8.嫉妬
「いくぜ!!」
グレゴールが叫ぶ!
すると彼の手にどこからともなく大きなハンマーのようなものが現れた。
――神雷鎚。
空間から武器を呼び出す魔法だ。
「ほう……さすがAクラスだな」
しかしアルはそんな武器にも動じない。
「すました顔していられるのも今の内だ!」
グレゴールはハンマーを大きく振りかぶってアルに襲い来る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
しかし!
――スカッ。
彼は大きく空振りをする。
「おっと……」
ハンマーの威力はかなりのもので、その分外した時の隙も大きい。
――人体加速。
アルは超人的な脚力を駆使し、ハンマーを避けていた。
そのままアルが次にとった行動は――
――アルはグレゴールの足を自分の足でひっかけた。
勢いづいていたグレゴールの身体は、それだけで簡単にすっころぶ。
「うおおおお」
ハンマーの重さも相まって、とてつもない勢いで彼は地面に顔をぶつけた。
「すごい……! 神話級の魔法、神雷鎚を武器も使わずに倒すなんて……」
観覧していたクラスメイトたちが驚きの声を漏らす。
これでアルの実力も認められただろうことが間違いない。
あっけにとられ、フォンド教師も勝者を宣言するのが遅れる。
「しょ……勝者、アル・バーナモント!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」
会場が湧く。Aクラスの生徒しかいないのに、まるで全校生徒が集まっているかのような歓声。
「やったわね、アル。さっすが! これでみんなも文句はないでしょ」
ミュレットが真っ先に駆け寄ってきて感想を述べる。
「やあ、ありがとう。思ったよりもあっけなかったよ……」
この時点まではミュレットも穏やかだったが、彼女はすぐにまた豹変することになる。
すぐに他の女生徒も駆け寄ってきて、アルを取り囲む。
どこかでみた光景だ。
「すごいわ! アルくん、あの神雷鎚のグレゴールを倒してしまうなんて!」
「グレゴールって、なんだか威張ってて嫌な奴だったのよ。スカッとしたわ」
「アル君、さっきの魔法、すごい練度だったわ。私にも教えて!」
Aクラスの優秀な生徒が、アルを取り囲み称賛する。
彼女らは優秀なだけあって貴族の令嬢も多い。中には派手に着飾ったり、綺麗に髪を整えたりして見目麗しい女生徒も多い。
しかもこうも近づかれては、そんなつもりはなくてもいい香りが漂ってきて、劣情を刺激する。
そんな彼女らに囲まれて、アルもまんざらではない様子。
「いやぁ……僕はただちょっと早く動いただけだよ。相手が油断してたってのもあるしね……」
そうこうしていると、急にアルの背中に、なにか殺気めいたものが伝わってきた。
――ゴゴゴゴゴゴゴ。
「アル……?」
「へ……? ミュレット?」
アルが振り向くと、そこには怒りに燃えたミュレットの姿があった。
「どうして女の子たちに囲まれて、そんなに嬉しそうなのかな……? アル……?」
「え、えーっと……」
「ま、まあいいわ……決勝戦でぼこぼこにしてやる……」
「みゅ、ミュレットさん……? 怖い怖い……」
その後のミュレットの試合はすごかった。決勝でアルと当たるためというのもあるだろうが、それ以上に他の女生徒に対する威嚇の意味も強い。
男子生徒にはそこそこ普通の戦いをするのだが、女生徒相手だと特に容赦がない。怒りに任せてミュレットは決勝まで勝ち進んだ。
当然、アルも決勝まで無傷で快勝を続けた。




