5.対決
アルとグリシャは学校併設の決闘場に来ていた。
模擬試合などで使用される場所だ。ギャラリー席も用意されており、そこにはグリシャのとりまきたちが座っている。
他にも騒ぎを聞きつけてやってきた野次馬たちがちらほら。
アルを応援するクラスメイトも僅かに見られた。
本来であればこのような学生同士の勝手な都合で貸し出される場所ではないのだが、そこはグリシャの権力でどうとでもなった。
「そういえば、君は魔力ゼロの可哀そうなやつだったな……。ほら、剣を抜けよ。今日は特別に魔法を使わないで戦ってやるよ。魔法を使ったらあまりにも余裕過ぎてつまらないだろうからね……」
グリシャはそう言って上着を脱ぐ。
「いや、いいよ。使いなよ……」
「は……?」
「僕も魔法を使うと思うから……」
「は……? お前、魔力がないのにどうやって魔法を使うっていうんだよ……! ふざけてるのか? まあいい……。そういうならとことんやってやるよ……! あとで文句をいっても知らないぞ」
アルの剣は年月を重ね、何度も改造を重ね、その結果、剣としても魔法の杖としても使用できるものになっていた。これはカイドの研究のたまものだ。
剣としての威力やリーチはそのままに、例の魔法陣と魔力石の機構を組み込むことでアルでも魔法が使用できる。
「おい、お前……そのマントは脱がないのか?」
グリシャがアルに問う。
アルは入学して以来、制服の上からマントを羽織っていた。
このマントはもちろん魔力布でできたもので、アルの身体に魔力が一切ないというのを隠すためのものだった。
アルが魔力ゼロの落ちこぼれというのは既に周知の事実だが、まさか体内に一切の魔力を有してないなどとはさすがに誰も思っていない。
もしそれが知られれば、またいつぞやのように酷い迫害を受けるだろうということで、アルはそのことをマントで隠している。
「これは……ちょっとね……」
「ふん……舐めやがって……そんな身動きのとりづらそうな格好で僕に勝てる気でいるのか」
「まあね」
「いいだろう……すぐに泣き面を晒させてやるさ」
そして二人が剣を構えたところで、試合開始のゴングがなった。
審判はその辺に歩いていた真面目で気弱そうな生徒に託された。
「いくぜ! 大火炎球!!」
試合開始と同時に、グリシャが火属性の中級魔法を放つ!
「おお! グリシャさんの得意魔法! 相手はひとたまりもないぜ!」
グリシャの取り巻きが吠える。
――ゴウ!
剣先から火球がアルへ一直線に飛んでくる。
おそらくこれは先制による牽制の意味もあるが、目くらましの意味もあるのだろう。
大きな火炎球が目の前を塞ぎ、アルからはグリシャの次の動きが見えないという作戦だ。
だがそれはグリシャからアルが見えないのも同じだ。
火炎球はそのまま一直線に進んでいき、壁に当たって消失した。
もちろんそこにアルの姿はない。
「なに……!?」
予想外の展開に、グリシャの顔が引きつる。
――人体加速。
グリシャは耳元でかすかにその声を聴いた。
だがその声の主はあまりに速く移動していたため、声が遅れて聞こえていた。
気がついた時にはグリシャの後ろにアルが現れていた。
「めんどくさいから速攻でいくよ……!」
グリシャは一瞬で声が後ろから聞こえてきたものだから驚く。
「な……!? 瞬間移動!?」
「違うよ……! ただ早く移動しただけさ……!」
そしてアルのみねうちが炸裂する。
グリシャは強打され意識を失った。
「しょ……勝者、アル・バーナモント!!」
審判が高らかに宣言する。
「すごい! さすがアルくんね!」
「だって先生にも勝ったんだもの。当然よ。あんなAクラスのイキリ陰キャ、アル君に敵うわけないわよ」
クラスメイトの女子たちが、いつのまにか場内に降りてきて、アルを取り囲む。
「あはは……。まあ口ほどにもないやつだったよ……」
(あれれー、あれだけ大口叩くから、もうちょっと強いのかと思ってた……)
ともあれ、これでアルはグリシャに勝利した。
よって、グリシャが約束を違えなければ、アルはAクラスに昇進することができる。
まあグリシャのプライドの高さを考えれば、約束が反故にされることはまずなさそうだが。
問題はグリシャがFクラスへと落ちることだ。
それでまた逆恨みでもされたら、それこそたまったものじゃない。
またアルの悩みの種が増えるのであった。
(はぁ……やれやれ……)




