任じられたのだった。
訓練生として落ちこぼれるだろうとリエルが確信していた相手は、先日公開された次世代型JK候補試作騎の適性を測るシミュレーションで、気が狂いそうなほどの回数の挑戦でスコアを伸ばし続けていたリエルにさえ想像もつかない数値を出していた。
愕然としたリエルは、不意に記憶を揺さぶられた。
きたじぇ志望と聞けば、大抵の人がまっさきに思い浮かべるのはバスター志望である。
JK職人系も、もちろん大切な仕事であり、要求される能力は高い。様々な理由から職人を志す者も多いだろう。自らはバスター志望だが、リエルはそちらも尊重する。
中学校で入学したての頃、きたじぇ志望を公言していたチハが言った言葉。
「戦いなんて、したくない」
だから、職人志望なのだと。
バスターは、自らの命を懸けて、人々を守るために戦っている。
自在甲冑職人は、その戦いを支える要である。
リエルがチハを嫌いになったきっかけはおそらく、他者のための命がけの戦いを軽んじているとしか思えない、この発言だった。
入学式が終わり、生徒たちは教室で担任教師の話を聞いていた。
元々クラスは各学年ともひとつなのだが、便宜的にどれもA組となっている。
一年A組の教室で担任教師として教壇に立っているのは、ザ・ファースト・バスターこと大和その人だ。
朝、教室に入って来たときから大部分の新入生は色めき立ち、驚愕や憧憬など様々な視線に晒され、本人は非常に居心地が悪そうである。
「……というわけで、おそらくは先日の大量出現の再発や、そこの出現地域から超大型怪獣が出てくる可能性を検討してだと思うが、今年の入試合格者は大量の辞退者が出た。その結果、本来、一学年三十名のところが、入学者は十一名だ。ひとりは特別枠での追加だったが、定員割れは変わらない。そしてこれも入学式で校長先生が言っていた通りだが、お前たちが特生軍所属という立場になり、学費を払うのではなく給与をもらいながら訓練校へ通うというのは、いざというときに怪獣と戦う人材を確保するためだ。いざ命令されてから断るというわけには当然いかないので、肝に銘じるように」
ナゴミは言葉を切って見回したが、流石に半分以上がいなくなっているだけあるのか、脅しのようなこの言葉に動じるような生徒はいなかった。
「実際に大量出現の日の当日からしばらく、怪獣の後始末や町の復旧作業など、使えるJCも生徒も、この訓練校から駆り出されている。お前たちも今後、適性や能力に応じて駆り出される可能性はあるからな。申し訳ないが、状況が状況なのと、上級生からも自主退学者が出てしまってやや人材不足気味なので、今日、後で早速適性などを確認させてもらうことになった」
命令は断れないと言いつつも、未成年である以上、今の状況では保護者の意向が入れば組織としての強制力は発揮できない。最終的には本人の覚悟と保護者の理解の両方が必要となるのだ。
シミュレータルームには、各座席にコンピュータと、特生軍のJKのものとほぼ同型のヘッドドレスが用意されていた。
ナゴミ教諭は、軽く使い方などをレクチャーした後、指定の仮想空間内で交流も含めて操作練習でもしながら待つように生徒に指示をし、新入生それぞれのトランスレータに付属しているシミュレーション履歴などに目を通していた。
シミュアプリ自体は公開されており、NCインターフェースにHMD、インターネット接続と、環境さえあれば一般人が自宅で使うこともできる。小学校や中学校などの公共施設にも極力環境は整えられており、希望する候補者の養成に漏れが無いように努められている。これ自体は現物のJKやJCと異なり、男性でも使用することが可能である。
その目的等の特殊性からオープンソース化されているのだが、結果としてそれに手を加えてゲームのようになったものまで存在しているが、操作スキルの向上自体には役立つこと、何が今後の役に立つかわからないことなどから、特生軍は公式としてはそれらについても否定的な見解は示さず、どちらかというと肯定的に扱っている。
トランスレータとアプリのアカウントは紐づけられており、公式のシミュレーションにおける評価などは客観的な指標に用いることができるのだ。JC訓練校の入学審査にも用いられている。
仮想空間内には生徒と同じ数、十一体のセカンドJKのHM型とMS型の姿があった。
シミュレーション上は様々な外装を選ぶこともできるのだが、今回の授業ではHM型もMS型もタイプ別にシンプルなロボットのような外装になっており、頭上に生徒名が示されていた。
各々が思い思いに調子を確かめたりするように動作する中、HM型の一体「榊リエル」は拳撃や蹴りなど、格闘技の動きを繰り出していた。
Uマッスルの過剰とも言える出力から得られる身体能力は、仮に人間を相対的な身体能力もそのまま十倍に拡張した場合に比べたとして、遥かに勝る。
実際には質量そのものは千倍となっており、さらに、人体とまったく同じ構造というわけでもないことから、適性の高い者は自分の身体感覚を転用しやすいとは言え、それでも思い通りに動かすのは才能と修練がいる。
しかしリエルは、コマ落としに見紛うごとき速度で、ブレなく拳突きや蹴撃を放つ。
隣席の生徒のJKがリエルの操作するJKに近づいた。
「やっぱり榊さんて、あの『リエル』なの?」
設定は仮想空間内の距離に基づいたヘッドドレス越しの通信だが、本人も近くにいるので、おかしな聞こえ方になっていた。
「あのってどの?」
本名だけ言われ、「あの」と言われたところで、本人にしてみれば特定が困難なのは普通と思われた。
不機嫌そうな返しに、質問した生徒は少し怖気づいた。
「あの、違ったらごめんね。GBカップのJK対人トーナメントでこの前優勝した人が、リエルって登録名だったから……」
民間団体主催の、オンライン上で行われた「JK対JK」の大会である。シミュレーションをゲームのように使ったイベントなどは多数あり、これは特に大手のものだった。
シミュレーションは設定次第で男も操作でき、この大会は参加者の性別も不問だった。
「ああ、たしかにうちだわ」
「やっぱり⁉ すごい! 世界一でしょ⁉」
驚愕した声に、聞こえていた数人も寄って来ていた。
「やっぱりそうなの? 名前見た時から気になってたんだけど」
等々、囲まれ、はしゃがれるリエルは特にうれしくなさげだった。
「別に、そのことと現実でバスターになれるかは別だから」
鍛錬を重ねるように動作を反復しながらのつれない返事に、集まった者たちは沈黙してしまう。
「どんなことでも大会で世界一ってのがすごいのは、たしかだろう」
いつのまにか、仮想空間内にファーストのJKが出現していた。全体に寸胴な印象を与える身長十八メートルほどの姿。
教師であるナゴミが操作するもので、彼女はセカンドの適性は低いため、ファーストを用いているのである。
通信は、生徒たちが雑談で使った空間内距離準拠の音量ではなく、同一空間内の全員に届くものだった。
「大会の順位はどうあれ、その体術、すごい技術だな。ただ実際、素手の格闘技は怪獣相手の実戦じゃほぼ使えないんだけどな」
優勝すら横に置かれた上での、この言葉にリエルは無表情だった。
ナゴミも含めて皆、ヘッドドレスを使ってJKの視点のため、気づく者はいないが。
「なぜか、わかる者はいるか?」
「まずは言うまでもないですが、リーチです。他に、バスターの基礎として、『運動エネルギーは質量に比例し、速度の二乗に比例する』ことがあります。剣などの武器を持ち、角度当たりの速度を近いところまで出せるなら、手刀などに勝る質量と速度が掛け算で乗り、圧倒的に破壊力を秘めることになります。ごくおおざっぱには、以上などの理由から、怪獣のクリスタルコアを壊すためには、基本的に手持ち武器を使用します」
淡々とリエルが述べると、ナゴミの操作するJKは腕組みをして頷いた。
「優秀だな」
それでも尚、リエルの表情は変わらなかった。
放課後、一学年で十一名しかいなくなってしまった一年A組の生徒たちは、通常のクラスメイトよりも連帯感を意識する者が多く、チハ以外全員が教室に残って話し込んでいた。
きたじぇに隣接した敷地に寮があるため帰宅時間を考慮する必要も無く、全員同じ寮のため、どちらにいるかだけの違いとも言えることもある。
リエルは乗り気ではない様子ながら、質問などに返事はしている。中学時代などと違い、十一人という人数の中で孤立するのは、さすがに得策ではないと考えていた。
ひとりの生徒がふと窓の外を見ると、チハがナゴミの運転する車に乗りこむところだった。
「あれ、九七式さんじゃない? 先生と、基地に行くのかな?」
「さすが特殊曹長殿~! すごいよねー!」
つられて視線を送った生徒たちは、やいのやいのと騒ぎ立てる。
チハの自己紹介のとき、世界で初めてJKを実用化したとされ、且つ現対特殊生物自衛軍司令であるあの九七式二七の娘であることでも彼女たちは盛り上がっていた。
「榊さんたちは、中学でもクラスメイトだったんでしょ? なんか知ってる?」
「うちは特に知らない」
リエルは、常のごとく冷ややかに見える表情で答えた。
自然、視線がトモに集まり、人見知りする少女はおろおろする。
「あの……、校長先生が言ってた通り、サード候補の試作騎の手伝いとかしてるらしいよ」
「ほんとすごいよね、戦ったりしちゃうのかな!」
少女たちが興奮して盛り上がる中、リエルは冷ややかな顔で窓の外を見つめていた。
しばらくして、対特殊生物自衛軍のシミュレータルームで、チハは正式なバスターたちとシミュレーションに励んでいた。
仮想空間内には、簡素なロボットのようなMS型のチハ騎の他、トリックスター、ガンバルオー、ヴァルキュリヤの三体がいる。
それぞれのバスターは、トリックスターが鎮丘茶乃特殊少尉、ガンバルオーが蒼杜凛護特殊少尉、ヴァルキュリヤが籠縞真桜特殊中尉で、各々、実際の専用騎だ。
三人とも特生軍設立前から活動していたバスターで、ベテランのエースである。
このシミュレータルーム内からチハと一緒に参加しているのは、チャノとマオウのふたりだった。
チャノは二十歳。元々硬めの直毛をツンツンさせた茶髪で、雰囲気はヤンキーである。
トリックスターを外装に使用しているのは、妹たちが好きだったからである。
元ネタを全く意識せず、動作ががさつであることから、事情を知らない元ネタファンの一部からは、原作軽視の知名度利用だのと批判されている。
マオウは基地のバスターとしては最年長となる二十五歳である。ふわふわした髪を長く伸ばしており、性格はおっとりしている。長身で、やや肉付きがよい。
ファーストのバスターとして戦っていた者たちでも、ナゴミのようにセカンドの適性は低いことは多かった。状況の変化により適性の高い候補者を見つけやすくなったこともあり、セカンドバスターへは代替わりのような形が基本だった。だがマオウは、ファースト時代から、そのままセカンドでも戦ってきた希少な人材である。
チハと同い年の十五歳、ボーイッシュな雰囲気のリンゴは、いま現在、怪獣迎撃地域で待機中のJKの中から、遠隔で参加している。先の戦闘での損傷、換装の結果、実騎の外装は元ネタアニメのガンバルオーの二号ロボ「ヤルキング」になっている。
彼女は兄の影響もあって幼い頃見ていた元ネタアニメには思い入れがあり、たしかに好きなのだが、特にアニメや漫画全般に強い興味があるわけではない。
エース三人が見ている中で、チハ騎は小型怪獣をなんとか撃破していた。
バスターとしては、現在の特生軍のセカンドを用いるのであれば、それぐらいは単騎で撃破できることは前提である。
近接武器で入り乱れて戦闘することから、数が多すぎても不都合が生じるため、基本的には特生軍はエースを小隊長に据えた四人一小隊を基準に怪獣の討伐にあたっている。
全長40メートル以上ある大型怪獣さえ相手取り、それで普段はこなしてしまっている。
対象が多かったりすれば待機組もすぐに前線へ送り込み、損傷した機体があれば入れ替える形であるが、そんな事態も滅多には生じなかったのだ。
チハ騎は、今度はネコ科のようにも見える全長20メートル以上の中型怪獣を相手にしていた。
他の三人が怪獣の気を引いたのに合わせ、チハは思い切って距離を詰め、手に持った剣を振るう。
刃は惜しいところで頭部クリスタルコアの端を叩き、多少は損傷を負わせることに成功するも、ダメージとしては軽微である。
結果、最優先攻撃対象として認識されたチハは、咄嗟にステップをジグザグに重ねて距離を取った。JKを用いての体術と考えるならば、機敏さやバランス感覚などは優れている。だが、同様のUマッスルを持つ怪獣は、一跳びで距離を詰めてしまう。
さらに跳びかかられて、悪あがきのように情けない姿勢で剣を盾にして縮こまる。
怪獣は、横からヴァルキュリヤのドロップキックとガンバルオーのタックルを喰らい、姿勢を崩して倒れこんだ。
すかさず距離を詰めたトリックスターが、柄の長いピックハンマーのピックを精確にクリスタルコアに叩き込んで粉砕する。
魔法少女型フィギュアは、ぞんざいな仕草でピックハンマーを肩に担いだ。
「とりあえず、ここまでにするか。リンゴ、お疲れさん」
「わかりました。みなさん、お疲れさまでした。失礼します」
使い手の言葉に対し、ガンバルオーはヒーローが去り際に取るようなポーズで虚空に消えていった。
チハとチャノ、マオウもログアウトし、ヘッドドレスを外した三人はシミュレータルームで向き合った。
項垂れるチハを、チャノは眉を寄せて見つめる。
「やっぱりダメだな。職人系志望だったなら、しょうがねーのかな」
マオウは頬に手を当てながら、気遣うように口を開く。
「死にそうな目にあったんだものね。仕方ないわ」
「けど、あの時の紅姫なんて、すごかったのにな」
釈然としない様子のチャノに、哀しそうにチハは俯く。
「あの時はもう、無我夢中でしたし。それに、攻撃はきちんと当てれなかったんですよ」
「そっか。あたしらの流儀だから、訓練とか強制はしねーけど、いざというとき戦えなくて後悔はしねーようにな」
「はい……」
俯くチハに、チャノは気まずそうに人差し指で頬を掻く。
「実際、一緒に戦うことがあるかわかんねーけど、バスターとして特殊曹長んなったわけだから、今言っとくな」
怯えるようなチハに、チャノは真剣な顔になる。
「特生軍としても言われてるけど、もともとあたしらが勝手に内輪で言ってたんだ。誰かが死にそうになったとしても、それを助けようとして無駄死にしたりは、絶対にしないこと」
チハが真顔になり、理解を経てゆっくりと頷いたのを確認し、チャノはさらに続ける。
「あたしなんかが死にそうになっても、一緒に死ぬなら絶対に助けようとするな。そしてそれは、逆もだからな。お前が死にそうになっても、無理だと思えばあたしは助けない。あたしには妹たちがいるからな」
「わかりました」
少女の宣言にチャノはにっと笑い、マオウも困ったようにだが微笑んだ。
「じゃ、まー、あらためて、よろしくな」
チハはナゴミとともにニナの執務室へ来ていた。他にエレナ、レイコもいる。
「それでは、正式に特生軍所属となった九七式千八訓練生の、今後の取り扱い方針を決めるため、現在の状況を確認させてもらいます」
集められた面々にニナが伝えたのが、この言葉だった。
JC訓練校に入学したことによって、厳密な所属としてはチハも対特殊生物自衛軍となった。これまでは、グレーゾーンでの民間協力者のような立場であったが、ある意味で堂々と扱うことができるようになったのだ。
ナゴミは眉を寄せて軽く首を振って見せた。
「ドラムキングで戦うことになる可能性を考慮しての戦闘シミュレーションに関しては、一通りのエースに指導させましたけど、見込みはありません。自由に使いこなせるふつうのJKですら、まったく希望はないですね。ドレッサーとしては特異な才能を持っているが、バスターとしての素質は無いという意見で全員一致しています。理由の推測については、『才能がない』『臆病』『気が小さい』『やさしすぎる』といろいろな意見は出ていますが、結論は一緒ですね。なんにせよ向いてないと」
日本での公的な資格は、JC/JKの操作適性があり、実際に思い通りに操作できる「ドレッサー」のみである。しかしながらJKを使って怪獣を倒すことができる「バスター」という語が存在することには、それだけの意味合いがあるのだ。
人間で例えるなら、日常生活を送れる水準で自分の身体を操れるのがドレッサーだとして、武器を用いて熊や虎を倒せるのがバスターというイメージになる。
JKを自由に操れることと、戦いが得意であることはまったく別なのだ。
ニナは複雑な表情で視線を落とす。
「それは私も顔を合わせたエースたちから聞いてはいます。この顔ぶれだから言うけど、それだけなら、大特尉もそうだった、とは言えるのよね」
これにナゴミは達観したような顔になる。
ザ・ファースト・バスターは歴戦の戦士のように扱われ、実際そうであるのだが、運命のいたずらさえなければ、彼女は少女漫画の好きな、ただの女の子だった。状況に飲まれる内に、否が応でも相応の感覚などを身につけざるを得なかっただけだ。
「とりあえずわかりました。では、次にドラムキングのほうは?」
雷特殊中尉は気まずそうな顔になった。
「複座のコックピットの設計は順調ですけど、先行している複座でのシミュレーションの手応えは、アレの時と同じですね」
「やっぱり無理かしら」
前例があった以上覚悟はしていたのだが、ニナは溜め息を吐いた。
技術部でレイコたちが打ち合わせしている時、一緒にいるラリサはヒマつぶしに記録映像を漁っていた。
「でもさ、チハもだけど、レーコもすごいよね、アレ、どうなってんの?」
レイコが各種装置も利用してJKを操作している動画を指さしている。チハが乗る以前にドラムキングを動かしていた際のものだ。
「わたくしは、通常のJKも補助装置が無いと動かせないので、その応用なのですわ」
「え⁉」
ラリサが驚愕し、レイコは恥ずかしそうに俯いた。
「通常のJKでは、自分のコンピュータを持ち込んで、パターン化された単純作業などの動作はある程度はできますけれど、戦闘はできませんの。紅姫は、わたくし用の操縦装置を積んでありますけれど、それでも行える動作は限られますので」
エレナは微笑んで補足する。
「レイコちゃんは、本来バスターじゃなくて開発とかの技術部要員で採用されてるからね。紅姫は、操作適性部分でのバスターのハードルを下げるテストケースも兼ねてるんだ」
「わたくしはセカンドの操作適性は、おまけしてもらってDですから、今の基準だと、本来はバスターになれませんの」
「「えぇっ⁉」」
恥じらうように微笑んでの言葉に、今度はチハも驚いた。
紅姫の操作を頼まれ、レイコの特殊な操作も見て、ある程度は察していたが、そこまでとは思っていなかった。
エレナは少し楽しそうに説明する。
「正確には、訓練生でありながら特生軍に入ったというよりは、特生軍に入れるためにきたじぇに入れたんだよ。今の状況だと、JC訓練校にすら入ってない十代の一般人をいきなり採用するっていうのはさすがにね……」
体裁を整えるため、本来は合格できない水準のドレッサー適性でありながら他を含めた総合的な能力を勘案して特例でJC訓練校に入れ、その訓練生の能力を評価して特例で特生軍の技術部に配属したのである。ある意味では黎明期のバスターみたいなものだ。
「普通のバスターが着ぐるみを着ているようなものだとしましたら、わたくしはほんの少しだけ動かせる着ぐるみを着ながら、さらに糸で外からも無理矢理動かしているようなものですの。相手の性質や癖、地形や環境といった前提条件を考えて、どうにか有利に立ち回ってるにすぎませんのよ」
ラリサとチハは絶句し、ナゴミは複雑な顔で頷く。
「まあ、怪獣相手だと、まさにそれが人間の一番の武器だしな」
レイコは哀しそうな顔になった。
「ふつうのドレッサーと同じ操作だけでしたら、わたくしは、とても戦うことのできない、ぎこちない動きしかできませんわ。それを自作の補助プログラムとそれを使う入力装置などで無理やり補正しておりますの」
ナゴミはチハを見据えた。
「そもそも、よほどの特殊事情が無いと、現役の訓練生をバスターになんてしない。艦上特殊少尉は、試験運用として実戦を繰り返して、結果としてバスターの実績を得たんだよ」
見つめられたチハは驚きながら、憂鬱な顔になった。
つまり彼女の辞令は「よほどの特殊事情」に該当するということだ。
チハが寮へ戻り、食堂の横を通ろうとした時だった。
大きな「あ!」という発見の叫びを合図に、「九七式さん、おかえりなさい!」「おつかれさま!」「どうだった⁉」「なにしたの⁉」などなど、夕食後にそのまま交流を深めていたクラスメイトの面々に腕を掴まれて引きずり込まれ、質問の渦に飲まれてしまった。
「先生からは、特殊曹長にはいろいろ便宜を図るように、なんて言われたからね、なんでも言って!」
などとも言われ、チハは目を白黒させた。
突然囲まれ、やいのやいの言われて戸惑う特殊曹長は、助けを求めるようにトモを見た。
トモは肩をすくめて、どうしようもないといった顔をしている。
自分が帰るまではトモが可能な限り質問に対応していたのだろうとチハは気づき、かえって申し訳なくなる。
バン‼
突然炸裂した大きな音に、視線が集まった。
ひとりだけまだ椅子に座っていたリエルが、教科書でテーブルを思い切り叩いた音だった。
「うるさい!」
普段から温かみの感じられることがあまりない彼女の剣幕に、生徒たちは黙り込んだ。
衝撃で倒れた湯呑から玄米茶がテーブルに広がり、リエルは舌打ちをしながらティッシュでぞんざいに拭う。
クラスメイトそれぞれの顔には不満や非難、怯えなどが浮かんでいた。
「みんなごめん、今日は疲れてるから、質問とかは明日にしてもらえるかな」
チハの言葉を受けて、生徒たちは口々に謝罪や労いを伝えてホールを後にした。
残ったのは、チハとトモとリエルだけだった。
お茶を拭き終えて不機嫌そうなままのリエルに、チハはほっとしたように笑みを向ける。
「ありがとう。榊さん」
「別に、あんたのためじゃない」
トモは不安そうに見守っている。
同じ中学の元クラスメイトではあるが、元々リエルは近寄りがたい雰囲気に加え、特にチハのことを敵視するような様子もあり、ふたりと彼女に接点はあまりなかった。
リエルはチハを睨みつけた。
「ウチは、怒ってるんだよ」
「……ごめんなさい」
俯いたチハの謝罪に、リエルは舌打ちする。
「なんで謝るのさ」
「だって……」
「アンタはわるくないでしょ。あのデカいの、アンタなら動かせて、アンタしか動かせないんでしょ?」
チハを遮ったリエルは、怒りを抑え込むように拳を握りしめていた。
「うん……。エースの人たちでも、ぜんぜんダメなんだって」
リエルは自嘲のような笑みを浮かべた。
「そりゃそうでしょ。シミュレーションは、当然ウチも試した。理屈だって、自分なりにそれなりに理解したつもり。あの試作騎を『無駄遣い』だなんて言うのは、能無しだ」
リエルは一部の政治家を「能無し」であると断言し、鋭い視線をトモに飛ばした。
「水本だって、わかったでしょ」
眼鏡の少女は怯えたように目を伏せながら答える。
「うん。設計思想そのものは、すごく単純。発想はファーストからセカンドへの変化と一緒で、ただそれを大規模にしただけ。いろんなサード候補の案が語られてるけど、一番無難な設計だと思う。それこそ、鉄人とかの時と同じだよ。どうして動かないのかのほうが不思議なぐらい。ただ、たしかに人体と比較するとUマッスルの構成が特異だから、プログラムでの補助をあまり期待できないなら、操作できる人なんて……」
「ゼロから始めて、どれぐらいで九七式と同じ水準まで行けると思う?」
そういう意図は無いのだろうが冷ややかにも感じられる視線に射抜かれているトモは、おどおどしながら答える。
「よっぽどアレに向いた特殊な才能がある人が完全に訓練に特化した生活をして、最低でも数か月はかかると思う。けどたぶん、きっとそれだけじゃ、アレは動かせない。そもそも世界中に向けて募集しても、今に限ればチハちゃんみたいな人はいないと思う」
チハは戸惑った。エレナやレイコも同じようなことを言っていた。だが、自分としては何も特別なことをできているつもりはないのだ。
「九七式は、どうしてあんなスコアが出せるの? ウソじゃないんだよね?」
あらぬ疑惑に、チハはぶんぶんと首を振る。
「ウソじゃないよ! 今からシミュレータルームで見せようか⁉」
「いいよ。それより、どうしてあんなことできるの? 親から教育されてたの?」
リエルは淡々と確認した。
「ううん。お母さんは、どっちかと言うと、JKとかに関係のあることは、わたしにはさせないようにしてたよ。きたじぇに入るのも反対されてたし。わたしがあの能力を身につけたのは、小さい頃に、お母さんとナゴミちゃ……ダイ先生が怪獣と戦うから一緒にいたらあぶないって、おばあちゃんちに預けられてたとき、遊びで身につけたんだ。そんなすごいことだなんて思ってなかったし、お母さんにも教えてなかった。わたしがあの子を動かせるかもしれないってわかったのは、本当に偶然なんだ」
「そりゃ、わかってたら、バカな政治屋とかにアレだけ嫌味言われる前に、あんたを乗せてるよね」
説明が進むにつれてリエルは唖然としていったのだが、冷静に内容を汲み取ってもいた。
リエルは視線を落とし、今の話を反芻するように呟く。
「遊びで……」
ふと自嘲するように薄く笑ったかと思うと、彼女は不意に苛立ちを露わにした。
チハは困惑するが、リエルは宙を見つめ続けていた。憤怒を抑え込むように、わなわなと震える。
「どうして……! どうして……ッ‼ チャンピオンだなんだ言ったって、これじゃなんの意味もないのよ!」
「榊さん……」
気づかうようなチハを、リエルは睨みつけた。
「あんたの親も、大先生もわるくない。贔屓したりしてるんじゃないってわかる。わかるけど、悔しいんだ!」
彼女は感情を吐き出すように腕を振った。
「ウチが! 理不尽なんだよ! ただのワガママなんだ! そんなのわかってる! でも‼ どうしてウチじゃないのよッ……‼」
激昂して言葉を吐ききったリエルの眦には涙が浮かんでいた。
やがて彼女は力なく椅子へ腰を落とした。顔をくしゃくしゃに歪め、しゃくりあげる。
「……才能があるとか言われて……努力だってしてきたつもりで……」
「ごめん、榊さん」
リエルは泣き顔を不機嫌そうに歪めた。
「だから、謝るなって。職人目指すって言ってたあんただって好きで選ばれたわけじゃないでしょ」
「うん。前はバスターになるつもりはなかった。でも、これは、わたしがやるって決めたんだ」
哀しさを滲ませながら真剣な表情で言ったチハを、リエルは凄みのある顔で正面から見据えた。
「あんた、戦いなんてしたくないから職人志望だったんでしょ? 戦いなんて、って。だからウチはあんたが嫌いなんだ」
ストレートな言葉に驚き、つらそうな微笑を浮かべたチハは、恥ずかしそうに同級生に説明する。
「うん。自分が死ぬのもイヤだし、怪獣を殺すのもイヤなんだ。だから、戦いなんてしたくなかった。でも、わたしはお肉も食べるし、蚊だって潰す。誰かがやらなきゃいけないのに、人にやらせるのはずるいっていうのは知ってた。でも、セカンドで戦うのは他の人でもできるし、他の人のほうがうまいから、やらないほうがいいって言い訳もできて、わたしはやらなくてもいいと思ってた。けど、職人志望だったのは、せめてそういう自分がやりたくないことをしてくれてる人たちを支えたかったからなんだ」
言葉を切った少女を、リエルは仏頂面のまま見つめていた。
怪獣を殺すのがイヤなんて、彼女の発想にはない。
「でも、だからだよ。今まで、他の人たちに、自分はやりたくないバスターって役目を押しつけてきた。死んじゃった人たちだっていた。けど、あのコを動かすことにわたしが一番向いてるなら、戦いなんてしたくないから……させたくないから、わたしがやらなきゃいけないんだ」
自分がしたくないから、他者にさせたくない。自分が一番向いている。
だから自分がやらなければならない。
リエルは否が応でも想起してしまう。大和に憧れてバスターを志望する者なんて、ありふれているだろう。どれだけの本や記事で語られているだろう、その原点。
バスター志望でなくても、大和ファンどころか、JK、バスター好きにとっては最早常識と言ってもいい。
ザ・ファースト・バスターは、戦いたかったわけではない。初めての戦いのその時、居合わせた中で鉄人を一番うまく動かせたから、他者を守るために戦ってしまっただけだ。
リエルはその姿勢にも憧れていた。だが。
すでに「歴史」というものになっているとも言える他の戦歴は、内容や解釈に統一性が見られないことも多い。しかし、始まりはほぼ一貫性をもって語られている。時に、「妹のような子を守りたくて」と付け足されていることがあるかどうかぐらいが違いだ。
ずっとリエルは、高潔な人間性の象徴的な出来事としてそれを捉えていた。
しかし、バスターなどひとりもいなかった時代、当時十五歳のふつうの少女にとって、その決断は、どれだけの重さを伴っていたのだろう。
目の前の少女は、それをリアルに体現している。
リエルは歯を食いしばり、拳が真っ白になるまで握りしめてわなわなと震え始めた。
噴火寸前の火山のような様子に、チハとトモは不安をおぼえた。
しかし不意に脱力し、背もたれに体重を預け、長い溜息を吐く。
「あーあ、バカみたい……」
本人がしたくないことを、他者のためにした。
その行為を賛美することは、果たしてよいことなのだろうか。
本人は、そんなことをしたくなかったのに。
あるいは、何度も語られ続けていた始まりの物語は、英雄と呼ばれた少女の助けを求める声なき叫びだったのかもしれない。
「あんたは、やりたくないけど、バスターになりたくないけど、やらなきゃいけないと思うからやるんだ?」
投げやりのような口調での改めての確認に、チハは真剣にうなずく。
「うん」
つまりそれは、子供のような憧憬に基づくわけではない。チハの決断こそが、リエルの憧れたザ・ファースト・バスターの始まりと同じ動機なのだ。
突きつけられた対比に、リエルは打ちひしがれた。
「ウチは、ダイ先生、ザ・ファースト・バスターとかに憧れて、バスターになりたいと思ってた。簡単に言えば、かっこいいから。でも、そんな理由でなりたいなんて、かっこわるい……」
自嘲するような言葉に、チハは真剣に首を振った。
「そんなことないよ! だって、職人になりたいって思っても努力してなかったわたしと違って、榊さんはすごく努力してたじゃない! 絶対かっこいいよ!」
「あんたに何がわかんのさ」
「三年間一緒のクラスだったもん、友達じゃなくてもそれぐらいわかるよ。休み時間もJKとかの勉強して、放課後は学校のシミュレータルームで練習して、わたしは本当に尊敬してるよ!」
中学校も一学年で一クラス。たしかにチハが言う通り、気にしていなくてさえ見える部分だろう。志望進路が同じなら、鈍いチハでも目についただろうことは確かだと思えた。
先ほどまで苛立ちや鬱屈などを常に纏い続けていたリエルの表情から、力が抜けた。トモの目には、ほんのわずかリエルが照れているようにも見えた。
「そっか。まあいいや。いま決めた。きたじぇに入ってから決めるのはかっこわるいけど、戦いが嫌じゃないウチは、あんたとかダイ先生みたいな、戦いたくない人が戦わなくてすむように、バスターを目指すよ」
チハが弾けるように笑みを浮かべる。
「うん、かっこいいと思う! それにね、お母さんとかナゴミちゃ……ダイ先生たちがきたじぇとか作ったのって、そのためでもあるんだって。特生軍前のバスターって、やりたいわけじゃない人も多かったからって。だから、お母さんたちがそれを聞いたら、よろこぶと思うな」
放たれた言葉にリエルは目を丸くして、チハとトモから見えないように顔を背けた。
そういえばそんな理由にもどこかで触れたことがあったかもしれない。だが、それはただの情報で、実感を伴っていなかった。
結果的に同じ理由を自分が見出したということ、そしてそれを知ったらあの九七式二七と大和がよろこんでくれるだろうということ。
裏表が無くまっすぐなチハの言葉は重みを増す。
先ほどまでの心境から喜びに振り切れ、頬が紅潮したリエルは、嬉し涙さえうっすらと浮かべていた。
「ところで榊さん、急だけど、お願いしたいことがあるの」
真摯なチハの様子に、リエルは誤魔化すように咳ばらいをして、できるだけ不自然じゃないように涙を拭って向き直った。自分の様子がおかしくないか気になりつつ、問う。
「なにさ」
「あの空手みたいの、教えてほしいの」
この言葉は、浮足立った気分を簡単に吹き飛ばした。露骨に不機嫌になる。
「は? 大先生だって、役に立たないって言ってたじゃん。あんなことできるようになったって、どうせ無駄なんだよ」
自在甲冑を思い通りに操れるようになるための一環として、日々積み重ねて来たことではある。だが、重々自覚しているのだ、あれは怪獣討伐の役には立たない。
「無駄じゃないよ。何がどう役に立つかなんて誰にもわからないし、少なくともわたしは誰かが一生懸命がんばったことが無駄だなんて絶対に思わない」
チハは、真っすぐにリエルを見据えていた。
「それに、ダイ先生だって『すごい技術』って言ってたじゃない」
この言葉にリエルがトモを見やると、彼女は怯えるような様子ながら頷いた。
「『すごい技術なのはたしか』って言ってたよ」
リエルは眉間に皺を寄せた。トモまでが言うということは、おそらく事実なのだろう。
大きく溜息を吐く。自分を否定するようなことばかりに気をとられがちであることは短所として理解しているつもりなのだが、それでも囚われることは多い。
「わかった。それは、わかった。けどさ、やっぱり、あんたがやってもしょうがないと思うけど」
やや投げやりな言い方に、チハは少し悲しそうになった。
「うん。わたしも、意味があるかはわからないんだ」
「は?」
思わず剣呑な声を漏らしたリエルに、チハは苦しそうに続ける。
「でも、あのコを動かせる限界は、もう感じてるの。戦うことなんて、できない。それで、その先、どうすればいいのか、わたしには全然わからない。けど、あきらめることは絶対にできないんだ」
「それで、どうしてアレなの? エースの人たちでも、技術系の人たちにでも、アドバイスもらえばいいじゃん」
チハは、今度は少し微笑んだ。
「だからだよ。みんな、すごい人たちなのに、わたしがどう練習したらいいかわからないって言うから」
これにリエルは目を見開く。だが、まあそうなのだろう。先刻自分で言ったように、仕組みを頭で理解したところで、それはどこまで行っても「自転車に乗ったことのない人が、理屈だけで乗り方を考えるようなもの」だ。唯一それが可能なチハに、外野が言えることなど無いのが普通だ。
「わたしはネットとかでいろんなバスターの戦いを見て、正確さはともかく、大抵の動きをそれっぽく真似したりできる。けど、榊さんのアレは、まったく真似できないんだ。見た目通りにしてるつもりでも、速さとかが全然違う。だから、見当違いなのかもしれないけど、わたしが持っていない大きな可能性のひとつだと思うから」
リエルはまた溜息を吐いた。
「納得はできないけど、わかった」
彼女が言った「納得できない」は、普段のチハの言動やテストの成績などと、先ほどの発言内容のギャップについてなのだが、それを説明するつもりはなかった。
「シミュ室で待ってるから、適当に一息ついてからでも、来て」
時刻は二十時近い。
チハの顔はぱっと明るくなった。
終始心配そうに見守っていたトモに、リエルは平素の不機嫌にも見える視線を向けた。
「水本も、ヒマだったら来て。ひとりで九七式にちゃんと教えられる自信はないから」
寮のシミュレータルームでは数人のクラスメイトがシミュレーションに励んでいた。
入って来たリエルに気づいて表情を変えた者もいたが、当人は、まるで周囲が見えていないかのように席に着いた。
彼女は基本的なセットアップを手早く終え、すぐに仮想空間内のJKで拳突きや蹴りの基本的な動きを試し始めた。
隣席で非常に気まずく居心地がわるそうなトモも、とりあえず同じように同一仮想空間上に自分の分のセットアップを終え、手持無沙汰でいることも耐えられず、チハの分のJKの基本セットアップも終えてしまった。
「お待たせー」
作業を終えてからほとんど待つことのないタイミングでチハがやってきて、トモはほっとした。
訓練校の制服のまま、少し着崩しただけのチハは缶飲料を持ってきていた。
寮の自販機のものだろうが、
「榊さんはどれにする? 授業料」
問われたリエルは、ラインナップを見て固まる。
おしるこ、甘酒、コーンポタージュというチョイスだった。
少し悩んだ末、リエルは甘酒を選んだ。同様に選択を迫られたシロは、ポタージュを選ぶ。
チハが席に着いてヘッドドレスを着けようとすると、クラスメイトのひとりが近づいてきた。
「九七式さん、これからやるなら、もしよかったら、範囲寮内で公開にしてもらっていい?」
シミュレータ内の仮想空間は公開・非公開の設定ができるのだ。
「いいけど、あの大きいのじゃないよ。格闘技を教えてもらうんだ」
リエルは不満そうな顔だったが、何も言わなかった。
頼んできた生徒は不思議そうな顔になる。
「そうなんだー、けど、ありがとう」
言って戻って行った彼女を笑顔で見送り、チハはヘッドドレスをセットした。
「榊さん、お願い」
仮想空間の外と中でリエルがチハに基本の突きと蹴りをひとつずつ教え始めた当初は、彼女たちの仮想空間内を見ているだけのユーザーが数人いた。だがチハの言った通り、標準型のセカンドで格闘技だけを繰り返す様子に、ドラムキング絡みや、特殊曹長ゆえの特別な何かなどを期待していた者たちは徐々に接続を切り、各々のシミュレーションへ戻るなどしていった。
一時間ほど試行錯誤を繰り返した結果、ヘッドドレスを外したリエルは溜め息をついた。
あわててHMDだけを跳ね上げたチハが、先回りするように言う。
「ごめんね、わたし、要領がわるいから……」
リエルは不機嫌そうだった。
「いちいち謝らなくていいから。一時間やそこらでそんなんわかんないし。そもそも、ウチは自分の身体で小さい頃から十年以上繰り返して積み上げてきた感覚をJKに転用してるから、簡単にできたら困るんだわ」
つと彼女はトモに視線を移した。
「シミュデータを元にした、客観的分析から見える部分とかあれば、そっちのアドバイスとかは、任せるから」
トモが戸惑いながらも頷いたのを確認し、リエルはチハを見た。
チハは思考をまとめているようで、それを挑むように見つめるリエルの表情に、トモは微かに試すような色を感じた。
チハは納得したように小さく首肯する。
「じゃあ、そっち、ほんとの格闘技も教えてもらっていいかな」
「いつから?」
表情を変えないリエルに問われたチハは逡巡し、決心し、拝むように両手を顔の前で合わせた。
「今からでも、いい?」
時刻は二十一時を回っている。
リエルは両目を閉じ、うっすらと皮肉そうな笑みを浮かべた。片目を軽く開ける。
「最悪の最悪はさ、ウチらのために、あんたが命をかけて戦うんでしょ? なら、それは、ウチの台詞だよ」
トモがリエルに対して持っている印象が少し変わった瞬間だった。
寮の前で、体操着のチハは、五℃ぐらいの夜気の中、気温のことなどまったく頭にない様子で熱心にリエルの指導を受けていた。
チハが促したこともあり、トモは参加せずに部屋に戻っている。
基本の拳突きと蹴りをひとつずつ。それを三十分以上、繰り返しては、修正されるということを繰り返している。
「惰性で繰り返すぐらいなら、やんないほうがいいから。正しい形を自然体でできるようにすることが大事で、速さとかを求めるのは、後々でいい」
真剣な顔で頷いたチハは、正確さを優先するように慎重に、さらに二度、三度と突きと蹴りを試した。
「あとは年月を重ねて頭と身体に刻みつけるしかないんだよ。だから間違えたら修正も大変で、二重に時間もかかる。正確さが大事なんだ」
「わかった」
真顔で答えて続けようとするチハの腕を、リエルは制した。
「ひとつは、ずっと続けること。毎日。もうひとつは、常に正しい形で繰り返すこと。今日どれだけやったって、大した意味はないから。あんたの場合は、他にもやらなきゃいけないことが多いんだし、今日はもうやめな」
「うん」
力なく笑ったチハは、いま気づいたように、自分の体を抱きしめるように身を竦めた。
「さむっ! 榊さん、ごめんね、寒いのに、こんな時間まで」
「いちいち謝るなって、あんまり言わせないで。ウチはやりたくないことはしないから、気にしなくていい」
「うん」
ふたりは、寮の自室へと戻って行った。
翌朝、日課のトレーニングを始めようとしたリエルによって、寮の玄関前で倒れているチハが発見された。
同じ頃、JCで運動できる広さを持つ北海道JC訓練校のグラウンドには、特設ステージができあがっていた。
半透過素材や特殊な光沢のある装飾を多用され、ブレザーの制服をモチーフとしてツインテールのJK「虹彩そら」と同様にカラフルなセーラー服風でおさげのJK「虹彩るな」、そしてそれぞれのバスター虹彩ソラと虹彩ルナは、ライブのリハーサルを始めようとしていた。
※予告※
きたじぇの第一期卒業生、歌って踊れるアイドルバスターデュオ「プリズムシンセ」が母校で緊急ライブ⁉
全身筋肉痛で登校できず、激しい後悔をするチハを訪れたのは?
活動内容からバスターとしての実力を疑われることもあるプリズムシンセだが、実態は果たして。
次回、第6話「アイドルバスター」