やってらんない!
此処から先は自己責任でよろしくお願いします。
4.28((王子の名前マリオン→アドニスに変更しました。
今下書きしてる別作品のヒーローと同名でした。
どこかで聞き覚えあると思ったら………_:(´ཀ`」 ∠):
「…………もう、限界ですわ」
突き飛ばされるままに地面に倒れ伏した瞬間、私の中の何かがぷつりと切れた気がした。
「は?何を言っている?」
怪訝そうな顔で首を傾げる目の前の男を、私はきっと睨みつけた。
「もう、我慢の限界でございます。私、手を引かせていただきますわ!」
今まで、出したことのないほどの大声で叫びつけると、私はサッサとその場に立ち上がった。
「ああ、もう!せっかくメリッサが綺麗に整えてくれたのにドレスや髪が崩れてしまったではないですか!」
乱れた裾をバサバサと手ではたきどうにか整えようとしていると、ふと、あたりが静まり返っていることに気がついた。
ぐるりと周りを見渡せば、ビックリした顔で固まりこちらを見つめるオーディエンス。
ああ、そう言えば私、特大の猫をかぶって《完璧な淑女》とやらに擬態してたなぁ。
まぁ、高位貴族の女性なら必須スキルだとは思うけれど、家の中以外では脱がない徹底ぶりだったしね。
そんな私が叫び声をあげて、ドレスバサバサ……。
まぁ、驚かれるか。あはは〜〜。
しらね。
「おま……お前……。この俺に向かってなんて言葉使いを……」
そして。
唖然とした表情でこちらを指さす男………不本意だが、私の婚約者でこの国の第二王子だ。
ちなみにバリバリの政略であり、そこに私の感情など一切含まれていない。
王命でしたからね。
なんなら、家族一同、どうにかお断りしようと足掻いた挙句の王命でしたからね。
あまりにもば……学習しな……自由奔放な第二王子に補助をしてくれそうな婚約者を……というはた迷惑な親心を発揮した王様と王妃様の懇願のもと、白羽の矢が立ったのが当時神童と呼ばれていたこの私。
本当に遺憾です。
家族が褒めてくれるのが嬉しくて頑張っていたあの頃の私に説教したい。止めろ目立つな、碌なことにならないぞ、と。
「うちの子天才」と自慢しまくっていた父親にも同様に。いや、そっちは婚約が決まった時、お母様にガッツリ絞られていたけれど。
そんなこんなで整えられた婚約者を第二王子が気にいるはずもなく。
初顔合わせで挨拶する前に「お前なんか認めないからな!帰れブス!!」と言い放って走り去っていき………。
まぁ、あとはお察しの通り。
必要な勉学から逃げ回るのを捕まえては説教し。
最低限の礼儀作法を叩き込むために作法の先生と共にお茶会を繰り返す(3回に2回は逃げられたけど)
情が生まれる隙もなかった10歳からの3年間。
当然、何度も王家に打診しましたとも。
私にはもう無理です。出来ません。解放してください、って。
だけど、王家からどうにか耐えてくれ。きっと成長するから。もう少し猶予をと泣きつかれ……。
もう諸々諦めて、やらかしの後始末に奔走した学園に入ってからの3年間。
その集大成である学園の卒業式後のパーティーで、特大のやらかしをしやがりました。
その名も《婚約破棄》という名の断罪劇。
なんかね。
学園で出会ってお互いにほのかに想いを寄せ合った令嬢を私がいじめてたんだって。
物を隠す壊す暴言を吐くその他諸々の挙げ句の果てに暴漢を雇って殺害しようとしたんだってさ〜。
大好きな婚約者を取られそうになった嫉妬で!!
ないわぁ〜〜。
婚約者のやらかしの後始末と、放置された公務の代替わりで私まともに学園に来てなかったんですけどね。
どこにそんな暇があるのかと。
なんなら授業受けれないから必要な単位も取れなくて、特例でテストを受けて単位取得の代わりにしてもらってたしね。
なによりも。
嫉妬ってなんだっけ?誰が誰を大好き?
どこに好意を抱く場面ありましたっけ?
私、初対面から罵詈雑言の嵐しか受けてないんですが?なんなら暴力振るわれそうになったことすらあったんですが?まぁ、華麗に避けましたけど。
あの日々で好意が生まれたらとんだドMか精神病んだ人だと思う。
むりむりむり〜〜。
「おい!聞いてるのか!!」
おっと、意識がお散歩してた。
伸びてきたゴツい手は、側近の騎士(笑)担当。
反射的に払ったついでに捕まえて〜、半身を引きつつ手前に引けば重心が前に来てたから簡単に体勢が崩れたので、その勢いで内側にひねればあら不思議。
大の男が簡単に背中から地面に倒れ込んだ。
あらら。
受け身取れなかったんだ、痛そう〜〜。
というか、護衛を兼ねてたはずなのにこんなに簡単に投げられるとかどうなんだろう?
鍛錬不足?
痛みに悶える背中を蹴飛ばしたのは私怨です。
さっき突き飛ばされたからね。
あと、足元で悶えてるの邪魔だったし。
「仮にも騎士を名乗る人間がこんなに簡単に反撃されるなんて、情けないですわね」
シレッと言葉での追撃をすれば、あまりの一瞬の出来事について理解できなかったのか固まっていた第二王子が、ようやく我に返った模様。
「貴様!ジャスティンになんて事を!」
「あら?先に婦女子に手をあげたのはそちらの方ですわ。正当防衛でしてよ?」
態とらしく小首を傾げ、クルリと賛同を求めて周りを見渡す。
けど、皆さん流石に目が泳いでるね。
まぁ、自分より一回り大きな男性転がしておいて今更可愛こぶられてもねぇ。
あ、でも向こうでうちの家族がグッジョブサイン出してる。
そうなんだよね。
現場は卒業式後のパーティー会場。
つまり、当然卒業生の家族や来賓の方々なんかも招待されてるわけで。
学園内の生徒や教師の前だけだったらどうにか誤魔化せてきてたやらかしも、此処では衆目がありすぎて無理ゲー。
だって国外からの賓客もいらっしゃるんだよ?
最終手段で、冤罪引き受けてとりあえずこの場を収めるって手もあったけど………。
なんで私がこの第二王子のために人生棒に振らなきゃいけないの?
しかも、コレ、下手したら家族にまで迷惑かかるじゃん。
って、思ったらもうダメ。
王家への恩も情も擦り切れました。
幸い皇太子である第一王子はマトモだし、もういいでしょ。
チラリと家族へ目をやれば、コクリと頷かれた。
幸か不幸か王も王妃もまだいらっしゃっていない……けど。
まぁ、コレだけ証人がいればどうとでもなるか。
「婚約破棄は致しません」
ニッコリと極上の笑みと共に、宣言してみた。
「なにを「するのは婚約の白紙撤回ですわ」
そうして、バカが何か言おうとするのを遮ってそう続ければ、辺りがざわめいた。
《破棄》と《白紙撤回》では、だいぶ意味合いが違ってくるものね。
前者だとどちらかが有責かという違いはあれど、未婚の貴族女性としては瑕が残る。中には《破棄》されたという事実だけを見て判断するお馬鹿さんもいるしね。今後の婚活を考えれば致命的……に、なる場合もある。
後者は、まさに《白紙》。その事実そのものが無かった事とされるのだ。
言葉遊びのようなものだけど、貴族社会ではコレ大事。
ちなみに《婚約》は契約の一種とされ、書類が作成される。
しかも、王家の婚約ともなれば、国の慶事扱いでガッツリお披露目式までされる。流石に結婚と違い国民にまではお披露目されないけど、ちゃんと宣言はされるんだよね。まぁ私達の場合は不穏な空気を察してか、ひっそりとだったけど。
つまり、一応国中に広められた慶事を無かったことにするという大暴挙を、私は言い切っちゃったわけだ。
国が認めたモノを勝手に白紙に戻すと。
その大それた宣言に騒めく周囲と、キョトンとする第二王子の温度差、すごいな。
絶対、意味分かってない。
「何を言っているんですか?!王の決め事を勝手に白紙に戻す、など。気でも狂ったのですか?!」
そんな中、叫び声をあげたのは取り巻きの参謀担当(笑)ラッカル君。
お勉強は出来たし、流石にことの重大さは分かった模様。
昔は賢かったのになぁ……。朱に交わって赤くなっちゃったんだね………。
「いたって正気ですわ。そもそも、そういう契約だったのですもの」
ニッコリ笑って答えてあげる私、親切だなぁ。
「学園に入る直前ですわね。どれほど心を砕いても変わろうとすらしてくださらない殿下に、流石の私も心が折れて婚約破棄をお願い致しましたの。
そうしたら陛下が、本当に無理だと思った時には白紙に戻しても良いので、もう少しだけ耐えてくれとお言葉を下さいましたのよ?」
ええ、もう。
即行で公的文書に認めていただきましたとも。
それを手に、もう一度だけ耐えてみようと思ったんだわ。
それだけの決断をしてくださった陛下の御心を汲んで。
まぁ、無駄になったわけだけど。
「ええい、なんなのだ。ゴチャゴチャと訳がわからん。とりあえず、貴様はそこに膝をつきアリョーシャに謝罪をしろ!数々の暴言無礼を、這いつくばって許しを乞うがいい!!」
私の言葉にみるみる青褪めていくラッカル君の顔色にも気づかず、空気読めない第二王子が声を荒げた。
「尤も心優しいアリョーシャが許しても、俺は決して貴様を許さんがな!愛しいアリョーシャを傷つけて泣かせた罪はしっかりあの世で償ってもらう!」
「アドニス様!」
ヒシっと少女を抱きしめつつドヤ顔の王子と、潤んだ瞳で腕の中から王子を見つめる少女。
「あ、そういうのもういいんで」
繰り広げられる茶番にスンと自分の顔から表情が抜け落ちるのを感じる。
「面倒ですが一応言っておきますけど、暴言暴力?殺人未遂?やってませんよ?
だいたい、貴方のやらかしを誤魔化す為に走り回ってた私のどこにそんな時間があったと思ってるんです。
あ、取り巻きとか馬鹿なこと言わないでくださいね?後始末と公務代理で駆けずり回ってろくに社交も出来なかった私に学園内で親しい方などいませんから。
そもそも護衛を兼ねた監視が家の外ではずっと張り付いてる状態でどうやって怪しい動きをしろと。
あ、護衛を巻き込んでなんて言わないでくださいね?近衛から派遣されてますから。下手したら派遣を命じた陛下への不敬ととられますよ?」
なんだか言ってるうちに悲しくなってきた。
友達……欲しかったなぁ。
学園生活も。楽しそうな行事いっぱいあったのに。
大人になる前の最後の自由な日々だったはずなのに……。
護衛の人はね……。いいんですよ?仕事だし。気を遣ってお手洗いの時とかは女性騎士の方が付いてきてくださったし。
まぁ、個室の前に張り付かれる日々はガリガリと大事な何かを削って下さいましたけどね!
やばい。泣いていいかな?
「なんなら家の中までも王家の影が24時間体制で張り付いてくださってたはずなんで。というか、あなた方にも張り付いてたはずなんで、後でいくらでも答え合わせしてくださいな」
辛かった思い出が走馬灯のように脳裏をよぎり、半ば泣きそうになりつつも言い放てば。
おや?顔色変わったね、皆さん。
いくら安全安心を謳ってる学園内とはいえ、一応王位継承権持ってる人間を完全に野放すわけないでしょうに。
そもそも、そこからの報告で私後始末に走り回ってたわけなんですけど。
コレは、報告されてない事柄もあるな……。まぁ、想像つくけど。
「まぁ、これ以上此処で議論を重ねても無駄な時間ですわね。不調法ではございますが退席させていただきます」
頃合い、と見たのかスッといつの間にか背後に来ていた兄が、私の手を取った。
「我々が残っても場を濁すだけでしょうから、公爵家一同このまま御前失礼いたしますね。また、お会い出来ましたらその時に」
慇懃無礼に礼をして私の手を引く兄にそのままついて行きかけて、ふとどうしてもコレだけは言っておかなければいけないと足を止めた。
「最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」
乱れていた言葉を正し、ツッと背筋を伸ばして叩き込まれた淑女の笑みを浮かべる。
展開についていけてない第二王子の目をじっと見つめると、何故かハッと息を呑んだ。
「貴方様をお慕いする余り嫉妬をしたと仰いましたが、事実無根である事を宣言させていただきますわ」
笑顔で穏やかに。
淑女の仮面をつけたまま伝えれば、王子はポカン顔で首を傾げた。
「言葉が難しすぎて分からなかったみたいですね」
とたん、スッと表情を消す。
「貴方に合わせて簡単に言ってあげる。
貴方なんてこれっぽっちも好きじゃありませんから!
だいたい、ずっとあんな酷い態度取り続けてどうやったら好かれてると勘違いできたの?
顔くらいしか良いところないじゃない。
その顔だって、別に私の好みじゃないし。
勉強できない!礼儀作法覚えない!公務からは逃げ出す!!
俺は剣で兄上を支えるんだという割には基礎練習サボるから体力ないし!
派手に見えるアクションだけ覚えてたって実戦では役に立たないってのに、聞く耳持たないところも本当に嫌。
うちの公爵家は、軍部を預かる武闘派なのよ?
顔だけ男なんてお呼びじゃないし。
そもそも私より弱い男なんて論外よ。
せめて腹筋6つに割ってから出直して来いっての!」
ドンドンとヒートアップする気持ちと共に声も大きくなっていく。
けど、日頃訓練で鍛えた腹筋と喉はそんな事ではやられない。
だいたい、ちょっと賢いくらいの私が、神童だのなんだのと大袈裟に持て囃されたのも我が家がバリバリの武闘派で脳筋寄りだから。
我が子可愛さに大袈裟にはしゃいだ父親のせいで目をつけられ、能力以上を求められるわ、バカの尻拭いをさせられるわ!
ストレス発散に剣を振り回し、腕に筋肉がつきすぎるからと取り上げられたあの日の悔しさは忘れない。
その悔しさをバネに体術……特に足技を極めたのは楽しかったけど。
お陰でコルセット要らずの引き締まった体はちょっと自慢よ?
お母様の血筋のおかげでお胸もすくすく育ったしね。
バランス悪いし動き回るのに邪魔だから、普段は晒で抑えてるけど。
胸筋も鍛えてるおかげか型崩れの心配も今の所見られず…‥と、話が逸れた。
「顔がいいならそれを利用するなりの知恵があればよかったのに、それすら無いし。本当に無駄。
そもそも賢くなる努力すらしないし。
俺は本気出したらすごいんだ、って言うけど、いつ本気出すんですか?足掛け6年以上待ってるんですけど、いい加減本気出してくださいません?
いえ、もう縁切るんでどうでもいいんですけど。
だけど、本当に私が貴方を好きとかいう気持ち悪い勘違いだけは捨ててくださいね?
気持ち悪いんで!!」
大事なことなので二度言います。
本当に、色々迷惑かけられたし、大変なこともあったけど、その勘違いだけは許せない。
てか、生理的に無理。
「サラ、イロイロ溜まってたんだろうけどソロソロやめようか?殿下、もう聞いてないから。真っ白だから」
息継ぎのために大きく息を吸い込んだタイミングで、ポンポンと肩を叩かれた。
静まり返る会場。
真っ白に燃え尽き立ち尽くす第二王子。
王子の腕に張り付いたまま呆然としている少女。
「ね?気がすんだところで、お暇しようか?」
ニッコリと笑顔の兄は満足気。
そうね。なんかスッキリした気もするし、おうちに帰ろう…‥かな?
どうせ、明日からイロイロバタバタするだろうし、今日くらいは家族水入らずでマッタリしたい。
「それでは皆様、ごきげんよう」
優雅にカーテシーを一つ残し、家族と共にその場を後にした。
残された人々が、その場をどうやって収めたのかは知らないし、興味もない。
すれ違いに暗い顔をした陛下が王妃を伴って会場へと入っていったから、どうにかしたんでしょ。
今日は私の婚約からの卒業記念日!
読んでくださり、ありがとうございました。