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7.Aクラス


「やあ、ミュレット」


「あ……アル!?」


 Aクラスで授業の開始を待っていたミュレットは、突然後方から声をかけられ驚いた。


 それになにより、アルの制服がFクラスのものからAクラスのものに変わっていたことも驚きの一因だ。


「ど、どうしてここに? もう授業始まるわよ? それに、その制服……Aクラスのものじゃない」


「そ、Aクラスになったんだ」


「……へ?」


「馬鹿な生徒がいてね。ほら、前にもちょっかいをかけてきたグリシャとかいうやつ。彼のおかげでAクラスになれたんだ」


(ま、当の本人はFクラスに落ちちゃったんだけどね……)


 アルは事の顛末をミュレットに説明した。


「へ、へぇ……そうなんだ……」


 ミュレットは思わず顔が喜びに歪む。


 アルと同じクラスになりたいとは思っていたし、そしてそれはいづれ叶うだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く成就するとは。


「さ、授業が始まるよ」


「う、うん」


(ど、どうしよう……アルと隣の席なんて、嬉しすぎる! 授業どころじゃないよー)


 ミュレットは心ここにあらずといった感じで、顔を赤らめ、アルの目をみることができないのであった。


 そうこうしているうちに、Aクラスの教師がやって来た。


「おや、見慣れない生徒がいますねぇ……。一応自己紹介をしておきましょうか。僕はAクラス担任のフォンド・ファルフォッサです」


 フォンドはアルを見つけ、近づいて丁寧に握手を求めた。


 律儀な男だ。


 その性格は、彼の着ているぴしっとした白衣からも読み取れた。


「僕はアル・バーナモントです。とある事情で今日からAクラスになりました」


「ん? ああ、きみがグリシャくんを倒したというアルくんですね。それに、Fクラスとはいえ教師を倒したとか……」


 フォンドがそう言うと、クラスがどよめきたった。


 ――ざわざわ。


「おい、あのグリシャさんを倒したってほんとかよ」


「先生を倒したなんてありえねぇ」


 みなそれぞれにアルについて噂する。


(あらら……先生もやってくれるよ……。僕は目立ちたくないのに……)


「こらこら、皆さん静かに!」


 フォンドが静止を促すとみなすぐに黙った。彼はしっかりとこのクラスを治めているようだ。


 それからすぐに本格的な授業が始まった。


 Aクラスの授業はもっぱら実戦に重きを置いているもので、とにかく容赦がないとのことだった。


「ちょうど、今日は一週間の終わりですので、これまでの授業を踏まえて、まとめの回になります。今日からのアルくんにとっては少し酷ですが、まあ彼は優秀ですので大丈夫ですよね?」


 フォンドがアルに笑いかける。


(う……そんな期待されても困る……)


 どうやら今日の授業は演習場で行われるようだ。


(なんだか演習場ばっかりだな……まあ手っ取り早くていいけど)


 アルはもっと魔法についての研究がしたかった。そのために学校にきたのだ。


 魔法を研究すれば、もしかしたらアルにももっと高度な魔法が使えるかもしれないのだ。


 それに、魔力がない人間に魔力を与える方法なんかも見つかるかもしれない。


「今日の演習では、一対一の試合形式でトーナメントを行います。この結果によって、今後の授業方針や、成績、課題のチームの組み合わせなんかを決めますので真剣に臨むように」


 フォンドから説明があった後、トーナメントの表が貼り出された。


「おお……」


「よかった……」


 どうやらアルとミュレットは決勝まで当たらないようだ。


「決勝で当たるのが楽しみだね、ミュレット」


「わ、私はアルと戦いたくはないけどね……」(負けるの見えてるし……)


「そう……? 僕は成長したミュレットの力を感じるの、楽しみだなぁ」


「もう、いつも軽い撃ちあいなら家でもやってるでしょ!」


 アルとミュレットがいちゃついて、二人の世界に浸ってるのを面白く思わなかったのか、また難癖つけてくる輩がいた。


「おうおう、Fクラスからまぐれで上がってきたくせに、もう決勝まで進める気でいる勘違い野郎がいるなぁ……」


 そう言ってアルにガンを飛ばしてきたのは、いかにもなクラスの中心タイプの男。といっても、グリシャのような知的でクールないじめっ子という感じではなく、あのジーク・カイベルヘルトのようなパワー系のいじめっ子だ。


「あ゛ん?」


 それに対し、ドスの効いた声で反発したのは意外にも、ミュレットだった。


「みゅ、ミュレット……!?」(いったいどこからそんな声が……)


 ミュレットはアルが馬鹿にされたり攻撃されたりすると、しばしばこのように豹変するのだ。


「おー、ミュレットくんは怖いねぇ……。てめぇも女に守ってもらって恥ずかしくないのかよ……」


「アル、あいつのことは無視しましょ。アルにあんな馬鹿と会話させたくないもの。あ、もちろんあいつと喋ったからって、アルに馬鹿がうつるなんて思っちゃいないわよ? でもね、アルがあいつと話すのは時間の無駄だから……」


 ミュレットがまくしたてるが、それに応じて、いじめっ子の顔がみるみるうちに赤く怒りに燃えていく。


「あ、あの……ミュレットさん? それはいいすぎなんじゃあ……」


 アルが心配するも、ミュレットは気にしないようす。


「いいのよ、どうせあいつもアルと戦えば、その実力を認めざるを得ないわ……」


「ま、そうだね……」


 トーナメント表を見てみると、どうやらアルは一回戦で彼と当たるようだ。


 彼の名はグレゴール・ゴゥリラ。いかにも馬鹿っぽい名前だ。


「さあ、一回戦はアル・バーナモント VS グレゴール・ゴゥリラだ。両者、前へ!」


 フォンド先生が名前を読み上げて、二人を戦闘フィールドへ促す。


「よう、お前、アルとか言ったな。さっきはよくもコケにしてくれたじゃねえか……」


「いやー僕はなんにも言ってないんだけどね……」


「うるせぇ! 女とイチャイチャしやがって、許せねぇ……Fクラスのくせに……」


 そうして、グレゴールの身勝手な嫉妬と共に、決戦の火ぶたは切られた。

 

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