表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷少女の末路  作者: 藤原 高彬
1/2

前篇

 短い戦闘(たたかい)が終わった。敵は、迷宮(ダンジョン)階層主(フロアボス)

 簡単な戦いじゃなかったけど、大きなダメージを受けずに(たお)すことが出来た。


 そして、その場にいる生存者は、俺の他に一人の奴隷少女。……見覚えがある。俺と一緒にこの世界に転移してきた、元クラスメイトだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 俺たちがこの世界に転移したのは、事故だった。と、この国の王が言っていた。それが事実かどうかは知らない。けれどはっきりわかっていることは、俺たちが元の世界に帰る(すべ)はない、という事だった。

 俺たちを召喚したのは、この国の王じゃない。少なくとも本人がそう言っていた。そして誰が召喚したのかは、わからない。少なくともこの国の大臣たちはそう言っていた。だからこの国としては、俺たちに対して何ら責任なく、むしろ違法入国者として対処しなければならない、とも。

 とはいえ俺たちもまた被害者だ。これさえ状況証拠で、実は召喚者などどこにもおらず、逆に俺たちの側に何らかの理由があって勝手に転移してきた可能性もある。けれど王は、その可能性には目を(つぶ)り、寛大にも俺たちを保護し、立場を保障してくれる、とおっしゃった。

 嗚呼(ああ)、なんという慈悲深い王なのだろう(棒)。


 だから俺たちは、幾許(いくばく)かの金銭(贅沢しなければ10日ほどは暮らせる金額)と、「自由民」という市民階級を与えられることになった。

 ちなみに、この国(というか世界)には身分階層があり。


  王族

  上級貴族(領地持ち)

  下級貴族(領地なし)

  上級市民(特権あり)

  下級市民(特権なし)

  自由民

  奴隷民


となる。そして自由民は、身分としては事実上の最下位。信用はないから借金も出来ないし、預かり所などの利用も出来ない。仕事は底辺で賃金は最低。定住地などは無くしかし家を借りることも出来ない、所謂(いわゆる)『ホームレス』だ。

 それでも逆に言えば、仕事を選びさえしなければ日々の(かて)は得られ、贅沢さえしなければ貯金も出来る。魔法やスキルを習得することも出来る。その一方で、税金は免除される。


 ちなみに自由民が市民になる為には、まずは家を持ち、次いで高額の申込金をその町の領主様に納め、その上で身辺調査がされて許可が下りれば、晴れて市民と認められる。……自由民は家を持つことが出来ないのに、家を持つことが市民になる為の最初のステップ、というところに矛盾があるけれど。

 では逆に、自由民が奴隷に()ちるのは、どんな時か? 簡単だ。犯罪か借金か。

 これもまた一見矛盾に見える。自由民は借金が出来ないのに、借金が理由で奴隷に堕ちる。それは?


 自由民が「借金が出来る」、唯一の場所。それは、賭場(カジノ)だ。


 この世界のカジノの還元率は、異常に高い。パッと見95%くらいはあると思われる。だから、「誰も負けない」。そう、勘違いしてしまう。

 そして地球のカジノでもそうだが、マクロの還元率が高いという事は、二つの可能性しかない。一つは、高額当選(ジャックポット)がある一方、それ以外のプレイヤーは基本負け越す、というモノ。つまり「総取り」タイプ。ちなみにこのタイプは、サクラがジャックポットを引き当てることで、胴元(カジノ)側が一方的に搾取(さくしゅ)する形になる。

 もう一つは、皆何となく勝つけれど、誰一人大勝ちしないモノ。勝った負けたを繰り返し、「今日はちょっと勝った」「昨日はちょっと惜しかった」と、得られる金額よりもその時間を楽しむタイプだ。この場合、賭場(カジノ)側は、その時間で供される飲食料品の代金や、ショーの観覧料などで利益を確保する。


 閑話休題。この世界のカジノの話。

 この世界のカジノは、後者としか思えない。確かに高額当選はあるけれど、高額当選が出るとそれに対しては高率の税金が課せられるのだ(一般の勝ち分には課税されない)。だから「税金を払う為に大当たりするのは馬鹿バカしい」と、市民からは言われている。結局市民がカジノに来る理由は、夜長の無聊(ぶりょう)を慰める為とか、その後の酒場でもう少し上等な酒を飲みたいから、なんていう理由でしかないのだ。


 そしてカジノでは、市民も自由民も区別なく、無条件でチップを貸してくれる。ただ、退出時に一割上乗せして返却しなければならないけれど。

 この、「一割上乗せ」。これが、罠だ。

 還元率95%、と考えたら、普通に遊んだら、銀貨100枚が、終わった時には95枚に減っている、という事になる。けれど、100枚借りたのなら110枚返さなければいけない。つまり、15枚足りないのだ。

 そうすると今度は、胴元(オーナー)との間に、借金の契約書が交わされる。「銀貨15枚を、10日以内に利息を添えて返却する」という契約だ。ちなみに利息は、「十日で一割(といち)」どころか「一日複利で一割」。つまり10日後には、39枚ほどの銀貨を支払わなければならないという事になる。たった10日で銀貨39枚。平民の一日の生活費が銀貨一枚だと考えて、それだけ稼げるのなら、はじめから借金する必要はない。

 そして、そのお金を工面出来なかったらどうなるのか。晴れて、奴隷墜ちである。


 つまり、この賭場(カジノ)は。下級市民や自由民を奴隷に堕とし、その奴隷を売却することで利益を得ている、という事になる。そう考えると、銀貨5枚で金貨数十枚、器量によっては百枚以上の儲けが得られるのだから、ぼろい商売である。

(2,105文字:2020/12/09初稿 2020/12/09投稿予約 2020/12/12 03:00掲載予定)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ