22.終幕
「おまえ、あのときおれを殺そうとしていたのか……?」
「ああ、そうだ……二度も失敗したがな」
アル――エルフォは剣を抜き、斥候に襲い掛かる。
斥候はそれを見事に受け流し、剣で応戦する。
「おまえ! 何が目的だ! なぜおれを殺そうとした!」
「さあな、いろいろと理由はある。剣聖――そんなやつがいることを、邪魔に思うやつもいるのさ」
――キンキンキンキン!
狭い通路に、剣のうちあう音が響く。
だがなかなか勝負が決まらない。
道幅が狭く、大胆な動きが出来ないせいもあるが、それにしても剣聖の剣とわたりあうほどの剣さばき――アルはたいそう驚いた。
(こいつ……マジで何者だ!?)
「なかなか強いな……だが、これで終わりだ……!」
「…………うぐっ!」
アルは一気に剣に込める力を強くする。
そのまま相手の身体ごと押しきり、狭い通路を脱する。
開けたところにくれば、こっちのものだと思った。
だが、問題は別にある。
このような見晴らしのいい場所で戦っては、人目につく恐れがある。
だがこの際もうそんなことは言ってられない。
これは命がけの戦いなのだ。
それだけの相手だと、アルも認めていた。
(こいつ、今までに戦った誰よりも強い……!)
「お父様! 私も加勢します!」
ララフも剣をとり、斥候に向かい合う。
――キンキンキンキン!
だが驚いたことに、一向に勝負がつかない。
剣聖二人を相手にして、この斥候は生きながらえているのだ。
こんなことは、人間にはあり得ない。
「ふん……剣聖二人と戦えるとは光栄だねぇ……。だが、もう終わりにしようか」
「なに!?」
斥候はそう言うと、形を変え――。
――異形の姿を現した。
「…………なっ……! 魔族……!?」
「やあ、人間」
斥候の正体は魔族であった。
それならば、この強さにも納得だ。
「……っく……万事休すか……」
いくら剣聖といえども、魔族に勝つ自信はなかった。
「フハハハハハ、死ねええ! 剣聖二人の踊り食いだぁあああ! ヒャッハー!」
魔族は大口を開けて、アルたちに襲いかかる。
アルは思わず目を閉じて、死を覚悟する。
死ぬのは2回目だ、怖くない。
――ズバ!
「…………?」
恐る恐る目を開けると、アルの身体はまだそこにあった。
死んでいない――。
なぜ?
「やあ、エルフォ・エルドエル……いや、アル・バーナモントと呼んだ方がいいかな?」
声のしたほう――上を見上げると、そこにはいかにもな「魔女」の風貌をした人物が、ほうきに乗って登場したではないか。
「危ないところだったねぇ? でも、もう安心だ。魔族は私が一瞬のうちに塵に還したから」
「あ、あなたは……?」
「わたしはアル・アルメシア。いだいな魔術師さんだよ」
「アル…………アルメシア!?」
アル――以降エルフォ――は、その名前に聞き覚えがあった。
いや、この世界に住む誰もが、その名前を知っていた。
アル・アルメシア、この世界を代表する、歴史上の偉人であり、大魔術師だ。
「ど、どういうことなんです……? あなたは、過去の偉人では?」
「……っは! 大魔術師だよ? 不老不死くらい、あたりまえさ」
だけどどうしてそんな人物が自分の目の前に?
エルフォの疑問は尽きなかった。
「不思議そうな顔だねぇ……じゃあ、順を追って説明してあげようか」
「お願いします」
大魔術師アル・アルメシアは、地面に降りてきて、エルフォに話をきかせた。
「エルフォ、君が転生したときに受けた魔法、あれは……私のものなんだ。私による転生魔法」
「えぇ!?」
「さっきの魔族、あいつが君を殺そうとしていた。だから私が助けた、そういうわけさ。やり方は少々強引だったけどね……でも、いろんな事情が重なって、あの時はあれが最善の策だったんだよ」
「そんな……」
「あのあと、魔族を逃がしてしまってね。そのあともずっと探していたんだけど、ようやく見つけたよ。君を目の前にして、魔族形態になってくれたからね。人間の姿のままだとわからなかった」
「つまり、あなたは僕を助けたと……?」
「そう、そういうことだ。2度もね」
「あ、ありがとうございます」
だがエルフォはなんとも釈然としないきもちだった。
なぜ、自分は魔族なんかに狙われたのだろう……。
「魔族はね、強力な人間を食べるとパワーアップできると思ってるんだよ。とくに剣聖のような称号を持つ者はね、狙われるんだ」
「はぁ……」
「まあ、他にもいろいろ陰謀が絡んでいそうではあるけどね。そこは私も調べているところだ」
「でもなぜ、あなたは僕を助けてくれたんです?」
「それにもまあ、いろいろ事情があってね……。今は話せない」
「そうなんですか……」
まだまだエルフォには、ききたいことがやまほどあった。
だけど、一番の疑問は――。
「僕は、アル・バーナモントはなぜ、魔法が使えないのですか?」
「うーん、それはね……私のせいなんだ」
「え!?」
「アル・バーナモント――バーナモント家は、ね、私の……アル・アルメシアの子孫なんだよ」
「えぇえ!?」
「大事にならないように、名前は変えてあるけどね」
「じゃあ、なおさらどうしてなんです!?」
「私は大昔に、悪魔と契約し、大量の魔力を得て、大魔術師になった」
「は?」
「だからまぁ……そのツケによって、君は魔力がない。そういう契約なんだ。子孫の中から一人の魔力を生贄にするっていうね」
「っていうことはアレか? 僕に魔力がないのもあんたのせいで、俺が転生させられたのもあんたのせいだと?」
エルフォの中で、怒りが湧いてくる。
なぜだかは知らないが、この大魔術師はそれを善意でやったつもりでいるらしい。
それがよけいエルフォをいらだたせた。
「えーっと、いちおう私は君の恩人なんだけど?」
「知るか! 僕は魔法が使いたかったんだぁあああああ!」
「えぇ……ご、ごめん……」
「ゆ、許せない!」
「な、なにか誤解をしているよ! もっと話し合おう! いろいろ話せないこともあるけど、とにかく、誤解だ!」
「うるせえええええええ!」
エルフォは剣を大魔術師に向ける。
そして追いかけ回し始めた。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
「あ、おい……! 飛んで逃げるな!」
こうして、アルは大魔術師を追い、新たな冒険が始まるのだが――。
それはまた、別のお話。
今回が最終話です。
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《新連載をはじめました!》
ハイファンの追放ものと異世界恋愛を混ぜたような作品です!
エルフ美少女が国をつくったりチートで暴れたりします!
【連載版】老害扱いされ隠居した不老不死の大賢者であるエルフ美少女は田舎でスローライフを送りたい~私をBBA呼ばわりして婚約破棄した若い王子がいたらしいけどもう忘れました~世界の秩序が大変?知るかボケ。
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