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9.決勝


「そ、それじゃあ決勝戦はアル・バーナモント VS ミュレット・バーナモント! なんと、同じ家族同士の対決です! さすがいっしょに育っただけあって、二人とも優秀ですね!」


 フォンド先生が言う。


(ミュレットと本気で戦うのなんてこれが初めてだなぁ……)


 アルは内心ひやひやしていた。


(ミュレットに怪我させるわけにもいかないし、かといって手を抜いたらもっと怒るだろうし……)


 そうこう考えているうちに、ミュレットが先に攻撃を仕掛けてきた。


「いくわよ! アル!」


 ――超火炎砲(ファイア・マグナ)


 ミュレットが放ったのは上級の炎属性魔法だ。


「すごいですねぇ……一年生なのにそんな魔法を使うとは……」


 フォンドも驚く。


 火炎は下級の魔法とは異なり、盤面すべてを埋め尽くすかの勢い。


 アルは逃げ場がない。眼前には一面真っ赤な炎が迫りくる!


 ――吸収盾(マジックシールド)


 アルは逃げるのは諦め、シールドで防ごうとする。


 だがシールドで抑えられるのは目の前のみで、強烈な炎はシールドの範囲を遥かにしのぐ勢いで、側面から熱波が襲い来る。


「すごい威力だ……! ミュレット、いつの間にこんなことができるように……!」


「アルにも内緒で特訓していたのよ……! いつかアルにも勝てるようにね!」


「それじゃあこっちも……奥の手を使うか……」


「……!?」


 アルは展開したシールドを、いきなり回転させた。


 まるでバトンのようにくるくると杖を回転させる。


 それに従って盾も回転をし、炎をはじき返す。


 いつしか炎の威力は回転によって殺され、弱まっていった。


「まるで曲芸師ね……」


「まあね……」


 剣を高速で扱うことのできるアルだからこその芸当だ。


 剣を高速で振るのと、回転させるのとではそれほど労力に違いはない。


「次はこっちからいくよ……!」


 アルが剣(杖)をミュレットに向ける。


(ま、とはいってもミュレットを傷つけるつもりはないんだけどね……)


 アルはあくまでもミュレットに危害を加えずに勝つつもりでいた。


「手加減なら無用よ!」


 それを察してか知らずか、ミュレットが言う。


(バレてる……)


 ミュレットからすればアルの魔法は怖くない。もちろん剣は怖いが。


 アルの使用できる魔法は、あくまで魔法陣を剣に組み込めるものに限る。


 アルはまだ強力な魔法を魔法陣として組み込むことには成功していなかった。


 強力な魔法ほどその陣も大きく複雑になるため、剣のような小さい武器に機構として組み込むのには無理があるのだ。


 よってミュレットはアルの魔法がすべて下級の魔法にすぎないことを知っていた。


 それでもアルの身体能力と剣術と組み合わされば、下級でもそうとう強力なものになるのだが。


 それさえもミュレットは熟知しているので、彼女としては勝算があった。


 だがアルには奥の手があった。


「いくよ……!」


 ――水流弾(ウォーターショット)!!


「なるほどね……! 私の得意なのが炎系の魔法だから、水で勝負というわけね。でもそんな下級の水魔法じゃ、私の上級の炎魔法は打ち消せないわよ!」


「わかってる。それだけじゃないさ……!」


 アルは水流弾(ウォーターショット)を発動させたまま、剣をさっきのように回転させはじめた。


「なに……!?」


 そして回転に加え、剣を大きく振りかぶる。


 そのまま剣を前に振り、その勢いのまま水流弾(ウォーターショット)を発射する!


 回転の勢いと、剣を振った勢いが魔法に加わり、水流弾の威力は通常のものとは比べ物にならない。


「こ、これは……まるで、下級の水流弾なのに上級の魔法にも匹敵する威力!?」


 フォンド教師が驚きながら解説する。


「や、やるわね……アル。でもこっちも負けないんだから!」


 ――超火炎砲(ファイア・マグナ)


 アルの水流とミュレットの火炎が空中でかちあう。


 その勢いはほぼ互角。


 となればやはり水のほうが有利に作用する!


「よし……ダメ押しだ!」


 アルはもう一度杖をミュレットに向けて構える。


 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)

 ――水流弾(ウォーターショット)


 そして続けざまに魔法を連続使用。


 アルは当然自分の魔力で魔法を使っていない。杖に組み込まれた魔力石の魔力を使っているだけだ。だから無限に疲労せずに魔法が撃てる。当たり前だ。


 しかもあらかじめ描かれた魔法陣が魔法を発動させるのだから、魔法の発動に対する労力もいらない。瞬時に発動することができる。 


 一方のミュレットは自分の魔力を消耗していくしかない。当然疲れもでる。大きな魔法を使おうものならなおさらだ。


 それに複雑な術式を頭で考えるのには時間と集中力を要する。つまり連続でアルのように魔法を撃ち続けることなどできないのだ。


「ちょっと……アル……それはずるいわよ!」


 アルの杖から発された水がどんどんミュレットを追い詰める。


 水流の勢いに呑まれ、ミュレットはどんどん後退していき、場外に出てしまった。


「しょ……勝者! アル・バーナモント!!」


 フォンドが告げる。


「きゃーーーー!! やっぱりアルくんめっちゃ強い!」


「首席で合格したミュレットさんにも勝っちゃうなんて!」


「最後のアレなに!? あんなの見たことない! 私はじめて~!」


 黄色い声とともに女生徒がアルを再び取り囲む。


「アル~!!!!」


 ミュレットが睨んでくるがアルもそれどころではない。


「やれやれ……困ったな……」


 女生徒たちの好意を無下にもできないし、かといっていつまでもちやほやされていると後でミュレットが何をしてくるかわかったものではない。


(こりゃあ家に帰ったら今日はどんな目にあうことやら……)


 アルは一人心の中でため息をつくのだった。


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