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19.邪剣マグダウェル

お待たせしました!


壇上に上がったグリシャが取り出したのは――なんとも禍々しい剣。


アルはそれに、見覚えがあった。


「アレは!? 邪剣マグダウェル!?」


邪剣マグダウェル――使用者をむしばむ、魔剣と呼ばれる類だ。


もちろん剣聖であるララフもそれに気がつく。


「な!? バカな!? 君! それを今すぐ捨てなさい!」


「剣聖ともあろうお人が、僕に負けるのが怖いんですか?」


そう言い返すグリシャの声が、どんどん異形のものに変わっていく。


まるでモンスターの唸り声……。


剣からは邪気が発せられ、グリシャの腕からどんどんと身体に侵入している。


「さあ、行きますよ!」


グリシャは自分の身に起こってることに気づかないのか、そう言って剣をララフに向ける。


「クソ……もはや手遅れか……」


ララフが諦めのため息をもらす。


まわりの人間たちも、なんだか異様な雰囲気に、ざわざわし始めている。


「なんだあの剣は!?」


「しかたない、こうするしかない!」


ララフは決意を固めると、グリシャに本気で斬ってかかった。


「なに!? 剣聖さまが、ご乱心か!?」


一刀直撃アイン・シュス・トェートリヒ!」


グリシャの身体が真っ二つに引き裂かれる。


「ひどい! うちの生徒に何をするんだ! いくら剣聖でも許されないぞ!」


教師が声を上げるが、状況はもはやそれどころではなかった。


そのことに気がついていたのはアルとララフくらいだろうが。


「くっくっく……そんな攻撃で、俺が殺されるとでも?」


斬られたはずのグリシャの胴体から、そんな不気味な笑い声がする。


「正体を現したか、邪剣マグダウェル!」


邪剣マグダウェルに封じ込められていた邪神の魂が、グリシャに乗り移ったのだ。


なぜグリシャがそんなものを持っていたのかは謎だが……。


アルに勝とうとするあまり、危険な代物に手を出してしまったらしい。


「くそ、一刀直撃アイン・シュス・トェートリヒですらも意味がないなんて……!」


ララフの表情が絶望に変わる。彼女の本気の一撃をもってしても、グリシャは絶命には至らなかったのだ。


この場にいる最強の人間は、剣聖であるララフだと、誰もがそう思っていた。


そんな彼女が手に負えない相手――邪剣マグダウェルを誰が倒せようか……?


いや、一人……いた。


この場にはもう一人、剣聖がいるのだ。正確には元、だが。


「しょうがないな……目立ちたくはないんだが……」


アルはしぶしぶ、剣を抜く。


邪剣マグダウェルを放っておいては、この学園、いや……世界中に被害が及ぶ恐れがあることを、彼は知っていた。


「君! 何を……!?」


ララフは目の前に現れた小さな剣士を、驚きの表情で見やる。


この少年は、邪剣マグダウェルに立ち向かうというのか……!?


目のまえで剣聖の剣が、役に立たないところを見たばかりだというのに……!


「僕が倒します。ララフさんはみんなの保護を……!」


「なんだって!?」


邪剣マグダウェルは、邪悪にほくそ笑む。


「きっきっき! なんだコイツ!? 俺様を倒すだと……!? 舐めた口きいてくれるぜ!」


グリシャの真っ二つにされた肉体は、そう言いながらも再生し始める。


これが邪剣マグダウェルの力……!


だがアルにとっては、そんなことは驚きに値しない。


「ふん。相変わらず、悪趣味な剣だなぁ……マグダウェルよ」


「キサマ!? 俺様を知ったような口ぶりだな……!?」


邪剣マグダウェルはアルのただならぬ雰囲気に、驚く。


「そう。よく知ってるよ。もうずいぶん昔のことだけどね……!」


アルは言いながら、剣を振りかざす。


邪剣マグダウェルはその動作に、どこか見覚えがある感じがした……!


「!?」


だが、気づいた時にはもう遅い。


アルの予備動作は、一瞬の間に終わっていた。


「――一刀直撃アイン・シュス・トェートリヒ


「ちょ、まっ……!?」


――ズバババババババババババ!!


その必殺の剣技は、ララフのものと同じものとは思えないほどに、鮮やかで、高火力!


「ぐわああああああああああああああああ!!!!」


邪剣マグダウェルの身体――グリシャの身体は一瞬のうちに塵と化した。


そして、効力を失ったであろう悪趣味な見た目の剣だけが、その場に残される。


「そんな……!? その技は!? それに、あの威力!」


みな目の前の光景に、信じられないという顔で見入っていたが、その中でも、ララフが最も驚きを隠せなかった。


「ふぅ……。久しぶりに全力の一撃を放った……」


アルの一刀直撃アイン・シュス・トェートリヒには、もちろん一切の魔力は込められていない。


それなのにあの威力である。


ララフからすれば、文字通りありえない(・・・・・)


「君はいったい……いや……」


アルは観念したように、ララフに振り向く。


(はぁ……さすがにこの技を放ったら、言い逃れできないよな……)



「――お父様……?」



「あはぁー……人違い……じゃないかな?」


アルは、気まずそうな笑顔を向けるも、ララフはぴくりとも笑わない。


それどころか、恐ろしい剣幕でアルを睨み続ける。


(――これは……どうしたものかな……)


アルは今世紀一番の深い深い、ため息をもらすのであった。


今後は週一くらいを目安に投稿していきます

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