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鎮めるために

 科学者さんはびっくりしました。どうして扉が開いたのか分かりません。この塔は、決められた人しか開ける事が出来ません。現に科学者さんの住む真っ白い塔は、科学者さんしか反応しません。この真っ黒い塔だって、魔女しか開かない筈なのですが……

 黒い塔は、白い塔と同じ作りです。何せ科学者と魔女が一緒に作った塔なので、中身は完全に同じです。奥の方にあった生活の場所で、科学者さんは魔女の残した水晶を見つけました。

 科学者さんが近づくと水晶が輝いて、彼女の残した光の像が浮かび上がりました。


“――よく来てくれたね。科学者さん”


 科学者さんは驚きました。魔女は既に死んでいます。だから光の映像は、魔女の人が残したメッセージ。科学者さんがここに来ると信じて、魔女は記録を残していたのです。


“ここに来たと言うことは……私が予言した呪いが、世界に広がってしまったのでしょう。この塔には、あらゆる呪いをはね除ける魔法がかけてあるから……塔の中や近くなら安全だと思う。

 そしてわざわざここに来たってことは……呪いを止める方法を探しているのでしょう? あなたは私と違うけど、人の不幸を見過ごせない人だから……”

「魔女……君は……」


 科学者さんは、気が付けば背中が丸まっていました。視界は滲み、自然と喉から泣き声が出てしまいます。彼女は、国が戦争で負けて、みんな死んでしまった後も……科学の国の人たちが苦しむのを、放ってはおけなかったのです。自分と同じように、人が苦しむのを見過ごせなかったのです。だから……学んでいる事は違っても、近い心を持つ科学者さんに、死んだ後のすべてを託したのです。


“私が予想できることを、出来るだけ残しておくから……世界をお願いね”

「あぁ……あぁ! 分かっているとも!!」


 魔女の研究を引き継いだ科学者さんは、真っ黒い塔の中で頑張りました。

 今まで学んだことのない分野、考えもしなかった発想がたくさんありました。勉強するのは大変でしたが、狂ってしまう人、凶暴な姿に変わってしまった人々を助けるためだと、科学者さんは魔女の残したものを組み合わせて、すごい道具をたくさん作りました。

 さらに、科学者の人は言います。


「魔女の国にある王城――そこに行かせてください。あの場所は、特別な魔法を使える場所です」


 どうやら魔法とは、場所によって力を変化させる場合があるようです。特別な場所……

神殿や聖域、祭壇を用意すれば、すごい魔法が使えると魔女が教えてくれました。

 その場所とは――魔女の国のお城。

この国の城は、大きな儀式や魔法を使える、特別な場所に建てられたそうです。科学者さんはその場所に、特別な機械を作り始めました。彼は言います。


「この恐ろしい出来事の招待は、私たちの振る舞いのせいでもあるんだ。魔女の国の人たちは、死にたくなんてなかった。どんな生き物だって、死にたくなんてないんだ。なのに死んだ。殺されてしまった。その無念と悲しみと、苦しみと絶望が――生きている人にとり憑いて、死んだ生き物の恨みと怒りに、身を任せてしまうんだ……」


 その恐ろしい呪いは、魔女の国の城を中心に広がっていました。科学者さんは調べていくうちに、いくつか悲しい真実を知りました。


「なんてことだ……お城を中心に広がっていた呪いは、すぐには発動しない仕組みだったのか……」


 今もなお、身体や心が化け物になってしまう人がいます。けれど、そうして気が狂ってまう人は、多くは戦場で戦ったり、魔女の国で酷い事をしたり、全く相手の事を考えない人が、この呪いに苦しめられることになっていたのです。

 憎み合っていても、仕方がなかったとしても、戦争で死んだ命は帰ってくることはありません。死にたくないと散っていた魂が、どうして殺したんだと……ずっと科学の国の人たちに、問いかけていたのです。せめて答えていたのなら、結果は多分違いました。


 けれど――『非科学的だ』『自分たちは悪くない』『気のせいだ』と、死んだ人が問う言葉を、科学の国の人たちは無視してしまいました。無視された人の怨念はどんどん濃くなって、ドロドロの憎しみと怒りが、目に見えない呪いになって……ついには人々に取りついて、恨みを晴らし始めてしまったのです。その強すぎる感情が、取りつかれた人を変えてしまうほどの……あまりに濃くて悲しい、恨みの塊でした。


「呪いなんてないんだ。非科学的だから大丈夫だ……そんな態度を取ったから、ますますこの呪いは恐ろしいものになってしまったんだ。せめてごめんなさいと、許してくださいと言えていれば、ここまで酷い事にはならなかったんだ……」


 謝らなかったから、怒りは深いうらみになってしまったのです。科学者さん一人が頑張って、彼らに謝りもしましたが……もう、それで許される時期は過ぎてしまいました。死んだ人が怒って暴れ出す前に、せめて謝れていれば……


「……今さら言っても、しょうがない事だ。それに、魔女さんはこうなる事を知っていて、けれど止めてくれと僕に言った。怨みや怒りは残っているけど、それだけが望みじゃなかったはずだ……」


 今は肉体を無くし、人に取りつく恐ろしい呪いになってしまった人たちへ……科学者さんは必死に考え、なだめる方法を探し続けました……


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