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19.出会い


 翌日になって、昨晩の話題通り、一人の商人がレミーユ宅を訪ねた。


 彼は真っ赤な短髪に緑のバンダナをした風変わりな男で、ただの商人というにはみるからに怪しい。それでもレミーユとの親し気なやり取りをみるに、とりあえずは信用のおける男であることには違いない。


 彼はいつもレミーユとミレーユとの手紙のやり取りを手助けしているそうだ。


 他にもパンやチーズを届けたりなんかもしている。


「やあ、君が話にきいていたアルくんだね?」


 カイドと名乗ったその男は、アルに気がつくやいなや握手を求めた。


 どうやらレミーユの予想通り、ミレーユから大体の事情を聞いてきたらしい。


「ここに来る前、いつものように村に寄ったんだ。いつもそこで一泊して、旅の疲れを癒しているんだよ。その代わりにいろいろ届けたりもしてるって感じだ」


 カイドはアルにざっくりとした関係性を話した。


 ミュレットとも面識があるようで、彼らは軽い世間話で盛り上がった。


 カイド曰く、村にはまだカイべルヘルト家の刺客は来ていないみたいで、とりあえずのところはアルや村のみんなが危険に晒される心配はないということだ。


 念のため、カイドは奴隷の一人を村に置いてきたらしい。もしも村になにかあれば、彼がすぐに街まで駆けつけて知らせてくれる算段になっているそうだ。


「なにからなにまで……僕のために、ありがとうございます」


 アルは深々と礼を述べる。


「いやあいいんだよ。村の人やレミーユさんミレーユさんにはお世話になっているからね……。それに、置いてきた奴隷の男は、カロスって言うんだけど……彼は新しく雇った奴隷だから、村に行くのは今回が初めてだったんだ。だから村の人との交流も兼ねて、ちょうどいい機会さ」


 カイドの人のいい笑顔に、すっかりアルも彼を気に入った。


 だがある疑問が生まれた。


「あのー、僕も先日まで村に滞在していたんですが……その時にはカイドさん、一度も村に来ませんでしたよね……? なにか事情があったんですか?」


 アルが尋ねるとカイドの顔つきが変わった。


「ああ、ちょうど前回この街に来たときは、村を通らなかったんだ……。大量のゴブリンの死体を見つけてね……。あれはすごかったなぁ、いったいどんな生物があれをやったのか……今でも疑問だよ。まああの時はちょうど貴重な荷物を運んでたからね、村の人たちのことも心配だったけど……とりあえず大事を取って迂回したんだ」


 カイドが話すゴブリンの死骸について、アルには心当たりがあった。


「あははー……なるほどですねー……」


(うわぁ……そのゴブリン殺したの僕なんです……ごめんなさい)


 とまあそのような感じで談笑しつつ食事を楽しんだ。


 話を聞いてるうちに、このカイドという商人はなかなか貴重な品も扱っていることがわかった。


 昨日の買い物に心残りがあったアルにとってはこれは僥倖である。


 さっそくアルはカイドに心当たりを訊ねる。


「あのーカイドさん、微量な魔力しか持たない人でも魔法が使えるような杖ってありますか……?」


 アルは自分に魔力が全くないことなどはあえてぼかした。カイドは信用に足る男だったが、それでも差別や偏見の心を抱かないとは言い切れないからだ。


「いやーそんな杖は聞いたことがないなぁ……」


 あからさまにがっかりするアルを見て、「でも……」とカイドは話を続ける。


「そういった変わった杖を扱う人物を俺は知っている……」


「本当ですか!?」


 アルの顔つきが一気に明るくなる。


「ああ、ようはオーダーメイドでつくりゃあいい。腕のいい杖職人なら、それくらい朝飯前だよ。君の注文通りの杖をつくってやる」


 カイドは威勢よく言い放ち、服の袖を捲り上げる。


「で、その腕のいい杖職人というのは……」


 アルが目を輝かせ、前のめりになってカイドに迫るのを見て、レミーユはくすくす笑い出した。


「?」


「だから、目の前にいるだろ……?」


 カイドが自分の顔を指さす。


「ええええ!?」


「カイドさんは商人でもあり、腕のいい職人でもあるのよ?」


 レミーユがわがことのように自慢げに説明する。


「そ、そうなんですか……!」


「おう! 俺に任せておきな!」


 そういうことであれば、カイドが商人としてはいささかけったいな格好をしているのにも合点がいく。これは職人用の作業着なのだ。言われてみればなんということない、作業着以外のなにものでもない。


 こうしてアルとカイドは一度は機を逸したものの、無事出会い、のちにこの世界の杖に技術的な革新をもたらすことになるのである。


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