4.因縁
あるときアルが廊下を歩いていると、向こうからグリシャ・グリモエルが近づいてきた。
グリシャ・グリモエル――アルたちにちょっかいをかけてくるあの意地悪な生徒だ。
グリシャはアルを見つけるやいなや睨みをきかせてきた。ニヤニヤとした意地悪な笑いも添えて。
(なんだ……? またちょっかいかけてくる気か?)
アルがなにごともなく、無視してすれ違おうと試みるも、
「おっと」
グリシャはわざと肩をぶつけてきた。
もはやタックルに近く、避けようにも廊下が狭く、ぶつかってしまう。
その拍子にアルの手にしていた飲み物がこぼれてしまった。
「おやおやぁ? 僕の服になにか汚いものが付いてしまったようだが? どうしてくれるんだ? Fクラスの落ちこぼれのお前に、この高級な服が弁償できるのか?」
「そっちがぶつかってきたんだろ?」
高価な服といっても着ているのはアルと同じ制服だ。違うのはその所属クラスを表すリボンの色だけ。
「あくまで反抗的な態度をとるんだな……。僕の方が上級クラスなのに……! まあいい、アル・バーナモント、僕と決闘しろ」
「は? なんでそうなる……?」
アルとしてはもうこれ以上の面倒事はごめんだった。あまり目立ちたくないのだ。
アルの目的はあくまで静かに魔法の勉強に打ち込むこと。そしてミュレットと平和な学生生活を謳歌することだ。
それだというのになぜか入学してから目立つような出来事ばかりで気が滅入る思いだった。
「僕が勝ったらもうミュレットくんに付きまとうのはやめてもらおうか……?」
グリシャはとんでもないことを言いだした。
(そういうことか……。はぁ……)
アルは心の中でため息をひとつ。
「は? 僕は別に付きまとってなんかいないんだけど……。というかいっしょに住んでるし……」
「な!? いいいいい、いっしょに住んでいるだと!? なんとふしだらな……。そうか、君のせいでミュレットくんは悲惨な目にあっているのだな……。ならますます僕が君に勝って解放してあげないと……!」
グリシャはなんだか勝手に理解を進めて燃え上がる。
(マジか……コイツ……)
「というか、僕が君と戦って、なんの得があるのさ……?」
「そうだな、君が僕に勝てたら君と僕のクラスを入れ替えるというのはどうだ?」
「は?」
「つまり、僕がFクラスに落ち、君はAクラスに上がるのだ。どうだい、悪い話じゃないだろう?」
たしかにアルははやくAクラスに上がりたいわけだから、願ってもない話だった。
鴨が葱を背負って来るとはまさにこのことだ。
だがそれでも疑問が尽きない。
「なんで君にそんな権限があるんだよ。勝手に言ったって、どうにもならないじゃないか」
「ふん、僕の祖父はこの学校の理事長なんだ。それくらい、お安い御用さ」
ああ、道理で偉そうなお坊ちゃんという感じがするわけだ、とアルはなんだか納得してしまう。
「でも、それはそうとしても、ミュレットはどうするのさ。ミュレットに心変わりしろって言ったって、君にどうこうできることじゃないだろ。ミュレットの気持ちはミュレットのものなんだから……」
当然の疑問だった。グリシャはそこのところをどう考えてこんなことを言っているのだろうか。
「ふん、愚問だね。僕が勝てば、ミュレットくんは僕に振り向くに決まってる。だから君はなんにも心配することなく負けてくれて構わないよ……?」
「あ、そう……」
(なんだかまた面倒なことになったぞ……)
またまた、やれやれと心の中で愚痴をこぼすアルであった。




