27.番外編 ベラのその後【サイド:ベラ】【ざまぁ】
投獄されたベラは収監初日に起こったことがトラウマで連日寝付けずにいた。
屈強な男たちに囲まれたあの恐怖と屈辱。
思い返すだけではらわたが煮えくり返る思いだった。
それだけではない。ベラにとってナッツを殺したこともまたトラウマとなっていた。
アルを庇って死んだナッツ……。
彼になんの非もなかったことはベラもよくわかっている。ベラはアルを殺すつもりでナイフをふるった。それなのに死んだのはなんの罪もない村の子供。もちろんアルにも罪はないが。
いくらベラといえどもそこに多少の後悔があった。
毎夜、男たちに侵された記憶と、名も知らぬ少年を手にかけた記憶とがさまざまな悪夢になってベラに襲い掛かるのだ。
「ううう……殺して……」
そんな寝言を看守たちもよく耳にしていた。
だが彼らはそれでも囚人に容赦はしない。それどころか囚人を人とも思っていないのだ。
うなされているベラを容赦なく襲い来る。それでまた安眠は邪魔される。
看守たちがやってこない日もたまにあったが、その時は別の囚人に襲われるだけだ。
女同士でも構わないという囚人がたくさんいた。長く収監されてくるとそういった気晴らしが必要になるのだ。
看守たちも看守たちで、日々泊まり込んでの仕事だから愛する妻にもなかなか会えない。
彼らは血気盛んで屈強な若者が多いので、必然、囚人に手を出す者も多いのだ。
ある日ベラが一夜を共にした囚人が、いいことを教えてくれた。
「あんた、なかなかいい女だね。気に入ったよ。だから教えるけど」
と前置いて、
「もし毎夜、夜這いにくる看守にうんざりしてるんなら、いい方法があるよ」
「それは……どんな方法?」
ベラは藁にも縋る思いだった。
「まあ一つは、賄賂を送ったり媚びを売ったりして取り入ることだね」
「でも……私、お金なんか……」
「だろうね、だからもう一つの方を実践しな」
翌日からベラは彼女が教えてくれた方法に従って行動した。
まず、シャワーの時間を適当に済ませること。それから積極的に外での労働に参加して汗をかいて、泥まみれになること。
あとはトイレや掃除のときにでるゴミを使って、とにかく体を汚すのだ。
「いくら発情した雄でも、汚れに汚れきった女を襲う気にはならない」
「なるほど……」
みるみるうちにベラは臭く、汚くなっていった。
もはや誰も彼女と口を聞こうとはしない。それどころか彼女に近づくのも嫌がった。
「おい、そこの囚人! お前は臭いからあっちで食べろ」
「はい」
「おい、お前! お前はゴミを捨ててこい」
「はい」
それからの扱いは屈辱的なものだったが、それでも毎晩寝付けずに悲惨な夜を過ごすのに比べればましに思えた。もはやプライドなどは監獄の外に捨ててきた。
そうして尊厳と引き換えに手に入れたそこそこ平穏な暮らしだったが、それにもやがて終わりがくる。
「今日から配属される、ゲロニカ・モニカという看守の男を紹介する」
朝礼で、看守長が紹介したのは、新規配属の若々しい看守の男。
彼は他の看守の倍ほど太っていて、悪臭も酷かった。
醜い顔に、醜い仕草に、醜い言動。ベラはなぜこんな男が採用されたのか疑問だった。
「ぐへへ……女がたくさんだぁ……。オラ、看守になれてよかっただ……」
彼の舐めるような目線には、囚人みな恐怖を覚えた。
しかもあの巨体だ。乱暴なことをされたら、ひとたまりもないことは想像に難くない。
いったいだれが彼のターゲットになるのだろう。
看守はみなお気に入りの囚人を持っていた。そして決まってストレス解消にその囚人をいたぶるのだ。
ベラはすっかり自分はその範疇から逃れた気でいた。あの醜悪な男からみても、今の自分は耐えがたいほどに醜悪だろう。そう思っていたのだ。
だがそれは間違いだった。
「お、いい女がいるな……」
彼は太った声でそう言うと、ベラの部屋に入って来た。
「……ひ!?」
「オラは臭くて汚い女が大好きなんだな。オラも醜いから同じように醜い女がいいんだぁ」
「そ、そんな……うそ……」
「ほら、おいで……オラがペロペロ舐めて垢を綺麗にしてあげようね」
その晩、ベラの悲鳴が監房に響いた。